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クラスごと召喚された元異世界人のモブが最強になった上に里帰りしまして  作者: 岬/久佐


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第十一話 モブ、街で一休みする

 どんなに疲れていても人を気遣う心を忘れない、あの向田さんがやや棘のある声を出した。

 だが向田さんは正しい。洞窟の前に得体の知れない魔法少女のコスプレ女がふらふら現れたなんて警戒するしかない。俺だってそうする。

 とはいえ魔法少女は今も俺にまとわりついて無視することはできない状況だ。覚悟を決めて口を開く。

 

「あー、こいつは……」

「お友達の紹介ですか、お客様!」

 説明しようとした俺を押しのけて、魔法少女が向田さんの前にずいっと躍り出た。

「これはこれは初めまして! 私は転生ショッピングのマスコットガール、魔法少女ことモーディエナと申します。エナちゃんと呼んでくださいましね。そしてこの子が私の頼れる相棒」


魔法少女は手乗りサイズのくちばしが広くてペンギンを差し出した。


「でぶ爺ちゃんです!」

 おい開発陣。キャラ名に愛が無さすぎだろ。



「え、エナちゃん?」

「はい。本来ならお友達ご紹介キャンペーンを実施したいところですが、誠に残念ながら、まだ何もご用意できておりません。必ずやご満足いただける内容をお届けしますので、今しばらくお待ちください!」

 大げさに空を仰ぐことで心底の悲しみを表す。かと思えば柔らかい土に足を滑らせることのない軽やかなターンを決めて、にっこりと微笑む。

 心底ウザい。


 向田さんは戸惑いに満ちた目で俺を見ている。

「……なんか、そういう『設定』らしいよ。付き合ってあげて……」

「う、うん?」

 嘘は言ってない。

 俺だってそういう『設定』しか知らない。魔法少女……モーディエナだったか、こいつも自分の『設定』を押し通すだけだ。俺がもし作り話をしても話を合わせるという発想自体がないだろう。

 なのでっ、モーディエナさんにはっ、痛い子になってもらいますっ! 

 実際痛いしな。


「街に行った時に会ったんだけど、これがどういう奴なのかはおいといて、なんかいろいろ詳しいみたいだから。悪い人じゃない……と思う」

 俺としても信用しきってないので大分しどろもどろだった。


「おーい、修羅場は終わったかー」

 野盗のボスさんが声をかけた。見れば野盗さん達はすっかり街へ向かう準備を終えており、俺達を待っていたのは確実だった。

 なんでかなー。視線が生ぬるい。

 ……というか、今ので何で修羅場になるんだろう。俺は同級生に言動が怪しい女を紹介しただけなんだが……。


 ちらりと向田さん達の様子を見ると、モーディエナのハイテンションに押され気味ではあるが、普通に会話している。向田さんの方も心なしホッとしているようだった。


 ここしばらく同級生しょぼいに野盗のおっさんむさい騎士団こわいと男所帯だったからなぁ。しかも言葉通じないし。女の人はカナラさんがいたけど、あの人は打ち解けられる気配がない。


 モーディエナは……こいつはこいつですこぶる怪しいけど、話好きな同年代(?)の女の子が一緒なのは安心するんだろうな。

 なんだかんだできゃっきゃと楽しそうに話をしているのは華があって大変よろしい。俺も背景の一部になる甲斐があるってもんだ。


 ともあれ出発だ。獣道めいた道を進む間は野盗さん達と一緒だったが、街道に出た辺りで別れた。自分達と一緒では仲間と思われかねない、との野盗のボスさんの配慮だった。


 俺と向田さんと魔法少女の三人という組み合わせでキトーファの街を目指していると、向こう側から騎士の一団が通りかかる。


 威風堂々たる姿で街道を進んでいた彼らは、俺達を見て立ち止まる。

「……どうも」

 白龍騎士団。

 昨日の今日なので、向田さんが息を呑む。心細そうにモーディエナの手を握っていた。


 団長のヴィザードは部下たちに先に行くよう指示を出すと、馬から降りた。

 そして深々と頭を下げる。

「先日は無礼な真似を働いてすまなかった」

 おおうご丁寧にどうも。それにしても洗脳スキル効果大すぎる。


「キトーファには話をつけておいた。彼らもそう重い刑にはなるまい。さすがに犯した罪まで帳消しにはできないが」

 俺が特に何かを言ったわけではない。ヴィザード自身の判断だろう。基本的人権はちゃんと浸透しているようだ。

 それに、あのガレイアのお偉方の様子からすると、野盗さん達は情状酌量の余地ありとしてそう酷いことにはならないはずだ。


 ヴィザードの後ろには相変わらずカナラさんが控えている。だがその細い首にはいまだに首輪が付けられている。

「命じてみても外そうとしなくてね」

 実際に首輪を外すための鍵を見せても、彼女は静かに首を振るだけだった。首輪によって意志が封じられているわけでもないし、本当に彼女は自分の考えがあって首輪を外さないことを選んだようだ。

