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魔女僕  作者: こそこそ
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1つめ。

―――…白い。真っ白だ。何も無い…いや、ある…みたいだ。


…階段、のようだ。下に続いている。つまり…自分は“どこか”よりは上に居るらしい。

といっても、“どこか”がどこなのか、分からないのだが。

…階段を下りてみる。そう…下りて、いる。そんな意識をしてないとこの“階段”は無くなり、自分は転がり落ちてしまう…そんな気がする。

どれだけ下りたのか…いや、進んだのか…どちらにせよ、真っ白に変化が欲しい。そう、思い始めた時…変化が起きた。

何かが見える。薄っすらだが、何かが。もう少し近づけば詳しく分かるだろうか。

テーブル?

…テーブルだ。やや大きくて、円の形をしている。

その周りには椅子が…7脚か8脚ほどか?並べられている。

なにぶん、真っ白な空間で置いてあるテーブルや椅子も真っ白だ。情報が曖昧になってしまう。

ただ、これで階段を下りなくて良い事だけは確実なようだった。テーブルの先にはまた階段があり、それが上に伸びているのが見えたからだ。

おそらく…“ここ”はスタジアムのような構造なのだろう。中心に向かって階段が下りている形だ。

…しかし、だとしたら。

自分は逆に進んでいたのか?出口から一番遠い位置にいるのではないか?

だが、先ほどの場所に出口と思しきものは見えただろうか?

さて…

“コツ、コツ、コツ…”

誰かがこちらに来ている。向こう側だ。自分の正面の階段から誰かが下りてきている。

「やあ」

声だ。自分にかけられているのだろう。

“コツ、コツ、コツ…”

「まさかキミが最初だなんてね。もう少し後だと思っていたよ。」

…もやの向こうから人影がやってきた。

自分の事を知ってるような口ぶりだ。だが、こっちはその声に聞き覚えは無い。

“コツ、コツ、コツ…”

…人影が姿を現す。大男だった。真っ白なスキンヘッドで、この場所に溶け込みそうな勢いだ。

辛うじてそれをさせないのが、彼の着ている黒い服だった。この場所にはとてもまぶしく映る。

しかしやはりわからない。

誰だ?

そしてここは何処なんだ?

「まあ、とりあえず座って。私も座るから。」

大男は自分の正面の席に着いた。

「ほら、さあ」

…催促された。ここは座るしかないだろう。


「さて。用意できたね。それじゃあ…

と、そのまま進めるのは不親切かな?…うん、そうみたいだね。じゃあ、まず…」

大男は“何か”をする前に、こちらの疑問に答えてくれるらしい。で、何から聞くべきか…

「そう、最初に…キミが居る“ここ”はキミが薄っすら考えてる“そこ”だよ。

キミのような唯物論者さんでも“ここ”に来たんだ。

…どんな人でも心の片隅には“ここ”を存在させてるんだね。」



…こいつ。


………。


…厄介な話し方だな。答えをこちらに用意させて誘導するやり方か。

「いやいや、そんなつもりはないよ。でも、はっきり言うよりキミ自身で答えを出した方が良いと思うんだ。」

…なんだ?この男は心が読めるのか?…で、つまり…ここは…天国であり、こいつは神とでもいうのか?大きくでたな、ペテン師。

「それはキミが決める事だよ。…キミの心の片隅に、『もし死んじゃったら、どこか行くところがあって導いてくれる誰かがいる』っていう思いがあったんだね。」

それじゃあつまり…

「ふーん、キミが思う“私”のイメージはこんななのかあ…あっ!じゃなくて、ええと…そう。

そう、次に…キミは人の心にも世界があるって、信じられるかな?心の世界にも住人がいる事を。」

へえ…まるでファンタジーの話だ。

映画の見すぎか?ゲームのやりすぎか?いずれにせよ感受性が高いことは悪くはないと思うが。

「あれれ?…ふーむ。キミがここに居る時点で答えは出ちゃってる気もするけど…

まあ、それこそがキミでもある。根拠のない“保険”に守られてるからこそ合理的になれるんだ。

ふう…少し話すぎたかな?疲れてないかな?ちょっと、気晴らしにコレでも見ようか。」


と、男は視線を左に向ける。

…気が付かなかったが、そこには大きなモニターがかけられていた。

「椅子の向き、変えていいよ。私も変えるから。」

…一体、何を見せられるのか…?

「ほら、さあ」

…催促された。…椅子の向きを変える。


さて…



“ブゥゥゥーーーン!”

