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魔女僕  作者: こそこそ
10/22

10こめ。

…おっと、もうじきアレが始まる時間だな!

“カタカタカタカタ…”

僕はすぐさまお気に入りの動画投稿サイトにアクセスした。


“クルクル少女、マジカルメルちゃん!”

「ヒャッハァー更新キター!!」

最近のトレンド、マジカルメルちゃんっ!自称、『偉大な魔女』メルちゃんが

みんなに魔女だって信じてもらえるように悪戦苦闘する胸キュン動画だ!!

「かぁ~…いいねえ~…今時、こんなに真っ直ぐな子、いないよなぁ~…服は今時のアイドルっぽいけど。くぅ…泣ける…良い最終回だコレ…」

「………お子様…ふーっ…」

隣で煙の出ないタバコをふかしている音が聴こえるが気にしない。

「おっと、コメントコメント…」

“カタカタカタカタ…”

「べたべた。ぼうや、べたべた。」

メルちゃんのファン第一号として

更新は誰よりも早く見て誰よりも早くコメントを送らなくてはならない。

「…くち。」

が、その責務を妨害する悪魔がいる。

「ちっ!神の野郎、僕に先駆けて“はぁはぁ”コメを入れてやがる!」

ハンドルネーム『神』という悪魔。

その酷いネームセンスから察するに相当な引きこもりのオタク野郎に違いない。

「チョコレート。…拭かないの?」

しかし…くそう。こんな感動的な最終回に“はぁはぁ”なんて入れやがって…!台無しだ、穢された。

「ちくしょう、なんていやらしい邪神なんだ!封神されろクソ神!」

“カタカタカタ…”

すぐさま抗議のコメを打たなければ…!

「…キタナイ言葉、使っちゃダメ」

ぐ…確かに汚い言葉は禁止と普段言っているのは僕だ。

しかし…コイツは一度ガツンと言ってやらなければつけあがるタイプ!

「く…くs…排泄物神様…め…!」

「…ダメ」

「ぐ、ぬ、ぬ…」

“カタカタカタカタ…”

抗議の声を消していくバックスペース音…!

…屈辱。そんな感情に打ちひしがれていると


“ぴろん”


変な音が鳴った。


“あたしゃ神さまだよぉ?あたしゃ神さまだよぉ?”


続く間抜けなボイス…間違いない、(ヤツ)からのメールだ。

『神』。僕が一流ハッカーとしてネット上の良質な動画をサーフィンしていた時に出会った

痛いハンドルネームのド変態。

なにせ、僕が一番に見つけた“メルちゃん動画”に土足で上がりこみ、

“はぁはぁ”だの“ぺろぺろ”だの下劣な言葉を並べて穢していったのだから。

だけどそんな汚い彼と僕はなんとメル友だ。

(メール友達と、メルちゃん友達のダブルミーニング…今日冴えてる!)

…なぜか?

それは神が孤独だからだ。こんな誰もが感動するような素敵動画に穢れを持ち込むなんて狼藉、

まともな奴ならできるはずもない。

現実世界でもまともなコミュニケーションなどできないだろう。

きっと、ディスプレイの先に居る美少女が唯一の友達であり、嫁なのだろう。…一方通行だけど。

哀れすぎるだろう。誰かが救ってやってもいいんじゃないか?

そんな慈悲の想いから神を救ってやっている。

…魔王なのにな。ふ、ヤキがまわったな。

さて、相手してやるか…どれどれ。

“カチ。”

メールを開く。


『魔王へ

ディスプレーの彼女とよろしくやっている可哀想な魔王に神様が救いを与えてやろう!

いや、お前ってさ…ぼっちだし、空想嫁居るじゃん?もう、見てるこっちが辛いのね。

だからさ、少し良い事教えてやるよ。

これをきっかけにさ、外の世界に興味もってさ、お外に出て見ようよ。

現実世界も捨てたもんじゃないんだぞ?な、元気出せ?元気、出そ?』


………くっそ神め!ふっざけやがって!!

