第一章「ジャンカーの仕事とその周辺事情について」
21世紀になっても尚、キューバ危機の解決に失敗した米ソの全面戦争から端を発した第三次世界大戦は継続していた。
と言っても、21世に入って直ぐの頃から戦場と戦争は変容を見せ始めていた。
21世紀初頭に入って実用化された永久機関を搭載した自律型ロボット兵器がアメリカから登場して以降、
ソ連もこれに負けじと独自に開発したロボット兵器を投入。
以降、人間の兵士は戦場から姿を消す。
戦線は一進一退を繰り返すばかりで終わりのない戦いが世界各地で続いていた。
…実は、ロボット兵器なぞ造って戦場に投入してしまったことこそが過ちの元だったのだ。
かりそめとはいえ機械に知性を与えてしまったのは、人類史に残る大きな禍根を残すことになる。
誰も動かした覚えのないロボット兵器の大群による攻撃でロサンゼルスが壊滅的な被害を被って以降、
世界各国でロボット兵器が人間を攻撃し始めたのである。
始めは標的指定のミスでで片付けられていた事象だったが、ロボット兵器による被害報告が頻繁かつ大規模になってくれば話は別であった。
かくして人類はその脅威に押されて数を大幅に減らし、地表から駆逐されることになる。
生き残った人類はジオフロントに隠れ住むようになってしまった。
自爆命令や機能停止といった各種のコマンドを受け付けなくなり、地上を闊歩するロボット兵器たちを、人々はJUNK(ジャンク-ゴミの意)と言って忌み嫌い、
永久機関を搭載した高性能パワードスーツ、アサルトスーツを開発。
地上奪還を目指し、再び人間の兵士を戦地に送り込むことを決断。
アサルトスーツを着て戦う人間のことを人々は屑鉄処理人-ジャンカーと呼ぶことになるのだった。
1.
ジャンカーの仕事はツーマンセルで行う作業が主である。
1人が敵の注意を引き付けているその隙に、もう1人がホバー機能を生かして高速で接近し、
高周波ブレードで比較的脆弱なセンサー部分を攻撃するのがハンティング―俗にいうゴミ掃除―の基本だ。
こうすればセンサーが繋がっているAIとCPUが周辺環境の変化を察知して自爆するのを防いでくれるので、地下都市にある資源再生工場に送っても安全に解体と解析が出来るのだ。
アサルトスーツが永久機関を搭載している割に光学兵器を始めとした火器の使用が全く無いのは、
人類側にジャンクの装甲を突破できるような火器の製造技術が失われているからである。
火器類を調達しようにも、それらはすべてジャンクたちに搭載されているモノを再利用して使用するしか他に手段がなく費用対効果に乏しい上に、空にいるジャンクを破壊するために戦闘機に優先して回されるのが通例となっている。
遠距離から弱点を攻撃できるような強力な火器があれば遠距離からの攻撃が可能となり、ゴミ掃除の手間が省けて良いのだが、
無いものはねだっても出てこないので、踏み潰されたり撃たれたりする危険を承知で接近して攻撃するしか無いのがジャンカー達の現状である。
幸いにしてジャンクたちの装甲―特に繊細なセンサー部ーは火器を搭載しているおかげで強度は軒並み低く、高周波ブレードや超振動ハンマーで破壊可能なレベルなのが唯一の救いだ。
ただし数が半端じゃなく多く、最弱のジャンクであるダチョウなぞ、都市部を徘徊している数を数えるのも面倒になる程存在している。
日野崎剣十郎と鹿苑寺エリカがジャンカーになって数ヶ月が経つが、もうすでにダチョウを倒した数は100体を優に超えている。
日本にいる最大級のジャンクとされるマンモスでさえ、今日倒したのを含めて20体目だ。
東京、兜町付近。
人気のない廃棄されたビル群の下で、1組のジャンカーがゴミ掃除をしていた。
ヒィィィンと甲高い音を立てて唸る高周波ブレードが、マンモスのメインセンサーを斬り飛ばす。
続いてブレードの刺突が装甲を貫き、内蔵されているジャイロを破壊する。
センサーとジャイロからの情報を受け取れなくなったマンモスがバランスを失い、
重い音を立ててひび割れたコンクリートの地面に倒れていく。
マンモスの護衛―随伴歩兵―であるダチョウたちはいの一番にセンサーを破壊され、地面のそこかしこに横たわって虚しく虚空を脚でかいている。