はぁ、はぁ、ここまで来れば…はぁ…疲れた。

諸君!これからこのコンビニで休憩しようと思う―!

異議のある奴ー…なーし!満場一致!はい、休みまーす!

地図係ー!地図係ー!休んでる間に位置特定急げ―!

はいよろこんでー…ぇっ!…指令ー!このゴロゴロしてる奴は誰でありますかー!?

クビにしましょー!邪魔でーす!

そいつは良いのだ地図係ー!耐え係は仕事をしているのだー!いなくなったら貴公にしてもらうぞー!

それはそうとコンビニだー!参謀ー!おやつ何買うー?

指令、指令!

む、誰だ!?

雑学係でありますー!失礼ながら指令は今、頭から車を止めようとしてるのではないですかー!?

むむ、いけないのか雑学係?

今しがた発掘されました情報によりますと『車をバックで止める姿に女性はときめく』そうです!

な、なんと!?

なんでも、後ろを見る真剣なまなざしにキュンとくるとか…

た、確かに、バックしている時は…真顔だ…

先程の失態もありますし、ここはバック駐車を敢行し、イメージアップを図るというのは…?

…ふ、ふはははは!何という素晴らしいアイデア!よし!やるぞ!バック駐車だ!

おい、雑学係!

なんでありますか?

お前はこれから参謀に昇格だ!

ありがとうございまーす!!

む、元参謀、何をしているのだ?

おやつ?そんなどーでもいい事を発言する暇があれば、少しは役立つ情報を発掘してこい!

会議は終わりだー!各員配置につけ―!

よぉーし、見せてやる、我がバック走行!

「バックオーライ!バックオーライ!バック…」

僕はまさに今、車を駐車しようとしている。

脳内会議により決定した、バック駐車を敢行しようとしているのだ。

ふふ、もちろん、分かっている。

駐車というのは非常に神経を使う作業だということを。

安易な気持ちで後退させればあの黒い高級車をへこませ、僕の人生は終わる。

僕の運命はこの足にかけられた数百グラムにかけられている…。

人間は意外と近くに終わりがあるということを知らない。

いや、あるいは、知ろうとしないのかもしれない。

だが、それを誰が責められるというのか。常に最悪を考えていてはまともに生きられなくなる。

それを受け止めて生きられる人間などそう居ないのだ…。

!!おおっと、あまりに深い考察に我を忘れるところだった。

そう、これだけのリスクはこの子の為に注がれているのだ。

“クッチャックッチャ…”

この、“クッチャックッチャ…”助手席で僕に一瞥もくれず“クッチャックッチャ…”

ガム、食って…“クッチャックッチャ…”

ダメだ。それはダメじゃん。意味ないです。

“キィ…”

一旦、車を止める。

そして隣のお人形さんのように(ガム食ってるけど)

カワイイ(音をたててガム食ってるけど)少女に声をかける。

「マキさん。」

「着いたの?」

やっと僕に一瞥をくれた。…相変わらず、(眠そうな目してるけど)キレイな碧眼だ。と、そうじゃない。

「降りて」

「分かった」

マキさんは車を降りて、先にコンビニに行こうとする。うん…違うんだ。そうじゃないんだ。

「マキさん」

再び声をかける。

「何?」

振り向くマキさん。

その瞬間に見える、さらさらと空を泳ぐ二房の金髪の姿がとっても優雅で…じゃ、なくて。

そうじゃないって。

「乗って」

「…?」

軽く首を傾げる姿がまた愛らしい。

マキさんはまた戻って、車の助手席に乗ろうと、しちゃダメなんだよ?

「マキさん」

「…何?」

助手席に片足を乗せたマキさんを制止する。

「後ろに乗って」

「…?…わかった」

“バン”

助手席のドアは勢いよく閉められた。

…力加減を間違えたのか、少し強くドアを閉めてしまったようだ。マキさんって案外、抜けてるんだよな…。

“ガチャ”…“バン”

…よし。後部座席に乗ったな。位置取りは完璧。ようし。

“ブルゥゥン!”

「バックオーライ!バックオーライ!バックオーライ!!」

「??…結局停めるの?」

マキさんは怪訝そうな顔をした。

ふふふ、感動の前にはおかしな事があるものなのだよ!

さあ、こっちを見るのだ!

