第二章 魂喰 4
「よう……」
玄関前に停車するハイエース。その傍らに寄りかかりながら男が声をかけてくる。
男は一言で言えば太かった。しかし、それは肥満であるという事では無く。とにかく部分部分が太い。鍛えこまれた腕が、大樹の様な首が、声が、眉が……体のあらゆる物が太く大きかった。
「昭三おじさん!」
そんな男、榊原昭三に恒星くんは臆す事無く近づいていった。
「おう、恒星……大きくなったな……」
ガシガシと……恒星くんの頭を乱暴に撫でる昭三、恒星くんは目を瞑っているが不快ではなさそうだ……私は物凄い不快だから殺してしまいたいが。
「おじさん! お仕事は大丈夫なの?」
榊原昭三。職業、俳優。恒星くんの好きなヒーロー戦隊の主人公をしていた事もある。裏の仕事では……正義の味方をしている。
「ああ、急に撮影が無くなってな……大人の世界は複雑なんだよ」
「そうなんだ~」
恒星くんの目はキラキラしている。恒星くんにとっては憧れのヒーローが居るんだから当然かも知れない。そして恒星くんは実際に昭三が変身する所を目撃している。
『シュボ……』
昭三が煙草に火をつけた。そして車を指差す。
「ほら、とりあえず乗れよ。高速は……まあ今日に限っては混まないだろうがな。荷物はトランクに載せろ」
「うん!」
恒星くんはせっせっと荷物をトランクに運んだ、私は昭三に近づき、煙草を奪い取る。
「恒星くんの前で吸わないでって言ったわよね?」
「……っち。たくよう。相変わらずお前は裏表が激しすぎるんだよ。恒星に向ける優しさの半分でも他の人間に分けてやったらどうだ?」
「はぁ……あんたのそういう所がムカつくのよ。誰でも彼でも助けようって……それって特別な存在が無いって事でしょ? 恒星くんは特別なの。それ以外に要らないの。無価値なのよ。私にとっては」
「俺はそんな極論を言っているんじゃないけどな……まあ、恒星と出会ってからお前は少し変わったよ……」
昭三は溜息を吐くと私の荷物を持った。
「ほら、乗れよ」
「ふん。あんたはボディーガードよ。恒星くんに何か有ったら殺すから」
「お前がいりゃぁ必要ねえだろう。全く過保護な奴だな……」
昭三は呆れたように笑った。私は昭三の指を落としたくなるのを我慢した――。




