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魔女僕  作者: こそこそ
8/22

8つめ。

  『  ふふ  パパ おどろいてた へへ  』



「いーですかメル、パパさん!これからヤーガさん達は村を纏めなくてはいけませぇん!

纏めるには力を見せなければダメでぇす!ナメられちゃーいかーんわけですよ!アンダスタン!?

…オーケー!じゃあ、メル!豪邸を出しなさぁい!」


いきなりだった。それも無茶苦茶だ。

さらに言えば見ているこっちが疲れそうなほど鬱陶し…せわしなく動いて…。

…メルと契約して新しい名前(?)を貰った後、ヤーガさんはいきなり難題をつきつけてきた。

いやはや…こちらは自分の名前が思い出せない(“失った”?それは…ありえない。)というのに…

悩む暇も無い。

「いやはや…豪邸って、そんな無茶な…」

と、思わず声が出てしまった。

それがいけなかったのか、ヤーガさんの鬱陶しいアクションが更に激しさを増してしまった。

「ノーノゥ!力は見た目からはいるモンです!ナメられちゃあいかんのです!

この村を治める魔女がしょっぼいボロ屋に住んでちゃあ面目もクソ…おほっ、失礼!

…面目丸つぶれですよアンダスタン?さっきも言ったようにナメられちゃあ力もク…じゃない、

支配どころじゃねーんですよ!大切なことなんで二回言いましたよ!ナメら…っちょーい!!

三回もいわねーぜクソがー…っておほっ!クソって言っちゃたーい!」

うむ…断言できる。いけなかった。なぜか聞いているだけなのにどっと疲れる。


まあ、それで…豪邸を出せと。

「はは…あの…ヤーガさん、言いたいことは分かるのですが…えと、たぶん。…なんとなく。

…でもそんな豪邸なんてすぐに建てられるものじゃあ…」

ナンセンs…あぁ…またヤーガさんのターンが始まった…

「ちっちっちぃー!パパぁ?メルをフツーの人間と思ってますね?

ノンノンノン!…メルは観劇の魔女、魔女なんですってばよぉ!

コイツはその名のとーり、劇を見るためならなんだってするとんでもねー奴なんですよぉ!」

「え!?なに『とんでもねー奴』って!」

メルが後ろから不満の声をあげた。

するとヤーガさんはすかさずメルに向き直る。…メルはまた私の背中に隠れてしまった。

ヤーガさんの事は苦手らしい。

…その気持ちは、とてもよくわかるが。

「おほほっ!褒めてるんですよっ!完膚なきまでに…って!けなしてるみたいやないかーい!

…っとお!話を戻しましょーい!」

ヤーガさんは続ける。…続けてしまう。はあ。

「観劇の魔女ってゆーのはぁ、言うなれば映画のスポンサー兼監督なわけでぇす!

自分が見たい作品の為に必要なセットやら演出やらを創造してしまえるっつー

イミフなパワーをもってやがりまっす!」

「そっちだって訳が分かんない事するくせ…」

「つーまーりー!このしょっぼい土地に村一番の豪邸を出す事なんかわけないっつーことですよぉっ!」

ヤーガさんはメルの言葉に被せるようなタイミングで続ける。…何か、都合の悪い事だったのだろうか?

…気のせいだろう。

「ほーい、メルっちー!さっさと豪邸を用意する!ほれほれっ!豪邸、用意、しる!」

「…」

メルは頬を膨らませたまま何も喋らない。

…ただでさえ無理難題を突き付けて、さらにはこれだけ煽ったら当然なんじゃないだろうか。

とにかく、話をなんとか切り上げよう。

「あの…ヤーガさん、あんまり、無理を言っても…メル様もお疲れでしょうし…ね?」

「あーあーあー!そーかー!残念ですねーパパさん!ガッカリだー!パパさんガッカリー!

…メェール、分かんないかなー?実はパパさん、メルの魔法、とっても楽しみにしてたんですよ?

でも大人だからガマンしてあんなこと言って…あーあ、パパさん心底ガッカリだろなー、つまんないだろなー」

…別にそこまで思ってないのだが

…というか、未だにちょっと“魔法”なんていうものが信じきれてはいない。

しかしまあ…

子供に言い聞かせるような言い方をする…この子は見た目こそ子供だがれっきとした魔女なのだ

…ヤーガさん自身がそう言っていたのに…

そんな魔女にこんな方法が…

…ん?

背中になにか視線を感じる。

振り向いて見るとメルがじっと私を見ている。

「…ほんとう?」

そう、聞いてくる。…魔女だからといって中身が別物…というのは偏見なのだろうか。

「え…と…はは」

この子は今日、頑張った。だからこれ以上、苦労させるのもどうかと思う。

が…

メルの、この視線には、期待が混ざっているような気がする。

“自分の特技を見てもらいたい”といった子供じみた何かだ。

「あの…、私ね、できるよ?大きな屋敷。…見たい?」

目がキラキラしている。やはり期待している…?

