脳内に直接語りかけられた勇者と、語りかけた元仲間
『………ま…か?
きこ……す…?
聞こえ…すか?
聞こえますか?勇者コウ。
ん?「お前は誰だ?どこにいる?」って?
やだなぁ。あれから数年経ったからって、もう忘れちゃったんですか?この声に聞き覚えはありません?
じゃあヒント。以前僕が君に対してよく言っていた発言ベスト3です。
ごめんなさい!すいませんでした!許してください!
…はい、正解です。
かつて君と同じ冒険者パーティに所属していた弓使い、エイクです。
驚くのも無理は無いですよね。だって僕はダンジョンでのバトル中、魔物の攻撃を防ぐために君の盾にされて瀕死の重体になり、そのまま置き去りにされたんですから。
いえ、死んで幽霊になったわけじゃないですよ。勝手に殺さないください。
実はあのダンジョンには妖精達が住む世界へと繋がる歪みがありまして、必死に地べたを這って移動してたら偶然その中に落ちちゃいまして。
そこで妖精界を統べる長の娘さんに助けられて、お互いに一目惚れしてしまいまして…婿入りさせていただきました。
今、僕が君の脳内に呼びかけているこれは【遠隔交信】という、人間界には存在しない魔法です。世界を越えて会話ができる魔法なんてすごいですよね。
君の様子は【千里眼】で視させてもらってました。これも妖精界にしかない魔法で、君が元いた世界でいうところの…テレビみたいなものですかね。
さっきの戦いも視ていましたが、ドラゴンの群れ相手に勝つとは、さすが勇者様!性格はともかく戦闘力は段違いですねぇ。
まあ、他の仲間は無惨な有り様になっちゃいましたけども。
エミリーのことは村にいた時から優秀な魔法使いだったと思ってたんですけど、君と恋人関係になってから明らかに人が変わりましたね。少し意地っ張りだけど真面目な努力家だったのに、日課の鍛錬もサボるようになってしまって…。
その代わりに君との夜のバトルが日課になりましたね。ああ、言っときますけど君達の情事は性的な目で見てたわけじゃないです。ただ毎晩毎晩よくやるなぁって感心半分呆れ半分で視てました。
エミリーの実力ならもっと強くなれると思ってたんですが…本当に残念でした。己の力を過信していなければ、ドラゴンに頭から丸呑みにされることもなかったでしょうに。
パトリシアさんも君と出会ってから随分と変わっちゃいました。優しくて頼れるお姉さん的存在だった彼女が、エミリー同様に君に媚を売って二人同時に恋人になるなんてね。
自慢の武器であるはずの鞭を、君との夜の営みで道具として使ってたのは本当に引きました。憧れの女性が売女同様の有り様になるなんて、昔の僕に伝えてもとても信じてはもらえないでしょうね。
君もお気に入りだった豊満な胸をドラゴンの爪で削がれちゃったのは無残でしたね。胸だけでなく、その後すぐに全身八つ裂きにされてましたけど。
ビルは小さい頃から強い奴と戦えればそれでいい脳筋野郎だったから、君達のふしだらな関係性は特に気にしてなかったみたいですけどね。
けどいくら頭が良くないからと言って、ダンジョンで僕を置いてくことに特に反対しなかったのはショックでした。親友だと思ってたのは僕だけだったみたいです。
まあいくら強い格闘家でも、相手に攻撃が届かなければ意味ないんですけど。最後は四方からドラゴンブレス喰らって、一瞬で消し炭になっちゃいましたね。
しかし国王も無茶なこと言いますよね。魔王を討ち取った勇者パーティとは言え、王都に迫る魔王軍を四人だけで退けろだなんて。
もはや君達以外に戦える者がまともにいないからって、ドラゴン百体相手はキツかったでしょう。ご苦労さまでした。
っ…急に怒鳴らないでください。別に上から目線でなんて物申してないですって。
そもそもこんなことになったのは、他の誰でもない君のせいだってわかってます?
君が国王からの命令で人身売買組織を潰した後、奴隷の少女を少しの間連れていた時期がありましたけど、君、その子が魔王の娘だってわかってましたよね?
いやいや、とぼけても無駄ですから。言ったでしょう。視てたって。
雪原のような銀の髪と、暁の空が渦を巻いたような瞳。
魔王城の決戦で他の仲間が城外で幹部達の相手をしていた時、魔王と対峙していた君だけが知った魔王の素顔。
その特徴をそっくり受け継いだ彼女が魔王の血を引く者だと、君はちゃんとわかっていたはずですよ。
まあ、厳密に言えば僕も千里眼で視てたからわかってましたけど。
他の奴隷達とは違い、出自がわからないその娘を保護という名目で手元に置き、夜の相手もさせてましたね。
エミリーやパトリシアさん、行く先々でつまみ食いしてた女性やお気に入りの娼婦のタイプから、君の好みは胸の大きな女性だったと思ってたんですが、どうやら顔が良ければ慎ましくても問題なかったみたいですね。
君は腰振るのに必死で気づいていなかったみたいですけど、彼女、情事の時にすごい形相で君のことを睨んでましたよ。
ものすごい屈辱だったでしょうね。父親の仇に犯されてるんですから、気が狂ってもおかしくなかったでしょうに。
しかし…君も大概ですよね。
彼女が君の命令全てに大人しく従ってたからって、君のことを慕っているとでも思ってたんですか?
