17
『すごくたくさんのひと! どうしよう!
せりふ だいじょうぶ?
いしょう だいじょうぶ?
…って、えええ! なにそれ!』
“がやがや”
“ざわざわ”
…いやはや…朝方に少し声をかけただけなんだが…なかなか…これは…
舞台の裏から見える光景は予想していたよりもはるかに凄いものだった。
大広間は人で埋め尽くされている。まさに満員御礼。
朝方見たここはとても広く感じたのに、今のここはとても窮屈そうだ。
“ぱちぱち!”
「おっほほほー!ブラーボー!ブラボゥ!!大盛況ですねー!だーいせーいきょーぅ!」
ヤーガさんはこの上なく満足そうだ。狭い舞台裏を文字通り所狭しと駆けまわっている。
うるさいけど、嬉しいのならそれは何よりだ。…騒がしいけど。
…だけど、当の主役は…
「あはっ…ははははっ…そ、そう、みた、みたい、ねっ!」“カタカタカタ…”
見てわかるほどにガッチガチに緊張して震えている。
ああ、まあ…無理もないだろう。
私と最初に出会った時でさえ…その…がんばってはいたのだが…
ええと…まあ、それなりの…ううむ、そこそこの、出来だった。
あれから数日もしない内にこの大舞台を任されて…。
うーむ、やっていけるだろうか?
人間、そこまで急激に成長はできない…ああ、でも魔女か。
魔女だったら可能性はー…。
“カタカタカタ…”
うーん…でもなあ…。
本番にとても弱いし…。
“カタカタカタ…”
うん。とりあえず何か声をかけてあげよう。
「あ、あのメルさん。その…結構、集まりましたね」
“ぽん”
メルの肩にそっと手を置きつつ話しかけるが…
「あひゃぁっ!」
「え?」
妙な声をあげてメルは跳びあがる。
かなりきているなあ…。
「…え?あ、パパ、え、なに!?」
「あの…皆、来てくれましたね。」
「ははっ!そうっ…ねっ!」
メルは…強がっているようだが…小刻みに震えて歯をカチカチ言わしていて…どう見ても強がれていない。
…このままだとまずい。
「メルさん!」
「あ!」
私は小さく震えるメルの肩を掴み、メルの目を見ながらゆっくりと話した。
「…大丈夫です。みんなにメルさんの事を知ってもらうだけ。…大丈夫。みんないい人ですから、
メルさんが話したいことを話せば良いんです。」
「ああぅ………うん。」
メルは頷いてくれた。
これで少しは緊張が解れてくれるといいのだが。
「おほっ!でーも、ちゃーんと村人達を従わせるような気の利いたこと言ってくださいねぇー」
ヤーガさんが割って入って水を差してくる。
「わ、分かってるわよ!ら、らくしょーな、んだからっ!」
ああ、おかげでメルに緊張が戻ってしまった。
「おーおー、吠えますねぇ~。
よーくもまあ、そんなダッサイ服で吠えられるもんでーすね、ほっほー!」
ヤーガさんは腰に手を当ててくるくる回りながらメルを煽る。
「ダサって…なにおぅ!!」
やはり…というべきか、メルはヤーガさんにつっかかる。
「おーおー、突っかかってきますか。おほほほ!かーわいそーなセーンス。カビてません?」
口元に手を当てわざとらしい“あざ笑う”仕草で応えるヤーガさん。
「むりゃぁっ!!こんのぉぉぉ」
ついに怒りが爆発したメルはヤーガさんに飛びかかる。
「ほほっ」
「ありゃああっ!?」
“ぼすんっ”
それをかわされたメルは顔面から床に突っ込んでしまう。
これから舞台に上がる主役のはずが、ひどい有様だった…。
「なんですその叫び方?
“むりゃぁ”?ソレ、新しい掛け声なんだから服装もあったらしくしましょうよぅ?
…むー?なんです、なーんですその恰好?パツキンのヅラつけて真っ黒なトンガリ帽とローブぅ?