ちっくしょう、ぼっちはお前じゃ!僕のおかげでぼっちを免れているのが分からないのか!?

つーか空想嫁って…モノホンじゃっ!

この野郎~…!


“カタカタカタカタ…”


『神へ

僕の嫁は本物じゃ!ていうかそっちがぼっちなんだよ!

こっちも良い事教えてやるよ。

こんな昼下がりに動画サイト見てコメントカタカタ打ってる奴にリア充は居ねえんだよ!

お前に友達はいない!違うって言うなら今すぐ友達の名前を挙げて見ろよ!』


“あたしゃ神さまだよぉ?あたしゃ神さまだよぉ?”


返信早いな


『魔王へ

神はリア充じゃ!友達くらいいるわっ!

友達はな、友達は、とm

まずお前だろ、それから、そr

って何で個人情報漏らさなきゃいかんのだ!たくさんいるけど個人情報の保護の為に言えんのじゃっ!

最近規制が厳しくなってるの知ってるだろ!あーあ、言いたいけど言えないしー!

でもこれだけは言える!めっちゃいるからな!

もう腐るほどいて具体的に誰か挙げるのが難しいほどいるからな!

ていうかーお前こそ誰もいないだろ?

そこの空想嫁以外で誰か挙げて見ろぼっち!』


く!こっの野郎!!舐めやがって!

友達!?いるわ!滅茶苦茶いるわっ!

…すぐには出てこないけど、いるわ!すぐに出てこないほどいるわ!ぼっち神めが!


“カタカタカタカタ…”


『神へ

神のくせに個人情報もへったもあるかっ!その権利は人間だけじゃ!

神のくせに人間の法律に守られてんじゃねーよ、ばーか!

あと、僕の嫁はリアルじゃ!友達もいるわ!

まず挙げられるのがお前だろ、あとは、あt

あ、だめだ。ものすごくいるけど誰かを一番に挙げることで優劣がついてしまうー。

僕は友達みんなに同じだけ感謝しているから序列なんてつけられませんー。

みんな等しく大切だからー!みんな 等しく 大切 だからー!!』


…っと、送信!

ちっくしょうあの邪神、見栄張りやがって!

“腐るほど友達がいる”…だとぅ?

…マジか…?

いや、絶対嘘だ!まず最初に僕を出してきた事が何よりの証拠だ。

あいつ個人情報とか何とか言ってたけど僕以外に挙げられる友達が一人もいないなんておかしい。

絶対にぼっちに決まってる。あいつに友達なんか1人でもいるわけ…


“あたしゃ神さまだよぉ?あたしゃ神さまだよぉ?”


…ん?


『魔王へ

魔王よ、もう、止めにしないか?

お互いに友達が沢山いることは分かったのだから、

これ以上、お互い、突っつき合うような不毛な事は。』


…そう、だな。

どっちもたくさんの友達がいるんだ…

もう、それでいいじゃないか。


“カタカタカタカタ…”


『神へ

そうだな。神よ、悪かった。僕達はどちらも友達でいっぱいだ。

お互いにそれがわかってよかったよ。

僕達は友達でいっぱい。いっぱいいっぱい。』


…ふう…

………どっと疲れた。

ぼっちの相手をしてやるのは本当に疲れる。いっぱいいっぱいだ。


“あたしゃ神さまだよぉ?あたしゃ神さまだよぉ?”


あん?まだ何かあるのか!?もういいだろ!やめろよ!痛くなるだけだろ!!


『魔王へ

じゃあ、まあ本題な。

今日、凄い情報を見つけたんだよ!

お前も俺もすっごく友達いるのは分かったけどさ、お前の嫁、ディスプレイ出身の架空嫁じゃん?