「でも、メル様、お疲れではないですか?」

「え…うん、まあ少し…でも」

メルの表情が少し曇ったような気がした。…見せるタイミングを失ったから?

…もう。

じゃあ…それなら…

「…いやはや。あの、それじゃあ、もし宜しければ大きなお屋敷を見せてくれませんか?」

と、言ったとたんメルの表情がパアッと明るくなった。

「うん!いいよっ!いいよっ!!見ててねっ」

そう言うとメルは足取りも軽くあの古い木の前に立ち、何かを念じ始めた。

「メッルさーん!景気のいいデッカイヤツ頼みましたよー!」

「うるさいっ」

「オーノー!ノリの悪ーい魔女さんですねぇブラザー?…おーぅ」「邪魔しちゃだめですってば」

エド君が引っ張ってヤーガさんを下がらせる。素晴らしい判断だ。


「んんんんんん~…」


メルは強く念じている。…まだ特に何も変化は起こっていない。…大丈夫なのだろうか?

「メッルさんの!ちょっといいトコ見ってみたいっ!!」「こーら」「むぐ」

口を塞がれるヤーガさん。どうやら…このお連れさんには弱いらしい。

…いつも塞いでいてくれると…いやいや。

「…んんんんんんんんん~!!」

メルは更に強く念じている。額には汗も見える。…彼女は自分の力を信じて頑張っているのだ。

できる、できない、を置いて最後まで見守ってあげるのが私の務めなのだろう。

なにを、どうするのか、私には分からなかったがとにかく

「がんばれ」

と、小さな声が漏れ出てしまっていた。

「んんんんんんんんん~!!」

メルは俄然強く念じている。

…だが、特に何かが変わったということは………ん?………いや………そういえば………

先程まで気付かなかった事だが、メルが念じ始める前と今では明らかに変わっている事があった。

それは、“周りの明るさ”だ。

少しずつだったので全く気付かなかったが、メルを中心としてこの森の一部が強い光を放っていたのだ。

今見ると、この光が届かない地点とココの差は明らかであり、

私達がいる場所は森などではなく、まるで真っ白なドームの中にいるようだ。

「んんんんんんんんんんん~!!」

光は更に強さを増し、もはやどこに何があるのか分からない、本当に真っ白な世界が広がった。

…正直、少し、怖い。

「んーーーーーーーーーーーーー!!」

どこかでメルの念じる声が聞こえた。とても強く念じているのだろう…。

次第に…

意識が…

ぼうっと…

少しの間、気を失っていたのかもしれない。

あるいはあまりに突飛なことが起きて、放心していたのかもしれない。

「…パパ、パパ!」

ん…?

声が、聞こえる。

「パパッ!ねえ、パパ!」

…“ぱぱ”

…?…ううん…

……ああ…そういえば私の名前だったか…

!?っ!


目の前にメルの顔があった。…またハナを垂らしている。…また涙を浮かべている。


…しょうがないなあ。

私はポケットからハンカチを取り出し…メルのハナを拭いてやる。

「…大丈夫ですよ。ちょっと立ちくらみでもしたのでしょう」

「でもっ!こんな…倒れちゃうなんて…そんな…やらなきゃ…よかった」

…また、泣く。

まったく…良い子だな、この子は。

「ホラ、泣かないで。メル。」

メルの頭を撫でる。…少しは慰めになるのだろうか。

「ぐすっ、ん…」

と、メルが“ぴと”っと私の胸に顔を埋めた。…まだ甘え足りないのかもしれない。

私はメルが落ち着くまでしばらくそのままでいた。


「おー、あー!おアツーイのは充分堪能しましたんでぇー、そろそろ起っきしませんかーパパさん?」

「あ」「おおっと」

ヤーガさんの声で現実に引き戻される。…いたのか。

「まー、お楽しみはこれから、このスイートホームで嫌というほどヤッちゃってください!

いんやーそれにしても…

やーっぱ、とんでもねーわ。うん、スンバラスィー!」

そこには、見上げるほどの大邸宅が立っている。

「これが…メルの…」

魔法というのか。

確かに

とんでもない。

「ど…どう…かな」

メルがもじもじしながら聞いてくる。

私はメルに何かねぎらいの言葉を用意していたのだが

…コレを見たとき、そんなものは全部吹き飛んでしまった。

結局言えたのは…

「いやはや…すごい」

思考によらない言葉。口から漏れでたセリフ。

「へへ…」

だがメルはどこか恥ずかしそうに、しかし、満足そうな顔をしていた。


あれが昨日の事で…

…改めて先ほど自分が出てきた屋敷を見る。

いや、見上げる、か。

…いやはや…

「…魔法なんてものが」「あったんですって!パパさん!」

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