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魔女僕  作者: こそこそ
11/22

11こめ。

―――全員、集合ー!緊急ー!緊急会議ー!!

一体何でありますかー?

それは…参謀!

はい。今、我々はとてつもない危機に瀕しています。それは…―――


「どぅ~ふふ…いらっちゃいまっちぇ~」

ピンクのナース服。異常にでかいナースキャップ。

「ど~ゆ~のをお探ちかにゃぁん?どぅふふ…」

紫のウエービーヘアー。

「当店、『ラ・ブティック』でわぁ、ふふ、ラマン達にぃ、ラブラブなのを着てもらっちぇ~…どぅふ!」

ハイセンスなハート型サングラス。室内なのに、ピンク照明の薄っす暗い不気味な部屋なのに!

「ラブラブがいっぱぃ、どぅふ!溜まっちゃったらあ、

二階のラブラブ布団部屋じぇ…どぅふふふふふ…!」

チアノーゼの様な紫の唇、豊かな二房のエアバッグ…

「どぅふふふ!さーあ、ラマンわぁ、どんにゃのが、いーのかにゃー?」

独特な言葉遣い、背中から生えてるデッカイ羽!

「どぅふっ!選んぢぇ、選んぢぇ、ラブラブ選らんぢぇり~!」


自信を持って言える。


コイツはヤバイ人間だ!!


「あ…あ…」(やべえ、声が出ねえ…言葉が見つからねえ…)


―――見ての通り。

うむ…相当ヤバイ店に入ってしまったらしい。しかも即座に捕まった。

“どよどよ”“どよどよ”

皆の者!落ち着けー!静粛にー!“バンバン!”

し、しかし指令…この状況はどうするので?

そ、そうだな…参謀っ!

まずは適当に会話を繋げて隙を伺いましょう。つまり…―――


「えー、あ…の、えー………あ、なたは?」

言葉をなんとか絞り出す。

「どぅ、どぅふふ?…あちし?あちしっ!?あちしっ!!」


―――やばいぞ参謀、これ地雷じゃねえか?

ええ!?これが地雷!?これで、地雷っ!?馬鹿なっ!―――


…色ボケナースは目の前で回り始める…

「あちしわぁっ!ラマン達の愛のストーリーテラー、エンジェルちゃん!!」

言葉が終わるのと同時に飛び跳ねるエンジェルちゃん。言葉と動作がこんなに合うなんて…。

全身に寒気が走った。


―――練習、してたのか…独りで…!?…あれを…

“ざわざわ”“ざわざわ”

おおお落ち着け!落ち着くのだ!

…こんな店選ぶから…

むっ!誰だ、ディスったヤツ!耐え係詰所に放り込んでやる!

指令!今はそれどころでは…―――


「あ、あの…“ラマン”って僕達の事…ですか?」

「あぁたぁりー!当店でわっ、お客様の事をっ!愛の旅人、“ラマン”って呼んでまぁす!

それでぇ、あちしは天国から愛を集めにきたエンジェルちゃん!」

エンジェルちゃんは手でハートマークを作る…

…お

……おお

………おおお…

うっおおおーー!やっべええ!!なんだこの痛い設定は!!

震えが止まらねえ…怖すぎる!アイツ、セリフに迷いがない!マジもんだ…本物の、サイコパスだ!

ガタガタガタガタ…


―――うぼあっ!

指令、耐え係が限界に達しましたっ!

す、すぐさま新しいのを出せっ!さ、参謀!!

わ、分かってます!一刻も早くこの猟奇の館から出られるように!―――


「どぅふふ…」

うわあ…満面の笑みでくねくね動いて…うん?

くねくね?

いや、違う。

ていうか。

ああ…マジか。そうなのか、理解したくなかった。なぜ理解してしまった。


…ハート。ハートマークなのか…!


このサイコ、体でハートマークを描いている…!?

ダメだ!考えちゃダメだ!毒される!早く、早く切り上げてっ…!

「あ、ああ…あの…僕達、ええと、間違ってこの店に入ってしまったみt」

「んんん!?」

「うぎゃあっ!」

エンジェルちゃんの急な接近に思わず声が出た…。

が、彼女の目標は僕ではなくその後ろ…マキさんを発見してしまったのだ。

「オスのラマンのぉ、お連れさんはぁ、ちっちゃいぢぇすねえ?」

“くんくん”

「………何?」

…おい。

なんだこのサイコパス、マキさんの匂いを嗅ぎだしたぞ…。躊躇なしに。

「うーん。これじゃあ、ラブラブ布団部屋じぇー、ラブラブしてもぉ、愛ができにゃいかもー」

…ビビっていたらダメだ。これはいくら何でもセクハラじゃないか。一言言ってやら…うおぉっ!