…っかぁー!あからさますぎて逆に没個性ですよ!…あーんたホントに魔女ぉ?」
「むっがぁ…!」
舞台の小道具がたくさん入ったカゴから不満の声が漏れてきた。
…とりあえずメルをカゴから引っこ抜く。
「ごほっ…ぁ、あんただっていつもヘンなの着てるじゃんか!」
「おーおーおー、ヤーガさんのこれは非常に機能的なお召し物なんですよー。
メェルみたいなダサ使えねーモンとはちゃうんですよぉ!?」
ヤーガさんはいかにもおおげさに“やれやれ”といった仕草でこたえる。
「へーん、ダサダサセンスに気づいてないんだっ、かっわいそー」
まるで子供の喧嘩。売り言葉に買い言葉で収集がつかなくなってきた。
とにかく止めに入らねば。(めんどうだが)
「あ、あの…ヤーガさん、まあ、あの、その辺にして…」
「おーおーおー!そーおだ!パパさんに言ってもらえれば良いんだ、そーだったぁ!!
パパさんパパさん、どーでっかぁ?こんのダサ地味ファッション!?
こんなん着てったら村人共のいーい笑いものでっせぇ??」
うわあ…めんどうがこっちに来てしまった…
くう。仕方がない。
「…ふ、む…」
改めてメルの服装を観察する。
「あ、あの、どう、かな…パパ?」
…ううむ…
改めてみると確かに、ダサい。
いや…出来ればメルを傷付けたくないのだが…
その…確かに…ヤーガさんが言うように…
少し…ちょっと…ううむ、ダs…ありふれたというか、その…
ダメだ、ダサい!無理だ、取り繕えない!
自分の語彙力のなさを恨みたいくらいだ!
「パッパさーん、言ってやんなよぅ!」
「あの…パパ…この服…ダメ?」
…ううむ…こんな時、どちらも傷付けずに穏便に切り抜ける方法はないのか!?
うぐ…これ以上コメント無しなのはマズい。何とかさしさわりの無い言葉を選んで…
「…えー…いやはや…そのう…メルさんのは、とっても分かりやすくていいとは…思うん…」
「えーえーえー!分かりやっすいつったら分かりやっすいですよ!」
言葉の途中でヤーガさんが割ってきた。(助かった。)
「でもね!それは何百年前かの分かりやすさでっすよ!今じゃネタですよ!ネ・タ!!
そんなん今の人が見たら『ああ、魔女か…』って思う前に『ぶっ!』ですよ!失・笑!!
今の人にタコみたいな恰好で『エイリアンです』とか言ってもだぁれも信用しませんよアンダスタン!?
今には今の恰好っちゅーもんがあるんですっとばい!アンダストゥードゥ!?」
相変わらずのマシンガントーク。だけど少し納得できてしまうところもあるのが憎い。
「ふ、ふんっ!そんな事言ってあんたこれ以上の衣装を用意できるの!?
ま、あったとしてもどーせ皆が引くようなヒッドイ衣装に違いないんだから!
あんたダッサイから!ダッサイですからっ!」
大切な事なのだろう、二度言った。
しかし、ひどい罵り合いだ…どちらもいい勝負な分、泥仕合としか…あっと、失礼か。
「ふーふーんー。そいつぁ、コイツを見てから言いなよ!どやぁ!!」
ヤーガさんは一体、いつそれを用意していたのか後ろ手に持っていた衣装をメルの前に差し出した。
そしてその衣装というのが…ええと…その…いやはや…
と、私の感想はさて置いてメルの方はというと…
「どやぁ!!」
「…あ」
「どやぁ!!」
「…え…と…まあ、うーん…わ、割と…」
「どやぁ!!」
「うるっさい!!」
…結構、気に入ってしまったようで…ううむ…
ヤーガさんはニヤついた顔でメルに近寄る。
「でーもでも、実際の話、どぉーよメルちゃーん?これぇ、最新の魔女の服装なんですよ?
