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第二話 四

 ナナシは敵の注意を引きつけ、相手に捕まらないように巧みに攻撃を躱しながら、付かず離れずの距離を取る。

 彼が囮になっている間、天羅は敵の幾重もある包丁が固まった玉に向かって近づき、爆薬をセットした。

 この年度状になっている設置するタイプの爆薬は、進行方向にある壁とかを破壊するのに使う予定だったものだ。

 彼は玉に爆薬をくっつけると、爆薬を爆発させる起爆装置を片手に、急いで身体を反転させてその玉から離れる。


「設置完了だ! ナナシ、奴を玉の場所まで誘導してくれ!」


 ナナシは彼の言葉を聴き、こくりと頷いた後、追いかけてくるデセスポワールをチラッと確認しつつ、玉の方へ走る。

 天羅はナナシが玉の方に近づいた事によって爆発する時に、ナナシも巻き込んでしまう事に気づいてしまい、戸惑った。


「なんてこった、引き付けさせるのは良いが、あれではナナシにも当たってしまう。どうするべきか……」


 ナナシは躊躇している天羅に気づいて、すぐさま走りながら大声で話しかけた。


「俺ごと爆破しろ」


「しかし、それだとお前も死ぬぞ! 流石にまだ俺はアリス嬢ちゃんに恨まれたくない」


「大丈夫だ、問題ない」


 彼はそう言うと、何故か足を止めて、敵の方へ身体を向ける。

 そして、ナナシは犬の伏せのような格好を取るとエリマキの部分を広げ、それをまるで岩のように固まらせ、甲殻を作り出した。

 彼はどうやらあの傘を爆発を防ぐ盾として利用するらしい。


「あれは……!」


 天羅はナナシの意図が分かり、起爆装置のボタンに指を掛ける。


 そして、躊躇せずにスイッチを押した。


 それにより、爆薬は爆発し、おおきな爆音を奏でて玉を粉砕する。

 玉は粉砕され、玉の元になっていた包丁が辺りに四散する。

 飛び散った包丁はデセスポワールの身体に見事数発命中し、奴は痛みで苦悶の声を上げた。

 当然飛んだ包丁は奴だけでは無く、ナナシにも襲いかかる。

 だが、ナナシはあらかじめ展開した甲殻化した傘を盾代わりにし、飛んできた包丁を全て弾き返した。


「よし、奴が今の攻撃で動きが遅くなったぞ!」


 後は、結月が奴に向けて電流を放てばフィニッシュだ!


 彼はそう思い、後ろを振り向く。


「う…… っぐ…… まだ、一発…… しか撃ってないんだよ……」


「ゆづきさん! だいじょうぶ!?」

 

 結月は脂汗を垂らしながら、自分の左手で右腕を抑える。

 見ると、彼女の右腕は何やら刃状から三又ぐらいに分かれており、そこに何かの生き物のような肉が付いている。まるで、新しい生き物が彼女の右腕から生まれてきているような状態だ。

 結月は息も絶え絶えで、両足が震えている。今にも倒れそうだった。


「あぁ、なんてことだ…… やはり、適合者は不完全な存在なんだな。クソッ!」


 彼は彼女の悲惨な姿を見て、頭を抱えて呻いた。

 ナナシは天羅が何故悩んでいるのか、全く分からず、いつ再び襲ってくるか分からないデセスポワールを見ながら天羅に問いかけた。


「一体どうした?」


「彼女が自分の力を抑えられずに奴らの仲間入りをしそうになっているのさ、ともかく、このままではアリスと俺達にも危険が及ぶかもしれん」


 天羅は苦虫を潰したような顔で、彼に説明すると、ナナシはすぐさま淡々とした声で答えた。


「アリスが危険になるのならば、俺は彼女を連れて今すぐここから離れる」


「それは許さんぞ、そんな事をしたら俺が彼女を殺す」


 天羅は彼がそう答えると予期していたのか、すぐさまナナシへ銃を向ける。

 既に引き金に指を掛けており、いつでも発砲できる状態だ。


「そうか、ではお前から片付けよう」


 ナナシは天羅から感じる明らかな殺意に反応し、尻尾を振り上げて、彼に向かって威嚇する。

 前足にはブレードが生えており、ナナシも天羅を殺すつもりだ。


「ま…… まって、二人共…… わ、私はまだ、やれるわ! だから、争わないで!」


 先程まで、二人で協力していたナナシと天羅が敵と戦っているこの緊急事態に、結月は気づき、すぐさま二人に向かって叫んだ。

 自分のせいで敵同士として睨み合いを始めた二人に、結月は「ごめんね」っと言い、涙を流しながら口を開いた。

 

