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第二話 三

 ナナシがデセスポワールと激しい戦いを繰り広げられていた一方。

 

 学校


 アリスは古い廃墟となっている学校の教室で震えていた。

 彼女の視界の先には、現在でもたまに見かける『マネキン』という人間の形をした物体がまるで無数にこねくり合わされ合体したようなデセスポワールの姿があった。

 デセスポワールはアリスの護衛を担当していた兵士の死体を廊下まで引き摺り、そのままどこかへと運んでいく。

 助けに来た彼と同じ兵士達も、死んだ彼と同じように殺された後、どこかへと運ばれていた。

 もう、彼女を助ける人間がほとんど居なくなっている。しかし、まだ彼女は運が良いと言える。

 何故なら、鉄臭い血の匂いで充満しているこの場所では、デセスポワールはアリスがこの場所で隠れている事に嗅覚で気づいてなかったみたいだからだ。

 聴覚もあるのだろうが、ナナシ以上にはそこまで聴ける範囲が広くなく、人間並みなので動いていないアリスに気づけない。

 しかし、あまりにもショッキングな出来事が目の前に起き、恐怖でアリスは縮こまって震え、歯をカチカチ鳴らしている。完全に動けなくなっていた。

 

 少しすると、消えたでセスポワールとは入れ違いの形で、アリスの隠れている教室内に二人の男女が入ってくる。

 アリスは突然足音がして、顔を上げた。

 

「アリスちゃん、どこ!?」


「こ、ここ」


 アリスはまだ目の前で起こった恐怖の緊張で、あまり声が出せなかったが、身体を何とか奮い立たせてふらつきながらも彼らの前まで歩いてきた。


「あぁ、良かったわ! ごめんね、もう大丈夫だよ」


 どうやら、二人もアリスが見ていたデセスポワールに出会ったらしく、ここに居たアリスは死んでいたと思ったのだろう、心の底から安堵していた。

 結月はアリスを安心させる為に彼女の背中に両腕を回して、優しく抱擁する。


「もう、もう大丈夫だからね」


 アリスは彼女の優しさに、ほんの少し安心感を取り戻して、涙を流しながらもゆっくりと頷いた。

 

「あの血の跡は…… ちっ ともかく奴が戻ってくる前にサッサとここから出ないと……!」


 天羅はそういうと、突撃銃を構えながら警戒する。

 時間があまり無いと分かり、結月はアリスから身体を離すと、彼女の手を取って、ピストルを構えながら彼女の手を取ってごくりっと喉を鳴らしながら早足で歩く。二人を先導するのは天羅だ。

 廊下を通り抜け、そろそろ入口まで近づいた。

 だが彼らが出入り口にたどり着き、外に出たその矢先。兵士を引き摺ったデセスポワールが壁を破壊して、彼らの前へ現れる。


「クソッタレ、もう来やがったか」


「頼むからこいつも弾が効かないなんてことは無いよね?」


 結月はアリスを自分の背中に隠して、ピストルを奴に向けて発砲した。



 一方その頃。



 モノクロのような霞がかった風景。

 そこは、とある建物の部屋で、一人の白衣を着た男が、十七歳くらいの少年に話しかけていた。

 白衣を着た男は無言で彼の手を取り、そのままどこかに連れて行こうとする。

 少年は訝しげの顔で、彼に話しかけた。


「俺をどこに連れて行くつもりなんだ? アリスは、彼女はどこ?」


「君の父親もアリスもここには居ない。もし、君が大人しく付いてくるのであれば二人に会わせてあげるよ?」


 白衣の男はそう答えると、少年は顔を俯かせて、頷く。


「本当か? …………分かった」


 それから場面が代わり、手術室。


「さてと、じゃあそこへ寝てくれ」


「この台か?」


「そう、そこだ」


「一体俺に何をするつもりなんだ?」


「ほんの少し、君の身体を調べるだけだ。なぁに、心配するな、すぐに楽になる」


 手を引いた男は彼を手術台に少年を寝かせると、二人の助手に命令をした。

 助手は彼の命令にこくりと頷き、少年の腕に注射器を刺す。

 すると、少年は全ての感覚が途絶え、意識を深い闇の中へと手放した。

 


「俺の頭の中に映ったのは一体何だ?」


 人間の姿に戻っているナナシは、頭を抱えて、先程流れた映像について考える。

 多分、記憶と呼ばれるものだろうっと、彼は考えるが、自分にはあんな事が遭ったなんて頭には無く、さっぱり分からない。


「そういえば、喋れるな、俺」

 

