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オーガとかエルフとか、ちょっとファンタジーっぽい

 矢を射かけてきたのは銀髪に浅黒い肌の男だった。長く尖った耳をした、凄絶な美形。ジヌラが脇で「ダークエルフ?」って呟いたけど、こっちを睨みつける形相はエルフっていうより般若。似たような外見のダークエルフが他にも二人、結界の外の木の上から弓矢でこちらを狙っている。

 腰が抜けそうな凄まじい雄叫びは、二メートルを超すような巨躯の、これは……鬼? 鬼が七匹? 八匹? いや十匹くらいはいる。

 筋骨隆々の青い肌に、服装は原始人っぽい簡単な布切れを纏っただけ。恐竜顔だけど角はない。武器は半数が巨大な幅広剣っての? 両手で持つでかいやつ。で、残りの半数がデコボコした刺々のついた棍棒っていうか、金属の戦鎚。それで地面を殴りつけるたびに、地震みたいに揺れる揺れる。

 どっちも重たい武器のせいか、動きは鈍臭いし速度もない。これなら簡単に狙い撃ちできそうと思って、魔道銃を抜き前に進み出る。


「チーロ、オーガよりエルフを牽制! チャチャルとガルガウィは魔道砲だ!!」


 うおっとー! ジヌラの指示より一瞬早く、あたしの脇腹をエルフの放った矢がかすめていった。

 ってかジヌラのいう通り、動きの遅い(オーガ)より、エルフの弓矢のほうが脅威だわ。

 ってことで「当たれ!」と祈りながら、木の上のエルフに魔道銃を向ける。身体はギリ躱されたけど、弓の弦がはじけ飛んだ。

 ジヌラは左の木のエルフに向かってナイフを投げたけど、うーん、当たらない。距離遠過ぎ。でも木の枝に身を隠したんで、射手が暫定ひとり減った勘定。


 戦力にならない《咎人》たちは、一斉に後方に逃げ出している。でもオーガが戦鎚を振るって地面が揺れるたびに、ぴょんとジャンプしてしばらく硬直しちゃう。怖くて竦んでるのが半分、残り半分は、本当に振動が激しくて動けないみたい。

 幅広剣のオーガが最後尾のケガレに肉薄するのを発見。エルフよりこっちを優先して魔道銃を発射。

 ちっ! 剣に当たったけど弾かれたわ。ま、気を逸らすことには成功したんで結果オーライ? ピンクの髪がひと筋きらりと宙に舞っただけで、ケガレはオーガの剣の間合いから逃れる。


「チーロさん、退がってください!」


 おっと、その声はソネミ? チャチャルと一緒に馬車に積んでいた魔道砲を引きずり出してきたみたい。根性あるわ。

 邪魔だから退けってことらしいけど……一大戦力のあたしの魔道銃が抜けるのはまずくない?


「チヒロさん、魔道馬をお願い!!」


 チャチャルが叫んでいる。

 はっ?! あ、そうか! 武器じゃないけど魔道馬は立派な戦力になるのか!

 魔道札をチャチャルかソネミに渡す? それとも魔道銃のほうを貸して、あたしは一時退却? ああ、面倒!! ってか魔道馬は遠隔操作できるのを忘れたわ。あたし、やっぱり焦燥ってる?


 ドッカーン! ズッシーン! オーガが戦鎚を振り回す震動が絶え間なく続く。

 あ、《咎人》がひとり転んだ。あれはカバネ? 緑髪のウサちゃんだっけ? 女人の村の娘が助け起こしている。


 遠隔操作の設定をするにも、やっぱり最前線からは退かないと難しそう。とりあえず様子を見ながら、少しずつ後退を始める。


 ジヌラは矢で射られた《復讐者》を引きずっている。安全圏に放り込むと同時に、《復讐者》が握り締めていた拳銃型の魔道銃をもぎ取っているのはさすがだわ。即座にそれで近づいてきたエルフの胸元を撃ち抜いてる。


 チャチャルとソネミは魔道砲の設定を弄っているっぽい。急いで! 動きの遅かった戦鎚組のオーガが一匹、馬車に迫っているよ!

