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魔女僕  作者: こそこそ
9/22

9つめ。

『“策”は二つ。


一つは単純に言えば代理母だ。“彼”の情報で命を創ってもらう。

命が定着してきたら少しづつ余分なモノをこそぎ落としていけばいい。

太古から使われている発生法を使用するのだ、安定度は高い。

ただ、やはりその“余分”がネックになるだろう。

作成後の管理が重要なのは言うまでもない。


二つ目はこちらで創った“彼”に幾つかの人格を入れること。

以前、純粋な“彼”を用意することはできても定着はしなかった…。

それは圧倒的な情報不足によるものだ。

今回はその不足を複数の人格で補う。

もちろん、メインの人格を喰われないように補助人格はどれも弱めにしておく。

それこそ、メイン人格以外では物事一つ決められないように。

…身体の安定が確認され次第、補助人格を消していき、“彼”にする。


…どちらの策も不純物に頼るという情けないものだが時間が無い。

矜持にこだわっている場合ではないのだ…。』


妙な話だ。

いや。もうこの際、自分の状況は考慮に入れない。

モニターには“魔法”が文書には気味の悪い“実験”。

「不思議な事がいっぱいだね。」

“かさかさ…”

白い男は文書を片付けながら語りかけてくる。

…何を気づかせたい?夢だと言いたいのか?それとも…狂っているとでも言いたいのか?

「…んー」

“かさ、かさ”

「どの不思議もどこか繋がりがあって夢のような短絡的に見えないね。

それに、狂っているという認識はそれ自体が狂気から離れている気がするね。」

…相変わらずはぐらかす様な言い方をするな。

なんにせよ…

「情報が足りない。続き、だね?」

コイツは…ふう、もういい。

「はいはい。ほらほら。」

“ギィィ…”

…阿吽の呼吸と言わんばかりに座席をモニター側に向けられる。

やれやれ…

――………


“パキッ!”

“パラパラ…”


“パキッ!”

“パラパラ…”


…はぁ、偉くなりたい…

最低でも、こんなせんべい撒きながら歩かなくていい立場に付きたい…

まあ、こんなところで野垂れ死によりは何万倍もいいのは分かってるけど…

いや…いざ、助かると分かったら…この作業がなんか…ああ…かったるいな…

「………」

“かさ…かさ…”

マキさんは色紙を一つ一つ丁寧に折り曲げて紙くずを生産している。

…折り鶴にしたいけどまだやり方が分かっていないみたいだ。

ふふ、ほほえましい。

“パキッ!”

“パラパラ…”

こっちは遭難か放浪かの瀬戸際で頑張っているのに。

…他人事か。

ふふふ…

絶対に教えてやらないぞ。折り鶴の折り方。


あーあ…数日前の自分が懐かしいな…あの時が天国だったのかなぁ…


…そう、あの時…


―――


“このドロボウ猫!”

「…このドロボウ…ねこ」

“ふふ!負け犬の遠吠えね!それに猫なら可愛いでしょ?にゃーん!”

「負け…いぬ、にゃーん」


“カタカタカタカタ…”

「マキさん、昼ドラは面白いけど、言葉はキタナイから気を付けてくださいね。

…てか、昨日結婚したのにもう不倫とか…展開がクレイジー。

不倫が見つかったのに“にゃーん!”とか言わせる台本もクレイジー。

このドラマの製作スタッフが大概前衛的だわ…」

“カタカタカタカタ…”

「さーさ、伝説的ハッカーの魔王様が通りますよっと…今日はどこの機密情報を暴いてやるかなー」

“カタカタカタカタ…”

「…はっかー?」

「ふふ、そうですハッカーですよ。

こうしてパソコンからみんなに隠している情報を暴いてやるんですよ」

…と言っても、何か暴いたところで僕に何があるって訳じゃないけどね。

“カタカタカタカタ…”

「秘密が分かれば、いいの?」

「そ。昼ドラも不倫がばれて面白くなったでしょ?」

“負け犬対ドロボウ猫、勝つのはどっちだ!?次回、『泥仕合』お楽しみに!!”

「…お楽しみに………ふうん。」

「ひっでえタイトルですねー。」

“カタカタカタカタ…”

ところで、さっきからすごくいい感じにタイプ音が鳴ってるな…よく分からんが調子がいい!

何か一流ハッカーみたいだ。

“カタカタカ…”

うん?

よそ見をしていたら見慣れない画面に行きついた。

「あん?何だココ?パスワード??」

…ホームページ…?

と言うか、一般に見せるようなのじゃなくて…職員用のデータベースか?

マジか。今日、マジか。雰囲気だけじゃなくてマジなのか!?

…ハッカー人生、始まったな…何でか知らんけど…。

あれ…いやこれ、この先、ヤバイとこなんじゃないの?…命狙われるとか?………ははっ、まっさか!

………

いやいやいや、何緊張してるの僕!どーせ、くっだらんサイトで後で妙な資金請求をされるような…って、それも怖いか!

………

っていうか…いきなりパスワードとか…知らんし。何かヒントとか…ある訳ないよねえ?

