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魔女僕  作者: こそこそ
6/22

6つめ。

「…や」

「…ぅうん…誰か…」


―――参謀ー、どこー?出てきておくれ―!

つーか、ここ、どこー?

地図係ー?地図係はー?

ううーダメだ…ストだ…ストライキだ…

強いリーダーシップを見せようとして裏目に出た…

大きすぎるカリスマが愚民達の卑小なプライドを傷つけたんだ…!

どうしよう…どうすれば…もう、だれもいないのか…―――


「…うや」

「…ストライキしやがったぁ…」


―――ふっふっふ、俺たちがいますぜ、指令!


ぐす…いますよぉ


お、お前達は!


いざというときに必ず裏目の行動を取るヤケクソ係!


ふっ、どうも!


いざというときに泣き喚いて1の可能性を0にする泣き係!


…ぐす、うぇぇ…


我が隊の二大お荷物がなぜ!?

なぜお前達が残ってしまったんだ!?


ふ、指令。俺はチャンスは逃がさん男だ。

隊員の殆どが居なくなった今、空いたポストは埋めなきゃならんでしょう?


く、何かカッコイイ雰囲気を醸し出してるが言ってるヤツが言ってるヤツなだけに…


うわぁぁぁー


泣き係はウルサイ!―――


「ぼうや」

「お荷物が二つも…」


―――おやおや、まるで子供の集まりだ。酷いものですな、元指令。


お、お前は!

さ、参謀!貴様今までどこをほっつき歩いて!…おい…さっき何て言った?


モ ト 指令と言ったのですよ?元指令。


なぁにい!貴様裏切ったのかー!


貴方の時代は終わったのですよ。気分屋で強権な貴方にもはや誰もついてきませんよ。

後は我々に任せて隠居していてくださいよ。


く…―――


「ぼうやっ」

「裏切ったな参謀ー…」


―――言葉も出ませんか?


…くくく!笑わせる!参謀、お前やっぱアレだわ、ボケたわ、耄碌したわ。


何を言ってるのです?貴方にコレの運転は不可能ですよ?


いーまーすー!いるだろーが馬鹿珍が!ここに!ヤケクソ改め、参謀!泣き改め、地図係!

じゅーぶんだわこれで!むしろ給与泥棒が減って万々歳だわさ!


だわさって…ああ、いや。…そんな適当な配役で大丈夫なんですかね?


うるせー!うるせっ!あーうるっせ!!

そこで見ていろクソ参謀!優秀な指令はどんな凡愚でも一流にできんだよ!見てろよバカ!


…はいはい、それじゃあ見せてもらいましょうかねぇ。

状況は最悪。

あのコンビニの件で車は何処とも知れない森の中へ突っ込んでしまい、車も大破。

見事に遭難してしまいました。…全て貴方の采配でね。さて、これをどうにかできますかねえ?


うっせー!ピクニック行きたかっただけじゃボケ!車はあのホワイトボウズへの礼儀みたいなもんじゃ!いいから見ていろ!

お前らなんて居なくても充分できんだよ!いくぞ、新参謀!新地図係!―――


「ぼうやっ!」

“ピシッ、ピシッ、ピシッ!…パシーン!”

「はぅあ!」

突然、頬に衝撃を受け、僕は目が覚めた。

…まだ、ぼおっとする。

ぼんやり…マキさんの顔が見える。…膝枕されているのか?おお!やった!

頬が熱い…いてえ…じんじんする…

ううん…あ?…煙が見えるな…ああ、車か。

…え?なんで車からけむ…

“ボンッ!”

「はあうわあっ!!」

爆発音があがり、

僕はソレとほぼ同時のタイミングで飛び上がる。

ソレというのは…

“ガッ、ゴッ、ガコン、ガコン…”

…ボンネットだ。

罰が当たったのか、僕の車はミスターボウズの車と同じ運命を辿ったのだ…。

「うはあああ…」

「ぼうや、ぼうや、落ち着いて。」

“ぎゅ”

おう。

チビッコに後ろから抱きしめられた。

うぐ…悔しいけど、少し落ち着く。

…僕達は燃え上がる車を呆然と眺めながらしばらくそうしていた…



「ねえ、ここは?」

マキさんが周りを見渡しながら尋ねる。

もちろん僕にも分からない。

が、大人はこんなチビッコを不安にさせてはいけない。

「あー…あー…あ、あ、あ…えー、ぴ、ピク…ニック…先…の森だ、よ?いいところでしょ?」

悟られないように自然に振る舞う僕。

「…?」

マキさんは首を傾げる。

マズい。…この子は敏い部分がある。

すぐさま次の行動に移さないといけない!

