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ピンカバとお兄さん3 語るは厳つい肉屋のオヤジ


フロル・リリオ。運命値58962にして異例の〈三つ名〉持ち。

能力を示す初めの一言。偉業を示す二つ目以降。そして種族を示す最後の単語。五桁の運命値でありながら、人に語られるほどの偉業を持つ、と言うのはまさに異例なのだ。


【時知らず】彼女の"力"はそう呼ばれる。

タイプは『第二種』、付与型。樹木の成長に関与するという、付与型の中でも特に珍しい『他のものの運命値に関与』出来るという能力。

そもそも、生きとし生けるもの全てには運命値とそれを印す運命石が存在している、というのは世間の常識である。

リリオの "力" は樹木の運命値を少なからず引き上げる。 勿論時間制限や制約があるとはいえ、その"能力"の特異性は多くの敵を呼んだ。

これは彼女が【木陰】の偉業名を手に入れるまでの伝説的な物語のお話。



"外" にして有数の大都市グランオルカ。様々な種族の "人" が暮らす街の片隅に一軒の酒場がある。眼帯に頬傷、大柄な背丈と合わせて経営というものに全力で喧嘩を売っている店主が営むこの店で、ある噂がたびたび囁かれていた。


「ーー黒竜を見た奴がいるらしいぞ」

「ーー運命値四ケタ切ってたらしい、見てきた奴によると」

「ーーありゃ化け物だ」

「ーー怪物だ」

「ーー怪物」

「ーー化物」

「ーー黒竜」

「ーー竜」


「龍が来る」


グランオルカほどの大都市で生き抜いている以上、この店に集まる客たちも七ケタを越す強者達だ。 そんな彼らが恐怖していた。

竜。

土台"人"である自分たちとは遥かに位の違う殺戮者。たとえ格下でも油断すれば一瞬でその命を奪われる。圧巻。

竜という存在は出会うだけで滅びとなるほどの、闘争すら起こらぬ恐怖の符号が襲来する。それは殺し殺され闘争する彼らの日常・・の終わりを示していた。



たった一匹の竜によって滅ぼされた街など数えることが難しいほど存在する。運命値に縛られぬとすら言われる圧倒的身体能力と希少な "力" を持ち、"人" の天敵たる龍。確かに緊急事態だ。店の常連共が騒ぐのも分かる。

だが。


「情けねぇ…」


哀れみと多分の怒気の篭った店主の小さなため息で店の空気は凍りつく。


「……おい、てめぇ今なんつった!! 」


カウンターの隅で飲んでいた常連の一人が、椅子を蹴飛ばし怒鳴り声をあげる。

消され潰されを繰り返す大都市で酒場の常連と呼ばれるようになる。ということはそれだけで運命値よりも如実にその者の実力を証明していた。

立ち上がり怒りを示す常連と、目を合わせようとしない他の客達にグルリと視線を向ける。そこに立ち上がった常連と同様の感情を見つけ出すと、店主は一つため息を吐いた。


「……情けねぇってんだよ、ボケどもが!! 竜なんて格好の獲物が来て、それに運命感じねぇ様なクズに酒出してたかと思うとねぇ…情けねぇったらありゃしないってことだよボケ」


普段なら客をビビらせるだけの強面が、ここぞとばかりに店の中をギョロリと睨む。


「んなもん……ならあんた。あんたならいけるってのかよ!! こんなチンケな店ん中に篭ってるだけのくせしてよ!! 」


顔のわりに普段は滅多に怒りを見せない店主の豹変に言葉の詰まった常連は意地になって叫び返す。

途端店の中の空気が再び凍る。この店足を踏み入れたときに必ず誰かに教わる絶対の店内ルール。

『店主に喧嘩を売ってはならない』。

時々居るのだ。ルールを知ってか知らずか、店主に向かって喧嘩を売る愚か者が。そしてその度に結果を見てきた常連だからこそ、いまの自分の発言が招く悲劇をよく知っていた。


「……ビビりのくせに吠えることだけは一丁前になりやがったなぁおい……」


ゆらりと店主の周囲の空気が揺らぐ。磨いていたグラスを仕舞い、背後の棚に並べられた酒瓶の一本を取り出して栓を開ける。


「良い匂いだ、ボルマボンの五十年物……てめぇのツケより高くつくぜ…こいつでこの世とおさらば出来んだ、喜びな」


アルコールの温度を操るという店主の能力は普段、店の酒瓶を冷やすのに使われている。冷やすことが出来る、ということは温めることも出来るということである。

例えば五十年物の酒瓶いっぱいのアルコール。それが一気に火のつくような温度になったら? それが店主に喧嘩を売ることの代償である。


「……ちっやってやろうじゃねぇか!!」


常連の方も能力を発現させ、店内に一触即発の空気が漂いはじめる。

その時だった。


***************


「そう! その時だったんだよ。こう『やめな!』ってカウンターの上に躍り出てな、運命石ギラギラさせながら言うんだよ。

『話はわかった、ならばその竜を狩れば良いのだな』

__あれは格好良かったな~」


その場に居合わせたらしい串肉屋の大将は、ノリノリでリリオさんの話を教えてくれる。

が、正直結構ウザくもなってきたのは確かだ。話が長い。


「おっちゃん分かったからさ、【木陰】の二つ名の話はいつになったら辿り着くわけ? 」


「まぁ黙って聞けや小僧。これからが良いとこなんだよ」


____長話はもうしばらく続きそうである。

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