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第二話 一

「お、お前は……!」


 天羅は彼があの時死んだ少年だとすぐに分かり、彼は驚愕の声を上げた。

 そして、すぐにズボンのホルスターに入れてあるリボルバーを取り出すや、彼の頭へ照準を合わせる。

 彼が明確な殺意を持って、自分を狙ってると分かるや、ナナシはゆっくりと立ち上がった。

 その瞬間、天羅は発砲した。

 乾いた火薬の音が部屋中に響き、アリスはがたがた震えながらあまりの音の大きさに耳を押さえた。

 ナナシは身体を逸らして避けており、撃った天羅へゾッとするような無表情でゆっくりと近づく。

 アリスは先程までの和やかな雰囲気から、一気に殺意が満ちて、緊張状態に入った二人に顔を青くして口を戦慄わななかせた。


「ちょっ…… ちょっと、待ちなさい! いきなり武器も持っていない子に何銃を撃っているの!?」


「結月、こいつに近づくな! こ、こいつは死んだ筈なんだ、生きている筈がな…… 」


 彼は震えながら彼の頭に銃の照準を合わせ、彼女に大声で話したその時。

 ナナシは体勢を低くして彼に向かって疾走し、右腕を広げる。

 すると、右腕の皮膚がブチブチっと裂け、血を垂らしながら刃みたいなものを生やした。

 そして、天羅の首へ向かって一閃する。

 天羅は紙一重で頭を下げて回避した。

 

