表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

空に捧ぐ唄

作者: 津田 塩基

探し求めている唄は、いったい何処にあるのだろうか?

私の声を得て、水を得た魚のように、風を得た鳥のように、なんの違和感もなく響いてゆく。

そんな曲は、いったい何処に…



●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●



幼い頃の私は、精霊達に唄を捧げていた。

精霊達は踊り、私は歌い、それはそれは楽しかった。


唯一の悩みの種は、その場にもう一人でも人間が来ると、中断されてしまう事だ。

とめられるにせよ、とめられないにせよ、雰囲気のシャボン玉を壊されてしまうのだった。


原因は、“音が外れている”からだそうだ。

けれど、あの頃の私には意味が分からなかった。


そもそも、この場合の“音”とは何なのか?


私にとっては、辺りに広がる色で、それを生み出す振動である。

けれど実は、音程という音の高さの座標だったのだ。


その事に気が付いても、しばらくは頓着しなかった。

けれど次第に歌う自由が脅かされてゆく中で、私は音の高さの座標を聴き取る努力をはじめた。


次第に音の座標を把握し、音程なるものを解き明かしていった私は、もう音痴と言われることはない。

歌う自由を手にしたのだ。

また、何かを理解してゆくのは、純粋に好ましく楽しい。


けれど、そんな私の唄に、精霊達が踊ることはなかった。


代わりに心優しい人間の誰かに、聞いて貰えばいいのかも知れない。

けれども私は、精霊達に聞いて欲しかった。


…いいや、そうではない。

人間の誰かに、精霊達が見ているのと同じ色を見せたくて

そして精霊達には、旋律の美を聴かせたくて


その為には、たった一曲でいい。

メロディーを追いながら、色の振動を殺さない、むしろ相乗するような…

そんな唄との出会いが、必要なのだ。



●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●



近頃、日常に追われている感が否めない。

それでも私は、思い出すように唄を探している。


すっかり大人になった何でもない私の唄など、もうどんな精霊だって人間だって、聞きたいとは思わないだろう。

それでも、たった一精でいい、一人でいい。

聴かせたい。


そうすれば私は、この命に満足して、いつか死んでゆくことが出来るだろう。

これは唯一無二の恋人を見つけ出すよりも難しく、一方で誰しもがそうなる可能性を秘めている。

 

そしてこればかりは、相手が恋人では意味が無いのだ。

不愉快で不可解で、律儀で礼儀正しい…そんな相手が理想的だろう。



●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●



私は人並みに唄う自由と引換に、精霊達に捧げる唄を失った。

けれど変わらず、語り合っている。

精霊達が奏でる色も、人が紡ぐ旋律も、私の当たり前の毎日。


私は、私の世界を繋ぎたい。


一つになって欲しいとは言わない。

けれど、私以外の何処かで繋がっていて欲しい。


だから、その可能性を求めて唄を探す。

誰かが作った唄を探す。


残りの一生の全てでも見つからないかも知れない。

もしかしたら明日、見つかるのかも知れない。

もしくはその曲は、まだ作られていないのかも知れない。


求める唄が見つかるのまでは、空に唄い問いかけよう。


『私の声を得る唄は、この曲でしょうか?』






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