4つめ。
くぅ…何て日だ。
…私はしばらく階段の下で蹲った。
扉の先はいきなり下り階段になっていて、押された拍子にそのまま転げ落ちてしまった…。
…。
…痛みが引いてきた。
周りを見て見る…と、いってもそれは“周り”というのが有ればの話だ。
私の目の前には人が一人通れるくらいの細い通路が続くだけ。一本道だ。
通路には等間隔で蝋燭が立ててあり、意外に明るい。
…通路の先にうっすら扉が見える。良かった、道に迷うことは無さそうだ。
…程なく、扉の前に着く。…この先に魔女がいるというのだろうか?…かなり狭い家に住んでいるのだなあ。
私はなぜか街に住んでいたころのせまい四畳半の部屋を思い出した。
…いやいや。これから魔女と会うというのに、まったく。
「さて」
私の前には暗く、重そうな扉が立ちふさがっている。…なんて威圧的なんだ。
この先にいる存在を表しているかのようだ…。
…
向こうからの反応は無い。…どうするか。
…この場合、ノックはしたほうが良いのだろうか…?
いや、魔女の部屋にノックして入る話なんて聞いたことが無い。
ここは何もせずに扉をあけるべきだろうか?
…いや、まて。
扉へ伸ばした手を引っ込める。
聞いた話がどうとかの問題だろうか?
常識で、自分がその立場に立って考えるんだ。
いきなり何も合図無しで部屋に入り込んできたら自分はどう思うだろうか?
………確かに、ナンセンスだ。
仮に私が魔女だとしてもそんな奴とは契約などしたくもない。
それに今回は初対面じゃないか。
初めて会う人がいきなり入ってきたら…警察を呼ばれても仕方が無い。
そうだ、決まりだ。相手が魔女だからといって、特別視する必要は無い。
あくまで社会人として、恥じることの無い態度で接するべきだ。
よし…ん?
そういえば、先程からなにか視線を感じるような…?
この通路は一本道だ。あるとしたらこの扉の先か…おや?この扉、
よくみるとノブの少し上に小さな丸い穴があいている。
これは?鍵穴?いや、のぞき穴か?
あ。そうか、ここから向こうの様子を見れば良い。それからどういう態度で入るか決めよう。
「ようし…」
そっと扉の穴に顔を近づける。…黄色い球体が見える。白地の真ん中に綺麗な黄色い…あ、瞬きした。
「うわ」
思わず声が出てしまった。なんと向こうも覗いていたのだ。
「…え?きゃっ!!」“ドンッ”“カランカラン!”
ちいさな声がしたと思ったら、何かが倒れる音と、何かが転げ落ちた音。
そういえば向こうさん、メガネをかけているようだった。
慌てて転んだ拍子に外れてしまったのだろう。
なんだか、間が悪そうだ。ええと、どうすれば…。
「あの、大丈夫ですか?」
とりあえず扉越しに声をかけてみる。
「…え?あ、だ、大丈っ……ぅぅあ、あ…も、問題ない!!慌てるでないのだぁ~!!」
ああ、大丈夫なようだ。しかし…変わった喋り方だ。…キャラをつくっているのか?
まあ、大丈夫なら…
「あ、あの、入っても大丈夫ですか?」
「え!?」
“ガタガタッ!”
驚きの声と何かをかき回す音。
「あ、ま、まって!いや、ま…まつのだぁ~!」
…随分、慌てているな…
「分かりました。準備が出来たら呼んでください。」
…このやりとりで、幾分か安心できた。魔女にもどんくさい子がいるのだなあ。
とりあえず、用意ができるまで待つことにした。
…待っている間、扉のむこうから声やら音やらが漏れてくる。
“あ、あ!メガネっ!”“カランカラン”
“また蹴っちゃった!”“ええと、カンペは?カンペ?”
“バサバサッ”“ああ!こんなときに何で本が落ちて…”
“ガサガサ”“どこー?カンペどこー?”
“ガサガサ”“どうしよう…あんまり待たせれないよぅ”
“ガサガサ”“どれー?”
“あっ!?”“ウイッグ!”
