【S】 第一話
田中ニコと月時計の二人が、それぞれの持ちキャラの視点で交互に書いていく合作小説です。必然的に、視点変更が都度起こり読み辛い事にはなりますので、その点はあらかじめご承知置きください。
田中がシェリウス、月時計がキーンというキャラクターの視点で執筆します。
また、ボーイズラブをテーマとした作品ではありませんが、二人の青年の熱い友情(?)を主題に置いているため、時にはそちら側へ偏った表現が見られるかもしれません。何せ田中が生粋の腐女子です。
アンチ腐女子の方・硬派でハイクラスなファンタジー愛好家の方々には、お勧め出来かねる内容である事は確かですので、あしからずご了承くださいませ。
絶対君主制の永く染み付いたルネファーラ王国にとって、統治者の崩御というのは、出来うる限りの準備に準備を重ねて受けるべき知らせだった。
ただし、御歳50にして幸いにも病知らずの健康体であった王が――となれば自ずと絞られてくる可能性は事故、もしくは暗殺。
国全体を激しく震撼させるには、これ以上ないほどの話題性である。
城下には号外を抱えて走る新聞屋に、おさまらない通行人のどよめき、そして城内に漂う不穏な空気、まことしやかに囁かれる貴婦人達の噂――
しかしながら国全体がさざめく中で、その場所だけは不気味なほど静まり返っていた。
王宮。
この国において最も尊い身分であったゲイルハルト・ヴェス・ルネファーラ王が、その瞬間に最も儚い魂となった場所。
そして今日、死してなお高貴なそれを鎮めるために葬儀が執り行われる。
そのために、王の血筋である彼は此処に居た。
離宮とは名ばかりの、街外れの屋敷から王宮まで、彼が最も信頼を寄せる二人の従者を随えて。
「隣国のスパイによる毒殺、な……。叔父上も、もう少し手の込んだ嘘をつけなかったものか」
黒のフォーマルに身を包み、気だるい様子で椅子の背にもたれて、第二王位継承者であるエルンスト・ツェレ・ルネファーラ王子。
王の直系でありながら、平民の女との間に生まれたため城より離れた屋敷で、事実上王家からは蔑ろにされて育った私生児である。
嘲笑でも、皮肉る様子もなく、ただ率直な感想として彼は述べた。
部屋には随行の従者らしき者が一人おり、その男へ同意を求めるように顔を向けて。
「お言葉ですがエルンスト様、城内でそのような事を口になさるのは如何なものかと」
答える青年は灰色の髪を軽く掻き上げて、眼鏡の奥の青い瞳を静かに伏せたままそう言った。
「何だつれないな、シェリー」
「……既に理解されているのは承知で申し上げますが。此処はもう離宮ではありません。エルンスト様、これからは今以上に御自分のお立場というものを――」
従者というよりは最早お目付け役のような言い草で、滔々と語るシェリー、フルネームをシェリウス・テイラード。
それを視線だけでエルンストは制した。二人の目が合った瞬間、シェリウスの声がぴたりと止まったのだ。言葉に詰まった、とでもいうべきか。
とにかく罰が悪そうに口元を手で覆ったシェリーは、目を泳がせつつも密かに溜息を吐くと話題を切り替えようと次の言を紡ぐ。
「……そういえばアイツは、今頃どこで何をしているんでしょうね。常々思うのですが、あれで王子の護り刀が勤まるのが不思議でなりませんよ」
そうしてふと、窓の外を見遣った。
葬儀が始まれば人々は皆、黒の衣装に身を包み統治者の死を悼むだろう。
そんな中でも頭上に広がる空は鮮やかすぎるほどに眩しく青い。