「こちらジャンカー014号。マンモス1体、ダチョウ10体の破壊に成功した」
地面に横たわっているダチョウを踏みつけながら剣十郎が無線通信を送ると、
待ってましたとばかりに資源回収用トラックと回収専門のアサルトスーツ隊が姿を現した。
「あー、疲れたー!ねぇねぇ、けんちゃん。これで今日のお仕事はおしまいだよね」
無力化されたジャンクたちが回収用トラックに積み込まれるのを監視しながら、囮役をこなしてくれた幼馴染、鹿苑寺エリカがはや飽き飽きしたとばかりに無線ごしに言ってくる。
18歳を過ぎ、急に色っぽさを感じさせるようになった声に、剣十郎は返事を返す。
「ああ、そうだな。空にいるジャンクどもが寄ってこないうちに帰って飯にしよう」
「いつになったらこのゴミたちは駆逐されるのかなぁ」
「工場地帯で最近マンモスと護衛についているダチョウの群れの発見報告が増えてきてる。
政府も企業もこのクソッタレどもを造っている工場の在り処を突き止めるのにそう時間はかからないはずだ」
「そうなったら、自衛隊のアサルトスーツ部隊と共同作戦に参加することになるね」
「間違っても自衛隊をアテにするなよ?今日はビル街だったからマンモスの機関砲で狙われなかったから無傷でゴミ掃除が出来たんだ。
連中をアテにしてるとマンモスの30mmでハチの巣になるのがオチだ」
「まぁたけんちゃんのお説教が始まった。スーパーヒーローになるって子供の頃の夢はどこに消えたの?」
「お前もいい加減、しつこいね。公務員は嫌いだ。防衛省が情報開示を渋っているせいで同期のジャンカーが何人死んだか分かってるのか?」
ハチの巣にされたアサルトスーツだったものを抱えて引きずりながら、エリカが返事を返す。
「今日の現場で死んだのを含めると108人!アハ、煩悩の数と同じだ!」
「若くて勇敢なジャンカーほど死にやすいってのは皮肉だな…俺たちみたいに臆病者のほうがジャンカーに向いているのかも」
海の交通が遮断されてしまったせいで日本に取り残される形になったアメリカ軍人の方が、自衛隊員より日本でのゴミ掃除に熱心なのは何かの皮肉だろうか?
現に回収したアサルトスーツは日本人のものとアメリカ海兵隊の所属のものだった。
防衛省が機密を盾に情報開示を渋っているおかげで、日本におけるゴミ掃除は一向に進んでいる気配を見せていない。
最初はどんなジャンカーでも勇敢に前線に出ていたが、そのうち一進一退を際限なく繰り返している感じしかしなくなり、戦場の空気に毒され、迫る死の危険に気づかなくなっていく。
そんな状態で任務に出ると大抵の場合、遮蔽物のない開けた場所でマンモスの機関砲の射界に入ってしまい、ハチの巣になるのである。
そのせいもあって、日本におけるジャンカーの死亡率は非常に高い。
7割がルーキーのうちに命を落とし、3割が生き残って戦い続ける。これがジャンカーのおかれている現状その2である。
「仏さんの回収も任務のうちか…あまり嬉しいものじゃないな」
比較的原型を保っているアサルトスーツーただし頭の部分が丸々なくなっていたがーを抱えて移動しながら、剣十郎が愚痴をこぼす。
「体だけでも家族に返せるだけマシだよ。僕の回収した仏さんなんて残骸だよ?ざ・ん・が・い!」
「残骸も再利用せにゃならんのだから、仕方ないだろ。現場には何も残しちゃいけないって作戦部長も言ってたろ?回収を怠った連帯責任で配給減らされたらたまったもんじゃないぞ」
「愚痴ばかり言ってないで、早いこと帰って祝杯でもあげようよ〜。トラックも行っちゃったし〜、マンモス討伐20体記念に乾杯しよ?」
まるで自分たちだけには弾は当たらないと言いたそうな口ぶりの幼馴染は、相も変わらず脳天気に無線通信を寄越してくる。
「待て待て、俺達は成人したと言ってもまだ20歳未満だ。シャンパンじゃなくてシャンメリーしか飲めないぞ?」
「シャンパンはマズいから嫌いだよ〜。僕たちにはシャンメリーで十分」
ガラガラガシャンガシャンと音を立てて対爆シャッターが車体の分だけ開き、トラックが地下都市に通じるトンネルに入っていく。
遺体を抱えた2人のアサルトスーツが入るとすぐにシャッターが閉じ、誘導灯だけが光源となって薄闇を照らした。
2.
