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第一話 四

 笑顔の練習から数分後。


 ナナシはありすを連れて、次に田舎町みたいな所へやって来た。

 木造建築物はほとんど腐れ落ち、人が暮らしていた町は多種多様な植物が埋め尽くしており、さながら幻想的な森のような状態になっている。

 リスやねずみ等の小動物が木に上って二人を見下ろしており、小鳥が二匹、戯れながら飛んでいた。

 ありすはそんな美しい光景を初めて目にして、感嘆の声を上げる。


「ねぇねぇ! ナナシ、あそこにリスさんがいるよー! それにほら、ことりさんもあそこに!」


 彼女は嬉しそうにあっちこっち指を刺して、その度に興奮した様子で、ナナシに声を掛ける。

 ナナシは彼女の隣を歩いており、ありすがあっちこっち指を刺した方向へ律儀に顔を向ける。

 すると、彼は視界の先に気になる物を発見して、そこへ注視して足を止めた。

 

「どうしたの、ナナシ? ん、かんばん?」


 二人で田舎町の入口付近に立てかけられている看板へ近づく。

 看板はボロボロになっており、ほとんど朽ち果てていた。

 何やらこの古い看板には文字が書かれているみたいだが、ありすもナナシも生憎文字が読めなかった。

 まあ、ナナシは文字すら分からないが。


「んー、むずかしいでよくわかんない」


「うん」


「はやくパパをみつけて、おしえてもらわないとね!」


 ありすがそう締めくくると、ナナシも頷く。

 そして、二人は看板から離れて、先へと進んだ。


 ある程度町を進んでいると、まだ崩れていない建物がちらほらっと建っている。

 木造建築の建物は腐敗が進んで、殆ど崩れたりしているが、それ以外の建物は廃墟になっているぐらいで形は保っていた。

 中にはシャッターも閉じられていないスーパーマーケットもあり、ガラスの向こうの店内がはっきりと見えた。

 二人はそんな建物達を物珍しく見つつ、歩き続ける。

 ありすは観光気分で楽しそうだったが、それもすぐに終わる事となった。

 突然、ナナシは何かの気配を感じて足を止める。


「ど、どうしたの?」


 ありすはいきなり足を止めた彼にデジャヴを感じて、恐る恐る聞いた。

 すると、ナナシはそっとありすより前に出て、自分の背中に隠した。

 どこか彼は警戒をしている感じだ。


「え?」

 

 ありすは自分の前に立ったナナシに不思議に思いながら、彼の背中から恐る恐る顔を出して、こっそりと前を見る。


 すると。

 