「バックオーライ!バァックオーライ!!」

「…うまくいかないの?………大丈夫。そのまま。」

僕が駐車にてこずっていると思ったのか、後ろを確認してくれるマキさん。

なんて気が利くんだ!マジか!?そうじゃねえんだよ!

こっちを見てくれー!!

「バックオーライ!バックオーライ!バァァアックオぉライぃ!!」

…少し声が裏返ってしまった。こんなところで普段口下手な部分が出てしまうなんて!

「………大丈夫だって。」

マキさんは後ろを見ながら答えている。

大丈夫じゃねえんだよお!今、全然、大丈夫じゃねえんだよお!!

マキさんは今、貴重な時間を逃そうとしてるんだよお!

もったいない!マキさん、今、凄くもったいないんだよ!

このシュチュエーションは絶対見とくべきなんだよお!!

あー!どうすれば…脳内班!脳内班ー!…あぁ!?元参謀が失踪?知らねえよ!

ええと、まず第一に…見てもらえねえと意味が無い!そう、見てもらえること!

…そうか!

言えば良いんだ!ごく自然な流れで…簡単じゃないか!!

とと、ぶつかる、ぶつかる。少し下がりすぎたな。

“ブゥゥン”

前進!もう一回だ!

「?…さっきのでよかったのに。」

怪訝な顔をするマキさん。眉間のしわがはっきりと見えるくらいに。

そろそろ決めなくては。確実に。

「…マキさん、今、車を後退させてるんですよ。」

「………知ってる。」

僕は彼女に今、非常に貴重な場面に出くわしていることを伝えた。それはとてもごく自然な流れで。

彼女の反応を見るに…うん、知ってない。分かってないなコレ。伝わってないんだ。

少し、分かりやすく伝えるか。…だけどあまりにストレートに言うと自慢してるようでしらけてしまう。

少しぼかしながら気づかせる。そんなテクニカルな話し方が必要なんだ。

「ええとですね、マキさん。…車を後退させるときの眼差しって、かっこよく見えるらしいんだけど、

僕もそうなのか…」

「………」

くっそぉぉ!見向きもしねえ!反応すらしねえ!

もういい!やるぞ!!

「バックオーライ!バッッ…ク!オーライッ!!バァッックオォゥー…ライ!」

「…ぼうや、うるさい。…そのままで、あってる。」

怒られた。…窓、見ながら…

クッソ!怒って良いのは僕の方だ!

「マキさん!マッキさんッ!!」

ぐいい。

背中をつかんで引っ張る。…ジャージなので良く伸びる。

…ジャージがデカすぎるとも言えるし、マキさんが小さすぎるとも言える。

つーか、まともな服を買ってあげればよかったって思う。

じゃなくて…多少強引なのは承知の上だ。でも、もうここまできて引き下がる気は無かった。

「…何!?」

少し怒らせてしまったのかもしれない。

いつもより強めの“何?”が返ってきたし、いつも眠そうにしている目は鋭く見開かれている。

「え…あの…何?…って、車の、バック…で、しょうが…。」

…少しビビってしまった事はマキさんには内緒だ。

「…」

「…だ、から…その、そ、いう…カッコイイてか、その」

やべえ。

のまれそう。

ちんちくりんさんなのに。


………勢いだ。勢いで、おせ。


このままマキさんペースで終わらされるわけにはいかない。

なんというか、ちょっと…

僕って恥ずかしくないか?って思っている自分がいる。

このままだと…マキさんに怒られるだろう。お説教だ。ちびっこに。ちびっこなのにだ。

本当にただの恥ずかしい人間になってしまう。大人だ。大人なのにだ。


……勢いだ。いけ。


もしかしたら、この、バックを成功させたら、状況は変わるかもしれない。

このままだと、何も変わらない。何も。


…勢い。


“ブゥゥーーン…”

「ぼうや何してるの!」

僕は再び、車を前進させた。さっきより大きく距離をとる。

「マキさん、見てて」

「見てた!よかった!」

「見てないよっ!」

「…!!……?」

マキさんは困惑している。少し強く言いすぎたかもしれない。

だけど…だけど今は僕を見ている!…見ているんだ!

今だ!アクセルを押し込め!やれ!見せてやれ!!

“ブゥゥゥーーーン!”

「そうだ僕を見てろぉー!!バック、バァーーーッ…」


“ドガァァァァァン!!”「バッカァーーー!」


車内に凄まじい衝撃が走った。ぐぁぁ!アクセルを強く踏みすぎた。…頭がくらくらする…。

…!マキさんっ!マキさんは!?