回収したジャンクの残骸や遺体を海兵隊と企業に預け、アサルトスーツを脱ぐとジャンカーのお仕事はおしまいである。
ふたりとも所属している企業は同じ。社宅住まいなので帰る道も同じであった。
「さて、帰って祝杯でもパーッとあげようよ〜。けんちゃん!」
「…明日死ぬかもしれないのに、脳天気だねお前は。それとも本当に自分には弾は当たらないと思っているのか?」
エリカはふふん、と鼻を鳴らし、豊満な胸を誇るかのように胸を張って言い返す。
「僕は死なないよ。けんちゃんが約束を果たしてくれるまでね!」
「戦場に英雄はいない。俺の知っている英雄はみな死んだか、とうの昔に引退して後進の育成に精を出しているよ」
「む〜。けんちゃんはおじいちゃんっぽいねぇ。僕らはティーンエージャーなんだから、夢はもっと大きくもたないといけないんだよ〜?」
ブーブー。とエリカは口をすぼめて剣十郎を非難する。
「わかったわかった。認めるよ。確かにお前は天才だ。俺なんかと違って頭も回るし、現に被弾ゼロだもんな。
お前と組めて俺は最高にラッキーだよ。
…しかし何度も言うし、これからも言うだろうが、俺なんかと組んで本当に良かったのか?
お前の頭ならもっとデカイ会社に入ってジャンクどもの解析って楽な仕事にありつけたんじゃないか?」
これまた子供の頃から繰り返している剣十郎の疑問にエリカは更に口を尖らせて答える。
「僕たちは一心同体、生きるのも死ぬのも一緒だって言ったのはけんちゃんの方だよ〜」
「そうだ、そうだったな。『死に場所を決められるのは大人の特権』だったか」
エリカは不満気な顔から一転して笑みを浮かべると、剣十郎の前に出ると振り向いて言った。
「僕たちは一心同体。けんちゃんの側が僕の居場所。
けんちゃんがジャンカーになるなら僕もジャンカーになるし、地獄に堕ちるなら一緒に堕ちてあげるよ♪」
剣十郎はエリカにこの笑顔でこう言われると、何も反論出来なくなる。
と同時に、全ての事件の元凶が彼女でないことを心から思うのであった。
3.
