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一匹見かけたら三十匹はいる

 車庫の中の魔動車は二台。一台はあたしたちが乗ってきた西門からの魔動車。もう一台はテルンさんやチャチャルの乗ってきた北からの魔動車だと思う。

 魔動車から降りると、すぐに戦闘へと身を投じる。敵味方合わせて三、四十人はいる? 北の魔動車にはまだ人が乗ってるっぽいから、全部で五十人近いかも?


「東は失敗した!」

「南は?! ギルラン商会はまだか!?」

「到着までもう少しかかるようだ!」


 見憶えのある《討伐者》たちが、口々に他の魔動車の状況を教えてくれる。

 剣はテルンさんたちぐらいで、基本は魔動銃の撃ち合いだ。特に敵は全員魔動銃みたい。こっちには魔動砲もあるけれど、この混戦状態で撃つのは無理っぽい。

 そのせいかテルンさんたちの分は悪いみたい。あたしらが駆けつけたんでちょっとは持ち直したけど、全体的に圧され気味。撃たれて怪我をしたり、蹲ったり、大の字にばったりと倒れている姿もある。ん? 《討伐者》って死んでも復活するはずなのに、なんだか変? 敵の《討伐者》の身体がゆらっと揺らめいて消えた。ふむ、生き返るのにも順番待ちがあるのかしらね?


「すまない、こっちを手伝ってくれ!」


 魔道器を持ったあたしは、隙を見て非常口っぽい扉から中に入るようにって指示されている。なのでルルリリを肩に載せたまま北の魔動車の陰に隠れて撃ち合っていると、前扉のところから《討伐者》が声をかけてきた。ってか大怪我して乗降口に座り込んだまま動けなくなっちゃってるっぽい。

 慌てて駆け寄ると、首を振り魔動車の中を顎と視線で懸命に指し示す。降りる邪魔になってる自分の身体を退けてくれってことみたい。ソネミと一緒に抱えるようにして、敵の目の届かなそうな車輪の陰へと運ぶ。

 その間に乗降口から茶色い影が姿を現した。ってかガルガウィじゃん? 右脇に抱えている包みは……魔道器よね? でもって左腕には魔道砲を二基。さすが大型犬の獣人、怪力だわ。


「大丈夫? 持とうか?」

「……なら、こちらをお願いしますだ」


 申し訳なさそうな顔でガルガウィが魔道砲を渡してきた。女子っぽく小さくて軽い魔道器に手を伸ばしていたのが、ちょっと恥ずかしい。おまけに四台の魔道器を別々に運び込む作戦を無意味にするところだったわ。

 照れ隠しに「じゃ、行こうか」とガルガウィの肩をばんと叩いて歩き出した。男前なソネミは、さも当然のように敵の攻撃を牽制しに前へ走り出る。

 と、遠くからよく通る声が、こちらに呼びかけてきた。


「おや、チヒロさん、珍しいところで会いましたね」

「げっ、ダングルじゃん!?」


 なんだか聞いたような声と思ったらダングルじゃん。なんでこんなところに? ってか、一歩下がったところから見物してるなんて、妙に偉そうなんだけど? やっぱりこいつ、管理局と繋がりがあったのね。


 早く逃げようと髪を引っ張るルルリリを宥めながら、あたしはじりじりと扉のほうへと近づこうとする。けど、チャラそうな笑顔のダングルがこちらに向ける視線は厳しく隙がない。

 どうしよう……。ああ魔道砲が邪魔。重いし両手が塞がるし、魔道銃が使えない……。あ? ってかさ、魔道砲じゃん? バズーカサイズだし独りでも扱えるんと違う?


「……やっちゃっていいよね?」

「なにをですだ?」


 あたしの思いつき、残念ながらガルガウィには通じなかったわ。でもルルリリはわかったみたいで、肩車状態であたしの髪を両手でひしっと握りしめる。

 魔道砲も魔道銃も、撃ち方は似たようなもんよね? 念じればどうにかなるでしょ?

