2つめ。
―――「いやあ、凄かったね。」
白い男が向き直る。
…何の映像だ?
「まあ、その…色々頑張ってたね。」
テレビ用の投稿作品か何かか?…それにしても…
「車は、まあ、残念…だったけど…」
微かに白い男が沈んでるようだ。
「…はー。………さ、て…」
“ぱさ”
白い男は今度は何枚かの紙をテーブルに置く。
「さて、次のお客さんが来るまでに少しだけ時間があるみたいだよ。
それまでにこれに目を通してみる?」
これ?
「奥で見つけたのだけど、少し、難しそうでね。気晴らしになるかなって。」
難しい?
…あと、また誰かが来るのか。
まったく、一体何なんだか。
やれやれ。天国というのは退屈攻めを受けるところだったとはな。
いや、実のところ、ここは地獄でしたという話もあり得るか。
「…やはは。手厳しいね。でもね、それはキミが決めるというか…
んー、“ここ”が示すのはもう一つの可能性かも。」
何を言って…
「天国?地獄?…キミさ、どっちにしたって監獄のように考えてるでしょ?」
…
「どちらも“終わり”のイメージだからかな?終わってから、行く。終わらないと、行けない。」
何が言いたい?つまり…
“かさかさ…”
「ごめんね、邪魔しちゃったね。はい。」
…白い男は数枚の紙のから1つを選んで、こちらによこした。
…ちっ
…
『人間の本質は何か?
誰でも抱くような陳腐な疑問だが、
“試練”を続けていると嫌でも考えさせられる。
身体か、心か。
結局のところ、両方必要だという結論に至るわけだが。
どうしても“試練”の辛さに逃げ道を探してしまうのだろう。
…
体は作れる。一番簡単なのは背恰好の近い素体を“彼”に直す事。
“彼”の事なら顔や体の造りは勿論、シミや汚れ、対照的に見えて非対称な歪み、
絶妙な筋肉と脂肪のバランス等々…細かな“美しさ”ですら完璧に分かる。
修正だけならば問題は無い。
ただ、彼は“彼”を受け入れない。彼の中にある彼の心が“彼”を拒絶する。なんという歪な“彼”だ。
では“歪な彼”の心を修正すれば、と考える。
半端者に本当の“彼”の心を教え込むわけだ。
何年も、何十年も蓄えた“彼”の歴史。もちろん、教えるのは漠然とした出来事じゃない。
“彼”の歴史に捨てるべきものなど一切存在しない。
逆に、ほんのわずかでも欠ければ“彼”にはなれない。
1秒の欠落も重大な落ち度だ。その日に、何時に目が覚めて、何を食べて…いいや、足りない。
“彼”が知覚できていることだけでは。全く。全然。もっと…もっと。
何時何分何秒に命になって、それからおよそ7200時間後にそこから出てきて…
(“およそ”!?修正の必要な欠落だ!)
産声をあげて…それから、それから…。
…美しい、愛おしい、輝かしい歴史の数々…。
…だが、半端者には入らない。受け入れようとしない。既に汚れた記憶がこびり付いていたから。
身体に、汚れた内臓に。
こいつが今までの間に積み重ねてしまった、“間違った歴史”のせいで!
…
…いけない。文体に感情が現れ始めている。
行き詰まりを感じているからか?ミスまでしたためてしまうとは。
少し休む必要がある。今日はここまでだ…』
…
これは?
「やっぱり難しいよね?」
誰かの手記?ずいぶんと偏執的だ。内容もまるで映画のような話じゃないか。
信憑性は疑わしいレベルだな。妄想癖の戯言を集めたようにしか思えない。
「そうだね。キミがココで体験しいてることなんて大した事ないくらいでしょ?」
…コイツ…
「ん~ん~ん~…?」
白い男は何食わぬ顔をしながら目をそらしていた。不器用なのか。
…それでこのおかしな文を見せて何がしたいんだ?または、何を気づかせたい?
それとも本当に単なる時間つぶし?
「…ん~…」
まだ目を逸らしている。
そろそろ間がもたなくなるんじゃないか?
「あっ!ああ!来たよ!来た来た!…こっちだよ、はい、こっちー」
気まずい空気がよっぽど堪えたのか、誰が見ても分かるような空元気で“次のお客さん”を迎えた。
白い男が手を振っている。そのずっと先にぼんやりとした人影が現れ、ゆっくりと近づいてくる。
…男性…中年、いや初老くらいか?
落ち着いた雰囲気。口ひげを生やしていて、いかにも紳士といった風貌をしているが…
…誰だ?会った事は無い。
ここが死後の世界だとすれば、生前に会った事のある人物に会うものだと思っていたのだが…?
「ええと、あなたはここに座ってくださいね。」
自分の隣に紳士が座る。
…(ぺこり)
軽く会釈された。
「お待たせしたね。でも、知ってる人物じゃなかったんだね?
うん、それじゃあこれから知り合いになるよ?はい。」
白い男はモニターを指す。またか。
「椅子の向き、変えてもいいよ?」
…白い男の椅子は既にモニター側に変えられていた。
さて、今度は何を見せられるのか…?
最初より短いけど、なんとか書けた。ああ、頭の中には壮大な話があるのになー