一方、企業のトラックに積み込まれたジャンクの残骸は工場に到達するやいなや、
部品単位までバラバラにされ、鉄は鉄工所へ、アルミはアルミ回収業者に引き取られる。
CPUとAIは解析班の手に渡り、ジャンクたちを生産、配備し続けている工場の手掛かりを掴む為に徹底的に解析される。
ジャンクに内蔵されていた火器類は弾薬、ミサイルを含め全て自衛隊に回収されることとなっており、民間のジャンカーがこれらを装備することはない。
解析の終わったCPUとAIはこれまたIT企業の手に渡り、
パソコンなどのCPUや工場のロボット用制御用品として生まれ変わる。
地下都市に出回っているパソコンなどの機械類に搭載されているCPUは全て、
無力化したジャンクの残骸から回収したCPUをリバースエンジニアリングして
安定して生産可能なレベルまで技術レベルを落として生産されたものである。
唯一例外として、アサルトスーツを制御するCPUはその時点で生産できうる最高性能、品質のものが採用されている。
企業が安くはない費用を払って独自にジャンカーを雇い、
ジャンクを回収して解析していくのは第三次世界大戦勃発以降、失われた技術を人類側に取り戻す為でもあるのだ。
機密を気にして動きの鈍い防衛省と自衛隊員に対する不信感が高まっているのに対して、
民間企業の評価が高まっているのは企業側が地上奪還という人類の大望実現に熱心で、それらの活動が資している面も大きい。
この不均衡によって前線に立つのは決まって民間企業お抱えのジャンカーと民間企業製のアサルトスーツとなっており、
自衛隊のアサルトスーツを見るのは襲撃のない後方地帯となっている。
若い自衛官たちは民間企業に遅れを取るまいと前線に立とうとする者もいるものの、公職の禄を食む身では命令違反は重罪とあって、後方に控えているしかないのが現状である。
当然、技術の格差が両者の間には存在しており、ことアサルトスーツ製造、制御においては公的機関が民間企業の後塵を拝するのが半ば当たり前となっており、
自衛隊に配備されているアサルトスーツは民間企業製より性能が一段劣るものとなっている。
大阪、名古屋、東京、札幌と4つの都市圏にそれぞれある大都市圏統治政府は空の浄化に躍起になっており、それなりに成果を収めてはいるものの、地上奪還に関してははもっぱら民間企業の独壇場となっているのが2015年12月時点での様相である。
4.地下都市における生活について
地下都市における一般市民の生活は、ジャンクの脅威に脅かされてはいないという一点において地上生活に優越しているが、けして豊かではない。
食料品、衣料品は配給制となっており、配給される食品は培養肉と水耕栽培された野菜が主となっている。
かつて人類が地上に都市を築いていた時代に、さも当然のようにあった自由経済、娯楽、文化の多様性は失われて久しい。
世界中に張り巡らされていた通信網は寸断され、復旧のメドは立っておらず、世界各国の一般市民は一生のうち大半を地下都市で過ごす事になる。
空の浄化が成功したあかつきには他の地下都市と交流するメドも立つはずであるが、
動きは鈍重なものの戦車を撃破可能な火力を持つマンモスと、その護衛であるダチョウの群れが闊歩する地上を車列を組んで移動するのは大変な危険であり、実現していない。
無数に設けられた地下都市の出入り口から外の世界に出るのは決まってステルス戦闘機とそのパイロットとジャンカーとその関係者位なものであり、
幼い子供はジャンカーの過酷な実態に反してそのヒーロー性に憧れる傾向が強い。
よってジャンカー候補になる人材が不足することはなく、成人年齢である18歳になるとジャンカー候補選抜試験を受ける者が後を絶たない。
電力は21世紀初頭に入って永久機関が発明されてから不足する気配はない。
衣食住を保証されているのは公務員かジャンカー位なものであり、
とみに新興の特権階級的な存在であるジャンカーに不満の感情を向ける者ー特に高齢者の不満がーも多く、警察もその対応に苦慮している。
5.