“くんくん”

今度は僕に顔を近づけて匂いを嗅いでる!うおお!やっぱヤバイ!怖いよコイツ!!

「…ふんふんふん………どぅふふ!いいにぇ~!オス、いいにょん!元気な愛が創りぇるよぉ?」

満足げにうんうん頷くエンジェルちゃん。ああ助けてくれ。

「ありぇ?…うーん。メスのほうはぁ…」

“くんくん”“くんくん”

「………何なの?」

この変態、またマキさんを…!

「んにゃ…?ん、ん、んー???」

「………ねえ?」

こ、コイツ…執拗に嗅いでやがる…折り紙付きの変態だ…助けてくれえ!

「………んにゃん?メスの方わ…まだ…?にゃのん?」

首を傾げながら疑問を口にするサイコナース。

「…じぇも…全然、匂いがしにゃいなんちぇ…?」

今だっ!切り上げろ!魔境の館からすぐさま出るんだっ!

「ああああの、僕達そろそろ失礼しまs」

“ガシ!”「ひえええっ!」“ガシ!”「………」

腕を掴まれたっ!ああっ!マキさんも!?

「別にいいよにぇ!愛が創りぇなくちぇも愛は湧くもんだにぇ!」

僕達を拘束した上で開き直るサイコテラー。湧いているのはオマエの頭だっ!

…と、言いたいが、もうこれ以上関わるのは心の危機。

でも何か買わないと帰してくれない気がする…おおぅ、ジーザス…


―――か、買う流れになってるぞ参謀ぅー!

あ、あれはダメなヤツだー!関わった時点で負けだったんだー!

さ、さーんぼーうー!!

出来るだけ早く、出来るだけ早くここを、ここを!

落ち着けー!やばいぞ、参謀が壊れた!ここはやばいぞー!―――


“ちょいちょい”

「!。おおぅっ!!」

予期せぬ刺激に体がビクッ!と反応した。もしかしたら飛び上がっていたのかもしれない。

背中をつつかれたのだ。ほっ。…マキさんだった。

「貸して。」

と、僕の腋からパソコンを抜き取る。

「これ、ある?」

サイコエンジェルにパソコンを見せている。

マジか…。

こんな狂気の店で普通に買い物とか…マキさん、大物だな…

「どぅふふ~…こりぇ、いいにぇ~!胸にハートぉ!愛だにぇ愛だにょ愛ぢぇすちょもっ!!」

うわお、変なスイッチ入っちまったよちくしょーい!

これか?この画像が更なる地雷だったのか?

くそう…よりによってメルちゃんとお揃いを欲しがるなんて…!

くそう…よりによってそれがコイツの琴線に触れてしまうなんて…!


「ちょっと待ってにぇん…どぅふふふ…」

パシ。

“ガサガサガサ”

エンジェルちゃんは店内を走り回る。…僕のパソコンを持って。

どうやら、あの画像の服を探しているみたいだ…服屋の店員ならば普通の行為なんだろうけど…

狂気しか感じなかった。

“ガサガサガサ!”

正直、今の内に帰りたい。

でも、エンジェルちゃんにパソコンを人質…ならぬモノ質にされていて帰れない。

“ガッシャーン…ガサガサガサ!”

棚が倒れて大量の衣服が散乱してもエンジェルちゃんは気にしない。

“ガッサー!ガサガサガサ!”

「ゴキみてえ…」

『剥製みたいに一切黙って一切動かなかったら』美人にいうセリフではないとは思う。

あ…。

ヤツが散らかした跡を見ると、所々に羽が落ちている。

「アレ、抜けるんだ…」

おもむろに一本、拾ってみる。…心なしかキラキラ光っている。うん、気のせいだろう。ありえん。

…羽をそっと床に戻しておく。

“かさ”“かさ”

ん?

「マキさん、それ拾っちゃダメですよ。」

マキさんが羽を集めていたので注意する。

「…ぼうや、これ、キレイ。」

「気のせいですから。はい、戻して」

「………」

「…後で手を洗いましょうね。」

「………」

ふう…なんつー日だ…


“ガサガサ…”


“ガサガサ……”


“ガサガサ………”


“………”


次第に…漁っている音が小さくなっていることに気が付いた。

探し終えたのか…?