「こ、こいつはもしかしてデセスポワールか!? 結月、こいつは俺が相手をする! お前はすぐに仲間を集めてくれ!」


 天羅は命の危機に、どっと冷や汗を垂らしながらすぐに、銃を構えて動き回りながら結月へ命令をした。


「嘘でしょ…… 本当にデセスポワールなの? それにしては見た目、人間のようだけど……?」


 しかし、結月は冷静にナナシを見ながら答えた。

 迫りくる攻撃を屈んだり、受け流したりして回避しつつ、天羅は冷静に見るだけで助けてくれない彼女へ苛々する。


「じゃあ、こいつをさっさと止めてくれ!」


 天羅は再び眼前まで迫ってきた刃を両手を使い、辛うじて真剣白羽取りをした。

 ナナシは必死に彼の頭を割ろうと、下ろすも、彼が受け止めているせいで中々下りない。

 それならばっと、ナナシはまだ自由になっている左腕から、刃を右腕と同じように皮膚から生やした。

 ナナシは左腕の刃を振るって、天羅を殺しにかかる。


 しかし……


「ナナシ、ダメーーーーーーーーー!!」


 突然、アリスが今まで発した事のないような大きな声でナナシに叫んだ。

 ナナシはその時、アリスが自分を呼んだと思い、まるでビデオを一時停止したような感じでピタリっと動きを止める。

 それにより天羅は素早く身を屈んで足払いをし、ナナシが転倒した瞬間。流れるように彼を取り押さえた。


「化物め! 取り押さえたぞ!」


「ま、まって、ナナシにいたいことしないで!」


 アリスは彼が取り押さえられたナナシを助けようと、慌てて天羅へ近づいて懇願した。

 すると、天羅は訝しげにアリスを見て、彼女へ質問する。


「アリスちゃん…… こいつと君は一体どういう関係なんだ? まさか、君は化物では無いのだろう?」


「ナ、ナナシは…… にんげんじゃない! けど、わたしとナナシはおともだちなの! だから…… ねぇ、はやくやめて……」


 アリスは柔道の関節技で拘束され、取り押さえられている見るに耐えないナナシの姿を涙目で見て、スカートの裾を力いっぱい掴みながら声を震わせて必死に天羅を説得する。


「何故、君はナナシが化物だと言わなかった? 先に言っていればこんな事にはならなかっただろう?」


「だって、だって…… ばけものだっていったら、いやだっていってもナナシをころしちゃうじゃない! いまもやめてっていってるのに……」


「……」


 天羅はそんな彼女の言葉を聞いても、何も言わずに顔を背ける。


 すると……


「彼女が必死に頼んでいるのに、離してあげなさい頑固者!」


 今までただ観察に徹していた少女、結月はとうとう我慢が出来なくなり、天羅を強く蹴って、ナナシから退かせた。

 ナナシの身体は自由になり、彼は不思議に思いながらも立ち上がった。


「お、おい、何をする!?」


「子供がさっきからやめてってあんなに必死に頼んでるのに、いつまでもナナシを取り押さえてるからよ!」


「当たり前だ! もしこいつが再び暴れたら俺達は皆殺しにされてしまうぞ!?」


「ずっと二人で居たであろうアリスちゃんも?」


「うっ」


 天羅はアリスがナナシとずっと旅をしていたっという話を聞いていたので、彼女がその事を言うと、天羅は声を詰まらせて黙ってしまった。

 彼女はこえ見よがしに溜息を吐き、彼に話しかける。


「取り敢えず頭を冷やしたら? 世の中、『適合者』っていうのも居るのだから、彼もそうなのかもよ?」


「あぁ、彼は適合者の可能性があるだろう」


 彼は彼女の言葉に頷くも、青い顔をしながら、大きな声で自分の見た光景を思い出しながら語りだした。 


「だが、俺はこの目で見たんだぞ、彼が死ぬのを……! 四足の化物に切り裂かれ、倒れたこのナナシという少年の最期を! なのに、こいつは生きている。しかも、化物になってな!」


 彼はそう呻くと、適合者の説明を始めた。


「適合者、それは、危険と知りながらも自分の体内へデセスポワールの肉体を取り込む事だ。それにより、もし、デセスポワールの肉体が人間の身体に適応し、人間の身体の一部として機能するようになればそのデセスポワールの肉体から得た能力を人間が使用する事が出来る。しかし、もし…… いや、99パーセントぐらいこっちになるケースが多いのだが、デセスポワールの肉体を取り込んだ瞬間、人間の身体の細胞が拒否反応を示してしまい、取り込んだデセスポワールの肉体に過剰反応する。そして、その事により自身の身体に異常と変異が起きてしまい、自分もデセスポワールになってしまうっという、失敗のケースだ」


「えぇ、それは私も知っているけど、だけど何故その説明を?」


「適合者になるには生きている事が条件の筈だ。死んだ人間の肉体で、適合者何かになれるわけが無い」


 彼はそう断定すると、呻きながら頭を抱えだした。


「じゃあ、こいつは何者なんだ? 何故、アリス嬢ちゃんに付き添っている?」


「さぁ、だけど、こちらが襲わない限り、ナナシ君は襲いかからないっぽいからこのまま見逃すのが良いと思うよ」


「見逃す? 何を言っているんだ? 勿論本部へ連れて行って、研究するに決まっている」


 彼は断定口調でそう言うと、結月は彼に、ある程度予想を入れて怪訝な表情で聞いた。


「研究? もしかして、殺して解剖するつもりなのかい?」


「あぁ…… そして、身体の隅々まで調べ上げて、今後に備えた人類貢献のいしずえになってもらう」


「そんな事したら、確実にアリスちゃんが泣き喚くと思うけど? しかも、そう言う胸糞悪い話は心の中でしないとほら、アリスちゃんが君の隣でずっと聞いてたよ」


 天羅は必死に一人で語っていた、アリスが隣に居ることが全く分かっていなかった。

 彼はちょくちょく、興味深い事があったり、興奮したりすると勝手に思った事を口に出す癖がある。

 その為、隣を見たときにただでさえ人形のように白い肌を真っ白にし、目を真っ赤に充血させて今にも泣き出しそうなアリスが居た時、彼は慌てた。


「ア、アリスちゃん、分かってくれ! これは人間が生きる為に必要不可欠な事なんだ!」


 彼が近付こうとすると、アリスは彼が進んだ分後退し、涙目で呟く。


「……嘘つき」


「割と私が思う限り、人間は十分逞しいし、生き残れるとは思うけどねぇ」


 結月は慌てて言い募る天羅と逃げるアリスの二人を放って、他人事のように言う。

 すると、天羅は立ち止まり、それに反論した。


「確かにここ最近、デセスポワールに対して対策が出来、とうとうシェルター暮らしから解放された。だが、それでもまだまだだ」


「私的には十分だと思うけどねぇ、だって、コンビニのおばちゃんが重機関銃を片手に『いらっしゃいませー』だよ? 逞し過ぎだよ」


 彼女はやれやれと両手を広げて大げさな動きをしつつ、苦笑した。


「あぁ、あのおばちゃんは確かに逞しい。いや、……彼女を出されても俺が困る。ともかく、人類は再びこの地球の覇者になるべきだと俺は考える。デセスポワールを一匹残らず駆除してな」