うーん…特におかしなものは無いし…タイトル名以外は。

タイトル、『スパルタのアリスとボブ』って。うん、怪しい。

つーか、お前らの家庭の事情なんか知らんし。昼ドラなのか。

たぶんパスワードのヒントなんだろうなあ…うーん。

分からないなあ…あー、せっかくいい感じに秘密見つけたってのに…あーあ…

“カタカタカタ…”

「ぜんっぜん分からねー。あーあ」

「…知りたいの?」

「うはっ!」

いきなり耳元で声が聞こえた。

おお、マキさん。

テレビ見終わったのか。…びっくりした…。

「あ、まあ…そりゃあ」

“カタカタカタ…”

“ブー!エラー!”

「ね」

「…ふうん」

「ふうんて。“カタカタ”もっと“カタ”興味もって“カタ”くださいよ…」


『σκυτάλη』(スキュタレー)。


「あん?」

話ながらタイプしたからなのか、訳の分からん文字が映し出されていた。

え?

“ながら”でもこんな文字でないんじゃないの…?

“じい。”

「うおっ」

マキさんがパソコンを見ている。ガン見している…!

…え?

…ええ?

…『クリック。』


“OK”


うそんっ!

「あたり。」

「はっはっは…クレイジー…」

現実は昼ドラよりも狂っている。


…でー。


…これは…

データベースというか、誰かの会話記録…?


…ええと…


 B:応援を出してもらいたい。


 A:何の応援ですか?


 B:失踪事件。ある日を境に一家が丸ごと消えている。


 A:人が足りない理由になりえません。


 B:失踪したのはデイブレル家。


 A:なるほど。名家ですね。


 B:そちらの産業にも息がかかっている。


 A:分かっています。無視はできない、と。


 B:それともう一つ。


 A:何かあるのですか?


 B:失踪とほぼ同時期に殺人が起きている。猟奇的なものだ。


 A:というと?


 B:被害者はいずれも身体のどこかを欠損している。また胸部に関しては必ずくり抜かれている。


 A:そこまで特徴的だと逆に粗が出やすいはず。楽な部類では?


 B:残念だがまだ見つかっていない。

   更に、○○町だけに留まらず△△町、□□市でも同じ様な死体が出ている。


 A:犯人は移動しているようですね。こちらに向かっている。いや。


 B:数日前、死体が見つかった。それも、三体。


 A:既に来ている。


 B:犠牲者の数はもっと多い可能性もある。当然、増える可能性も。


 A:手一杯と。


 B:そうだ。応援にそちらの職員を。


 A:分かりました。失踪はこちらで引き受けます。全ての職員を狂人にあてなさい。


 B:失踪の件を独占する理由は?


 A:礼儀です。


 B:礼儀とは?


 A:言いましたよ、『礼儀』です。応援を出す相手に詮索ですか。


 B:…                                                                               』


AとB…あ、アリスとボブか。

仲が悪いのか。協力すればいいのに。ま、スパルタだもんな。

ん、続きがある。



 B:犠牲者が減らない。職員も何人かもっていかれた。


 A:照合したいことが。犠牲者のリストを。


 B:そちらからは何かないのか。失踪との関連を疑っているのか。


 A:確認作業です。

                               』

 …


うわ。やっぱり酷くなってる。しっかし、アリスは一方的だな。

性格悪そう。

っと、これが最新のやつかな。



 B:どういうことだ?


 A:失踪と殺人事件を同一のものとみなし、こちらで処理します。


 B:締め出す理由が分からない。


 A:あなた方には警備をしてもらいます。


 B:泥沼化させる気か。今回ばかりは良策と思えない。理由を。


 A:情報と人員の整理。


 B:そんな陳腐な


 A:以上。


 ……… 』



ワンマンだ。暴君だ。

絶対嫌われてるよこの子…なんていうか…

「…お子様…ふーっ」

「そう。…え?」

マキさんはテレビを見ていた。…もう飽きたのか。

テレビには探偵が同じようなセリフで煙を吐いていた。

マキさんも同じく煙を吐く。もちろん、チョコレートをくわえても煙は出ない。

「探偵っすか…ってかチョコでドロドロじゃないですかっもう!」

ティッシュで口元を拭いてやる。

「…ん、ぼうや…ろ、まん…でしょ」

拭かれながらもモゴモゴ喋ってる。

しっかし…

このワンマンはちょっと心配だ。一度誰かがビシッと言ってやった方が良いよな、よし、言ってやろう。

「えー、ワンマンアリスちゃんへ…っと。ハッカー界の魔王からメッセージですよ…っと。」

“カタカタカタカタ…”

『魔王:オイ、アリス。ボブと協力しろよ。…人見知りか!ワロスwww』

…っと、これで良し。いやー、良いことしたなー。


―――

“ぼうや”


ああ、平和だったなあ。


“教えなさい”


こんな鬱蒼とした森に…


“かさ、かさ”“どうやるの?”


せんべい割って…


“これ、ここから”


撒いて…


“かさ、かさ…”

“それ、違う”


少し歩いて…


“その折り方じゃなかっ…”


「…ほいっ」


“そ、それ何?そ…待て!”


“たったったった…”


「子供はのんきで良いなあ…」

紙飛行機を追いかける姿を見てたら自然とそんな言葉が漏れた。


あれえ。

何でパソコン弄ってたのに外に出たんだ?

ええと、あれから僕は…確か…

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