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第四話 一

「もう…… もう、やだぁ…… な、なんで…… なんでナナシ、わたしをおいてくのぉ……」


 結月が持っていた銃を持ちながらアリスは泣きじゃくり、必死にナナシへ訴える。

 何で自分を置いていったのか? いつも一緒だったのに、どうして隣に居てくれないのか。

 それを精一杯彼へ涙を流しながら言った。

 

「めがさめると、しらないおうちのおへやにいて…… ナナシがいなくて……」


「何故、俺がここに居ると分かったんだ?」


「えっと…… わからない…… ただ、なんとなく……だよ?」

 

 アリスはそう涙を拭きながら答える。ナナシは彼女の答えに、違和感を覚えて首を傾げた。

 何故なら、自分がアリスを置いた場所からここまで、五キロメートルぐらいの距離があり、自分が消えた場所の方角も分からないような状態でアリスが自力で探せたという事にだ。

 どんな小さな音でも聴こえる自分ならまだしも、人間の彼女にそんな事が出来るのだろうか?

 ナナシは首を傾げるも、きっと、運が良かったのだろう。っという事で、取り敢えず片付ける事にした。


「一人で外に出たら危ないだろう、もし迷子になったらどうするつもりだったんだ?」


 彼が正論を言うと、泣きながらアリスは言葉を詰まらせる。 


「うっ……」


「まあいい、とにかく少しばかり用事があるから待っていてくれ」


 ナナシは深く追求する事はせず、まずは用事を終わらせようと彼女へ背を向けて、結月の死体へ向けて歩こうとした。

 すると、彼の背中で、ぽつりっとアリスが二人の行方を問う。


「ねぇ、ナナシ…… わたしのパパと…… それと、ゆづきはどうなったの?」


「ゆづきがアリスのパパを殺し、自分も最期に化け物になった」


「…… それで、ばけものになったゆづきはしんだの? まだ、いきてるの?」


「いや、アリスがさっき俺を助けてくれた時に化け物に銃を撃っただろ? あのアリスが倒した化け物が結月だ」


「…… そう……なんだ」


 彼の嘘偽りのない答えを聞いて、アリスは俯く。

 そして、顔を下に向けながら、再び彼に質問した。


「ナナシ…… ゆづきはパパをころしちゃったんだよね、そして、わたしがパパのかたきをとった…… でも、パパをころしたのはゆづき。わたしはゆづきがすきだったの」


「あぁ」


「パパをころしちゃったゆづきは、わたしにころされて…… ちゃんとてんごくにいけたのかな?」


 そうあって欲しい。アリスはそんな願いを込めてナナシへ聞く。

 じゃないと、あまりにも結月と父が可哀想だと思ったから。


「それは分からない、ただ、化け物になって人間を襲うよりは遥かに死んだ方がマシだろう」


「……うん、そうだね…… ねぇ、ナナシ」


 アリスはゆっくりと立ち上がる。

 その時、撃った反動で両腕と肩を痛めている事にアリスは気づき、「うっ……」っと激しい痛みで泣きそうになりながらも、懸命に堪える。

 それから彼に精一杯に微笑んだ。


「アリスからのおねがい、もう、わたしはなかないから…… ナナシにめいわくをかけないから…… だから、だから。わたしをひとりにしないで、ずっとずっといっしょにいて?」


 ナナシはそのアリスの願いに、頷く事は出来なかった。

 所詮自分は人間では無い。いずれ、どこかで他の人間に殺されるか、デセスポワールに喰われるだろう。

 だけど、アリスがこの世から消えてしまう。その時まで一緒に居よう。

 そう思い、彼は口を開いた。


「あぁ、必ず傍に居る」


 ナナシの答えに、果たしてアリスは満足したのかどうか分からない。

 だが、彼女は少なくともナナシの言葉を聞いて、一瞬だけ悲しそうな顔をして涙腺が緩んでいた。


「今から彼女の死体を喰らうよ」


 ナナシはそうアリスに言い、結月の死体へ近づく。

 アリスは彼が結月を喰らう光景を見る事が出来ないので、背を向けて待った。

 結月の死体へ近づいて、それから胸の辺りから喰らおうと眺めていたらある事に気づいた。

 確かに、自分の尻尾で胸を貫いたのだが、それだけでは心臓部分であるコアを露出させるぐらいの深さの傷を負わせられない筈だ。

 しかし、現にアリスは銃…… しかも、ピストルの小さな弾丸では到底貫通してコアを貫くなんて芸当はありえないだろう。

 

 もしかして…… 彼女は自分で?


