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魔女僕  作者: こそこそ
15/22

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『でんきはおもしろいなー でも ほんとにうれしいのはね…ふふん』


…いやはや…本当に効くなんて…


私はテーブルの上に皿を並べていた。

本日の朝食はパンとハムエッグとミルクだ。

メルの妨害が入ることを予想し、さほど時間のかからないものを選んだのだが…

予想に反して料理が出来るまでの間、メルはおとなしく座っていた。…魔法の言葉…か。

「はい、できました。どうぞ召し上がれ。」

「…食べるまで?」

「え…ええ、そうですよ」

メルはそわそわしている。…そこまで?

結局、邪魔どころか黙々と朝食を摂っていた。

あれ?もしかしてこれって“魔法の言葉”云々じゃなくて、単に口に合わなかっただけなのでは…?

やはり人と魔女の味覚は違ったのか?

いや、そもそも料理が失敗した可能性だってある…

そうだ…いままで誰かに料理を振る舞ったことなんて無かったじゃないか。

「…あの…、どうでした?」

私は恐る恐る感想を聞いてみた。

「…え。…あっ。…うん。おいしかった。」

ああ…すごくたどたどしい答えが返ってきた…!

やっぱり失敗だったんだ!

やっぱり魔女は人とは違うんだ!きっと、カエルのスープとかイモリの黒焼きとかじゃないと…!

「じゃあ、パパ。…それで…」

“ゆさゆさ”

「はっ!」「ん?パパ?」

思わず変な声が出た。

一瞬、“あっちの世界”に行っていたらしい。

袖を揺すられる感覚が私をこちら側に引き戻した…。

なんて言ってる場合じゃない。あれをやる約束だった。

そう。魔法の言葉、という約束。

「は、はい。それじゃあ…」

メルに手を伸ばす…。

うう。

手が震える。

こんな

「…ん…ふふ」

こんなこと…うう…

“さら、さら…”

頭を撫でるなんて…やったことないのに…

「う…」

合っているのだろうか?

間違ってない?

これでいい?

ん…意外とさらりとした感触が。

魔女なんだからギトギトの髪かと思ったけど…魔女であっても女の子なんだ。

「んふふ…」

…満足そう?

合ってる…?

「…え、と…」

「もっと!」

「あ、はい」

合ってるみたい。

いやはや…

正直、こんな条件でおとなしくしてくれるなんて

…いやはや…魔法…ね…いやはや…。


「おんやぁー、あっちゅいですなー!見せつけやがってー、わざとなんですかー?わざとなんでしょー?

…エド君!ほらッ!スリスリー!ほっぺたスリスリー!!」「んぅ!や、ちょっと!ヤー…」


「わっ!」「ぃやっ!」

私達は文字通り飛び跳ねてしまった。

いつの間に!?

…いや、もう…お決まりのパターンなのかもしれない。

とにかく私達はすぐさま適切な距離をとってヤーガさんに向き直る。

「スリスリー」「や、ヤーガさん!」

…ヤーガさんは夢中なようだ。

突然現れてこちらの邪魔はしておいて…

…あー

“邪魔”とか…そういうのじゃないです。

…誰に弁解してるのです…?

「スリスリー!」

「…」「…」

じぃぃぃぃ…。

私達はしばらく見ていることにした。姿勢を正して、静かに。

じぃぃぃぃ…。

「スリスリ―…んほっ!?」

私達の視線に気が付いたのか

奇妙な声を上げるヤーガさん。

「おほっ!ありゃまっ!?」

ヤーガさんはわざとらしく口元に手を当てて、エド君と距離をとる。

…私達のマネなのだろうか…煽ってくれているのだろう…うむむ!

「あ…!いっやーん!はっはー!見られてましたよエド君!ヤーガさん達のスキンシップー!

やーんっ!おほーん!」「はあ…もう…」

顔に手をあてていかにも恥ずかしそうな仕草。…あざとい………のか?

とりあえず、このままでは進まなくなりそうなので私からきりだすことにする。

「えっと、あー、っと。どうしたのですか?ヤーガさん。」

「え!?あー!!そーでしたそーでした!!おっほほほ!

…いやあ、ラヴラヴイベントは切り替えが大変ですなあ~!

っと、それでですねってそれってどれだよってね!おほっ!おほっ!ほほほほ!」

…何そのリアクション?

いかにも慌ててますよっていう…ああ、私達のマネですね。そうですか。

“ちょんちょん”「…ヤーガさん」

「おっほ!」

エド君にお腹を突っつかれて奇妙な音を発するヤーガさん。もう、何しに来たのだろう。

「おほっ!すんませーん!…えーと…パパさん、客寄せはバッチリですかいな?」

「え?客寄せ??」

メルが怪訝な顔を見せる。ああ、そういえばメルは知らなかったのか。

というか、一番の当事者になる人に何も知らせないのはどうなのか。

まあ、一応、話を進める。

「まあ、そうですね。一通りは声をかけましたし、

皆さん、知り合いにも声をかけてくれるそうなので結構集まるかもしれません。」

“パチパチパチ!”

満足なのかヤーガさんは大げさに拍手で喜びを表した。…口でもパチパチ言いながら。

「パチパチパチ!ブラーボー!仕事が早いっていーですよぉ!こりゃーメルも頑張らんとねぇー!」

「え?え?え?え?何?」

メルは困惑している。無理も無い。

…と、いうか、まだ一週間とたっていないのに急ではないか?