 ……うーん、本当にこの人が何を考えてるのかわからない。

 首輪を外せば自由になれるのに。


「私も街まで同行したいところだが、すぐにエリナスに帰らないといけなくてね。……きっとこれから忙しくなる。君達も気を付けるといい」

 そう言い残してヴィザードとカナラさんは馬を駆って俺達の前から去って行った。


「悪い人じゃなかったのかな……」

 向田さんはその後ろ姿を見送りながら呟いた。



 昼を少し過ぎた頃にキトーファに到着した。


 俺の古い知識の限りでは、今はキトーファと呼ばれる街は街道沿いにあるのもあって宿場町としては程々に栄えている。あくまで「程々」なのは特に名物が無いのと、すぐ隣の宿場町に当たるのがこの地域の要所たる現エリナスに存在を食われているからだ。それは今も変わらないらしい。

 とはいえ俺の村は街道から外れた所にあるので、よっぽど方向音痴の旅人くらいしか来なかった。それに比べれば断然都会と言える。

 

 一度洗脳の為に街に来た時は、他国による占領によって空気すら重苦しかったが、今では全体の雰囲気が明るくなっている。

 というか慌ただしい。あちこちで声が飛び交い、荷車を引く馬が走り、店では看板の架け替えをしている。健康な血が体中を巡るように、街が活気づいている。

 

 今この街は基本的人権のもとに一致団結を始めた。ガレイア人も元トラぺジオ人も、それこそ異世界人も平等な権利を有するという意識を持った。

 ここはきっと良い街になる。

 せめてこの街だけでも平和に暮らせていけたら、モブ的には満足だ。

 

「向田さんはどこか行きたいところある?」

 食事が取れる所でも、体を休める所でも、この街ならそれなりにあるはずだ。街に着いた時に案内役として衛兵さんが付いてくれたからどこへでも行けそうだ。


 向田さんは少しばかりためらった後、恥ずかしそうに小さく呟いた。

「……お風呂に入りたい」


 ……あー、それは気が付きませんでした。

 この世界に召喚されてからというもの、そこまで頭に回らなかった……というのは俺だけなんだろうな。配慮のない野郎でごめん。

 向田さんは女の子だし、やっぱり気にするよなぁ。


 街を案内してくれた衛兵が言うには、この街で一番大きな宿を、奴隷をやめて独り立ちを始めた者や、召喚されたばかりで済むところが無い異世界人向けに開放しているらしい。しかも無料で衣食住を提供してくれるらしい。

当然風呂も用意されてある。

さすがにすぐに定住地なり職なり決めるルールだが、それでもありがたい配慮だ。


 案内された宿は宿場町一の大きさということもあって、結構立派な造りだった。確実に俺の村の村長の家よりもでかい。比較対象物がこれしかないのが我ながら悲しい。


 女性陣は部屋に通されるよりも前に早速風呂に入りに行くことにしたらしい。俺は歩き通しで疲れたのでしばらくロビーでくつろぐことにした。


 と、向田さんと一緒に風呂場へ行ったはずのモーディエナがすすす、とすり寄ってくる。

 あ、嫌な予感がする。

「お客様ぁ、ここで遠見のスキルはいかがでしょう。気になるあの子の変身バンクもまるっと赤裸々無修正ですよ?」

「ま、魔法少女が言うセリフじゃねぇ!」

 そして魔法少女がしていい顔じゃない。日曜の朝が凍るわ。


 俺が全力で拒絶すると、モーディエナは不服そうに頬を膨らませる。

「むむ、私はお客様の後押しをしようと思いましたのに。便利ですよー遠見。その場にいるだけで無制限見放題! 性癖が公になるという社会的なリスクを負う事無くお楽しみいただける、まさに思春期男子、いいえすべての男性垂涎のスキルと言っても過言ではないですよ! この機会にぜひ!」

「やかましい!悪のプレゼンすんな!」

 ええんやで、お母ちゃんわかってるで。みたいな顔やめろ。そりゃ興味あるけ……いや逆に萎えたわ!


「ほら向田さんが待ってるから!」

「はいはーい。ではお客様、いってまいりま~す」

 と、モーディエナは軽やかな足取りで向田さんと並んで歩いていった。


「ロールキャベツって結局鶏肉ですよねー」

「エナちゃんのおうちでは鶏肉なの?」

 聞こえてんだよ幼女とPTAの敵。あとうちは豚ひき肉派な!


 ようやく残された俺はロビーのソファに腰掛けた。あー精神的にも疲れた……。


 フロントも終始人が行き来している。とはいえここにいるのは大半が異世界人で残りが元トラぺジオ人。トラぺジオ人はここの従業員だろうか、忙しそうに動き回っている。

 

 異世界人と思われる方は、明るい顔の人とどこか困ったような表情の人、半々といった様子だ。

俺のちょうどすぐ隣に座っている男二人が後者のようだ。聞き耳を立てずとも会話が聞こえてくる。


「奴隷から解放されたのは良いんですが……」

「あぁ、今までが酷かったからなぁ。この地域がガレイアに占領されてからは先住民も扱いが酷かったっていうが……」

「疑うのは良くないってわかってるんですが、何か裏があるんじゃないかって……」


 あぁ、そうか。昨日の今日でガレイア人の態度が180度変わったのだ。すぐに良い方向に乗っかれる人もいれば、急激な変化に驚いて様子をうかがっている人もいるようだ。

 そしてこれからさらにこの街は変わっていく。それは良い方向だと思うけれど。

 ……あの時は必死だったから、そこまで考えてなかった。


「どうしたものかなー」


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