第47話
チミチミ書いてたのを投稿。なかなか完結しない理由は短い上に寄り道ばっかりしてるからだろうな……
宿を飛び出し、走って逃走する犯人を追う。
なぜ外かと言うと、さっきの爆弾に使われていたのと同じ火薬の強いにおいを見つけ、その先からは走る人間の足音が聞こえたからだ。肉体強化は相も変わらず地味な魔法だが、得られる情報がはっきりしているのでこういう事ができていい。
「そいつを捕まえてくれ!!」
犯人を追って走りつつ、喉を強化した大声でその先の人々に言う。
それに反応してか、何人かの人々が犯人にタックルを仕掛けるが―――――
「うお!?」
「いってえ!!」
炸裂音と共に彼らは犯人から弾き飛ばされ、皮膚に火傷を負いながら道に座り込む。
もしや、犯人は体に爆弾でも巻いているのか?それとも、炎の魔法のアレンジか?
倒れた二人を飛び越えて追う。
しかし、足を重点的に強化しても追い付けないなんて、軽業師か何かか?面倒だな。
ナイフを投げて足を止めようにも速さが足りずに避けられるだろうし、衝撃波モドキも通用しないだろう。
セレナが回り道でもして来るだろうから、来るまで逃がさないように追い回すか。隙があれば捕まえよう。
しかし、そう相手も悠長に追われてはくれなさそうだ。
犯人は突如、ズボンの裾からポロポロと何かを落とし始める。
「あ?」
一瞬、糞でも漏らしたのかと思い声を出したが、火のついた導火線が生えた糞なんて見たことがない。
つまり、器用に爆弾を落としたという事だ。
「このクソったれ野郎!!」
思わずそう叫びつつ、走りながら右側の建物の壁へと飛ぶ。
壁に足が着いた瞬間、後ろで小規模な爆発が起こった。耳をつんざく音も同時に発せられたが、それを気に留める暇はない。
耳鳴りに顔をしかめながら壁を蹴り、着地の衝撃で少しふらついたが真っ直ぐ走っていたかのように再び走る。
「――――っ!?」
結果を確かめようと振り向いた逃走者の、なんとも驚いたような顔が見えた。
あー、耳が痛い。捕まえたらさっきの爆弾を耳元で爆発させてやろう。
そう思った時、この洞窟内に吹き込んでいる風で生まれる空気の流れから、セレナのにおいがした。風上。つまり、前だ。
「ぐッ!?」
そう考えた刹那、逃走者が何かにぶつかったように吹き飛び、激しく地面に転がった。
セレナが前方から狙撃したのだろう。矢が見えないというのは恐ろしい。
「よっしゃ!!」
とりあえず、取り逃がさないために幅跳びのように飛び、逃走者に馬乗りになる。その際に右ひじに短刀を突き刺すのも忘れずに。
飛び乗った際にこいつの肋骨が折れた音がしたが、肉体強化ができるならこれぐらいは問題ないだろう。
「クソッ!!」
そう悪態が下から聞こえるが、返答しても仕方がないので無視をする。とりあえず、フードを外すか。
フードを強引にムシリ取り、その顔を拝見する。
「……おお!」
狐のような耳が頭から生えており、人間の耳の部分はすっぽりと髪の毛で隠れている。獣人だ。
しかし、初めて見た獣人が男で敵とは、かなり残念。
「さて、お前が何者なのか、それと目的を吐いてもらおうか」
そう言いつつ彼の未だに折れているであろう肋骨を殴る。
「グ……ッ!!」
うめき声をあげた男の口に左手を突っ込み、奥歯に触れる。
自決でもされたら困るので、喋れるが舌を噛み切ったり、仕掛けている毒薬の容器を割らせないためだ。
とはいえ、これはかなり痛い。なんせ、相手は自決しようとやっきになるからだ。できることなら猿ぐつわでも噛ませてやりたいが、そんな物も代用になる物も無い。
「いだだだだだ!!」
獣人はギリギリと俺の指を万力のような力をもって、おいしいのかと聞きたくなるほど噛み締めてくる。人間よりかなり力が強く、かなり痛い。しかも、この血で窒息されると厄介だ。
「ランサムさん!!」
痛みに呻いていると、前方からセレナが走ってきた。それも意外に早いので、どうやらかなり離れた場所からの狙撃をしたようだ。恐ろしい。
「こいつの手足を縫い留めてくれ!!あと硬い布をくれ!」
真横に来たセレナにそう言う。彼女は一瞬青ざめたがすぐに風の矢で獣人の手足を地面に縫い付けた。射た場所は関節なので、死にはしないだろう。
そして、彼女は懐から布を取出すと、俺が受け取れないのを見て困ったようにアタフタとした。
もちろん、具体的な方法を考えてなかった俺も当然焦る。
「あー!めんどくさい!!」
無理矢理左手を引き抜くと、獣人の顎を思いっきり殴りつけ、気絶させた。
その後、ドワーフたちに彼を連行してもらい、気絶中のレイアとアークを除いてリリアナが合流してからそれに同行した。誰も負傷していないとはいえ、一応は被害者であるからだ。
手は目をそむけたくほどの具合だったが、見た目よりはたいした怪我ではなかったようで目を治すよりは簡単だった。普段の怪我よりはかなり治りにくかったが。
「で、リリアナ。あいつは吐いたのか?」
面会者用の木の板が目立つ待合室で俺とセレナが待っていたところ、牢のある地下から階段でリリアナが疲労のたまった表情を浮かべながら上がってきた。
「ダメだ。まったく吐こうとしない。とぼけてばかりだ」
リリアナはそう答えると、木製の長椅子に突っ伏した。いつもの彼女から考えると、まったく予想できない行動だ。
「何でも、気が付いたら牢にいたとか、身に覚えがないとしか言ってないんだ。もしかすれば洗脳の類いかもしれないが、獣人を洗脳するなど聞いたことがない」
獣人は屈強な肉体と精神を持ち、彼らは生まれつき幻惑や洗脳などへの耐性が、全く通用しないほど高いという。できて数分と言ったところらしい。
それに比べて、先ほどの追いかけっこの時間は十数分。爆破とその準備も加えれば、数時間は最低でも必要だろう。
「なるほどな……。休憩したら尋問を続けてくれ。俺は念のために洗脳されていた線で調べてみる」
洗脳ならば魔王関連かもしれない。ああ、もう嫌だ、ナイフやら食費やらで出費しかない。そろそろ蓄えが無くなりそうだ。
あの後、裏通りに屯している連中やギルドにも聞き込みを行ったが、全く情報は無かった。情報屋に行っても一見が信用されるわけもなく、情報の購入すらできずに門前払いであった。
これは本当に洗脳なのであろうか?訓練された暗殺者じゃないだろうな、それとかただのイカレとかなんじゃ……。