“ガチャガチャ…”“ああ!あった!ウイッグあった!!”
“じゃ、カンペは…”“カランカラン”
“あー!またメガネー!!”
ううむ…随分と…ええ、緊張しているようだ…
なんか気の毒になってきたな…
「あのー…もし都合が悪いのならまた後日に伺いましょうか?」
大変そうなので、助け船を出してみる。
「えっ!ダメ!!まって!!…じゃなくて、まつのだぁ~!!」
「…あ、はい。」
こんなグダグダな状況でもまだやるというのか。
私の経験上、こういった状態で続けて上手くいくことなんて何もないのだが…
“あー、これ以上は待たせられないよぉ!”“えーっと、台詞はまずー”
“おーほっほっほ,よくきたな契約者よ…でーそれからー”“ガサガサ”
“なんでー!いつもなんでー!?カンペなんで無いのー!?”
“あー、もう仕方が無い!”“ガチャガチャガチャ…”
“とりあえず部屋だけでも綺麗に…”“バサバサバサッ!!”“あーーー”
何というか、いたたまれない…
「あのー…」
“もー、なるようになれっ!”
「ま、またせたなあ!入るのだぁ!!」
…おそらく全く準備は出来ていないのだろう…だが、まあ、頑張っていたし…入ったほうが良いのだろう。
“ギイィィィ…”
扉を押す。扉は、深みのある音と共に、ゆっくりと開いていく…
「お、ごほっ、お…、……おー!ほほっほほっほほぉ!よ…よ、よーく来た…っなぁ!契約者よほぉ~!!」
まだ私は扉を押していて…要は扉が開けきれていない状態で声がかけられている。
これでは相手に伝えたいことも伝えられないだろう。(あいさつ程度なのだろうが)
…あまり良いタイミングとは言えないな。
まあ…緊張しているのだろう。おそらく先ほどまで部屋の中で練習していたであろう台詞を必死に叫んでいた。
…意識しすぎているのか、最後の方は声が上ずっていた。それに、この部屋の大きさは、
かつて私が住んでいた四畳半と変わりが無いくらいでつまり…声がよく響く。
よし、開けたら閉めなくては。
今度は重い扉を閉めようと逆方向に押し出す。
“ギイィィィ…”
「え、ええと、わ、わた…われっ、われっ、我こそわはぁ~」
背中から声がする。
扉を閉め終わるまで待つことはできないのだろうか?
それでは何を言っているのか、伝わらない。
魔女は何か(セリフだろう)を大きな声で続けている。
いやはや、まあ、伝わるものはあった…そう、すさまじい緊張感は。
私の背中にぶつけられている数々のセリフ(内容は理解できない)は焦りに塗れており、
何かこちらまで緊張してくる。
…この子はちゃんとできるのだろうか…。
“ガチャン…”
扉を閉めた。
“コン”「ん?」
靴に何かが当たる感触がした…メガネだった。あの子が落としたものだろう。…随分おおきなレンズだ。
…あまり目は良くないのだろう。実際、若干、私と視線が合ってないような気がしていた。
とりあえず、これは拾っておこう。…ん、それとなんだこの紙切れは…?
メガネのすぐ側にノートを破ったような紙切れが落ちていた。これはまさか…
『【すてきなけいやくのために】
しなりお:かっこいい であい
*すてきなけいやくをするためには だいいちいんしょう が だいじ 。
わたしのすごさと かわいさと いげん をみせつけよう
[わたし] おーほっほっほよくきたな けいやくしゃ よ
[あいて] おお あなたさまは?
[わたし] われこそは いだいなる まじょ め ん る う゛ぁ
[あいて] おお あの いだいな まじょ の!?
[わたし] そうだ われのちからがあれば むらをふっかつさせることも たやすい
[あいて] おおー!これでむらはすくわれる! ぜひともわたしと けいやくをー
[わたし] よかろう けいやくしゃよ そなたのおもい ききとどけた これからは わたしを める とよぶがよい
[あいて] ははー!