 一体いつごろ意識が戻ったのか知らないが、きっと殺されたかったのだろう。

 それで、自分で胸からコアを露出させて、わざと死んだ。

 ナナシはそこまで考えると、いつか人並みの感情を手に入れたら、沢山涙を流してやろう。


 そう思い、ナナシは彼女の身体に牙を立てた。



 以前に見たモノクロのような霞がかった風景。


 しかし、前回よりも今回は映像がクリアになっており、見やすくなっていた。

 そこには、カプセルの中に入れられた少年の姿そこにあった。

 どうやら、あの以前の手術からこの中に入れられたらしい。

 見ると、少年の身体は両腕と両足、それに腹部の辺りに人間のモノでは無い何かがくっつけられている。

 

 そのカプセル部屋の中に、一人の男が笑いながら入って来た。

 男は、少年が入っているカプセルに近づくと、にやりと笑って一人で呟き始めた。


「ふふふ、やはり私の研究は完璧だったな。お前のおかげで、何とか人類は持ちこたえる事が出来そうだ。第二世代の適合者として……な。唯一の欠点は、選ばれた人間しか生き残れない事だが」


 彼の低い声を聞き、心の中でナナシはある人物の声に似ていると思った。

 天羅を殺した例の司令官。彼と、声が良く似ているのだ。

 そんな事を思っていたその矢先、突然扉が開いて、真っ青な顔をした白衣の男が入ってくる

 あの男は…… 結月に殺された健吾だった。


「やあ、どうしましたか? 夢見健吾君?」


 健吾が入ってきた時、彼は来ると予見していたのか、身体を反転させて健吾の方へ不敵な笑みを見せて顔を向ける。

 入ってきた健吾は、以前の無表情な顔とは違い、感情を昂ぶらせて激昂している。


「お前、間宮仁!! 人の息子になんて事をしてくれたんだ!! 良くも、良くも!! 散々いっただろう、この研究には反対すると! 何故、勝手に進めたんだ!」


 彼は間宮仁っという、司令官似の男の胸ぐらを怒りながらつかみあげる。

 そんな状況にも関わらず、間宮は表情を崩さずに、むしろ嬉しそうに声を高くして彼へ話しかけた。

 

「いやー、君の息子さんは良い働きをしてくれましたよ、何せ彼は適合者より、その上の能力を我々にもたらせたからな!」


「研究が成功しても、どの道人類に待っているのは滅びだけだ! 何故それが分からない。いいか、お前が作ったものは、デセスポワールよりもその上位のバ ケ モ ノ だ!」


「何を言っているんだお前は? 能力は使わなければそんな化け物になるわけがないだろう。何より、能力を使いさえしなければ我々は年を取らないうえ、死ぬ事のない不老不死になれるのだ! 人間が長年探し、求めていた不老不死だぞ? さっき、私の部下に試してみたが、幾ら身体に銃弾を浴びてもケロっとしていたぞ、全く素晴らしいな」


「自分の部下に試した…… だと? この悪魔め……果たしてそれが本当に良い事なのか分からないがな。ともかく、息子を返してもらうぞ!」


 健吾は威圧を効かせて、そう言うや懐からピストルを取り出して、間宮に向けて構えた。


「ところで知っているか? 俺はお前の息子に何をしたのかを?」

「あぁ、四肢を切り落とし、腹を捌いて内臓を全て取り除いたのだろう、この外道が」

「それ以外にも脳を少しばかり弄り、記憶、知識、感情、理性を忘却の彼方へと送り込んだ。きっと目が覚めてもお前の事は覚えていまい。さぁ、秘密を教えたところで少しばかり眠ってもらおう」


 彼はにやりと笑って、彼と同じく懐から銃を取り出して、彼の首筋に向けて躊躇わずに発砲した。

 胸を撃たれた彼は胸を押さえる。だが、彼の撃たれた箇所からは血が出ていなかった。

 痛みも無い。


 しかし……


「ぐっ…… こ、これは…… 麻酔……か!」


「だから言っただろう、眠ってもらうと」


 健吾は麻酔が身体に回り始め、身体が重くなり、徐々に視界がぼやけていく。

 彼は精一杯何かを伝えようと、震える口を動かすも、結局声が出ず。恨めしそうに彼を睨みながら、ゆっくりと崩れるように倒れた。

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