「え、えーと…ホラ、こっちこっち。こっちですよー…」

僕はこの馴染みの場所であるかのようにマキさんを誘導する。

手招きをしながら、マキさんの方を向いて後ろ歩きしながら…

そう、ここが僕の庭であるように、スキップもしてみたりして…

「ぼうや、ダメ!」

「え…あっ!?」

…一瞬、一瞬だけだった。

地面に着くまでの時間に疑問を持ち、見えるはずの視界に違和感を覚え、

何が起きているかを考える猶予は…。

「あぁあわ!!」

それでは、すぐ後ろは崖であり、それに気づかず落下したのだ

…という回答に至るまでの猶予はいつ生まれたのか。

“がさ”

「あ…わあ…」

奇跡的というほかない。

僕は木にひっかかって浮いていた。

僕は肥満体ではない。が、大人の体重を支えるような木が、

この崖っぷちに偶然にもはえているなんて…今日、僕、何かもってるな。

「動かない!」

「あっ、ハイ。」

「ふらふらしない」

「…はい。すんません」

…怒られた。

…チビッコに。

…正座させられて。

くそう。また説教かよ…これは凹む…今日は厄日じゃねえか。

「落ち着いて。」

「…はい。」

マキさんは辺りを見回しながら、正座中で、足がシビレてきて、しんどい思いをしている僕に尋ねる。

「…迷ったの?」

うわ、だいたい合ってる。いや、合ってない。合ってないね!

「いやいやいや、何言っ…おぅぅっ!あ、あぶっし!」

“ぽふ”

言い寄ろうと立ち上がったは良いが、シビレが結構きつかったらしい、

カバンに頭から突っ伏してしまう。

てか、カバンは避難できていたのか。

「…落ち着いてよ」

ため息交じりのお気遣いのお言葉をいただいた。

「お落ち着いてますよマキさん。こ、これはピクニックなんですよ?ははい、おお菓子食べましょう!」

“がさがさ”

カバンからおやつっぽいものを片っ端から取り出す。せんべいに、ガムに、チョコに、アメに…

「こら」

「ぇえ!?」

やばい間違った!何が間違ったのか分からないけど!

「しきもの。」

「え?…あ、ぁあ!地べたダメ!そうそうっ!地べたはいかんわ!ははっ!」

“がさがさがさ”

やっべえー、それかー!

ピクニックなのに敷物も無いなんて言語道断だわ…ああ、敷物なんてあったっけ!?

“かさ…”

…『たのしいおりがみ』?

楽しくねえよ!

こんなんしかねえよ!

「…」

“チラ”

うぐぅ、これ以上待たせると怪しまれてしまう…

そうだよ、ピクニック目的の人間が敷物すら持ってきてないなんて怪しすぎる。

あ…もしかしたら…

一枚づつきれいに並べていけば、敷物っぽく見せることが…

“かさ…”“かさ…”“かさ…”“かさ…”

「…何してるの?」

「ひぎぃっ!」

宙を舞う小さな正方形達。

ダメだー!やっぱダメだ―!見えるわけねえじゃん!

“…かさ”

「…これは何?」

その一枚を手に取り僕の前に差し出してきた。

「ええと、敷物をコンパクトにしようと切ったら…ですね…」

「…」

じい。

無言の視線。

「…ちゃいます…『おりがみ』言います…すんません…」

空気に耐えられなくなって本当のことを言ってしまった。…あの視線はきつい。

「ええと、はい…“かさ”子供だましの“かさ”おもちゃで…“かさ”こんな感じで…」

「…」

じー…

無言で見つめてくる…

「…あの、すんません…敷物じゃ、ないんです…」

「続けて」

「…え?」

じー…

さっきから視線が僕の手先に集中している。

「ほら」

せかされる。

「あっはい…“かさ”ええと…“かさ”こうして…“かさ”こうやって…“かさ”これで…“かさ”」

「…!?」

なんか…すごい熱気を感じる…息苦しささえ感じる…

「え…っと、はい。『折り鶴』でございます………え、と、まあ、子供騙しです、よね?」

“かさかさかさかさ…”

いたたまれなくなって折り鶴を広げる。

「あっ!こらっ!ダメッ!!」

“ぱしぱし!”

「ぇあ!?」

いきなり手を叩かれ、怒られたので思わず変な声が出てしまった。…なんなんだ?

「壊しちゃダメ!」

…え?コレ?

「いや、マキさん。壊すって、コレは…“かさ”こうやれば…」

広げた紙をもう一度折り鶴にしていく。

「…」

じい…っと、見てる。また。

「はい。鶴ですよ。」

“ぽん”

「ゎ」

折り鶴をマキさんの手の平に乗せる。

マキさんは慌てて両手でそれ受け止める。

「…」

それから手の上の鶴をじー…と見て…

小さく一言、

「…ゎお」。

…わお…この折り紙…今までで一番、マキさんの気を引いてないか…

…野郎、鶴野郎…

僕は体を張って、車まで犠牲にしたっていうのに、こんなちょろっと曲げただけの鶴モドキに…

ぐぐぐ…

折り紙は後で便所に捨てておこう…!

僕は決意を新たにし…

「それで。」

決意の途中に横槍が入る。もうちょっと他事に熱中していたい。この横槍はつまり…

「ええ、と…そ、れ、で…?」

僕は同じセリフで続きを促す。なんとなくわかるけど。

マキさんは手の上の鶴野郎を眺めながら続ける。

「戻りたいね?」

あう!