 彼はそう抑揚の無い声で、自分が予想していた事をぼそっと呟いた。


「以前に食べた時、俺は…… 何故か何でも食べなくはなったな。きっと理性というのかな? 多分それだろう」


 ナナシは更に独り言を続ける。


「という事は、俺が次に手に入れたのは知識…… か? 多分頭の中に流れた映像を見る限り、俺は人間だったみたいだな」


 ナナシは自分の事なのに、客観的にそう結論付けると、歩きながら続きを話した。


「今まで言葉とか分からなかったから、少し便利だね、知識。ところで何故俺はアリスを守らないといけないんだろう? 分からないけど、きっと大切な事だと思う。ともかく……彼女はどこだ?」


 彼は改めて、辺りを見てからアリスの姿を探す。しかし、彼女だけで無く、人の気配自体が無い事に首を傾げた。

 ナナシは目を閉じて耳を澄ませる。

 すると、ここでは無い少し離れたところで物音、銃声、他にも爆音や悲鳴、それとアリスの声が聞こえた。

 彼は彼女の危機を察して、すぐに動いた。


 

「ぎゃあああ」

 

 デセスポワールの身体から出ている無数の手に捕まった兵士は、いとも簡単に四肢を引きちぎられ、地面に捨てられる。

 他にも生き残った傭兵や兵士がデセスポワールに銃を撃ち続けるが、相手は全く効いていなかった。

 どうやら、例の特殊弾が効かないデセスポワールらしい。

 

「おい、しっかりしろ! 結月!」


 最初に相手をした結月は倒れていた。

 デセスポワールの攻撃を喰らったのだろう彼女の腹部にはポッカリと穴が空いており、そこから内蔵が見えている。かなりの重傷だ。

 天羅は突撃銃を敵に向かって乱射し、狙いを自分に付けさせ、すぐに生き残っている仲間に早口で結月を介抱するように命令すると、デセスポワールへ向かっていった。

 アリスは自分を助ける為に身代わりになった結月の次に、今度は自分を助ける為に玉砕覚悟で囮になろうとする天羅を止めようと、声を出そうと口を開いたが、もう止める間もなく天羅は敵と肉薄していた。

 天羅や結月の味方は前回の戦闘で被害を受け、更に今回の襲撃と重なり、ほとんど全滅寸前まで数を減らしている。

 それにより、天羅は自分を囮にするしかアリスや他の怪我人を助ける術が無いと思って、行動したのだ。


 このままでは結月だけじゃなく、天羅も死んでしまう……!


「ナナシ…… たすけて!」


 アリスは藁にも縋る思いで、ナナシに助けを求めた。


 すると……


「アリス、来たよ」


「ナナシ!」


 ナナシは無表情のまま彼女の前へ現れるや、こくりと頷いた後、すぐさま人間の皮を脱ぎ捨ててデセスポワールの姿になる。

 そして、天羅へ襲いかかっていたデセスポワールへ彼は素早く近づくや襲いかかった。

 だが、デセスポワールはいくつもある手で身体をガードするや、飛びついてきた彼を捕んだ。

 マネキンのようなデセスポワールは殺した人間のように彼の前足と後ろ足を掴んで引きちぎろうと、ぐっと力を加える。


「あれはまずい……!」


 天羅はいくらなんでもデセスポワールの中で華奢な体型をしているナナシが、あの攻撃に身体が耐えられるわけが無いと思い、助けようと銃を発砲する。

 効かないと分かっても、せめて、衝撃でナナシを落とせればと思い攻撃したが、彼の行動は徒労に終わる。


「うっ……あっ……」


「結月さん、動かないでください。出血がひどいですよ!」


「あ…… だめだよ、ゆづきさん!」


 結月は目が覚め、身体を起こす。

 身体を起こした瞬間、彼女の腹部にあるぽっかり空いた穴から血が大量に吹き出した。

 それを目にし、すぐに介抱を命令された兵士は彼女を止めようとするも、彼女がそれを拒む。

 そして、結月は歯を食いしばって、立った。


「ま、任せて…… アリスちゃん…… 私はそう簡単に死なないよ」


 彼女は額に汗をびっしりと張り付かせながらも、口を両手で押さえて青くなっているアリスに心配かけないように必死に偽りの笑顔を作る。

 それから、前のデセスポワールを見据えて、ゆっくりと右手を前に出した。


「ほ、本当は…… あまり、使いたくなかったんだけどね…… 今日は特別だよ!」


 結月がそう叫んだ刹那。

 彼女の右手が真ん中から大きく裂け、多くの血と共に、骨のような、白いブレードが姿を現す。

 結月のそれは、ナナシが右腕から生やしたあのブレードと似ていた。

 そのブレードを彼女が出した瞬間、結月の腹部にある大きな傷口が素早く修復され、右手から人間では無い何かが飛び出している事を除けば彼女は無傷になっていた。

 

