ピンカバ6 食らうは串焼き 決める覚悟
龍の焰は強力だった。
触れたものを腐らせながら広がる毒の焰。煙は凄まじい臭気と毒素を撒き散らし、耐えられるのは堅牢な龍鱗のみ。
全身を覆う赤錆色の不吉な甲殻は、いまや紫炎に包まれその禍々しさは見るに堪えないほどである。
大地は毒に犯され腐肉のようにズブズブと音をたてる。
立ち昇る煙に視界は曇り、そこはまるで地獄のような有様であった。
けれどその地獄は瞬く間に様変わりする。
毒に焼かれた大地を埋め尽くすように樹々が根を張り、樹海が生まれる。
数百年を一瞬に凝縮するような速さで枝を伸ばし幹を太くする樹々。
神話の再生のようなその光景の中、少女は宙を駆ける。
彼女が足を踏み出すところに次々と枝が伸び、たわんだりしなったりしてその跳躍を後押しする。
全身を植物で武装したリリオは手にした豪竹の槍に" 力 "を込めて投げつける。
宙を突き進みながら槍は巨大化し大人の胴ほどに育つ。
遠投の勢いと巨大化で加速した槍を前に、龍は灼熱を纏った翼で応戦する。
グワンと翼と竹槍がたてるとは思えない音がしてリリオの槍は崩れ落ちる。
「ちっ! あの炎を何とかするのが最優先か・・」
翼だけなら最低でも相打ちに持込た一撃だったはずだ。
翼にまとわりつく炎に触れたところから槍が腐ったのをリリオは確かに見た。 鉄をも穿つはずの槍の威力は半減以下だっただろう。
「力なんて押しであれに勝てると思わない方がいいか・・となるとっ」
足を止めることも出来ないこの状況をなんとかする起死回生の策。ただそれにはかなりの時間とリスクが生じる。
生き物の存在を赦さない火山の火口。命懸けでそこにたどり着いたものだけが目にすることができる白銀の景色がある。
全てが焼き尽くされたような場所で咲く銀の花。その姿はまさに精霊の宿る樹そのものだと誰もが口を揃えていう。
リリオはその種を持っている。
霊樹は特殊な環境に生きるが故、熱に非常に高い親和性を持つ。
背の低いものの山を貫くほど長く伸びる力強い根で持ってすれば炎ごと龍を捉えることすら叶うだろう。
ゴウっ!僅かに足を緩めたリリオの真後ろを龍の焰が抜ける。
その煙に曝された鎧一部がシュウシュウと爛れて嫌な匂いを放つ。
リリオを苦しめるもう一つの脅威はその煙と焰がもつ猛毒の腐食毒。
焰に触れれば溶かされるのはもちろん、煙にも同じ効果があり迂闊に近づくことすら出来ない。
熱に強い霊樹の根であっても毒にはまるで無力だ。
それでもリリオは構わず手にした種を龍のそばに投げつける。
「さぁ芽生えよ。汝が強き手足をもって彼の龍を囲い込め! 」
バッと広がり根を踊りかからせる霊樹だが、その根も龍に触れることなく崩れ落ちる。
「伝えよ伝えよ。汝が敗北を次なる勝利へ。その毒に耐え得る強き身体を!」
次々に芽生える樹々の梢を飛び回り、リリオは声高に霊樹に命じる。
運命値を操るその" 能力 "をもって進化すら発生させる。
枯れゆく霊樹はそれでも銀の花をつけ、その果実が大地に芽吹く。
芽吹いては腐り、その敗北を伝え続ける霊樹。
そこから意識逸らさせるため、リリオは止まることなく緑の乱舞を舞い踊る。
花と風とが舞を彩り、樹木の舞台と炎の爆音が色を添える。
互いにこころを震わせ。龍とヒトとは闘争する。
霊樹の根に絡めとられる龍に少女の槍が踊りかかる。
迫り来る槍を食い破り、龍は全身を包む紫炎でもって霊樹の戒めを焼き落とす。
龍は咆哮と共に豪炎を吐き樹海を灰に変える。
すかさず少女が種を撒き、毒の大地に樹海が芽生える。
その様はまさに破壊と再生。
燃やしては茂り、芽吹いては犯さす。
いつ終わるとも知れない戦いは、それでもやがて佳境を迎える。
リリオの能力の心髄は、運命値の操作。
「出来た!」
この熾烈な攻防の中、龍を捉えようとして焼かれ続けた霊樹。
過酷な環境に生きるものは、そこに耐え得る"力"を得る。 毒と炎に焼かた霊樹は進化していた。
耐えられないなら耐えれるようになればいい。
黒龍は悟る。
自分を取り巻く植物が、自分の焰に異常な耐性を見せていることに。
少女は理解する。
あれだけの森を構成していた樹々のほとんどを失い、もはや後が無いことを。
両者ともにこれが最後。
グルルァァァ!!!
