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魔女僕  作者: こそこそ
13/22

13。


『どちらの策も、まずまずの成果だ。

“彼”の候補となる素体が確認されている。

…確かに、全体の数パーセント程度に“まずまず”という評価は適当ではないのかもしれないが…

何の事があろうか。“彼”は一人なのだ。手に入れば1より先の数字に何の価値もない。


…成果に高揚しているのが分かる。なんという希望的観測だろうか。我ながら、なんとも。

しかし、偶には良いだろう。バランスだ。』


「いやぁ、なんだか怪しくなって…ねえ?…あの、なって…ねえ?」

………

「いやその…面白い、体験だった…よね?いやいや、興味深いってこと、だよ?

だから…あの、まあ…俯かないでさ…」

…文書の内容どうこうよりもモニター側で奇行を繰り返す自分の姿をしたヤツが一番の謎だ…

「…うん、まあ…そうかも、しれないけど…

あっ!そうそうっ、あっ、キミ、キミさ!シェミハザに会ったんだね!?

い、いやー!あんなとこに居たんだー!…あ、彼女ね、シェミ……あ…言っちゃった…」

…あの人の名とかどうでもいい…と、いうか知り合いだったのか。

「んーんーんー」

類は友を呼ぶとは言ったものだな。

「う…キミ、“ココ”の使い方が分かってきてるよね…?」

いや…まだ目的は分かっていない。分かっていることと言えば…

この白い空間で喋れる…いや、声を出せるのはアンタだけで、

どういう訳かアンタはこちらの思考が読める。

そして…

「…そして?」

そろそろ鑑賞会の時間だ。

「わお、ご名答!…ね?パパさんっ!」


―――


『きょうは きのうより つかれた いっぱいあった

おもしろいこと どきどきしたこと わらったこと

それでね まず おもしろいことはね…』


「いやはや…」


何階建てだろうか…?

三階…いや、五階くらいはありそうだ。ううん…見上げていると少し首が痛い。

いやはや、これから自分が住むところだというのに全く分かってないなんて。

と、いうより…

こんな大邸宅が一瞬のうちに出来上がる“魔法”というものは…。

…ああ…

…なんと言えば良いのか。

ただただ驚き…?いや、信じがたい…?

ううむ。

思考の処理が追いつかないのだろう。

発する言葉は見つからず、ただ…口からため息の様な音が漏れるだけだ。


「…いやはや。」


“ギィィィ…”

玄関の扉が開く。


「オハオハッ!」「おはようございます…」


この奇妙な挨拶と丁寧な挨拶は…ああ、いつもの二人だ。やはりなぜか薬品みたいな匂いがする。


「ヤーガさんにエド君。」

「オッス!は、パパさん!ヤーガさんはメッス!」


“メッス!メッス!メッス…”


…早朝である。

まだ、日も昇りきらない、静かな、静かな朝。

“メッス!メッス、メッス…”

…よく響く…

オヤジギャグ。

“メッス、メッス、メ…”

まだこだましている…

“メッス、メッ…”

…恥ずかしい。

私が言ったわけでないのに、こう、復唱されると…なんとも…。

いやはや。さすがはヤーガさん…と、言うべきか。

こんな状況を作り出したにもかかわらず平然と…。

「…おっほぅ…」

…俯いている。

「…通りすぎじゃねえですか、声?」

…もじもじしている。

…恥ずかしかった、のか?


「…おほほー、パパさん!」

「は、はい」

気を取り直したいのか、徐々に活発になりはじめるヤーガさん。

その証拠なのか私の周りをゆっくりと回りだした。

「豪邸はどーっすか!?ごーてーっ!」

「…ああ、えっと…」

最初はヤーガさんを目で追っていたが、これから会話もしなくてはならない事を思い出して、止めた。

「…すごいですよね、見た目だけじゃなくて中身も、その、

部屋とか…ベットとかその、いろいろ揃ってて…いやはや」

「でっしょー!?それが魔法!至れり尽くせりっ!完全無欠…んんっ!?」

…後頭部から声が。ヤーガさんはちょうど後ろにいるようだ。

「だけんどっ!」“にゅっ!”「うわっ」すぐ横にヤーガさんの顔が現れた。

…いきなり顔を近づけるのは止めて欲しい。

「メル屋敷には無欠じゃないとこがありまっす!さあパパさん、メル小屋の欠点はなーんでーすかー?」

小屋扱いて。

「…はあ、欠点ですか?」

あの…顔近いです。それじゃ余計に頭回らない…。

「おほほ、そーお!気付きませんでしたぁ~?…ムズカしーく考えてないですかぁ?

もっとライトに考えましょー」

あ。視界の下にヤーガさんの顔。

いつの間にか下から覗き込まれる体勢に変わっていた。…左に体を捻ったのか。

…右から、左。

…ライト…ねえ。

「あー、電気…ですか?」

思いっきり誘導されている気がしないでもないが、引き伸ばして得する事も一切、あり得ない。

それだけは分かる。だからここは正直に答える。

「ザッツ、ラーイトッ!!」

“ラーイト!”

“ラーイト”

“ラーイト…”

だからここは静かな田舎!大声は出さない!

…チラッとヤーガさんがこちらを見てくる。

うぐう…うまく言えたと思っているのか?

「はは…」

苦笑い。失笑。こちらでできる最大限の配慮。

「ザァッツ…」

と、ヤーガさんは言葉尻を溜めつつエド君に向き直り…

「…え?」

エド君へ向かって走り出し、そして…

「ラーイットォ!!」

両手の人差し指を突き出し、“キメゼリフ”を叩きこむ!