 魔道銃で牽制したけど、焼け石に水。皮膚が頑丈なのか、当っても一瞬動きが鈍るだけで、全然止まらない。


 で、ようやくドッカーンと魔道砲の砲撃音。オーガが吹っ飛ばされる。けど一瞬早く振り下ろしていた戦鎚が横の馬車に命中し、荷台の後ろ四分の一くらいが砕け散る。

 おっと、馬車からガルガウィがエリファさんを抱えて転げ落ちてきた。その上に荷台に残っていた魔道砲が滑り落ちてくる。


「危ない!」


 鈍足を酷使して駆け寄り、魔道砲をガルガウィの背中から下ろす。


「なにやってんのよ!」

「あ、あ……魔道砲を……」

「早く退がりなさい!」


 エリファさんがなにかいおうとしてたけど無視。ガルガウィが連れて逃げてくれるといいんだけど。

 急いで馬車の前に回り込み、魔道馬を馬車から解く。で、半壊した馬車の陰に身を隠して……ええと設定、設定、音声命令、遠隔操作っと……。


「オーガとダークエルフを蹴散らしてちょうだいな」


 こんなもんで賢い魔道馬は理解してくれるかしら? と考える間もなく、魔道馬はくるりと回れ右をして走りだす。

 前に陣取るチャチャルたちの魔道砲を迂回もせず、身を躍らすようにして頭上を飛び越える魔道馬。そのままオーガの一匹を蹴り飛ばす。戦鎚がガンと激しい音を立てて魔道馬の後半身に振り下ろされる――けど、ウワォ、瑕ひとつついてないわ。


「オーガは柔らかいところを狙え! 目、目だ!」


 ジヌラの叫び声。うわっ、魔道砲や魔道馬で跳ね飛ばしたオーガが、ゾンビみたいにむっくりと起き上がって、のしのしと前進を再開してるわ。

 うっそーん……と思いながらも、「目潰し!」と念じてオーガに向けて魔道銃を放つ。視界を奪われて唸るオーガに、魔道砲が当たる。で、倒れたオーガの上に魔道馬が蹄で飛び乗り……うっわー、見たくない。首がありえない方向にゴリッと曲がった。


「吹っ飛ばせても、首が落とせないよ!」

「連携して足止めて魔道馬で決めるっきゃないっしょ!」


 魔道砲や魔道銃ではオーガの皮膚に傷をつけるのすら難しそう。目とかの柔らかいところを狙って、やっとこさって感じ。口を開けた瞬間ならば、喉を直接攻撃できるかもしれないけど……そうそう上手くタイミングが合うとも限らない。

 ジヌラは素早くオーガに走り寄って魔道拳銃を撃ち込んでるけど、こっちも足止め以上の効果はなさそう。

 ま、幸いにもエルフの弓での射撃は止まってるみたい。うん、いつの間にか三人分の銀髪が地面に転がってるわ。生死は不明だけど、少なくとも身動きはできないっぽい。


「避けてくだせえ!!」

「!!」


 頑張って連携して、オーガを四匹ほど倒したところでガルガウィの声が聞こえた。エリファさんも一緒になにか叫んでいるようだけど、あまりにもか細い声で聞き取れない。

 ってか、オーガとタメ張れそうな獣人ガルガウィは戦力として期待大だけど、エリファさん、なんで逃げてないのよ……。《討伐者》にだって負けないって豪語したからって、それは覚悟とか矜持とかの話でしょ? その華奢な身体でマジで戦えなんて誰もいわないのに……。


