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ピンカバとお兄さん 5 語る続く長話

彼女は森の中を歩いていた。

彼女が歩を進めると、聳える樹々らはザワザワと囁く。

彼女は森の主であり、森は彼女の従僕である。植物の成長を操るという彼女の能力は、限定的ではあるが他者の運命を握ることと同じもの。

もっとも彼女が運命を操れるのは彼女に絶対の忠誠を誓い、無抵抗に彼女を受け入れるものに限られる。という制約をもつ。

彼女を中心に、小さな村程度ならすっぽりと包み込める規模の森を構成している樹々。それらは皆、彼女に救われた、という過去を持つため運命を操られ常に闘争におかれることすら無抵抗に受け入れる。


例えば、ある若木は深い森の古木の傍に芽吹いたために朽ち枯れる寸前であった。

例えば、致死性の毒をもつ花は万年雪の崩落に巻き込まれ種も残せぬ有様であった。


彼女はそれらを見つけるたびに拾い集めた。

運命を書き換え種に戻して連れ歩き、そうやって彼女は命の対価に忠誠を拾い集めた。

普段は種や胞子、苗や球根の姿で連れ歩くそれらを解き放つ。彼女の戦力であり僕である樹々は目一杯に広がり荒野に森を築いていた。

森の中を散歩でもするような調子で進みながら、彼女は歌うように告げる。


「葉を茂らせ幹を硬くし、敵に備えよ。

根を伸ばし蔓を広げて、敵に進め。

花で彩り棘を潜ませ、敵を迎える支度をせよ。

龍に備えよ。龍へと進め。

私の力はあなた達なのだから」


タカミノサゲやマルノキといった背の高い樹々が天突く梢からの景色を彼女に伝える。


「龍はまだ見えぬ…か」


いくら彼女の能力による補助があるとはいえ、移動が与える負担は馬鹿にならない。

それをあえて実行しているのは龍への挑発、という意味が強い。

現状彼女が最も危惧しているのは龍が自分を無視してそのまま街を襲撃すること。そのための負担は仕方が無いと割り切れる。


「私はここだぞ。見せてみろよ、『最強種』」


***************


その頃。彼女の進む先。遠くまで広がる荒野に寝そべる大きな影があった。


大きな四肢をだらりと垂らし、三対六翼を畳んだ姿で横たわる赤錆色の龍。その鼻先では橙色の焔を鎧のように纏う大男が肩で息をしながらも鋭く龍を睨みつけていた。


グルルルル・・・


煩わしい。

近隣最強を自負する男の攻撃に曝され、龍はのんびりとそんなことを思った。

焔の竜巻で武装した男は身の丈ほどもある大剣を上段で構え、渾身の一撃を叩き込む。

剣先が赤錆色の鱗を叩き割り、ようやく開いた突破口を沸き立つ焔が臨終する。


「やったか!!」


思わず男が叫んでしまったのも無理の無いことだろう。

半日以上に渡る激戦でようやく決まった必殺の一撃。爆炎に視界を奪われながら、男の意識はすでに自分のために開かれる祝宴での挨拶のことで一杯だった。


あるいは、そうでなくても変わらなかったのかもしれないが。


ゾンッ。荒野に一刃の烈風が吹く。

次の瞬間、男は寸刻みの細切れ肉と成り果てる。祝宴が開かれる可能性はなくなった。

それは意識を超える速度で伸ばされた腕の一振りだった。


つまらない。

兎にも角にも龍が思うのはそれだった。

向かいくる敵をなぎ倒し、ついに敵が現れなくなった頃から抱く龍の願い。

久方ぶりの挑戦者に喜んでみれば、あくびが出るほどに退屈ですぐに飽きてしまった。

寝そべりうたた寝る龍に何を思ったか知らないが、ちまちまと鱗を叩く剣や火の粉に煩わされるほどだ。


一度大きく伸びをする。空の方がまだしも楽しい。そう思った龍は再び翼を広げて空へ駆け上る。

ついでとばかりに男の亡骸に黒龍の息吹を浴びせる。《毒悪のどくあくのほむら》に焼かれた屍は周囲の地面諸共グズグズに腐り、焼け尽きる。

その毒煙の香りにわずかに顔をしかめ、それっきり男のことはすっかり龍の頭から消え去る。


グルルルル・・

つまらない。

六翼をのんびりとはためかせ、黒龍はようやく傾き出した陽光を背に空を突き進む。

そして龍は目撃する。


荒野にそびえる異様な森。


進行する森の中からこちらを見つめる少女を、龍の眼は確かに捉えた。


ニヤリ。


互いに常人では目視出来ないほどに距離を開け、森緑の主と毒焱の龍は開戦の笑みを交わす。







オモシロイ!!

龍は歓喜の雄叫びと共に全身に《毒悪の焰》を纏い、一気に加速する。


釣れた!

空に膨らむ異常な殺気に身を焦がし、彼女、フロル・リリオの周りで緑が爆発する。



闘争が



始まる。

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