「貴方達、こんなところで何をしているの?」


 ナナシの目の前にいきなりどこから現れたのか、若いポニーテールの少女、結月聖奈が立っていた。

 彼女はナナシの頭を狙って、ピストルを構えている。

 ありすは銃を構えている彼女を見て、慌てて危険を顧みず自分の身体を前に出し、聖奈へ話しかけた。


「お、おねえちゃん! だ、だめ! それ、どっかやって!」


 ありすがいきなりナナシの背中から現れると、聖奈は驚いた顔で彼女の顔を見た。


「えっ? 女の子!? こんな小さな子を連れて良く生きてたねぇ……」


 聖奈は驚いた様子ですぐに構えを解いて、銃をポケットへ突っ込む。

 そして、先程の警戒していた表情とは打って変わって、ニッコリと笑った。


「ごめんごめん、怖かったね。これで良いかい、お嬢ちゃん」


「う、うん。多分」


 ありすはちらりっと横に居るナナシを見た。

 しかし、今のところボーッとしていおり、何かをする気配を見せない。

 それを確認して、ありすはホッと一安心した。

 大抵、彼が人を襲っている時は人が銃を持って、ナナシに攻撃した時だ。

 ありすが見た限りでは。


「ところで少年」


 聖奈は中身が化物のナナシを知らない、それゆえ、ナナシに気さくに話しかけた。


「時に君はどうやって生き延びたのかな? 見たところ武器は持っていないらしいし、それにその服…… 君は科学者なのか?」


 ナナシは聖奈に興味津々に話しかけられるも、言葉が全く理解出来ないので、首を傾げる。

 聖奈はその反応に疑問を抱いた。


「君、私の言葉が分からないの?」


 ナナシは再び首を傾げる。

 ありすはその様子をあわあわして見た。


「分からない…… っというより、知らないみたいだね。どういう事なんだろ?」


「え、えっと、ナナシはきおくそーしつなの…… それに……」


「それに?」


 ありすはその先の言葉である「人でもない」っという事を言うべきか迷った。

 だけど、もし言ってしまえばナナシは殺されてしまうかもしれない。だって、

 人間じゃない、人を食べる化物なのだから。

 そう思うと、本当の事を言えなかった。

 ナナシは人じゃないけど、ありすにとっては短い時間一緒にいただけだが、彼女にとってはかけがえのない友達だ。


「そ、それに…… ナナシはことばもしらないみたい」


「えっ!? なるほどねぇ、それなら私の言葉が分からなくても仕方ないか…… じゃあ、その…… 血だらけになっている白衣は拾ってから着たのかな?」


「た、たぶん」


「きっとそうだろうね、中々似合っているよ、この時代ファッションに気を遣うなんて少年はセンスが良いね! まあ、血だらけなのはちょいといただけないけど……」


 彼女はそう言って、ナナシを見ながら苦笑した。


「まあ、取り敢えず敵じゃないというのは分かったから、引き止めるのはこのぐらいにしてっと、君達はどこへ向かっているの?」


「えっと、わたしたちはパパをさがして……ます」


「そういえば君の名前を聞いていなかったね、お嬢ちゃん、お名前は? あ、失礼。先に私が名乗らないとね、私の名前は結月聖奈だよ。よろしくね!」


 彼女はそう言って、先に元気良く自己紹介をし、ありすへ手を差し出す。

 ありすは彼女の手を握り、おずおずっと自分も名乗る。


「ゆ、ゆめみ……ありす。です」


「ゆめみありす、ゆめみありす…… 苗字が夢見の人物か…… 私の部下には居ないねぇ。あ、そだ」


 彼女はブツブツと呟くと、突然、頭の中で何かを閃いたのか手をパチンと叩くと、ありすに笑顔で話しかけた。


「私だけだったら力にはなれなかったけど、今回は私、軍隊の人と一緒に組んでるんだ! もしかしたらその人なら何か知っているかもしれないから、今から連れてくるね!」


「ぐ、ぐんたい? なにそれ?」


「君達力を持っていない市民を守る兵隊さんだよ」


 聖奈はそう言うと、二人に近くの建物を指差して、そこで待つように言う。

 そして、彼女はそのまま手を振って走り去った。

 ありすはいきなりの事でちんぷんかんぷんだったが、彼女は頭にクエスチョンマークを浮かべつつも、取り敢えず聖奈の言う通りにする事にした。


「えっと、えっと…… とりあえずナナシ、いってみよっか?」


「うん」


 結月聖奈へ待っているように言われた場所、そこは古ぼけた喫茶店だった。

 喫茶店内は誇りっぽく、どのテーブルも埃が積もって、真っ白みたいになっている。

 タンスやガラスケースにはまだカップ等が置かれており、ここが喫茶店だという名残りがまだ残っていた。

 二人は扉を開けて店内に入り、ありすはカウンターの席へ座る。

 ナナシも彼女の隣に座った。


「いったいへいたいさんってだれなんだろ?」


 ありすはうさぎの人形で遊びながらナナシへ問いかける。

 ナナシはいつものように首を傾げた。

 

「まあいっか、ねぇ、ナナシもうさぎさんでいっしょにあそぼー!」

 

 ありすはそう笑顔で言うと、ナナシへうさぎの人形を手渡した。

 ナナシは人形の手足をゆっくり引っ張ったり、お腹を潰してみたりして、興味深げに弄ると途中で飽きた。

 そして、ありすへ返す。

 ありすはナナシから受け取り、彼女は少々不満げだったがなんだかんだで一人でうさぎの人形を使い、遊び始めた。

 

 それから数分後。


 扉を開けて二人の男女が入って来た。

 一人はどこかで見た覚えがあるが、知らない人。

 もうひとりは、結月聖奈だ。

 突然、扉が開いた事でありすは驚き、遊んでいたうさぎの人形を地面に落とす。

 ありすは落としたうさぎを拾おうと席から離れようとしたところで、男の人がサッと素早く屈んでからうさぎの人形を拾って、それをありすへ手渡した。

 

「あ、ありがとう」


 ありすは男の人にぺこりっと頭を下げてお礼を言う。


「いやいや、別にいいよ」


 男の人は気さくにそう言うと、二人へ立ちながら挨拶した。


「君達の事は聖奈から大体説明してもらったよ、俺の名前は天羅賢治。よろしくな」


「わ、わたしのおなまえは。ゆめみ、ありす。です」


「夢見アリスちゃんだね? 君の事は先程調べさせてもらった。君のパパ、夢見零時も俺は知っている」


 ありす…… もとい、夢見アリスは父の本名を知っている彼に驚き、すぐに興奮しながらすぐに自分の父の事を問いかけた。


「パ、パパを知っているの!? パパ、パパはどこ!?」

 

 だが、天羅の反応は芳しくなく、苦虫を噛み潰したような顔で、アリスへすまなそうに声を低くして事実を話した。


「アリスちゃん、君のパパは……どこに居るか分からない」


「え……?」


「君のパパはね、事件にあった研究所へ居たんだ。あそこの研究所から助けを求められて、俺は助けに行った。だけど、あそこには…… 死んでいる人達しか居なかった」


「そ、そうなの? でも、あそこにはわたしも居たよ?」


 アリスは正直の事を彼へ伝えると、彼は真っ青な顔をして呻く。


「嘘だろ……?」


 彼はアリスの一言に驚愕し、頭を抱えた。

 自分は市民を守らないといけない兵士だ。それなのに、その市民を置き去りに、自分だけが逃げ帰ってしまうなんて。

 そう思い、彼は自分を心の中で攻めながら、絞るような声で謝った。


「あぁ、すまなかった。俺達が君を探しきれないで……! 今まで辛かっただろ、キツかっただろ? 本当にすまない」


「えっ…… ううん、わたしにはナナシがいたからだいじょうぶだよー」


 アリスは突然謝った彼に動揺しながらも、彼を笑顔で許した。


「ね、ナナシ!」


 彼女はニコっとした晴れやかな顔でナナシの名を呼ぶ。

 ナナシは自分が呼ばれた事に反応して、何も感情が篭っていない無表情の顔をアリスの方向へ向けた。


 その時。


 ナナシが顔を向けた事によって、賢治の方も彼に気づいて、ナナシの顔を見る。


 そして、彼の顔を見た瞬間、賢治の表情が凍りついた。

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