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魔女僕  作者: こそこそ
7/22

7つめ。

――………

「あ、あはは…まあ、その、そんな頭を抱えるほどじゃ…ねえ、パパさん…?」

…“ぶるぶる”

…顔を背けてるけど分かる。隣の紳士は笑いが込み上げてくるのを必死に抑えている。

「あっ!パパさん!パパッ!人間誰だって恥ずかしい記憶の一つやふた…」

………

「あああ、いや!恥ずかしくない!恥ずかしくないよ!道に迷ってら誰だってうろたえて…あんな……ぶっ!」

………

「…あ、あの、これ、思い出し笑いで…その…別の…こと…で…」

………

「…」

………

「あの…ええ…と、次のエピソード見ましょう…ね?あの、あ…今回の文書は、後でいいから…」

………

「はい…あの…モニタ…」

………

「ほら、始まるから…あの…」

………

「見て…ください…」

………

「いや、ごめん…なさい…見てください…」

…白いモニターにまた何かが映り始める…

――


『あーーー しっぱいしたー!

れんしゅうしたのに してきたのに なんでいつも!

…もー!!

…でも、やさしいひとだった。…しっぱいしちゃったけど…でも、よかった…かも』


“チュンチュン”

鳥のさえずりが聴こえる。

…相変わらず、静かな朝だ。あれだけの事があっても(…私個人にとってはの話だが)

村の静けさは変わることはない。

「…いやはや…」

…私はあれから、“ここ”で住むことになった。…あの子と一緒に。

ヤーガさんいわく、契約者と魔女は一緒にいないといけないらしい。

…なぜかは分からない。理由なんて無いのかもしれない。

…まあ、あの子を放っておくのはちょっと心配ではあった。

が、見知らぬ者同士、しかも大人と子供、さらには男と女…

「…ううむ」

問題しかないだろう、この状態…。

いや、部屋は別々にしてもらったが…

「ううーむ…」

…ぼんやりと“新居”を見る…

「いやはや…魔法か…」

見上げるくらいの巨大な建造物。

家…というより…屋敷…いや、もはや城と言って良いくらいだ。

私達が住むのにこれほど巨大なものが必要なのだろうか?

…発注者の意図は元々、よく分からないが…

こんなものをあっという間に用意してしまうとは…

「…いやはや…」

観劇の魔女、メル。その力は『自分の“舞台”の中ならば何でも用意できる』事らしい。

この城は彼女の舞台の“セット”だそうだ。

しかし『セット』とはいえ、単なる張りぼてではなく、

内装はもちろん生活するのに必要なものまで揃っていた。

(ただ、暖炉とか蝋燭とか、古めかしい…中世の家?みたいなものばかりだったが)

生活できるスペースも何不自由なく…というか、ありすぎて逆に不自由なくらいだった。

こんなに大きくて…管理はどうするのだろうか…。


“ギィィィ…”


扉の開く音が聴こえた。

…メルだろうか?

「いんやーパパさん!おっはよーございます!」「おはようございます…」

いや、もう二人の同居人達だった。

…と、いうか…ああ。

「…え、あ、はい。おはようございます」

“パパ”とは私の事だったな、そういえば。

「おや?…おんやぁ?新しい名前にまだ慣れてないみたいですねぇー…って名前なの?コレ?

いやー…ヤーガさん、ちょっとアダルティーな感じに聞こえちゃうなぁーおほほほ!」

「…はは…」

はぁ。朝から胸焼けしそうなテンションだ…。

しかしまあ…新しい名前を得て二日目…未だに違和感を覚えるな。

…ああ、違和感といえば…

「…ところで、その服は…?」

ヤーガさんとエド君は青いオーバーオールを着ていた。お揃い…ペアルック?

に、しても凄い恰好をしていると思う。

「おお!気がつきましたか!!今日のヤーガさんの服装はオーバーオールなんです!

コイツも作業着としては優秀で、第一!

ツナギより通気性が良いっ!これさえあればどこのトイレの水詰まりでも直せるわけです!ほっほー!」

あー…一応、聞いたほうが良いのだろうか…

胸焼け気味の体に鞭打って尋ねる。

「え…あの、ヤーガさん達は配管工だったり…」

「そーなんですよ!よく気がつきましたね!!

ヤーガさん達は土管を支配するにっくき大魔王からエド君の両親を取り戻すため

トイレ詰まりを直しながら旅を…お…おお…おーう?

…うーん、今日はキレが悪いなあ~?エド君、どうです??」

「…ぇ?…いくらなんでも…それは…」

本人もあまりしっくりきてないようだった。…まあ要するに、デタラメだ。

配管工なのに薬みたいな匂いを漂わせているのもミスマッチに拍車をかけている。

「いんやー!しかし、しんかしっ!キマッてますなぁーパパさんもっ!

ベストってゆーの?ウェストコートってゆーの?

髭と合わせりゃダンディズムは約束されるってえことですな?」

「いやはや…はは…」

今度は私の服装をつっついてきた。…少し、恥ずかしい。

今度からはヤーガさんの服装には突っ込まないことにしよう。

「とっこっろっでぇー」

大げさに誰かを探す仕草を始めるヤーガさん。落ち着いて欲しい。

「ところでメルはどうしました?一緒じゃないみたいなんですがー」

「いやはや、あの…まだ、眠ってるようなので…」

「…んー?あんれー?一緒の部屋じゃないんですかー?」

「え!いや!沢山部屋があるのに…その、いやいや…

あの、私とメルさんが一緒の部屋にいたら、いろいろと、まずいでしょうっ!?」

もう…次から次へ…マシンガンのような会話だ。

と、ヤーガさんはにやにや顔を近づけてきた。…ちょっと、意地悪そう。

「えっへへぇ、まずーいですかぁ~……おほっ、まだまだ発想がお盛んですなぁ~!おっほほ!

でもでもぉですよぉ?恋愛はジユーですしぃ、別にベッツで同衾しても誰も文句は言いませんからぁ~。

…と、いうか、逆に、ヤーガさんはそっちのほうが良かったですけどぉ!次は同衾!同衾希望!!」

「どっ!同きっ…って!!ちょっと!ヤーガさん!!」

朝っぱらからなんて事言うんだこの人は…!

「おほっ!おほっ!ほほっ!!かーわいっ!やーらしっ!おっほほー」

私の反応に満足したのかヤーガさんはそのへんを跳びまわっている。

…彼女の性格はなんとなく分かっていたつもりだったが…むう。

「…あの…『どうきん』ってどういう意…」

「おほほっ!それはでーすねぇ、男とぉ…」「エド君にはまだ早いですよ!」

朝っぱらからなんて事を教えるんだっ!もう!

「あー、そーそー、結局メルはまーだ寝てるわけですねー」

「…え、ええ。疲れているんじゃないですか?」

「あーらら、メルの力じゃあコイツの用意はまーだきつかったんですかねー!」

ヤーガさんは巨大な屋敷を見ながら言った。

“コイツの用意”…ああ、あの時の事か…


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