「自分のせいで、誰かが争うなんてもう嫌よ…… もう、私はあの頃と同じ過ちを犯したくない!」


 彼女は泣きながらも決意を込めた瞳で、敵を睨むと、自分の変異した右腕を敵の方へ向ける。

 そして、デセスポワールに向けて全力の電撃を放った。


「ぎえああああああ!!」


 電撃は敵の中心に命中。デセスポワールは悲鳴を上げながら動きを止めた。

 まだ死んではいないが、相手は一時の間は行動不能だろう。


「結月……」


 天羅は結月を一度見てから、目を逸す。

 彼女の身体…… 右腕から右足までデセスポワールみたいな肉体に侵食が進んでおり、彼は見ていられなかった。

 自分がナナシと争った事で、結月を追い詰めて全力を出させてしまった。それにより、彼女を化物へ一歩近づけてしまった事による罪悪感で、彼は彼女に「すまない」っと謝る。

 そんな中、ナナシは相手の動きが止まった事により、素早くデセスポワールに近づき、尻尾の刃と前両足のブレードを使って切り刻んで止めを刺す。


「ゆづき、ねぇ。おねがいだからばけものにならないで…… はやく、もとにもどって」


 アリスは涙を堪えながら、彼女に人間に戻ってくれと懇願する。

 結月は必死に力を抑えようと頑張るが、どうしても元に戻れなかった。

 むしろ、どんどん彼女の侵食は激しくなっており、彼女の右半身はほぼ、人間とは異なる生物に変わろうとしていた。

 

「もう、駄目みたい…… ごめんね、アリスちゃん」


 彼女が諦めの言葉を口にした時、ナナシと天羅が彼女とアリスの下へ戻ってくる。

 今回、ナナシはデセスポワールを倒したのでエリマキトカゲのような傘を畳む。そして、その姿の状態で、「グルル」っという、若干獣じみた唸り声を出しながらも抑揚の無い声で喋った。


「アリス、パパを探しに行こう」


「あ、あれ…… ナナシがしゃべってる…… なんで? あ、だめだよナナシ。まだわたしはゆづきとはなれたくない。ねぇ、ナナシ…… ゆづきをたすけてあげて、ナナシ……」


 アリスは涙ながらに縋るように両手を祈るような形で胸の前で組み、ナナシへ彼女を助けるよう求めた。

 ナナシは結月を一度瞳の無い顔で彼女を見た後、下の方へ顔を向けて考える。


「落ち着くんだ、アリスお嬢ちゃん。まだ方法が無いわけでは無い」

 

 ナナシは答える事が出来なかったが、代わりに天羅が答えた。

 突撃銃を肩に片手で担ぎながら、彼は先程の戦闘で疲労し、額に汗を流しつつも丁寧に彼女へ話しかける。


「適合者は特殊弾を打てばある程度侵食を止められると思う。一度も試した事が無いがな……」


 天羅は少し悩みながらも、決心がついたのか、結月に向けて銃を構えた。

 彼の突飛な行動にアリスは驚き、すぐに彼女を庇うように前へ両手を開いて出た。


「だめ!」


「アリス嬢ちゃん、別に結月を殺すつもりは無い。彼女を化物にしない為にはこれしかないんだ」


「うっ……」


「なるほど、毒を盛って毒を制す、悪くは無いが死ぬぞ?」


「細胞が死んだ弾を使うんだ、大方弱い奴では無いだろうし適合者はまだ人間の肉体だ。変異した部分を撃てばその箇所だけを殺す事が出来るだろう」


 天羅は自分の仮説をナナシに自信を持って話すと、ナナシはこくりと頷いてからアリスの方へ顔を向けた。

 

「アリス、下がれ」


 ナナシは抑揚の無い声で、アリスに命令する。

 彼女は少し嫌そうにしたが、しかし、天羅の言う事は最もなので渋々ナナシの隣へ行き、彼の畳んである甲殻から元通りになっているざらついてるが柔らかい傘をゆっくりと掴んで心配そうに結月を見た。

 結月はアリスが心配そうにこちらを見ている事に気づき、安心させるようにこくりと頷いて、笑顔を作る。


「大丈夫、私は…… まだ、死なないよ」


「それじゃあ、撃つからな。もし仮にお前が死んでしまったら決してゾンビにはしない」


 彼はそう少し固い声で言うと、銃を彼女の変異している部位に向けて構える。


「ありがとう、ところで聞きたい事があるの…… 貴方にとって、適合者は人間? それとも化物?」


 結月の問いに、天羅は少し考えたものの、彼は淀みのない真っ直ぐな声で彼女へ答えた。


「…… 残念ながら人間とは認めない、認められない…… かといって、化物だと一括りには俺はしないよ」


「そう…… 良かった」


 彼の答えに彼女は少し微笑むと、銃を向けている天羅に頷く。

 天羅はほんの少し引き金を引く指の力を弱めたが、少し目を閉じて覚悟を決めると、引き金を引いて銃弾を放った。

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