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プロローグ 絶殺

「はぁ……はぁ……ふ、ふはははっははあっはは!」

 中世の貴族が住んでいる様な住むものに品格を求める様な洋館で、それに似つかない、壊れたサイレンの様な、耳障りな笑い声が聞こえてくる。

「これは……一体なんだ? 私はあ、悪夢を見てるのか……どうして……どうしてこんな……私の可愛い人形がどうして!」

 男はうろうろと落ち着きのない様子で、部屋を歩き回っていた。それ共に聞こえてくるぴちゃぴちゃという水音。それはどす黒いほど濃い赤で、その傍らにはまるで人形の様に、生気を失った人の形をした肉塊があちらこちらに転がっていた。

「ナンバーゼロまで……馬鹿な……五分前まで何も無かった……それなのに、私に気付かれる事無く、館の人形達を皆殺しにしたというのか!」

 男の顔は急速に年老いたかの様に、真っ白で……とても醜い。

「一応確認しておくけれど……貴方が奴隷使いね?」

 私は仕事を終わらせたかったから、男に声をかけた。すると男の体がバネ仕掛けの玩具の様に跳ね上がる。

「お、お前か……お前が私の人形達を壊したのか!」

 男の血走った目がこちらを向く。私はもう身を隠す必要が無いので、姿を現した。

「そうよ。と、言っても貴方が薬漬けにしていたから、もう既に壊れている様な物だったけど」

 私は髪の毛を弄りながら応じた。ああ、そういえば人参をきらしていた。明日の朝ごはんは恒星こうせい君の好きな、キャロットケーキを作ってあげるつもりだったのに。

「お、女……? それに……その服……」

 奴隷使いは私の姿に驚いている様だった。しかし、それはとても見飽きた反応で、まあ、私が女子高の制服を着ている。まあ実際に女子高生だったかも知れない。

「お前は何者だ! 人形達は特殊部隊も殲滅するほどの力を持つ……それを……何処の組織の者だ」

「ふぅ……聞きたい事が有ったから出て来たのだけど……大抵同じ質問だからうんざりしちゃうわ。いい? 貴方に質問の権利は無いの。貴方が選べる権利は二つ、普通に死ぬか、もう死にたいと思いながら死ぬかの二択なの、だから問うわ、お前が手に入れたENDファイル。それは誰に渡された?」

「き、貴様は……まさか……内閣調査局の――」

 男がそう口にした瞬間だった。男の右手が鋭利な刃物で切られた様に宙を舞ったのは。

「ぐがぁあああああああああああ!」

「質問は許さないと言ったわ。答えだけを言いなさい。次は無い」

「く、くそ、わ、私を殺せばあのお方が黙ってない……あの方の手にかかれば、内閣調査局など――。

『ザシュ』

 人参を切り落とす様な小気味のよい音と共に、男の首が回転しながら宙を舞った。それが鈍い音とをたてて地面に落ちると洋館は静寂に包まれる。

「次は無いと言ったわよ……初めから私には興味が無いのだけど……スケアクロウ」

 私は虚空に向かって声をかける。すると暗闇から溶け出す様に全身黒ずくめの男が現れた。

「任務は完了。対象は死亡」

 私がそう告げると男はくすくすと笑いだす。

「任務は完了……か、確か任務は奴隷使いからENDファイルの所有者、魂喰たまぐいを聞き出す事では無かったか?」

「私に任せた以上、殺し以外はあり得ない。嫌なら次から別のエージェントに頼む事ね、拷問好きの、赤ずきんやら、そこらが適任でしょう」

「ふふふ、いや、俺からは何も言えない。絶殺『ぜっさつ』。お前に依頼した以上、組織も分かってやっている事だろうからな」

「そう……なら早く報告しに行きなさい。私は忙しいの」

「報告はもう他の私が済ませた。しかし、ふふ、消えるとしようか、お前の機嫌を損ねて死にたくはないからな」

 そう言うとスケアクロウは普通に歩いて帰って行った。その後ろ姿はこの場にはふさわしくないほど隙だらけで、無警戒に見えた。

『ススゥ』

 私は奴隷使いを殺した糸を制服にしまい、携帯電話を取り出す。待ち受けには勿論、私がこの世で一番愛している男の子の笑顔が。

「はぁああああああああ可愛いぃいいいいいいいいいいいいい! 恒星くん! 恒星くん! ああ、もうどうしてこんなに……私の恒星くん!」

 恒星くんを見ているだけで全身が浮遊感に包まれた。それはそのまま宇宙に飛んでいってしまいそうな。この世で最も幸せな人間は自分なのだと確信出来る瞬間。

「今からお姉ちゃん帰るからね。ふふ、恒星くん。ちゃんと一人でお留守番出来てるかしら」

『ピピピ――』

 私は跳ね上がる鼓動を必死に抑え付け、恒星くんに電話をかけた――。



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