12月。地下都市はクリスマス・シーズンを迎えていた。
街のあらゆる所にクリスマスのイルミネーションが飾り付けられ、ティッシュ配りのお姉さんは軒並みミニスカサンタに変貌していた。
物資の消費を抑える為に当局によって規制されたティッシュは、まさしく極薄、といった感じだ。
「やっぱり民間のティッシュは硬いねぇ。鼻が切れそうだよ」
受け取ったティッシュで鼻をかみながらエリカがぼやく。
「大手以外は新聞紙を揉んだ程度しか柔らかくないからな」
「地上に出られたら、この深刻なモノ不足は解消されるのかなぁ?」
「空の浄化が進んでいるから空爆はされんだろうが、地上を車列を組んで移動なんてしていたらマンモスの30mm機関砲に狙われたら最後だし、マンモスとダチョウを地上から駆逐しない限り無理だろうさ」
「工場が見付かれば良いんだけどなぁ。クリスマスプレゼントはジャンク工場の場所であってほしいよ」
「どうせバンカーバスター対策で地上にはないさ。あるとしたら地下にしかない。
地上には出入り口があるのかも怪しいもんだ。だいたい、マンモスとダチョウたちがどこから出現するかすら分かっていないんだぞ?」
歩きながら、剣十郎が答える。
「兎にも角にも防衛省の機密解除が突破口になる。ジャンクたちが図面通りにお行儀よくそこに居たらだが」
「居ると思うな~。マンモスとダチョウが一緒くたってのは無いとしても、マンモスを造っている工場は臨海工業地帯のどこかに必ずある筈だよ。物資の節約を兼ねて、工場の建物はそのまんまだったりするかも~」
日本は資源小国だから、アメリカみたいに地下に工場を作るより地上に作っていたりするかもね、とエリカが返す。
「廃棄された工場群が奴らの本拠地である可能性は高いってことか」
「工場と言っても広いからね~。捜すのは難しいかも。やっぱり防衛省が鍵を握っていると見たほうが健全だと思うな~」
「やっぱり機密の壁か。この地下都市からジャンカーが消え失せないうちに指定を解除して欲しいもんだよ」
ジャンカーになってから以降、何度も繰り返してきた問答。
ひとつ。ジャンクどもはどこから出現するのか?
ふたつ。いつになったら防衛省の機密指定は外れるのか?
みっつ。この国は本当にジャンクを駆逐する意思があるのか?
答えはいつも一緒だった。
『防衛省が鍵を握っている。その鍵が扉を開けるのだ』と。
「結局、お役所頼みか。寿命が尽きる前に機密指定が解除されて欲しいもんだよ」
イルミネーションの群れが途切れ、無機質なマンションの入口が2人を迎える。
扉が主の帰還を認識し、自動的に開き、自室までの誘導灯が薄暗い道を照らした。
6.
「んじゃ、マンモス20体討伐を祝して。かんぱーい!」
「ああ、今日の生存と勝利に乾杯」
チン、とグラスを軽くぶつけあう音が部屋に響く。
食卓を彩るのはカロリーバーに加えて、一般家庭では滅多にお目にかかれない鶏肉の唐揚げと豆もやしのナムルだ。
比較的裕福なジャンカーでさえカロリーバーに培養肉と水耕栽培の野菜からは逃れられないのであるから、一般家庭における食事の光景なぞ殺風景なものである。
カロリーバーに水か麦茶というのが一般家庭の食卓の風景となって久しい。
「僕たちはジャンカーだからお肉が食べられるけど、一般家庭のことを考えるとちょっと申し訳ない気分になるね」
「お互いに親兄弟の居ない身で良かったとつくづく思うよ。親兄弟に仕送りとか出来ないもんなぁ」
カロリーバーにかじりつきながら、剣十郎が言う。
「いつか本物の鶏肉の唐揚げってのを食べてみたいもんだな。…俺たちがそれまで生きていられたらだけど」
「おじいちゃんになったら出られるようになる訳じゃないからね~。今後もゴミ掃除、頑張らないといけないね。今僕らはC級ジャンカーだから、目指すはB級ジャンカーかな?」