かわいくないですか?かわっくないですか?大切なことなんで二回聞きます、かわくねぇ?
…あ…三回目言ったわコレっ!」
メルはまるで一目惚れしてしまったかのようにそわそわしながら衣装を見ている。
(それにしても“かわくねえ?”ってどんな言い方なんだろう)
「…ぅん…わりと…かわ…い」
「でっしょぉー!その言葉が聞きたかったァー!
でーもこれだけじゃあ済まないんだよねぇ!コレが!これを着てさらーにですね…」
なんと。先ほどまでの空気はどこへやら、この衣装を着る流れになっている…。
だけどそれはちょっと!
「ちょ、ちょっと待ってくださいヤーガさん!メルさんも!」
「なーんです?」「え?」
「め、メルさん、本当にこの服を着るつもりですか?」
「だ、ダメ?」
う、上目づかいで聞いてくると許してもあげたくもなるけど…!
ちょっとこれは…メル、よく見て。
「え、えっとですねえ、この服、上も下もヒラッヒラでピンク色で…いや、まあそこはいいとして…
…その…まず!これ!スカートが短すぎやしませんか?それに、その…ええと…全体的に!
全体的に短すぎますよ!これじゃ、え?お腹が見えちゃうんじゃ…
うわっ!なんです!この胸のハート型の穴!!
こ、これじゃ!その、は、肌が見えて…って!なんで背中パックリ空いてるんですか!
こ、これっ!肌見せすぎです!そ、そんな、は、はれんち…」
うう…指摘しているこちらが恥ずかしくなる。
し、しかしこんな、アイドルが着るような(?)服装が今の魔女ファッションだというのか?
いや刺激が強すぎるだろ…こんな恰好で村の皆に挨拶したら一体どうなる?
うわー…酷い学芸会のお出し物で良かったのに…。
「んまぁー!まーっかになあちゃってぇ!パパさん、結構いい歳なのにウブすぎますねえ~?」
口に手を当てて嫌な感じの表情で笑ってるヤーガさん。またしても煽ってきて…!
いやいや!ウブとかそういったものではなくて教育的にも…ハッ!
「や、ヤーガさん!こ、こんな恰好させたらエド君の教育にも悪いですよ!ほ、ホラ!」
後ろで俯いているエド君を指摘する。これならいくらヤーガさんでも…躊躇、するかなぁ…?
「…パパ…私がこの服を着ると悪いんだ…ダメなんだ…」
は!
「…う!」
しゅん。と俯いているメル。
しまった。
せっかくこの子のモチベーションが高まってきていたのに!
…ううむ…しかし…
ダメ…ではないのだけど…こんな…露出が多い服なんて…え?これ…半袖?
ホントに露出多いな…。腕や脇が見えて…風邪とかひいたりしそうで…。
健康面でもあんまり良くないというか…
…ええと…うむむ…
…その…
…メル…
そんな…そんな顔…しないで欲しい…
「あーっ!パッパさんがそんなこと言うからぁー!
なーいちゃうぞ、なーいちゃうぞコレぇ!?」
…ここぞとばかりにはやしたてるヤーガさん。
く。…え、エド君は…?
彼の票があればあるいは…?
私は助けてくれと言わんばかりにエド君を見る。
「…えーっとー………かわいいですけど…パパさん、心配になっちゃいますよね…」
…素晴らしい。優等生な回答だ。保護者はこんな感じでも子供はしっかり育つものなのだ。
「ハーイ新コスに一票入りましたー!これで新コス票は三票!パパさんどうやっても勝てませーん」
なんと!?
「え?僕賛成とか言ってな…」
「『かわいいは正義』なんですよエド君!
エド君が一瞬でもかわいいと思った時点で正義はそこに降臨するんですよ!
正義は絶対なんです!履行してやんなきゃいかんのですよ!