*この かいわの あいだに なにか まほう をみせてあげたら きっと こうかがあがるよ
ぐっどらっく』
…やはりカンペだった。
ずいぶんかわいらしい丸文字で書かれている。…文字はまだ覚束ないのかもしれない。
渡してあげるべきなのだろうか…?
いや、彼女の姿を見るのだ。大きな椅子に座って、顔を真っ赤にさせ、目を瞑って、
大きな声をとりあえずだしてる…ああ、ズタボロじゃないか。
きっと恥ずかしくて仕方ないはずだ。…だけど始めた以上、止めることもできなくて…。
こんな状態でトドメをさすことができるか?できないだろう。
「け、契約者よほ~、な、何をしておるのだ?き、聞いてる?」
不安そうにこちらの方を見る。…あまりよく見えていないのだ。
「あ、はい。聞いてますよ。」
「そっか!」
ちょっと元気になったようだ。
「え、ええと…どこまで言ったっけ…ええと…」
しかし…この村に古くから伝わる魔女と聞いていたのでもっと、
その…落ち着いているというか、もっと、歳をとってると思ったのだが…
目の前にいる彼女はまだ幼く見えた。…あって14、5歳くらいじゃないか?
室内なのに帽子を被り(とんがり帽…魔女だからか?)
髪は金髪で…あ、いや。
ウエーブの有る金髪から黒い髪が真っ直ぐに伸びている。金髪はウイッグで髪は黒のストレート。
服は全体的に黒め…というか、これまた魔女が着そうな全身を覆うローブのようなものを着ている。
顔や服から出ている手は白い。…申し訳ないが、今のおどおどしている姿にとても、合う。
小動物のような。
いやはや…ヤーガさんはこの子は魔女だと言ったが、私には学芸会の出し物で魔女を演じる女学生にしか見えない。
「よーくきーたのだー契約しゃ…あ、これ言ったぁ!?」
「はは…」
「………あーーー!ダメだぁーーー!もうだめ訳分からないぃ!あーーーん!終わったーー!」
ついにそのグダグダな空気に耐えられなくなったのか魔女は頭をかかえてしまった。
…きっと良い子なんだろうな。私と会う程度の事なのにこんな脚本や小道具まで用意して…。
きっと何日か練習もやってきたのだろう。
…ただ、本番に弱い人間というものがいる。
いま、私の目の前で頭をかかえて、そのせいでウイッグがとれてしまい、変装もへったくれも
なくなってしまったこの子がまさにそうだ。
真面目そうだからこの失敗は根にもってしまうだろう。塞ぎこんでしまうのかもしれない。
…この子をそのままにしてはおけない。
「ええ…と、……おお、あなた様は?」
「え?」
魔女は頭をあげて私の方を見た。…ハナと涙が垂れていた。
「私の名前はスコットといいます。…あなた様のお名前を聞かせてくれませんか?」
「え…わた…し?」
例え偽りでも成功した経験を得られれば良くなっていけるはずだ。
「お願いします」
「………わ、わた、わ…我こそは」
魔女はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「あ…あれ…?」
そこで何かに気づいた。そう、カンペの流れに戻っているということに。
ここぞとばかりに声を作る魔女。このチャンスを逃したくはないのだろう、目が輝いている。
「我こそはぁ!偉大なるぅ魔ぁ女ぉ!メンルヴァァ!!」
“ビリビリ”…そんな効果音が相応しいような凄まじい声量だ。
ええと…一生懸命なのだろう。私は目の前にいるというのに…耳が痛い…おおっと。次は私だ。
悟られないようにカンペをチラッと見る。よし。
「お…おお、あの偉大な魔女の!?」
「そ、そーだー!………我の……我…の…」
…またしてもトラブルが起きた。
さきほどの大きな声で魔女の頭の中が真っ白になったのだろう、台詞が抜けてしまったようだ。
困った。次のセリフは“われのちからがあれば むらをふっかつさせることも たやすい”…だ。
露骨に教えることはできない。
なんとか、この子を傷付けることなく進行させなくては…!
「ええと…あ、あなた様の力があれば村は、救われるでしょうか?」
“!”
