第一章 私の恒星くん 2
「おはようございます! 滝柿様!」
「ええ、おはよう」
『きゃぁあああああああああ!』
迎えの車を降りて、校門までの道を歩いていると、湯油ヶ咲女子高の制服をした少女達に朝の挨拶をされる。それに私が返事を返すと、まるでアイドルに会ったかの様な黄色い声援があがった。
全く……毎日、毎日飽きもせず。
表面には出さないが、挨拶される度に私は不機嫌になっていく。折角の恒星くんのおはようが上書きされていくようで、不快でしかない。
でも……恒星くんの理想のお姉ちゃんは皆に優しいお姉ちゃん……私、恒星くんの為に、耐えるわ。
耐える……ああ、なんて甘美な言葉。恒星くんの為に耐えるというのは恒星くんへの想いを、数十倍にも加速させるのだ。
「ああ、恒星くんに会いたい……」
離れてから三十分も経っていない。しかし、恒星くんとは一日中一緒に居たいのだった。
歓声の輪をかきわけ、私はガードマンの間を通り、学校に入る。私が近づくとルールでもあるのか、顔を赤くしながら生徒達は私が歩きやすい様に道を開ける。
しかし、そんな中、そんな流れを無視する様にこちらへと駆けて来る足音が有った。
「はぁ……はぁ……エリカお姉さま!」
そう言って背後から抱きついてくる少女。私にそんな事をしてくる生徒は一人しかいない。
「あら、おはよう猫崎さん。今日も元気が良いのね」
私は優しい動作で猫崎の腕を外すと笑顔で挨拶する。
「はい! エリカお姉さま! 私、校門でエリカお姉さまを見つけて居てもたってもいられず! ああん! お姉さま! 今日も素敵です」
猫崎……身長は低めで、どちらかというと童顔、肢体はうっすらと日焼けしており、引き締まった活発な印象を受ける。まあ、可愛い部類に入るのかしら? どうでもいいけど。
「きゃああ! 滝柿様と猫崎様よ! お二人がそろうとまるで高尚な絵画の様」
「悔しいですけど、滝柿様と釣り合うの猫崎様だけですわ」
周囲のひそひそ声……まあ私にはまる聞こえだが、その評価を聞くに、猫崎はかなりの高評価を周囲から得ている様だった。
私達は二人並んで歩き出す。猫崎はどうでもいい昨日やっていたテレビの話などをしていた。それに笑顔で答えるのは本当に疲れる
「それで、実はその警察官っていうのが、その時講演していた人だったんですよ~いや~あれにはびっくりしたな~」
「猫崎さん」
そんな会話も苦痛だったので、私は猫崎の話を止める。
「はい? なんですか?」
「何かエリカお姉さま」
「……私に何か話があるんじゃないの?」
ニッコリと私は微笑んだ。すると猫崎はうるうると目を潤ませる。
「うう~もう日常会話は終わりですか?」
「――貴方が望むのならいくらでもするけれど?」
私の表情を見て、猫崎の額から汗が毀れる。すると猫崎も明るく笑う。
「エリカお姉さま。いつもの部屋に行きましょう」
そういうと猫崎は私の手を引いた――。