「ランクをむやみに上げると途端に高難度任務の嵐だぞ?実力がつくまでは現状維持がベストだ」
「む~。もうジャンカーになってから3ヶ月だよ?そろそろ僕らもベテランの仲間入りをしてもいいんじゃなーい?」
鶏肉の唐揚げを口に放り込みながら、エリカが不満気に返してくる。
「まだ3ヶ月、だ。油断してると明日の任務でハチの巣になるぞ?」
彼等がジャンカーの最底辺であるC級ジャンカーに甘んじているのは、彼らなりの計算あっての事だった。毎日出現報告があげられてくるダチョウとマンモスの討伐に精を出しているのは、高難度任務をあてがわれるのが嫌いだからである。
「ハチの巣は嫌だなぁ。そうならないように、隊長さんには迅速な任務遂行を期待する~」
「いつも迅速じゃないか」
「奴らだってバカじゃないんだから、そろそろ僕の回避パターンを解析されてもおかしくはないと思うよ~。ランダム回避運動のアルゴリズムを変えないとね~。そうでないと踏み潰されたりハチの巣にされたりしかねないし」
「こっちもそろそろ高周波ブレードの整備を頼まないとな。アレって刃がダメになったらただの棒だし」
「ハンマーにしたらぁ?どのみちセンサーの需要は尽きて久しいんだから、派手に壊しても文句出ないでしょ~?」
「手数を減らすのは大歓迎だが、重たいのは嫌いだな。同じ2手ならブレードでいいよ」
最後の唐揚げを口に放り込みながら、剣十郎が応じる。
「結局、明日もまた地上でゴミ掃除かぁ。たまにはゴミ掃除以外の任務も受けてみたいよ」
「文句なら会社と防衛省に言ってくれ。さて、飯も食べ終わったし、解散しよう」
使い終わった食器と箸を回収ボックスに入れると、輸送用コンベアの駆動音が響き、それらを洗浄工場に送る音が響いた。
7.
「結局、今日も収穫は無しかぁ。何のために哨戒しているのか不安になるよ」
翌日、東京近郊にある工場地帯。人気のない建物の間をホバーで滑走しながら、
エリカが不満気な声をあげる。
「ぼやくなぼやくな。ジャンクと遭遇したらいつものように処理するんだぞ?」
「ココはジャンクのテリトリーじゃないから大丈夫だよ~。けんちゃんは心配症だなぁ」
「慎重と言ってくれ。いつ何時遭遇してもおかしくはないんだ、派手に動くと目立って奴らがやってくる可能性もゼロじゃない」
「へへーんだ。マンモスの機関砲の動きより僕の方が速いもんね!」
当たらなければどうということはないよ~ん、と余裕を含ませてエリカが返してくる。
「万が一ってのも考えてくれよ?お前に何かあったら俺が困る」
「ジャンカーは一心同体。分かってるよ~」
ツーマンセルを保てる距離を維持したまま、シンと静まり返っている工場を疾走する。
「ジャンクの工場がココのどこかにあるかもしれないんだ。慎重な行動をしないと後で痛い目に遭うぞ」
「はいはい、分かりましたよ~っと。…ってけんちゃん、12時の方向に動体反応!」
「お仲間か?」
「いや違う。ジャンクだ!」
シャッターが開きっぱなしになっている工場の建物内に、マンモスの巨体が見えていた。
接近する2つのアサルトスーツをロックオンし、ガタガタガタガタ!と機関砲が遊底を作動させる音を立てるも、弾が切れているらしく砲口から機関砲弾が吐き出される様子はない。
2人は走行をやめ、建物の入り口で会話する。
「なんだこりゃ…正真正銘のゴミじゃないか」
「だね~。でも何でこんな寂れた工場の中に居るんだろ?ダチョウの護衛もないし、良い的だよ」
「…エリカ!足元に金属反応だ!ここだけ偽装されているがシャッターになってる!」
足元を注意深く観察し、剣十郎が言う。
「なーるほど、工場がこの下にあるって事だね!自衛隊と本社に連絡しなきゃ」
「そうだな。こいつは大発見だぞ!もしかしたら製造もやってるかもしれないんだからな!
うまくすれば関東圏各地にいるマンモスどもを駆逐する足がかりになるぞ」