 彼はそう言うと、一呼吸置いて、アリスに近づいて彼女の両肩へ手を置き、ゆっくりと語りかけた。


「だから、その為にはナナシを捕らえてすぐにでも研究しないと。人間に化けるデセスポワールなんて聞いた事が無いからな…… だが、その前に四足の化物を先に捕獲しないと」


 アリスは四足の化物という単語にビクッと反応し、天羅はそんな彼女の反応を見て、驚いた。


「もしかして、アリス嬢ちゃんは四足の化物を知ってるのかい? もし、本当の事を言ってくれたら彼の事は見逃してあげるよ?」


「み、みのがすってなに?」


 アリスがナナシの事で話に食いついた時、天羅は罠に獲物が掛かったというような感じでニヤリと笑う。

 本当はナナシの方も捕獲しておきたかったが、先に任務である四足の化物を捕獲しなければならない。


「つまり、ナナシには何もしない…… ころしたりとか、いじめたりとかしないっていう意味だよ」


「ほ、ほんとう? うそじゃない?」


「勿論とも、約束は必ず守る」


「え、えっとね!」


 アリスは本当の事を言えば、ナナシには何もしないっという、彼の言葉を信じて先程まで打って変わった元気な声で本当の事を話した。


「ナナシがね、そのばけものになるとね、ねこちゃんとかうさぎさんみたいなよんほんのあしになるのー!」


 その言葉を聞いて、天羅は勿論の事、結月も固まってしまった。


「こ、この少年が…… 依頼対象?」


 結月は押さえつけられている訳でも無く、未だに倒れ続けているナナシに指を差して、驚く。

 それは、天羅も同じ反応で、アリスの肩から手を離すと、今からどうするべきか頭を抱え始めた。


「全く、これは運命なのかそれとも神のイタズラか…… はぁ、全く」


 彼が悩んでそんな事をボヤいていたその時。

 

「ん?」

 

 ナナシが何の拍子も無く、首を傾げて突然立ち上がった。

 いきなりの行動でアリスを除く、二人は彼の方へすぐに向き、腰のホルスターにある銃へ手を掛ける。


「ど、どうしたの? ナナシ少年?」


 先程とは打って変わって、四足の化物が彼だと分かるや、結月は警戒心が籠った声で彼に質問した。

 彼は結月の方へゆっくりと顔を向け、首を傾げる。

 

「あ、そっか。言葉が分からないのよね」


 彼女は諦めたように苦笑する。

 

「しかし、何故突然立ったんだろう?」


 天羅は危険が無いと判断すると、彼女へ頷いてアイコンタクトした後、ホルスターの銃から手を離す。

 先程アリスに手を掛けないと約束したばかりなのだ、それにまた泣かれると自分が困る。

 彼は内心、約束なんてしなければ良かったと思いつつ、彼女の疑問に返事をした。


「大方、気まぐれじゃないのか?」


「うーん、やっぱりそうなのかな」


 彼女は若干腑に落ちない感じがしたが、考えても分からないので、取り敢えず警戒を解除してからアリスに近づいた。


「取り敢えず、アリスちゃん今までナナシ少年と一緒にここまで来たから疲れたでしょ? 今日はここでゆっくりしてね」


「う、うん」


「すごく痩せているけど、最近何か食べたりした?」


 彼女は腰を落として、アリスと同じ目線になって問いかける。

 アリスは少し考えて、これまでナナシと旅をしていて、自分が何かを口にした記憶が無いから首を横に振った。


「ううん」


「水とかは飲んだ?」


 これもまた首を横に振って否定する。


「ちょ、ちょっと大丈夫なの? すぐに今から食べ物と飲み物を持ってく……」


 彼女は慌ててそう言い、彼女の為に食事や水を持っていこうと、足を動かそうとしたその瞬間。



 突然、大地を揺るがすような爆発音と、いくつもの銃声が聞こえた。

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