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魔女僕  作者: こそこそ
19/22

19

『“彼”の候補は確実に数を減らしている。

それはこちらが意図するところであり“試練”は順調に進んでいると言える。

選定…いや、剪定作業とでも言うべきか。

正しい一人の為に間違いを刈る。

それもじきに終わりそうだ。…素晴らしい。

ただ、ここからが難しい。

優秀な候補が何人か居る。誤りだけは避けたい。』


「いやあ、いいね、初々しくて…あ、笑っちゃだめだよ」

クールクル、か…ふっ、くくく…ダメだ。思わず笑ってしまう。

ダメだ、平常心でなければ。隣の紳士(顔を伏せている)に失礼というものだ。

くーるくる…ぷっ!いいや、いかんいかん。

「あ、でも。」

うん?

「ねえパパさん、この子達もかなりひどいから気にする事無いよ。これなんか…まあ見て見ようよ。」

え?ちょ…

「上映しまーす」

まって!

――――――

おーい、どうするんこれは。新参謀、いや、耐え係候補、説明しろ。

…ふふふふふ…

おーい、コイツ耐え所にぶち込んで…

何を言ってるのでさぁ、指令殿。

何って、お前…遭難させといてその言いぐさ…ないわー

ないわー、そう、ないわーですぜ指令!

はぁ??

つまり遭難なんてなかったんですよ!

…はー?じゃ、今のこれは何よ?何ですかー!

…修行、でさあ。

修行?

そう、修行。我々は修行をしてるだけなんですよ。修行に時間制限ってあるんですかい?

…はっ!?………無い!

そう!修行はずっとできるもの!つまり…!

遭難…なんて言葉は最初から存在しなかった…?

…御明察!

やったー!!遭難してないぞー、やったー!!どうだお前らー!!

なんだあのクレイジーぶりは…おい、指令が壊れたぞ…次のやつ、用意しとけよ…

―――

「ふふふふ…」

「…?ぼうや…?」

よし!完璧だ!!

修行に遭難もクソもないんだ。

確かに僕達は修行などしていない。

しかし、森の中で出口を探して進む…これを修行と言わずしてなんとするのだ!

修行だ!もうこれ、修行の域だから!

だから僕達は遭難していないんだ!

むしろなぜ“遭難”なんて言葉ができたのか…それが不思議なくらいだ!やった!

よし、遭難問題は解決した…とはいえ。

あー…なんだか暗くなってきた気がする。

森の中のだからかな…いつもより暗い…

慎重に動かないと転ぶかも

…あれ?

森に入って来た時っていつぐらいだったっけ…?

…もっと明るかったよな…

…ちゃんと出口にむかっていればもう出てるんじゃ…

…迷った?

…馬鹿な。いや、馬鹿な。遭難など存在しない。

…いや、遭難か否かはまず置いて。えと、迷った?

馬鹿か。ありえん。ありえん。

暗いからペースが落ちているだけだ。

集中しろ。脱出できる行動を今しているんだ。


“パキ” せんべいを割る。

“パラパラ” せんべいを撒く。

「迷ってない」 現状の確認。


以上、これの繰り返し。簡単なことだ。


“パキ”

「…迷ってない」

―ねえ?―

“パキ”

「迷ってないよ…」

―ぼうや―

僕には焦りは無い。至って平常心だ。焦りはない、絶対に。

動揺する要素がひとつもないんだ。答えは出ている。あとは根気だけ。

とんとん。

―ぼうや、ねえ―

“パキ”

マキさんがつついてくる…

うるさいな…僕は森の中に修行のためにやってきたんだ。

“パキ”

ゆさゆさ

―ねえ、ねえ、ぼーや、ねえ―

今度は袖を強く引っ張ってくる…

邪魔しないでくれよ…僕は修行のために進んでこの森に入っ…た訳ではないけど。

“パキ”

“パキ”

“パキ”

“ガンッ”

“パキ”

…?

さっき音が違ったような気がしたんだけd

“ゴンッ”「っ!アガッ!!」

鈍い音と共に頭が揺さぶられる。

“カンッ、カン…”

ぶつけられたモノが落ちる音、これは…ミラーだ。車の…。

「…ぼうや」

加害者が静かに語りかけてくる。…こっちは被害者だってのに。

…いや。

ああ、先ほどの違う音は車のドアを踏んだからか。

こんなところに車のドアが落ちてるなんて…

ミラーにしたって、車にくっついているはずで

投げれるはずかないのに…とれていて…

「…まんぞく?」

…?