その点でお前はやっぱりかわいそーなやつだからさ、お前にも教えてやるよ。


俺な、分かっちゃったんだよ。…メルちゃんの居場所!!』


ぐぬぬぬ…コイツ…まだ性懲りもなく架空嫁とか可哀想なヤツとか言いやがっ……

…ちょっとまて。

まてまてまてまて…

「えへえええっ!!」

「っ!?ぼうやっ」

“ぺしぺしぺし”

僕はディスプレイに顔を近づけた。腕辺りを叩かれているが気にしない。驚かせたんだろ、たぶん。

こっちだって充分驚いてる、まじか?まじなのか?見間違いか?

「ぬ、ぬ、ぬ、ぬ…」

神のメールを一字一句追っていく…見間違っては…

「…ぼうや、目、悪くなるでしょ。」

…ない!見間違いじゃないっ!!

「いやいやいやいやいや!よくよくよくよく確認確認確認!!」

“メルちゃんの居場所”…マジか!実在するのか!くそう、こいつマジで神だ!…今日だけ、今だけ神だ!

うはっ!…ここ、行ける場所じゃないの!?近場じゃないの!?うはっ!うはははっ!!

「ひっひっひっひっひ!」

“カタカタカタカタ…”

「…悪い魔女みたい。」


『神へ

神様。あなたは本当にいたのですね。こんな貴重な情報…』

…書いてて思った。

あ。これ、ウソなんじゃないの…?

僕の知ってる神ならこんな事が分かれば誰にも教えずに真っ先に行くはず…神はそんな奴だ。たぶん。

ちなみに僕はそんな馬鹿なことはしない。

まず、情報の真偽を確かめるために適当な生贄を送って、本当だと分かったら行くね。

それくらいの慎重さを持ってるね僕は。

『ウソだろ、それ。神だったらそんな情報、僕に教えるわけない。

ああ、あれだ。本当の居場所と全く逆の道に導いて出し抜くつもりだろ!?』


“あたしゃ神さまだよぉ?あたしゃ神さまだよぉ?”


『魔王へ

なんて疑り深い哀れな奴なのだ。

ではこうしよう。

この神もお前と一緒に行く。これで良いだろう?

待ち合わせは近くのコンビニだ。待ってるからな。

…あ、あと架空嫁も連れてくるといいだろう。できたらな………うう、書いていて胸が痛くなるな。』


「………くっそ神め…」

僕はスッと立ち上がった。

「…ぼうや?」

「マキさん!出かけますよ!魔女っ子メルちゃんに直接会いに行きますよ!!」

「…」

「…あれ、反応薄い?」

…マキさんは寝転がってそっぽを向いてしまった。

嫌なのか…マジで?

え、魔女っていったら女の子の将来の夢で7番目くらいにメジャーなやつじゃないのか?…きっと。

何故だ?

「マキさん、魔女ですよ?魔法使い。」

「…」

く!動かねえ!魔法は卒業しているのかマキさんは!お菓子屋さんとかそっち系かマキさんは!!

ならば…

「マキさん、ピクニック行きません?楽しいですよー?」

「…ん」

よし…少し反応した。もう少し揺さぶるか。

「楽しいですよ~?おべんと買って、お菓子買って…」

「…」

よし、横目で見てる。あと少しで落ちる、落ちるぞ!

「あとメルちゃんにも会え…て…」

「…」

ぐう!

そっぽ向いた!何故だ!どこにNGワードがあったんだ!!くそう!何とか取り返せないか!?

「あ、ああと…あと…あー…よ、…お洋服とかも新しく買っ…」

「…ほんと?」

よしキター!今度はどこにOKワードがあったんだよ、ちくしょう!よっしゃー!

「も、もちろんさ!メルちゃんに会いに行くんだもの、少しはおめかししない…と」

「…」

くそう。少し沈んだ。何 故 なんだ。

…うう。これは脳内会議を開く必要が…

いや。まあ、流れは“行く”になっている。あとはもうなし崩しだ。


…しかし洋服屋には寄らなきゃならないのか。

うーん…あんまり出費は…でも約束しちゃったしなあー

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