“ラーイット!”

“ラーイット”

“ラーイット…”

やはり自信作だったのだろう。

…人は興奮すると違う発音になってしまうのだろうか。

当のエド君はもじもじしながら…

「…え…あ…“当たり”と“明かり”…ですよね。あ…うん、おもしろい…ですよ?」

ヤーガさんへ最大限の配慮を払う。

「おっほ。…らーいと…」

…我々の想いが伝わったのか、ヤーガさんは大人しくなった。

…まあ、静かになったらなったで…ううむ。

「ええと…いやはや…えと、まあ、確かに―…電気が無かったと言われれば…そうですね。

…ただ、そこまでは無茶でしょう?」

仕方が無いので話を振ってみる。

「ふーむ、あー…たーしかにアイツ、電気のこと、知らないかもしれませんねー

…あの時は電気なんてなかったかー」

顎に手を乗せて“考えてます”のポーズをしながら動き出すヤーガさん。

「え?その、“あの時”って随分と昔では…」

「しゃーない!電気はヤーガさんが用意しましょー!!」

右手を高らかに挙げての宣言。

それも私の言葉に重ねて…何か都合が悪いのだろうか?相変わらず、よく分からない。

…とはいえ電気か。ヤーガさんには悪いがそれは難しいだろう。

「…あの。元々この村に電気なんて通ってなくてですね…すぐに用意なんて…」

「ほーう?するってえとつーまーりー、この村の常識は“電気は存在しない”なんですねぇ?」

「いや常識って…おおげさな感じもしますが、はい、まあ、そうです。」

「おっほっほっ!まーことに重畳!!都合いーですねー!

ほんっとヤーガさんの都合の為にあるような村ですよしかしっ!」

…?

悪いニュースのはずなのに上機嫌になるヤーガさん。

一体、何が都合が良い事なのか。それに都合が良ければ電気を用意できるのか?

まったく、何から何まで胡散臭い。

「ええと、それじゃあまあ…電気はお任せします。…ですが、それほど重要なんですか?

実際、私達は電気が無くても生活に困った事なんてありませんでしたよ?」

こほん。

軽い喉払いのあとヤーガさんは語り出す。

あ。

しまった。

話を切るタイミングを逃したと気づいた頃にはもう遅かった。

「まぁー、確かに、昔の人は電気なんてなくてもやっていけましたねえ。

実際、今だって、無けりゃあ無いでなんとかなるんでしょーね。

たーだーし!それは“生活”っていう部分で見た場合!

ヤーガさん達はただ生活するだけじゃあダメなんです!

目的は村の復興!そのためにメルを出したんですよ!?

…パパさん!メルを出した理由、覚えてます?村を纏める為の恐怖、つまりは力が必要なんです!

でも単なる力じゃだめです!

相手を屈服させるほどの力っつーのは、中ー途半端じゃいかんのですよ!絶対的!絶望的!

もう、逆立ちしても勝てないような力を

見せ付けなきゃならんのです!権力、財力、文化力…

一切の要素で劣ってるところを見せちゃイカンのですよっ!!あとテレビが見れる!」

はあ。

…朝からよくもまあ長々と演説ができるものだ。

ヤーガさんは政治家に向いているのかもしれない。まあ、そうか要は…テレビが見たかったのか。

「あー、ちょっと喋りすぎました!ヤーガさんは喉が渇いたので朝食を摂ろうと思います!

異議なし!!」

と、勝手に進めてヤーガさんはエド君に肉を渡す。いつも思うことだが…どこから出したのか。

「え…また…今日も…?」

エド君はげんなりしている。

…話を聞くにヤーガさんのレパートリーは焼肉しかないので毎日食べているそうだ。

うわ。聞いるだけで胸焼けしそうだ。

「エド君はひょっろいんだから肉喰いなさい!肉!!」

昨日もそんな事を言っていたが、

それを理由にレパートリーを増やす努力を怠っているのではないだろうか。

「でも…ずっと食べてる気がするんだけど…」

エド君も一応、抗議はしている。

が…

「毎日喰ってればそれだけ早く皆に追いつけるはずだー」

聞く耳持たないようで。

「…う…朝からは…やっぱり…重いなぁ…」

強引にヤーガさんのペースになってしまうのだった。



「いんやー!朝からがっつり喰いましたね!」「…う…」

朝食でグロッキーになるエド君。…苦労しているな。

「さーて、喰ったところ…って、パパさん、そーいやなんにも食べて無いことないですかぁ?」

え!?肉はいらない。ホントに。それは嫌だ。

「あ、いやあ、メルさんが起きてから一緒に食べますよ!」

「かぁー!あっちゅいなぁー!夫婦はそろって何でもかんでもってねぇー!オーケーオーケー!

そんじゃ嫁が起きるまでにダンナは一仕事してますかっ!」

ぺちぺちと自分のデコを叩きながらそう語るヤーガさん。要は私に仕事があるらしい。

まあ…おそらく、畑仕事では無いのだろう。

「仕事…ですか」

「えーえ、そうですよ。嫁の初舞台の為にパパさんは村人達を集めてくだサーイ!」

また聞きなれない言葉が出てきた。こちらはオウム返しをするしかない。

「?初舞台…?」

「そう、観劇の魔女のお披露目デース!」

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