…てかエド君、こういうのが好きだったんですねえ~。
…今夜はヤーガさんの魔女っ子ファッションショーで決まりですねーくふふふふふ…」
あーあ………この大人は………
「ほいほーい、多数決でメルの衣装はキマーリましたー!…と、おおうっ!もうじき時間ではないっすか!
ほれほれメルメル!とっとと着替えてきんさいっ…ととっ!あとヅラはコレ、メガネは地味っ子の象徴!
外しんさい!そんかわりにコレ!コンタクト!目ん玉につけること!
以上!0.66分くらいで用意しなっ!」
ヤーガさんはメルに色々持たせてカーテンの向こうに押し込む。
押された勢いで一度はカーテンの向こうに姿を消したメルだったがすぐにそこから顔だけを出す。
「あの………パパ…」
不安そうな表情で私を見てきた。…私に反対されていることが気にかかるのか。
………正直言って、あの衣装で舞台に出るのは…やめてほしい。
だけど、それはこの子の望みじゃない。言うなれば私の勝手なわがままだ。
…
…私はこの子を支えてあげたいと思っていたが、…今は障害になっているのかもしれない。
あの衣装は、心配ではあるが…ううむ、すごく…
でも、それでこの子がしたいことができなくなってしまったら、そしてその足枷が私だとしたら…
そんな情けないことはない…か。
…
…
…
そうだな、うん。よし、分かった。
「…分かっ…」
「パーパーさーん!ここまできていてダメだなんて…そんな事言わないですよねぇ?え?言っちゃう??
そんな、少女の夢を打ち砕くような…そんな、鬼畜王になりたいの?え?なりたい??」
「言いませんて!」
「だ、そうですよー!ほい!着替えんさい!!」
…『分かったよ、大丈夫だよ。だから、着替えてきなさい』…そう、言いたかった…!
…少し、かっこつけて言ってみたかったのに…
…
…メルが着替えに行ってから数分が経つ。
…手間取っているのだろうか?
「うりゃ!メル坊!いっつまで待たせるんじゃい!0.66分くらいはとっくに過ぎてんですよぉ!!」
シビレをきらせたヤーガさんがカーテンを勢いよく開け放ち、メルに詰め寄る。
「あ、開けんな!…あ!…うぎぎ、また外した…」
カーテンの奥、鏡が置いてあるところでメルは何やら苦戦をしていた。
「かぁー、なぁーにやっとるかぁーメル坊ー!…おー?コンタクトぉ?なぁにぃ?つけれないのぉ?」
「う、うっさい!こ、こんなものすぐに!…うぎぎ」
どうやら着替え自体は大方済んでいるが、コンタクトレンズがうまくつけられないようだ。
…メガネと違って、目に直接つけるものなので、慣れないうちは相当怖いものではないだろうか?
と、いうか、何故わざわざコンタクトにするのだろう?
「これこれ、メェル。つける方の目を塞いじゃあハマらんでしょが。うり!」
ヤーガさんはメルのまぶたを無理やりこじ開けコンタクトを押し付ける。
「んゃっ!?ちょっと何す…」
「もいっちょぉ!」
「みゃぁっ!」
…ヤーガさんはあっという間にコンタクトをつけてしまった。
メルはあんなに時間をかけていたというのに。はあ、そこはたいしたものだ。
…でもまあ、案の定ではあるが…メルは不満そうだ。
「こ…こんのぅ…人の目だと思って無茶苦茶やって…!」
「ほーれ、準備完了ー!パパさんに見てもらいンさいっと!」
ヤーガさんはドン!とメルを押し出す。
メルはよろつきながら私の目の前にやってきた。…そしてその姿を改めて見る。
おおう…
メルは先ほどまでとは別人と思うくらいに変わっていた。
長くまっすぐに伸びていた黒髪はウイッグにより桃色のツインテールに…
綺麗な黄色い瞳はコンタクトレンズによって青と…赤の…瞳に………って、なぜ左右で目の色が違うのか?