 ダングルが大きく目を瞠り、ガルガウィが息を呑む。


 あたれ――。


 ダングルがこちらを指差すように手を上げる。次の瞬間、大きな反動が来て、非常口横の壁に叩きつけられた。

 青白い光を放ちながら、ダングルがゆっくりと倒れていった。


               ◇◆◇◆◇


 呆然と突っ立っていたあたしは、ルルリリに髪を引っ張られて我に返った。

 うわぉ……。魔動砲って反動もすごいんだ……。そばにいるガルガウィはもちろん、離れたところで闘うソネミやジヌラもびっくり顔だ。

 もっとも驚いて動きが止まっていたのは、ほんの一瞬のこと。撃ち合いはすぐに再開される。

 さらにその場に魔動車がスピードで突っ込んで来て騒々しさが増す。南門突破したやつだね、ブグルジやハリュパスの顔が見える。


「早く行くですだ!」


 ガルガウィに促されて非常口に飛び込む。ジヌラが駆け寄ってきたけど、ソネミは敵を扉の前で阻止するつもりらしい。ギルラン商会の増援があったから大丈夫だとは思うけど……ここは中央、敵の本拠地だしちょっと心配。


 非常口の中は狭かった。微妙に下り坂、右回りの螺旋通路。入ってきた扉が本来なら出口で反対側は城の地下、つまり奴隷制度を司るシステムの中枢なんだって。

 壁にオレンジ色の非常灯っぽい魔法陣が浮かんでるけど、ほとんど役に立ってない。ってか、煙は下を這うから非常灯が上じゃ無意味じゃなかったっけ?


 タッタッタッタッ――無言で走る足音だけが続いた。追手の気配はない。

 《討伐者》稼業で多少は鍛えたけれど、魔道砲は重いしそろそろ体力の限界かも。って思い始めたところで、ルルリリがくいっくいっと髪を引っ張った。


「んーんー」

「ルルリリ、自力で飛んでよ……ちょっと重い」

「少し先の明るくなっているところで一旦止まるぞ」


 しつこいルルリリに根負けし、ちょっと進んだ先の淡く光る魔法陣の前で立ち止まった。白い光で他の場所より少しだけ明るい。


「ここは良くない場所ですだ――」

「んーんー」

「なんだ、チビ助、どうしたんだ?」


 ガルガウィが不安そうなのにガン無視だけど……ま、いっか。

 ルルリリがぎゅうぎゅうと引っ張るのでリュックを下ろすと、二つばかり穴が開いていた。魔道銃の痕? リュックを背負ってなかったら……って怖くなる。


「ウソ、あたし死ぬとこだった?」

「それより中身は大丈夫なのか?」


 背中は幸い無事だったけど、中が大丈夫って保証はない。袋の口を開けてみると、こっちに来たときに着ていたTシャツに穴が開いている。それから――。


「わっ、魔道器……やられてるっぽい」


 お陰で命が助かったわけだけど、作戦の肝である魔道器がやられているってやばいじゃん? 急いで起動しようとしてみたけど、ウンともスンともいわない。


「オラがもう一台、持っていますだ」


 そうだよね。誰かが失敗しても大丈夫なように四台用意したんだから。これで作戦が失敗に終わったってわけじゃない。焦るな、あたし。頑張れ、あたし。


 タッタッという足音、ぱすっぱすって魔道銃っぽい音が近づいてきた。敵? それとも味方? どっち? 逃げるべき? 待つべき?


 薄暗がりの中、遠くに目を凝らそうとすると、今度は横の壁の魔法陣が薄っすらと光りだした。ってか、この魔法陣のデザイン、どっかで見たことがあるような?

 眩しいほどに輝き始めた魔法陣を潜り抜け、見たような顔が出てきた。


「なんでまたダングル!? ってか、これって咎人の祠の魔法陣?」

「惜しい! これは《討伐者》や《復讐者》のための魔法陣さ。魔動車の停留所で見たことがあるだろ?」


 そういえばバス停の標識がこんな模様だった気がしないでもない。ダングルに続き魔法陣からは《討伐者》たちが湧いて出てくる。ってか、狭い通路が満員なんですけど?


「任せておけ! 俺は死なないから!」


 ジヌラが魔動銃を撃ってダングルを消し去る。けど、すぐさま壁の中からダングルは復活してくる。

 あたしらを庇うように間に立ち塞がったジヌラは、敵を睨みつけたまま手のひらだけで「行け」と合図してくる。俺は死なない、って、まあ事実なんだけどさ。

 ガルガウィとルルリリに促され走り出す。重たい魔道砲はこの場に置いて行こう。チャチャルやテルンさんの声が近づいてくるし、ジヌラにも魔道砲を撃つ余裕ができるはず、と思いたい。


「他にも魔法陣があるかもしれないですだ……」


 後ろのほうから爆風ってか爆音っぽいのが聞こえた。たぶんあそこに固まってたダングル一味は吹き飛ばせたんだと思う。でもこの先にまた同じような魔法陣がないとはいいきれない。


 ほんわりと白い魔法陣が前方の壁に浮かび上がる。そこから出てきたダングルを口を開く前に魔道銃で撃つ。また白く光り始める前に、ガルガウィが魔道砲で壁ごと魔法陣を壊す。

 そんなことを繰り返しながら、狭い通路の中を進んで行く。


「キリがないじゃん……」

「あと少しですだ」


 地図が頭に入っているらしいガルガウィの言葉を信じて、力を振り絞る。


 螺旋通路の終点が見えてきた。大きくて重たそうな扉も見える。非常口? 防火扉? なんかそんな感じ。

 そして――マジ!? 手前の壁に白い魔法陣が光ってるじゃん!