魔女は一瞬、何かに気が付いたような表情をした。やった。思い出したらしい。
「そうだ我の力があれば村を復活させることもたやすいっっ!!」
忘れないように、意識したのだろう。台詞を休むことなく一気に声に出した。
…相手にちゃんと聞かせないといけないが、それは今はいい。
…今後の課題だ。まあ、まずはこの子には何かをやりきったという思いを与えて、
自信をつけさせるのだ。
ええと、次は…私だ。
「おお!これで村は救われる!是非とも私と契約してください!」
「えっ!本当っ!?」
よほど嬉しかったのか、目をキラキラさせながら聞いてきた。
いやはや、まあ…それはそれで良いことだが、あとちょっとなので頑張って欲しい。
「いやはや…ええと…だ、ダメでしょうか?メンルヴァ様?」
「えええええ!?いいよ!いいよ!ぜんぜんいいよ!!ダメじゃない!ダメじゃないからっ!」
…すっかり舞い上がっている。もう脚本どころではないのだろうか…。
この空気であの脚本通りの展開に持っていくのは難しそうだな…
…そうだ、もう渡してしまおう、カンペ。
「え、と、ゴホッ!ゴホッ!あ、スイマセン。ちょっと急にハナがでてきまして…
…ちょっとハナをかみたいのですが、この紙を使いたいのですが、いいでしょうか?」
と、私は先ほど拾ったカンペをメンルヴァの前に差し出す。
「んーーーー?これ……は……」
“サー”っと彼女の顔が青くなった。
「ついさっき拾ったのですが、中身は見ておりません。…何が書いてあるのでしょうか…?」
「え、えええ……読んでないって?読んでないのね?読んでませんねっ!?」
必死の形相でこちらの顔を伺うメンルヴァ。
やはりピントが合ってないのか、微妙に視線がズレてはいるが。
「いやはや…何が書いてあるのですか?」
紙に顔を近づけるフリをするとメンルヴァはすかさず
自分のポケットにクシャクシャとカンペを詰め込んでしまった。
「そ、そなたが気にする必要は無ぁひっ!ぶ、ぶれーもほぉ!!」
上ずった声でまくし立てられた。
「し、失礼しました!なにとぞご勘弁をー!」
少し、彼女から下がって土下座のポーズをとる。
「ええええ!?いや、そんなに怒ってないよ!大丈夫だから!顔、上げて!」
「いやいや、それではメンルヴァ様の威厳がー」
「はっ」
ようやく思い出したのかメンルヴァは顔を作り始めた。
「わ、分かれば良いのだ!…とにかく!…よかろう契約者よ!そなたの思い聞き届けた!私に全て任せるのだ!」
「ははー!!」
ふう…多少、カンペと違ったがなんとか終わりそうだ。
メンルヴァも最後の台詞はうまく言えたらしく、しばらく自分に酔っていた。
…が。
“かさかさ”
やっぱり不安なのかポケットから例のカンペをだして確認し始めた。
…私からは見えないように背中をむけてこっそり見ている。
“あ!最後抜けてた!”
小さな呟きが漏れてきた。もう…仕方が無いなあ。
「あ、あの…メンルヴァ様。…今後とも呼び方は、『メンルヴァ様』で良いのでしょうか?」
と、それを聞いたとたん、メンルヴァは待ってましたと言わんばかりに勢いよくこちらに振り返り、
これ以上になく目をキラキラさせながら答えた。
「ふふん!それじゃ呼びにくかろう?『メル』って呼ぶのだー!」
「はい。メル様」
メルは偉そうに胸を張っている。…満足そうで何より。
「それでは、あとは…何か質問とか無いか?」
質問…か。
アドリブ弱そうだし、やっとやり遂げた達成感を台無しにもしたくない。
いろいろおかしなことがあった。本当はいろいろ聞きたい。
でも、今はこの子の満足感を優先した方が良い。
「ええと、あの…まあ、特に…ええと…」
この、良い雰囲気で終わらせたい。
「ん?」
メルは顔を近づける。
私に何か質問があると勘違いしてしまったのだ。
しまったな…切り上げ損なった。
何か上手い締め方はないものか…
「たいへんよくできました」
あ。
まただ。
つい、ふと、言葉が出てしまった。心にもない事を、また。
「…!」
それを聞いたメルは体を震わせ…顔を赤らめ、涙を浮かべて…
「………はい」
小さく、言った。
…
自分が何気なく言った言葉。意味も考えずにただ、放った言葉。
それが誰かに響くことなんて…
「うっうっうっ…」
父性なのか、この小さく泣いている女の子の頭を撫でてやりたくなった。
しかし、カンペにあったように彼女は威厳を大切にしたいらしいのでそれはよくない。
…メルは涙を拭いながらこちらをチラチラと見ている。…撫でて良いのだろうか?