「………おばか…」

マキさんは頭を抱えながら絞り出すような声で僕を叱る。…よかった、無事だ。

「よかった。」

「………そうなの?」

マキさんの目が笑ってない。目が光って見えるもん。

「…え?………あ…」

…気まずい。

…やっちまった。

取り返しとか、できる?

「あー…あのぉ…」なんて言えば、なんて…あー、思いつかない…

“ガサガサ…”お菓子カバンを漁っているし…その間に何かー何か…

「えぇー…っんぐ!」

突然、口に何かを突っ込まれた。…って、甘ッ!

「チョコ。」

…そう、みたいだ。言われてみるとこの甘さはチョコレートだ。

「…落ち着いた?」

あっま……あ。かもしれない。落ち着いてる、僕、落ち着いてるわ。

「ええと、まあ、t」「何か言う事」

「え?」

若干、食い気味に言われる。

え?

…何か言うの?

「ええ、と。先ほどの行動にはですね、車のバック走行にはグッとくる表情が自然に…」「ごめんなさい!」「あ、はい、ごめんなさい、すんませんした、すんません…」

謝らされた。ちびっこに。勢いに押されて思わず謝罪の言葉を連呼してしまった。やべえよ。

「…後ろ走りしたかったの。」

「い、いや、そういう訳じゃ…」

“ごめんなさいの空気”のまま、なじられ始めた。

「カッコよくなったの?」

「…いや…それは…」

うぐぅ…なんて重くて鈍い、攻撃だ。

「音。」

「え?」

あれ?何かさっきからズレていないか…?

「鳴った。」

マキさんは首で後ろを指す。…音がカッコよくなった…?

“……ビービービー”

何言って…いや、あれ、ちょっと。

“…ビービービービー”

そういえばさっきから何かうるさい音が…

“ビービービービービービービー”

あ。


…あかん…。

これ…防犯用のブザーじゃねえ?…後ろ、っていえばあの高級…


あれ?


あの車って、こんなデザインだったっけ?

その、ボンネットが垂直に立って、何か、その、中身の…エンジン的な何かが…見える

…その、昔流行った、スケルトンっていう…


“ガガガガガ…”


あ…ボンネット、ボンネット!だめ。ダメだよ、がんばって。キミの居場所はそこだよ。外れちゃ…

“ガン!”

“ガコン、ガコン…ガコン”

ああああ、見方によってはスポーツカーと言えなくも、いえなく…も…ぉぉぉ!

「かぁっこいー」

にやにやしながらマキさんは言う。

「か…っこ、いいっ…す…ねぇ…」

もうマジ泣きそうだ。なんでこう、短時間で最悪な事になるんだ!?なんで…

“ぴんぽーん、ぴんぽーん!”

僕の耳に入ってきたのはコンビニの自動ドアが開くときの音。

外には誰も居なかった。…ということは出てくる。

まあ、コンビニ客なんて…

…全身黒ずくめのハゲ…というかスキンヘッドかー。…いやー、真っ白スキンヘッドって黒に映えるなー。

眉毛まで無いって、なんか本格的っていうか。ファッションにかなりのこだわりがあるというか…。

コンビニで会えるのかなー。こんな珍しい人。

目の前にちょっと変な車あるけど関係無いからねー?…何でさっきから動かないのかなぁ?

自分の車忘れちゃった?あるよねー、そういうことー…何で視線がこっち寄りなのかなー?

アナタには関係が…あ、持ってるコンビニ袋落ちちゃったねー…あー、持ち主ねー。

やっぱりねー。終わったわー。

マキさんは…口元をおさえて体を小さく震わせている。恐怖で縮こまっているのだ。

「…ああ…かわいそ。」

と、おもむろに合う、僕とミスターボウズの目。


“ブゥン!…ブォォォォン!!!”

「うおー!行けえ!!」

“プスン…”

「うおーぉぉ!!たーのーむーぅぅ!!!」

「くく、たーのーむー」

僕は今までに無いくらい思いっきりアクセルを踏んだ!

“ブォォォォォォォ!!!”

…それから先は、あんまし、覚えてない…


…参謀ー!どこ行ったんだー!?参謀―!!

どうすればいいんだー!

あと、この雑学係を耐え係詰所にぶち込んどけ!!

!っのわ!?

危ない!危ないぞ!!

緊急班!緊急班ー!!

地図係ー安全なとこを探せ―!

なんとかしろー!

たーすーけーてー…


文書くの難しいね

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