奴隷の首輪を外してあげた翌日にあっさりと逃げられて、かなり悔しがってましたね。
彼女は君の元から逃げ去った後、廃墟となった魔王城に戻ってそこに作った隠し部屋を研究室として、君から採取した髪や採取するつもりのなかった体液を分析し、君の桁違いの強さを化学的に解明しようと研究を始めました。
そして彼女は研究の結果、勇者にはこの世界の魔族全てを弱体化させている能力があることを導き出しました。
たしかに僕も、君をパーティに加えてから戦闘が楽になったとは常々思ってたんですよね。ひょっとしたら何らかの加護があるのかと考えてましたが、まさか敵を弱らせる力だったとは…魔族からしたらたまったものじゃないですね。
おっと、話の途中でした。
彼女は生き残っていた残党達に抗体を投与し、弱体化のデバフが効かない魔物を創り上げました。
そして生まれ変わった魔族達は、二代目魔王の命令の元、人間界の蹂躙を開始し今に至るというわけですね。
はい?「わかってたならどうして助けに来なかった」ですって?
逆に聞きますけど、どうして助けに来てもらえると思ったんですか?
君がこの世界の冒険者ギルドに突然現れて、多くの人から怪しまれていたところを、僕がパーティに誘わなければ自警団に捕まって今頃檻の中だったでしょうね。
今だから言えますけど、エミリー達も当初は君のメンバー入りを好ましく思ってなかったんですよ。
ですが、弱体化の能力で魔物をいとも容易く倒し、レベルアップを重ねていった君は本当に強くなっていきましたね。君への評価もプラスに変わっていって、僕も仲間として誇らしかったです。
それと同時に、性格も傲慢で非情になっていきましたけどね。最終的に、かつて自分を助けてくれたパーティのリーダーを捨てるだなんて予想できませんでしたが。
改めて聞きますが、恩を仇で返した相手のことを何故助けなくてはいけないんでしょうか?
おや?返事が無いけど聞こえてますか?おーい?
…別にだんまりでもいいですけど。
そもそも、僕がこうして君に交信を試みたのは、ただ君に聞きたいことがあったからですよ。
君、この世界に何をしに来たんですか?
だって、魔王を倒して世界を救ったと思いきや、魔王の血縁者を見逃して再び世界を崩壊の危機に陥らせてしまって…。
こんなのただのプラマイゼロ…いや、この場合はマイナスですね。
コウ、君は一体何になりたかったんですか?
世界を救う英雄?
多くの女性を侍らせる好色家?
まさか両方だとか、そんな欲深いことを望んでたんですか?
君をこの世界に送った神様も、君みたいな人じゃなくてもっとまともな人を選んでくれればよかったのに。
うっ…だから急に叫ばないでくださいよ。この魔法、音の調節はできないんですから。
怒ると話の内容とは全然関係ない悪口で罵ってくるところ、本当変わってないですね。ある意味安心しました。
…あ、次の敵がやって来ましたよ。ほら後ろを見てください!
ゴーレムやサイクロプス…うわ、ドラゴンもまた来てる。合わせて…ざっと千体ぐらいですかねぇ。
助けろって…無理ですよ。
いや、謝られても敬語で頼まれても無理なんですって。
妖精界はこの惨事を見越していて、既に人間界へ通じる門を全部封鎖してるんです。蟻ん子一匹ですら通れませんよ。
そんな情けないこと言わずに頑張ってください。相手にデバフが効かなくなったからと言って、君も相当強くなってるんですから…って、来ましたよ!
…ほら!サイクロプスを一刀両断なんて、普通の冒険者ではまず難しいんですよ?自信持ってください!
……あっ、』
_プツン。
「あーぁ…」
「エイク、ご飯できたよ〜…って、どったの?」
「勇者が空から降ってきたゴーレムに潰されちゃったので、交信が切断されちゃいました」
「空飛ぶゴーレムってこと?え、最近の魔族ってそんなんいるの?ヤバくね?」
「そうではなく、ドラゴンが背にゴーレムを乗せて飛んでたみたいなんですよ。完璧な不意打ちでしたね。勇者の最期は馬車に轢かれたカエルの如く、ぺっちゃんこにされてしまいました」
「へ〜、めっちゃ無様。じゃあこれで人間界も終わりだね。エイク…大丈夫?」
「僕はもう、別に。僕の両親は小さい頃にすでに亡くなっているので、心残りもありませんから。ですが…」
「ですが?」
「コウの欲を満たすためだけに、人間界が利用された気がするんですよね。本当に神が人間界を助ける気があったなら、ちゃんとした人間を送りこんで来るか、コウが魔王を倒してすぐに彼を元の世界に戻してくれるなりすれば、こんな結末にはならなかったと思うんです」
「そういう考察もできるってことね。とばっちり食らった人間達からしたらふざけんなかもだけど、仕方ないよね。だって、みんな勇者を頼りにして、崇めて、推してたんだから、勇者のせいでどんな結果になっても文句は言えないっしょ!」
「そう、ですね。そう考えると、あの時彼に捨てられたのは結果としてとても幸運でした………ありがとう、勇者コウ」
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