 でも、そんな心配は杞憂? 取り越し苦労? なんかそういうのだった。

 ウイーーーンっていうようなキーーンってような、魔道砲の砲撃音にしては妙な音が響き、耳が、頭が痛くなる。

 次の瞬間、ブワッってな感じで空気が大きく波打って――。


 残りのオーガの首がすべて地面に落ちていた。


               ◇◆◇◆◇


 ガルガウィが活躍しないなあと思っていたら、最後の最後で全部持って行ってくれたわ。

 ちまちました攻防に出てこなかったのは、残った一基の魔道砲の調整をエリファさんと二人してやっていたかららしい。


「お師匠様は魔道技術の第一人者ですだ」

「魔道砲も、オーガの倒し方も、ガルガウィがいなければわかりませんでした」


 互いに褒め合って、このリア獣め! って使い方あってる?

 ま、とにかく単なる調整ってレベルではなく、ほとんど魔改造に近いぐらいの変更をこの短い時間にやってのけたらしいわ。

 本来なら魔道砲って名前の通り、魔道を弾丸状にして射出するところを、幅を広げ刃のように薄く伸ばして送り出すようにしたんだって。要するに巨大ウインドカッターとか鎌鼬ね。


「こいつら何者かな?」

「風化して消えないうちに素性を確認しちまおう、チヒロさん」


 ナニモノって、え? 魔物?

 つまらないジョークはさておき、魔物も魔道札に相当するような物を身に着けていて、プロフィールが確認できるらしい。


 えっと、なになに……? 【登録名:オーガ4】、【登録区分:《討伐者》】だって、マジですか?


「やっぱり旧き眷族じゃないみたいだね」

「だがダークエルフとオーガが組むなんてありえないだろ」

「旧き眷族って旧世界の魔物のことだったっけ?」


 旧き眷族はいわば野性の魔物で、その場合は登録情報は閲覧できない。そうじゃなければ《討伐者》と相場は決まっているらしい。

 ジヌラによると、無期懲役の《咎人》が魔物として送り込まれていたという噂もあるそうだけど、ま、噂は噂ってことみたい。


 ダークエルフは早い段階で倒していたからか、二人分の身体は既に塵になって崩れ去っていた。

 残るひとりは、これ、まだ息があるのかな?


 ダークエルフの服装は人間と大差ない。持ち物は小さなポシェットみたいな袋に入れていて、その中に魔道札っぽい板があった。

 魔道器に翳して中身を確認する。【登録名:ダークエルフ1】、【登録区分:《強制執行人(仮)》】


「《強制執行人》ってたしか……ユミル青年たちが騙ったやつだっけ?」

「テルンさんとこのアジュが元《強制執行人》だったからバレたんだよね」


 アジュのいっていたことを頭の中で思い返す。たしかこんな感じだった――。


『《咎人》がどこかに隠れ住んだり匿われたりして、制裁をいちども受けたことがないなんてときこそが《強制執行人》の出番だ』


「であれば、|女人の村(私たちの村)はその条件にまさしく当てはまるようですね」

「でも《強制執行人》って《管理者》の親戚みたいなものでしょ? 魔物に扮して襲ってくるなんて……ありなの?」


 アジュは《強制執行人》は人数が少ないから全員と顔見知りだといっていた。登録名はダークエルフになっているけれど、詳細情報を見れば本名らしきものもわかるはずだし、確認してもらえるんじゃ……?


「どうかな、それは。(仮)の印がついているなら、アジュが知らない新しい《強制執行人》ってこともありうると思うよ?」

「チーロさんよ、そんなことより、こいつらがどうやってこの場所を突き止めたか調べるほうが大事じゃねえか?」

「それは、あたしたちのせいじゃ……?」


 あたしたちが大勢で押しかけたから。馬車を中途半端な位置に停めて、結界を無意味な状態にしてしまったから。


「まあ、結界を越えられたのは俺たちにも責任はあるだろうけどな。だが、どうやってここまで来られたんだ?」

「そ、それは……調べようがないんじゃないの?」

「そこの《復讐者》さんに訊いてみるってのは、いい考えだと思うんだがな?」

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