ソレを指しながら、マキさんは問いかけてくる。

ソレ。鉄の塊。今朝は動いていた。いや、似ているだけ。

色も同じ。いや、たまたま。暗いのに分からないだろ。

「散歩」

ミラーも同じ形。いや、ミラーなんて同じだろ。分かる訳…ない。

「ねえ」

いや、たまたまだ。それは、証明できる。つまり、つまり…このドアにカギをさして…

もちろんささるはずがなくて…

“かちゃ”

…!

いや、回らなければ…鍵はささってもまわることは…

“ちゃっ”


!?


「!オウオウオオオオォ!!」


「…」

いやぁあああああああ!!

なぜぇ!?

なぜなんだ!!

「ねえ」

“ガンッ”「ンガッ!?」

またしても鈍い音、脛にじわじわ広がる痛み…ああ今度は左側のミラーね…

思わず足を庇って、せんべいの袋を落としてしまう。

“ぱりぱり…”

…目の前に粉がぽろぽろ落ちてるのが見える…それは勿論、せんべいの粉だ。

ああマキさん、喰ってるのか?這いつくばってる僕を見ながら…!

いや、そんなことに激高してる場合ではない。そのせんべいは生命線なんだ。早く止めさせなくては。

「これ…もう無いの…?」

え…は?

薄っすらニヤついたような顔でマキさんは袋を見せた。

あ…カラになっている。

「マ、キさん~…それ…あ、アンタっ…」

「…からっぽ」

「うがああ!詰んだあーーーーー!!」

がぁあああ!

なんつーことを!!

「あああ…マぁーキぃー…なんで…なんでなんだよぉ…」

「えぇ~?」

珍しくとぼけた顔をしている…マキさんは僕をからかって気を惹こうとする癖がある。

…それはとても良いことだけど、今回は良くない。

僕たちは遭難一歩手前な…訳ではなく!いや、遭難してないし!!

遭難に似せた修行をしているだけだし!まったく問題ないし!!

…って、それじゃあ、マキさんが全部食べてしまっても問題は無いことになってしまって…ぐぬぬ…

はっ!

いや!まだアレがある。ガムだ!

少々顎が疲れるが風で飛ばされることを考えたらむしろ良い条件とも言えるんでないか!

は、ははははは!いける!いけるぞ!!まだぜんっぜん余裕だしっ

「マキさん!ガムを取ってくれ!!」

マキさんにガムを取ってもらう。これで問題解決だ………ん……あれ…?

「何か…すんごく…少なくない…?」

取ってもらったガムは残り二枚しかなかった…え?なぜだ…そんな…馬鹿なっ!

“くっちゃくっちゃくっちゃ…”

…おい。

「マキさん、頬張りすぎじゃない…?」

僕は再び絶望に突き落とされた。ガムまで食べるなんて…何てやつだ…

なんという絶望感、倦怠感…

「ああ…オワタ…オワタよ…」

肩を落とす僕をなんとなく嬉しそうな(ちくしょう)顔をしたマキさんが覗き込む…ぐぬぬぬ…

「なんでおせんべ割っていたの?」

「……森を抜け出すためでしょぉがぁ……」

恨めしそうにマキさんを睨み付けるが相っ変わらずにやにやしながら聞いてくる…ぢぐじょう…

「それで分かるの?」

「みっ!?」

「“みっ”?…なにそれ」

思わず変な鳴き声が漏れてしまった。…そうだ、そうだった。肝心な事を忘れていた。

そう、僕はお菓子を捲けばそれでいいと思っていた。

お菓子を捲くのはそれを辿って森の入り口まで出るためだ。

辿るってことは、つまり…見えなくてはいけない。

だけどよく考えたら、こんな真っ暗な状態でどこになにがあるかなんて分かるのか?いや、分からない!

しまった。僕はとんだ思い違いをしていた。

かつてお菓子で森を抜け出した兄弟は異常に夜目が利く超人だったんだ!

「く…くく…そうだよな…ただの子供に森を抜けるなんて…」

「ねえ」

マキさんは絶望の淵にいる僕にさらに声をかけてくる。

何だよ。

まだ追い打ちかけるのか。

でも、幸か不幸か、もう、これ以上なんてありはしないんだよ。

「出口って、どこ?」

「?…は?だから、そこに行くためにせんべいを…」

「おせんべいは出口につながってるの?」

「…え?」

「おせんべいって、森に入った時から撒いていたの?」

「…」

「…ねえ」


「バッカァァァァッ!僕のバッカァァァァッ!!」


悶絶した。

そもそも、森のど真ん中でお菓子撒いても、森の中しか戻れねえんだ!

一体、今まで何やってたんだ!?

一体、今まで何考えてたんだ!?


「バッカァァァァァッ!!」

「…ガム食べる?」


こうして僕達は遭難した。


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