まあ、とりあえず、それより先にすることは
カンペで涙を拭ったメルのインクまみれの顔をハンカチで拭いてやることだろう。
…
それから暫くして…
「おー!戻ってきましたかー!おやつを食べながらまってたんですよ!」
「…おやつ…って、肉でしたよね…?」
私とメルはヤーガさんのもとへ戻ってきた。
「おーおーおー!観劇の魔女!ひーさしーぶりー!元気かー!?」
うっとおしいくらいに手をブンブンと振りながら近づくヤーガさん。
「あなたは…」
メルは私の後ろに隠れて私の服を掴んでいる。…人見知りなのだろうか。
というか、私が保護者のようになっているようだが、
ほんとうにこの子に村を纏める力があるのだろうか…?
「おーおーおー?覚えてたりしますかー?おー?そんなことねーよな?本能?刻まれたって?ハハッ!
…だーいじょーぶ!大丈夫!今回のヤーガさんは味方なんですよー?
何百年前の敵は今日の友ってさ、おほっ長っ!!」
「はは…いやはや…」
相変わらず、言っていることがよく分からないな。
「っと!そーそー!!キミ達、契約したんですよねぇ?…よっしゃ、ちょいと確認しますか安全確認!」
と、ヤーガさんはおもむろに私に近づき
「****君」
?
何かを言った。…何語なんだろうか?聞こえはするが分からなかった。
「は?」
「分からないかなー?****君?…キミの名前なんだけどねえ
…あ!もしかしてどっかのマイナー言語だと思ってる?
チッチッチ!これはロシアでもドイツでもヘブライでもなくキミんとこの言葉っ!
試しに自分で言ってみて?
…あー、あー、ヤーガさんはヤーガさんです。あなたのお名前は?」
「私の…名前…は…」
…
…くそ。
おかしい。
私は私の名前を知っている。生まれてから今まで、ずっと使ってきたものだ。忘れるなんてことは…
「どーしたのぉ?あーなたーのおーなまえ、なんてーの?」
「…あ…と…」
…知っているのに。
…知っているのに!
分からない!!
「ふんふん。よしよし。いーですねー。では最後に、ほい、コレ、読める?」
と、どこからだしたのか、ヤーガさんが紙にマジックでなにやら書いてこちらに差し出した。
「よーめまーすかー?キミの名前なんですけどねぇ?」
「…う…あ…」
「おーちついて落ち着いて。まずは一文字ずつ読んでみましょう…まずは、これ。」
「………う」
「ちがーいますよ『う』じゃねーですよぉ?」
「…」
…読めない。言えない。知っているのに。ずっと知っているのに…分からない!
「えーくせれんと!うぇるだーんうぇるだーん!…ふっふっふー…契約は成立したようですな。
やっりましたなー****君!…っと!おっほほ!この名前はもう使えないんだった!
ホイ、メンルヴァ!最初の仕事ですよっ!彼に新しい名前をつけてあげーさいっ!」
くそう。なぜだ。…私をよそに、話は進んでいっている…
「え」
「ほら!名前を奪っちゃったんだから、つけるのが義務でしょー?何か無いのー?
ないならヤーガさんがつけちゃうよー?」
「ダメッ!!…ええ、と…名前…名前…」
「ほら、はっやっくー!」「…静かにしていましょうよ…」
「…じゃあ…あの……」
「んー??」
「ぱ…パパ…で」
…
ああ、今日は何という日だ。変わったお友達が何人かできて…名前を失った…
なんとか書けた