…あ。

向こうからゆっくりと変態がやってきてしまった。休憩は終わりだということだ。

ただ、先ほどの様な不気味な元気がない。まさか…嵐が…去ったのか?やっと…!

「…にゃんちぇこと…ラマン達の愛が…愛が…あちしのせいぢぇ…」

あー、無かったね、この感じ。まあ、ネット界一のアイドルの服がココに置いてあるとは思えないし。

なんにせよこれで魔界から脱出できる。やった!

「え、あ、無かったの?アー残念だねー!でも仕方ないねー!

じゃあ、マキさん、次、行きましょうかー」

マキさんを連れて出口へ向かう。

…焦らず、しかし速足で。


「…う…うわあああああん!!」


!?

背中からヤツの悲鳴が聴こえたっ!

「え!?え!?お姉さんマジで泣いちゃうの!?」

エンジェルちゃんは号泣している!僕よりも年上であろう、いい大人が、全力で!

ああ、神よ!マジもう勘弁してくれ!!

嵐は全然収まってなかった。むしろもっと強力なヤツが控えていた。

「ああああ!愛が!愛がぁ!…っぐ、ああああん!」

頭や体を掻きむしって転げまわり、耳をつんざくような大号泣…お客さんの目の前なんですが…

うああ…これは…見るに堪えない…


―――…指令ー!耐え係の追加をー!指令ー!!

…う…さ、んぼぉ…助けてくれ…

………か、買いましょう!奴が!満足!するまで!早く!早くっ!!―――


「…あ、あー、マキさん、確かにお目当ては無かったけど、

こ、この服なんか、なか、なかなか、ら、ラヴリィ…じゃないかしr」

「いや。」

二文字。

マキさんはそれだけ言って、そっぽを向いて…って、ちょ!

うおおおん、空気読んでくれー!切り上げさせてくれー!僕も泣きそうだー!

「じゃ、じゃあ、コレとかコレなんか…ねぇ?、ねえっ!?」

「アレじゃないといや。」

ここにきてワガママとか…

あー…泣いて、いいですか?

「ごみぇんなさい!ごみぇんなさーい!!」

凄まじい勢いで土下座するエンジェルちゃん。

もう、なにか…謝罪というより悪しき儀式のようにしか見えない。

うおお…かんべん…してくれぇ…!!

「買いますー!買いますー!買いますから泣き止んでくださーい!!」

もう僕も涙目だった。早く帰りたかった。さっさと泣き止んでほしかった。

それが叶うならお金なんて気にならなかった。

「ぢぇも…」

「どの服もめっちゃ、ラヴリーです!マキさんは何着てもイケイケですから!

ラブなんですからぁっ!!」

死に物狂いだった。ヤケクソだった。僕はとにかく全力で褒めちぎった。

「…ほんちょ?」

…少しエンジェルちゃんは大人しくなった…

「…ばか」

…マキさんも少し大人しくなった。


…それから数十分後…


「どぅふふ…いい感じにぇ。“ずずーっ!”どう?オスのラマンわぁ、愛を感じる?」

鼻をすすってはいるけどエンジェルちゃんのご機嫌はとれたようだ。よかった。

「………」

一方、マキさんは不機嫌そうだ。ちくしょう。

だけど背に腹は代えられない。無理矢理にでもマキさんを納得させる路線で行こう。

「すっごくイイ!イイよ!シンプルな良さが有るね!」

僕はジャージ姿のマキさんを褒めまくった。

「どぅふふ!でちょ?でちょー?メスのラマンわあ、幼さを出していった方が良いんだじぇ…

どぅふ、どぅふふ…!」

もう何でもよかった。この看護が必要な看護師から解放されれば。

マキさんには同情する。

アイドル衣装の代わりでジャージ着させられるとか、悲劇以外の何物でもない。

が、生き残るためには時に非情な決断をしなければならない。

「か、かわいいー…よ、マキさ、ん…。」

「………」

「あ、あー!胸の所にハートマークがあるよ、メルちゃんとおそろ…い、だ、ね…」

…無理があるだろぉぉぉ…!

これ、かわい…可哀想すぎるだろぉぉぉ…!

「………」

「いやー、い、い…なぁー。うらやま…しぃ…です…ね…」

地獄!

真実を告げられぬ地獄!!