「ゆ、ゆづき…… さん?」


「アリスちゃん、ごめんね。私、ナナシとは違うけど…… 私も化物なんだ」


 彼女はアリスに寂しそうに笑いかける。

 結月の左目にはまるでデセスポワールの身体にあるようなコアが埋め込まれており、美しかった顔が左顔の部分だけ血管が脈打ち、ドクンドクンっという心臓のような音を奏で、左目と合わせて醜悪な感じに変貌していた。

 彼女はすぐにアリスから目を離し、ナナシを捕らえているデセスポワールにブレード状になっている右手を構えて、その右手から電撃を放った。

 結月の放った電撃は見事、敵の身体に命中し、デセスポワールは悲鳴を上げて、ナナシの身体を手放す。

 ナナシは一瞬彼女にこくりっと頷くとすぐに敵から離れて距離を取った。


「あいつに近づくのは危険だな」


 ナナシは当たり前の事を呟く。

 すると、近くでナナシの言葉を聞いた天羅が驚いた。

 何故なら、今まで一言も発さなかったうえ、しかも化物状態の彼が口を開いて人間の言葉で喋ったからだ。


「お、お前! 喋れたのか!?」


「俺と同族の奴を喰らったからだろう、確かデセスポワールだったか? ともかく、そいつを喰らって知識を得た」


「なんだと? 全く、結月が適合者だという事も驚いたが、お前も大概だな…… お前達の生態は一体全体どうなってるんだ? 謎しか無いが」


「気をつけろ、死ぬぞ」


 見れば敵は何やら形を変えて、包丁みたいなものをいくつもある手が全部握っていた。

 そして、その鋭利な武器をナナシと天羅に向けて放つ。

 天羅は素早く銃を構えて自分に向かってくる飛翔物を的確に撃ち落とした。

 ナナシも敵の攻撃を自分の尻尾で薙ぎ払い、飛翔物の一つは敵に打ち返した。

 彼の打ち返した包丁が自身の身体に突き刺さり、デセスポワールは少しだけ身をよじる。


「こいつらは同族、又は自身の攻撃に弱い」


「なるほど…… しかし、特殊弾の成分は確かこいつらの死骸から摂取して作られた弾だが、何故それが効かないんだ?」


「死んでるからだろう、細胞が。弱い同族ならそれでも充分死ぬだろうが、今戦っている奴らには効かんぞ」


「それはお前にもか?」


「だろうな、しかし、俺の場合は同族といえど何かが違う気がする。現に同族から襲われてる」


「敵と認識されているのか…… って、クソッタレ、第二波が来るぞ」


 彼らが話している間に、どうやら敵はもう一度手の中に包丁を生成させたらしく、全ての手に武器が持たされていた。


「二人とも、少し伏せて!」


「げっ」


 結月はもう一度右手から電撃を放出。

 すぐに天羅は地面に滑るように伏せて回避し、ナナシも犬の伏せのような格好を取って、頭を伏せる。

 電撃は敵のど真ん中に命中し、当たった部分が黒くなる。

 そして、敵の持っていた武器にも電気が通り、全ての武器がまるで磁石のようにくっついて玉になって転がった。

 包丁が玉になるときに敵の手を傷つけたのか、無数にある手のうち、何個か傷口から血を垂れ流していた。


「くっ…… 次の攻撃まで少しチャージしてるからそれまで敵を引きつけてて、二人共!」


「二人…… っというより、一匹と一人だがな」


 天羅は小さくぼやきながらも、すぐに立ち上がり、銃を構えながらナナシに話しかけた。


「少し作戦がある、聞いてくれ」


「なんだ?」


「あのデセスポワールは確か自分の攻撃と仲間の攻撃は効くんだろ、なら、あいつの作った包丁が固まった玉を爆発させて包丁を飛び散らせて奴に当てる」


「なるほど、ならば俺が奴を引きつけよう」


 ナナシはそう淡々と答えると、囮になるため、すぐさま敵に向かって走り出した。

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