身動きを封じられた黒龍は、渾身の焰を放つ。
ッハァァァァア!!!
リリオもまた龍に最後の特攻を掛ける。
大きく顎を開き、暗紫色の焰を迸らせる龍。
植物の鎧に身を包み、槍を振りかざす乙女。
***************
「いやー、あれは凄かった。
空を覆う不気味な雲。
遠くには有るはずの無い森が見えるときた。これは大ごとだとみんなで目指してみれば・・まぁ後は言わずもがなったやつだよ」
絶対現場を見ていないはずの串屋の店主は、臨場感溢れる語りでそう締めくくった。
その口調が芝居がかっていたことも含め、いまいち信用ならない気がする。
が、あながち全部が嘘。というわけでも無いのだろう。
僕らが戦ったあの大熊とは比べるべきでは無いのだろう。 それでも僕たちは見たことがあるのだ。
あの大熊を容易く葬った圧倒的実力。
樹木を従え、豪竹の槍を振るうそのリンとした姿を。
やっぱり凄い人だったんだ・・
その時胸に去来した感情をなんと
呼べばいいのか。 何と無くモヤモヤする気持ちと特製甘ダレの串焼きを噛みしめる。
無言で串を回すおっちゃんとこれまた無言で肉を頬張るツクセ。
周囲の喧騒のなか、二人だけの何やら恰好いい世界が出来上がっていた。
「おっちゃん。どーやったら強くなれっかな?」
おっちゃんは串を回す手を一瞬止め、何事もなかったようにまたクルクルクルクル串を回し出す。
「どーした藪から棒に。・・お前はあいつらみたいにならなくたっていいさ。 この村はいい場所だ。みんなが笑顔で、そのくせ血の匂いが全くしねぇ。」
平和そのもの。穏やかな億越え《ノーネーム》の集落。
ここで産まれたものは死ぬまでこの村で生きる。
そのに力なんて必要ないし、増して闘争に憧れるなどあってはならない。
ゴンタやタロウ兄ぃがやっていることは何の意味も無い、ただの自己満足だ。
ましてただ棒を振り回すだけのツクセの修行など、それこそ時間と体力の浪費でしかない。
分かっている。
串屋のおっちゃんに、村の大人たちに、何よりリリオに。
「分かってる。強くなったらこの村にはいられない。力なんて必要ない。」
そんなこと、言われずとも。
分かっているのだ。
右手の平で無感動に数字を記し続ける運命石。
数えるのも億劫になるその数字に目をやり、やっぱりツクセは思うのだ。
目を上げて、心を決めて。覚悟を決める。
分かってる。分かっているけど。
「やっぱり、強くなりたい。」
「・・・分かった。それが君の覚悟なんだな」
視線の先には彼女がいる。
ピンカバとお兄さん編、これにて終幕です。
・・・えっ?結局ピンカバってなんだったのかって?
そんなことよりお兄さんなんか出てきたか?
はい関係無いし出てきません。
・・・・ごめんなさい、当初の計画では出てきていたんです。
森で迷子になったピンクのカルンバをおい、村の森を駆けるタロウ兄ぃのお話になるはずだったんです。
あのおっさんが喋り続けるから・・・
リリオさん書いてたら楽しくて止まらなくなっちゃたんです。
反省はしています。
なので後日章題が変更されてるかもです。