「どぅふふ…そう言うと思っちぇ、オスにも…はい!」

「あ、はい…って?……え?」

突き出されるはあのハイセンスジャージ…

ぉぅ、のぅ。

「どぅふふ…」キラキラキラ…

赤い瞳を光らせて期待という無言の圧力をかけてくるエンジェルちゃん。この悪魔が。


………


「いいにぇ!いいーにぇー!!」

「………」

「………」


「どぅふふ!おそろい、おそろい!ラブラブ!!」

「…そう…っすね」

「………」


「こんな感じぢぇ、どんどんラブラブッ!」

…調子に乗ったエンジェルちゃんは片っ端から衣服を袋に詰めていく。

「………」

「………」

もう僕達に止める意思は無かった。


………


「どぅふふふふ…まいど~…どぅふふ…」

「あ…ああ…いっぱい買っちゃったね…じゃあ…帰ろうか…」

「…そう、ね」

ラブラブジャージの僕達は力なく出口に向かう。

「んにゃん?それ着てラブラブ布団部屋にゃ行かにゃいの?」

後ろでエンジェルちゃんの魔の声がする。

「…え?ええ、また今度で…。ね、マキさん。」

「…どうしようか?」

ホワッツ!?

粘つくような“じとぉ”っとした顔で微笑みかけるマキさん。

あ、コレ、かなりキテルわ。

「マキさん、もう、帰ろ?」

僕はマキさんの手を引き、そそくさと出口に向かう。

“ぎゅ。”

手を握り返してくれる感触がした…反対側の手から。

「んにゃん…たちかに、メスの方はまだ未成熟ぢぇすから…んんー?…ちょっとまっちぇ。」

はっはっは、なんで自然にくっついてきてるんだ。

ああ…数十分前の僕はなんでここに入ったんだ。

エンジェルちゃんはポケットからヘンな筒を取り出すと僕に向ける。

“カチッ”

「うお!まぶしっ!」

…懐中電灯?

エンジェルちゃんはその光をずっと見ている。

「あ…あの…な、なにしてんすか…?」

「…ラマン分光法ぢぇすよ。」

「は?」

「…光わ、当てりゅものによっちぇ、決まった波がぁ…

あ!そうそう、オスのラマンはこの波ぢぇすよにぇ、やっぱり。」

“カチッ”

何を納得したのかスイッチを切ってくれた。しかし手は放してくれない。

そして今度は懐中電灯?をマキさんに向け…

“カチッ”

スイッチオン。

「………なに?」

じぃぃ…

ライトとマキさんをじっと見ている。

「………んにゃ?…波が……見えにゃい…??」

今度はライトをグルグル回して(意味ないだろ)光とマキさんを観察している。

「ううーん?なんぢぇ??メスのラマンわ………あ。…もちかして…」

“カチッ”

ポケットにライトをしまうエンジェルちゃん。

何か分かったのか?もういいか?もういいよな?

「…どぅふふ。オスのラマンわ苦労しそうじぇすにぇ?」

なでなでなで…

「ビェッ!」

撫でられた。まるで僕を慰めるかのように…。また寒気が走った。

「…ぢぇも、そこぢぇ愛ができちゃら凄い愛ににゃるかりゃね?」

「はははははい…」

「…ぷれじぇんと、あげりょう。」

と、エンジェルちゃんは羽に手を伸ばす。

「どぅんんんん…」

羽をくれるのか…いっぱい落ちてるのに。取れたてに価値があるのか?

「どぅんん…」

…なんか…痛そうだ。

でも…あれ?痛いのか?

ああ…いや、痛い人…だったよな。そういえば。

「…んんっ!」

あ、抜けたみたいだ。

…で、それをそのまま渡される。…先の方にちょっと血が付いてる…

…それ、抜いちゃダメなヤツだったんじゃないの?

「どぅふっ、どぅふっ………エンジェルちゃん…のおまもり。大切にしてにぇっ…」

ぽたぽた…

羽から“雫”がたれてる。ここが赤い部屋で良かった。

カタカタカタ…

震える手で羽をくれたエンジェルちゃん。

カタカタカタ…

震えが止まらない体でそれを受け取る僕。

そんな僕は精一杯の感謝の気持ちを伝える。


「ワーイ。アリガトー。」


“ダッダッダッダッダ!”

僕は全力で走った。マキさんを抱えて、それでも自己最高の速度で。

そう言い切れるくらいの全力疾走だった。



窓にはのどかな風景が広がっている。穏やかな天気はまさにドライブ日和といえる。

僕達は今、平和を享受している…逃げ切ったのだ。

まさか地獄がこんな近くにあったとは…

いや…本当に恐ろしい所だった…二度と来てはならない。本能が、そう教えていた。

「やべえ、多分、生涯で一番怖い体験だったわ、コレ」

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