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第二章 魂喰  2

「お姉ちゃん。僕、海に行きたいな」

 金曜日の午後、夕飯を食べていた恒星くんは唐突にそんな提案をして来た。

 海……。

 私はとっさに鼻を押さえた。浜辺で遊ぶ水着姿の恒星くんの姿を思い浮かべると戦闘でも滅多に流さない鼻血が出てきた。

「お姉ちゃん?」

 返事が無い私を不審に思ったのか、洗い物をしている私を恒星くんが覗き込んだ。私は急いで頷く。

「え、ええ。海だったわね。うん。良いわね。でも急にどうしたの? 恒星くん」

「うん。えっとねぇ……海の家に行きたいの」

「海の家?」

「うん。海の家でかき氷食べたい」

「そうなんだ~」

 海に行く理由が海の家って……そういう所も好き。

「良いわね。お姉ちゃんも土日が空いてるから、今度の土曜日に行きましょうか。昭三おじさんにも聞いといてあげる」

「うん! 昭三おじさん、僕好き!」

 ニッコリと笑う恒星くん。その笑顔を昭三が得ていると思うと、メラァっと黒い炎が胸を焦がす。

「ふふ、それじゃあちゃんと宿題をしないとね。折角遊びに行くのに、宿題の事を考えていたらつまらないでしょう?」

「うん! ポケモンみたらやる!」

「ふふふ、はいはい」

 私は自然と毀れる笑みを浮かべながら自宅の電話機を取った。そして、特殊な番号を入力する。

『ガチャ』

 コールは一秒も待たずに、相手が応答する。

『お待たせしましたエリカお姉さま』

「猫崎。用事が出来たは。準備して頂戴」

『は……魂喰の件ですね』

「違うわよ馬鹿ね。恒星くんが今週末に海に行きたいって言っているの、だからその準備をして頂戴」

『はぅ! それはエリカお姉さまの水着を準備しろ! という事でしょうか! それで、それで猫崎も一緒に行っても良いのでしょうか?』

「私の視界に入らないなら一緒に行ってもいいわよ」

『ひ、酷い……それでエリカお姉さま。範囲は如何しますか?』

「そうね。浜辺をすべてと……周辺の商店街も全て抑えなさい」

『それだけの規模だと……エキストラが膨大に要りますね、更に費用も凄まじい金額が……』

「私の口座から好きなだけ使いなさい。それとも……出来ないの?」

『いいえ。エリカお姉さまの命令に対して私は肯定以外しませんので……』

「そう、良い子ね猫崎。ならばついでに昭三も呼んで頂戴。車を出させるのに」

 私がそう言うと電話口の声が一瞬詰まった。

『昭三……ですか。あの男はある意味魂喰よりも厄介かと思いますが……』

「そうね……でもこうも言える。あいつくらいじゃないと魂喰が襲ってきた時、恒星くんを百パーセント守りきれない。その点、昭三なら安心だわ。そういった状況はあいつにとって望む所だろうから」

『分かりました……エリカお姉さまがそういうなら。呼び出します。しかし、その際は私も必ずお側に置いてください』

「はぁ……まあ良いわ。特別に許可しましょう。今日は機嫌が良いの。それで、エキストラの面接は?」

『こういった時の為に、劇団を用意していますから。私にお任せ下さい。それと水着も――』

『ガチャン』

 私は電話を切った。そして恒星くんに声をかける。

「恒星くん。昭三おじさん来れそうよ」

「やったぁ~楽しみだね。お姉ちゃん!」

 恒星くんは無邪気に笑った――。


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