…あ、いや、私も人を集めておきながら、なのだが。

とりあえずついていけていないメルに説明を。

「えっとですねメルさん、今夜、村の皆にメルさんを紹介するんで…したよね?」

多分あってる。私もヤーガさんの意図ははっきり分かってるわけではない。

ヤーガさんを見て確認をとると、

ヤーガさんは腕組みをしながら『うんうん』と頷いていた。

そして目を見開き、

「うんうん。ヤーガさんの意図とは違うけど、だいたいあってる!」

と、力強く言った。

それは…当たっているのだろうか?

「そーです、メルは今夜、連中に自分を紹介するのです!

『今からオメーらの新たなリーダーだぁ!』って!」

どこかの番長か?柄の悪いあいさつだ。

「ヤーガさん…それじゃあ仲良くなるどころかケンカになっちゃいますよ?」

「ケンカ上等!この村の腐った性根を叩きなおすにはそれぐらいが丁度いい!

それにメルはこの村の支配者になるのです!…仲良くぅ~?帝王に友などいらんとですよぉっ!」

右腕を天高くつき上げ言い切るヤーガさん。…他人事なのに。

…しかし。

支配者…この子が?

そんな柄ではないような気がする。

…それにこの子自身、それを望んでいるのだろうか?

「なんにしたってメル!あんたの初舞台なんですよ!」

「私の…初舞台…」

いきなり色々な事が進み始めようとしている。

…小さな手が震えている。…緊張しているのだ。

やはり、早すぎではないか。

まだ、正午といったところだ。村の皆に伝える時間はある。

今からならその舞台とやらを取り消しにすることもできる。

「いや、あのメルさん。もしなんだったら、もっと練習してからでも…」

「え」

メルが顔を上げる。…少し安堵したような表情だ。

うん、この子にはまだ早いだろう。

というか、一軒一軒挨拶にでも行けば良いではないか。

いきなり舞台でなんて…。

「あー!ダーメー!パパさん!!甘やかしちゃーダメッ!!」

腕をブンブン振りながら私とメルの間に割って入るヤーガさん。子供か。

「ですがこの子にはちょっ…」

「忘れちゃダメですよパパさん!この村にはあんまし時間が残っとらんですばいっ!

そーんな ゆとりー な感じでやってたら準備できた頃にはアスファルトの下ですよアンダスタンッ!?

ヤーガさん達は一刻も早くメルを支配者に仕立て上げて、村を纏めにゃーイカンですたいっ!

街の混乱もいつまで続くか分かったもんじゃねーんですってばよぉ!」

凄い勢いで捲し立てられた。

ところで…何語というか、何訛りで話しているのだろう…?

と、すぐさまヤーガさんはメルの方を向いてやはり捲し立てる。

「いいですかメルッ!

メルの価値はこの村を復活させることができるかどうかにかかってくるんですよぉ!

もし、村が復活できなかったら、パパさん、メルのこと嫌いになっちゃうぞっ!!」

…別に嫌いになんてならない。

いやそれより…この子一人にそこまで求めるのはどうかと思う。

「え!嫌!ダメダメ!!やる!やるから!!」

メルは慌てて応える。…いや、これは脅迫じゃないのか。

「メルさん。別に私はメルさんが嫌いになんて…」

“ガシッ!”

メルに腰を掴まれ

「大丈夫!やるから!やれるから!!だから!だから!!」

必死な形相をで言い寄られる。そこまで追い込まれる事なんてない。

…所詮、私という何でもない人間くらいに。

「メルさん、落ち着いて。」

「メッルー?それだったら泣きすがってる時間はあっるのっかなー!?

チックタックチックタック、この音は開幕までのカウントダウン?

それともパパさんとお別れのカウントダウン?」

「!」

“はっ”とメルは我に返り、「絶対、成功させるから!」と言い残し、どこかへと行ってしまった。

…ヤーガさん。あなたには色々、思うことはあった。

だけど、まあ、それもあなたの個性だと割り切っていた。

…だけど…

…今回は、やり方が、卑劣だ…!

脅迫めいたことで無理やり成果を出させるなんて…私達が敵対する街とどう違うというのか!

私はヤーガさんに詰め寄った。

「…ヤーガさん!」

ヤーガさんはメルが去った方向を見ながら話しだす。

「いやあ…ついに飛び立ちましたねぇー」

「あなたが飛ばしたのでしょう!?」

「そう。蹴っ飛ばしたのはヤーガさん。でもこれから飛び立つのはメル。

…いずれ自分から飛び立とうとするでしょー。」

「…それにしたって、あんな追い詰めるようなやり方…!」

ヤーガさんはくるり。と私に向き直る。そして真っ直ぐ私を見つめてきた。

「いやあ、パパさんの庇護がメルを飛べなくしてしまうんですよ?アンダスタン?

メルは愛情に飢えている。パパさんはメルを溺愛している。

…そんな二人がいたらお互いに縛りあって沈んでっちゃいますよ?」

嘲りか?憐れみか?その表情はなんとも言い難い。

「う…」

返す言葉も…うう…言い難い…。

「まーあ、ヤーガさんも、他にやり方があったかもしれませんがねぇ~。

まあ時間が無いのはホントーだし、メルを動かすのに

手っ取り早いのがパパさんを使うことみたいなんでねぇ~…」

…上手く言いくるめられたようだった。くぅ…。

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