「まったく諦めが悪いねえ……」


 うんざりした顔でダングルが魔法陣の中から出てくる。その仲間ってか部下っぽい《討伐者》も出てきて、あたしたちの行く手を阻む。


「なんで情報屋のあんたが、大きな顔してんの?」

「いやあ、チーロさん、あんたのお陰ですよ。あんたから仕入れた情報を上が喜びまして、原住民の反乱の鎮圧を任されたんですよ。成功の暁には情報統括部長の地位も約束されました」


 原住民の反乱って……まあ、咎人制度をやってる連中からすれば植民地の暴動くらいの認識なんでしょうね。しかしあたしのせいにするなんて、ダングルってやっぱムカつく。

 ってことで魔道銃を一発お見舞いする。でも隣に立つ《討伐者》が身を挺して庇う。むぅ……どうせ死なないからって、やることが大胆。

 壊れた魔道器入りのリュックを盾代わりに魔道銃で応戦する。ガルガウィは壁の魔法陣を狙うけど、代わる代わる《討伐者》が身体で隠すんで上手く当たらない。


 それでも死んでも平気なやつらと死んだらアウトのあたしらとじゃ必死さが違うのかしらね。ダングルと《討伐者》が全員消えた瞬間に魔法陣の破壊に成功した。


「今のうちに行きますだ――」


 ガルガウィが扉の前で魔道器を操作するのを待つ。

 カチャッと鍵が開く音はしたけど、物理的に重い扉がなかなか動かない。とりあえず小柄なあたしが、リュックを下ろしてルルリリと一緒に隙間から滑り込む。

 中は暗闇。少しがらんとした気配。PCみたいな微かな機械音も聞こえる。


 ギャウン、ギャン、キャン!


 突然、外でガルガウィがまるで犬みたいな悲鳴を上げた。大きな身体が扉の隙間に寄り掛かるように倒れてきて、そのままずるずると座り込む。

 その向こうにダングルの姿を見つけて、咄嗟に魔道銃で撃つ。

 首だけ外へ出して魔法陣を探す。あった! さっきと反対側の壁に魔法陣が新たに浮き上がり白く光り始めている。


「ガルガウィ! 魔法陣! 魔道砲で魔法陣を壊して!!」

「ぐぐるぅ……チ、チー、ロ、さん……魔、魔道……」


 ガルガウィは必死にこちらに顔を向けようとして、魔法陣にはまるで気づいていない。唸るような声は犬っぽく、ろくに聞き取れない。

 魔道銃で光る魔法陣を撃つと輝きがふっと小さくなる。壁を壊すのは無理だけど、多少の時間稼ぎはできそう。

 治療するなり中に引っ張り込むなりしたいんだけど……大型犬種のガルガウィの身体が邪魔で扉もこれ以上開かなければ、あたしが外に出ることもできない。


「ガルガウィ! しっかり!」

「んーんー、ガウガウゥー」

「……魔……道……、止め……」

「なに? 先にシステムを止めろって? じゃあ魔道器、魔道器を貸して!」


 ガルガウィの手が魔道器を探るように動く。それを見たルルリリが手元へと飛んで行き、魔道器を持ち上げるのを手伝う。

 どうにか魔道器が差し出されたけど……ウソ、駄目じゃん。微妙に大きすぎて縦も横も斜めでも扉の隙間を通らない。魔道銃で光る魔法陣をときどき撃ちながらだから、焦って余計に上手く行かない。


「む、無理……」

「ぐ…………」


 ガルガウィがなにごとか囁き、ルルリリが頷いた。魔道器から手を離し、ふわりと浮き上がったルルリリは、ガルガウィの足の先へと舞い降りる。あたしが投げ出したリュックを拾って再び舞い上がり……勘弁してよ……袋の口を開けて景気よく逆さに振る。

 こぼれ落ちた荷物の中からあたしのスマホを拾い上げたるルリリは、それをそっとガルガウィの手に持たせた。

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