鶴野郎への闘志が一気に下がった。

それと同時に体全体が寒気に囚われる。


―――やっべえ!…新参謀!

ふふ、こういう時はこうするんですよっ!―――


「も、もど、もど…る?…ん?な、なに言ってるのかちょっとわからないんでですけけどど!?」

僕は迷ってない。迷ってなくて…ええと、とにかく迷ってなくて

「落ち着いて」

「おおおおち、おち?OK、OK!オチてない!まだオチてないんですよマキさん!」

両手でサムズアップをしてこれでもかというくらいにブンブン腕を振る。

「…??」

腑に落ちない表情を向けつつ、二、三歩距離を取るマキさん。

コレ、ダメな流れじゃねえ?

え?フリ?

次でドカーンいくためのフリ?

マジで?

「えええと、僕達は決して迷子でもなければ遭難なんか遭難した人に失礼っていうかつまりその…ええ、ぴ、くにっく…でもなければ…」

…なんなんだ?こっちが聞きたい。

「…なに?」

片手を腰にあてつつ答えを促すマキさん。

ちょっとイラついてきてねえか?マジ大丈夫なんか!?

「…ハイ、キングでも…なく、て」

言葉が詰まる。

「だから、なんなの?」

距離を詰めるマキさん。ダメだろコレ!?

「はい、ほー…はいっ…ほ…ほ…ほー…う…ろう?」

「え?」

「ほうろう…放浪!放浪してるんです僕達!三時間以内なら放浪!三時間も経ってないのに遭難って言ったら失礼っ!遭難者に失礼だわコレ!」

「…そうなの?」

「そうなの!僕達は新しい発見を求めて放浪してるだけなんですよっ!!」

よし、力技!無理矢理切り開いたぞ!

「…飽きたら言って。」

「OK、マキさん!こっちだ、着いてこーい!」

よし!

これで三時間は稼いだ!

三時間あれば何とでもできる!勝つる!勝つるぞこれぇ!!

やったー!!

ああ…そんなことがあったのは、三時間前か…

いや。二時間と四十四分くらい前だ。まだ三時間も経っていない。情報は正確にしなければいけない。

全っ然、まだまだ放浪で許される。

同じ様な木を何度も見ている気がするが気のせいだ。木だけに。おぉ、今日は冴えてるな僕!

ぜんぜんうまくねえよ馬鹿野郎!

「…そろそろ帰る?」

マキさんからの助け舟…助け船のつもりか!自分だって遭難しているくせに!

いや!否!

遭難なんてしてねえ!放浪だ!放浪してるだけだ!

絶対に放浪にして帰ってやる!


―――新参謀!新参謀!!

分かってますさあ!!―――


それだ!

閃いた!奇策!!

「…うーん、もう放浪も充分かな。マキさん、ガム取って!」

「…ガム?」

マキさんにカバンからガムを取ってもらう。

…世の中、大抵の問題は歴史に答えが載っているという。

「…はい」

「ども」

僕は思い出した。

“ぱく”

…ある兄弟が魔女の森に捨てられた際に、パンくずを地面に撒きながら生還したという話を!

パンくずをまくだけで帰還!なんて簡単!

“くっちゃくっちゃくっちゃ…”

くくく…

だが、あの兄弟は少しオツムが足りない。パンくずなんて風がふけばすぐに飛んでいってしまうだろう。

彼らは奇跡に助けてもらったようなものだ。だが、奇跡に頼るのは問題を投げているのと変わらない。

問題と向き合っていないのだ。

大人の僕はパンくずではなく、ガムを置く。これなら飛ばされることは無い。

コイツは確実に僕達を家に帰してくれるのだ!

よし、じゃあ早速…

“くっちゃくっちゃくっちゃ…”ん、味無くなった。

それで………地面につけて………よし。と、じゃあ次だ。

“くっちゃくっちゃくっちゃ…”

味が無くなったらー…

地面につけてー…ガムをー…

“くっちゃくっちゃくっちゃ”

………ううん…

アゴが疲れる。これは手間がかかって仕方が無い。

…やはりパンくず系にしよう。なるほど、効率を考えた上でのパンくずか。

なるほど、あの兄弟、すこしは頭が回ったようだな。

でも日常にパンくず常備して生活してる人なんていないよね…僕だってそうだし…

…パンくず…か。

そうか、せんべい!

「マキさん、せんべいー!」

「…??お腹空いたの?」

すでに…三時間は過ぎていたかもしれない。

が、僕は慌てない。なぜなら一つ忘れていたことがあった。

それは…『森で三、四時間遊ぶ人もいる』。

遭難を三時間にしたら四時間遊ぶ人たちが遭難組にされるという不当な扱いをうけてしまう。

彼らの事も考慮に入れれば四時間以上森にいない限り遭難にはできないのだ。

…まだ一時間ある。

僕達はまだ放浪しているだけなのだ…。


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