そして全体はヤーガさんの衣装によって全身桃色で…あと…それと…わりと…露出が多い、感じで…
腕とか…脚とか…背中とか…見えてるし…あと…胸の真ん中…
「ど、どう…かな?」
メルはもじもじしながら聞いてきた。
ど、どう…って、その…何と答えればいいのだろう…
「うーむ…胸のあたりが、ちょーっと貧相ってーか、自殺の名所ってーかなんですけどぉ…
おやぁ、パパさんには好評なようですねぇ?」
「なっ!?」
「見とれちゃって声も出ないってぇヤツですかぁ?…はぁー、まーあ、自殺の名所だって
自殺者には人気ありますからねぇー“ビシィ”…おほぅ!?」
べらべら語るヤーガさんのお尻に強烈な回し蹴りが放たれた。
この子はどんくさそうに見えて(おっと失礼)身のこなしは良かったのか。
「うっさい…」
と、小さく言ってメルは私に向き直る。
「…ふふん」
私の顔を見ながら静かに笑った。…どうやら今回はヤーガさんが助け舟になったようだ。
しかし…いい笑顔だ。いつもそうやって笑っていて欲しいな。
「はーい、はーい…ほぅっ!…はーい!イチャイチャタイムはそれまーでよー!…ほれメル!コレ持ち!」
あっという間に雰囲気を壊して割り込んでくるヤーガさん。
(…先ほどの蹴りが効いているのか時折お尻をさすっている。)
助け舟ではあるがレンタル代は取る…ヤーガさんの船はそういったものなのだろう。
ヤーガさんはメルに可愛らしいハートと星の付いた…
ん?ステッキというのは両端共に装飾が付いているものなのか?
…ええと、右端にハート、左端に星の装飾がしてある…杖…のようなものを渡した。
「これ…なんなの?」
「なんなのって、ステッキでしょうが杖ですよ!?」
「いやはや…これでは…杖…としての機能が無いような…」
「ちっちっち!古ーいですよパパさんっ!今の魔女装備は機能性なんてこれっぽちも考えてませんぜ!
見た目なんです!インパクトなんです!モエなんです!」
「モ、モえ?」
「さー、時間がないっ!
いーですかメル!あなたはコレ持って開口一番こう言うんですっ!
『マジカル ミラクル キューティクル! 魔女っ子メルちゃん さぁーんじょー』って
馬鹿みたいに!」
「えええ!?セリフ増えるのっ!!しかも最初にっ!?」
メルの表情が先ほどまでのほんわかしたものから一気に固くなった。
そうだった。これから本番が控えているのだ。
この子は本番にとても弱い。当然、アドリブなんてできるはずもないだろう。
本番直前でこんな奇妙なセリフを追加されたら………ああ、やっぱり…
「え、えと、なに?ま、マジカルミラクル…きゅ、きゅー…」
「キューティクルね!メル!…あー、なに?パニってます?パニクッてます??
…あー、しゃーないです!…パパさん!ちょいと時間を稼いでおいてください!!」
!?
ええええ!?
寝耳に水だった。いきなり舞台の前の前座をすることになるとは…
…
ふと、メルを見る。
「ええと、マジカルミラクルキューティクル、マジカルミラクルキューティクル
…カル、クル、クル…だな…カル、クル、クル…カル、クル、クル…」
必死に先ほどのセリフを覚えようとしている…
…まっすぐな子だ。
…本当に。
…いやはや…まったく。
この子はこんなにも頑張っているんだ。少しでもその助けに…私も頑張らなければな。
…笑っててほしいし。
…仕方がない。なんとかやってみよう!
「分かりました。やってみます。…メルさん。」
「クル、クル…っえっ!?…あ…」
私はメルをゆっくり抱きしめて励ました。
「大丈夫です。きっとうまくいきますから。落ち着いて。大丈夫。」
「う…うん。」
「じゃあ、行ってきます。…大丈夫!」
「うん!」
…そして私は無数の観客が待つ舞台へ上がっていった。