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第45話

 徐々に数の減る人間モグラの襲撃を受けながら、黙々と山を登るレイアを追う。未だに、一般人はその後を付いて来ているのが、何処と無く不愉快だが。

「リリアナ。さっきから付いて来てるあいつ、ぶん殴って、帰るように交渉していいか?」

「やめろ」

 こんな会話を聞きつつも、興味も示さずペースも一切落とさず、山道を通らずに直線に登るレイアに、正直呆れてしまった。

 ドワーフに対して、勅命でも受けたのか?

 苔の生えた大きな岩や、浅くて細い小川を横目で見ながらひたすら登る。鹿や兎は無視し、狼や熊は襲ってくれば駆除する。腹が減れば固いままの干し肉を、喉が渇けば簡易な水筒からぬるい水を。

 正直言って、少しぐらいは休みたい。

「せめて道を通ろうぜ…………」

 先頭を行くレイアに言うが、まるで耳に何かを詰めているようだ。こんちくしょう。




 あれから、二時間ほど登っただろう。息を切らせながら藪を抜けると、目の前が岩壁の大きな広場に出た。そこの中心でやっとレイアが止まった事に、安堵が胸を撫で下ろす。

「レイア、休憩か?」

 問い掛けるも、やはり無言。何か、レイアにやったかな俺……?

 そう思った時、再び地響きが辺りに響く。また出るのか…………。弱いやつにしてくれよ、ホント。

 広場の中央の地面が一瞬で盛り上がると、次の瞬間には土煙を巻き上げながら吹き飛んだ。

石や土の塊が体を打つが、ダメージを負うほどの物は無いので肉体強化で耐える。

「避けろ!」

 正面からレイアの絶叫が聞こえた時には、彼女は背中を向けながら、こちらに勢いよく飛んできた。

「い!?」

 反応が遅れて胸で受け止めると、レイアの鎧はかなり良いものらしく、肋骨の軟骨と硬骨の境目が軋む。もしかしたら、折れたかもしれない。

「どうし────」

「ま……え…………」

 血を吐くレイアに抱き抱えたまま呼び掛けると、それを遮って途切れ途切れの警告を受けた。

それに従って正面を見たときには、風船のように膨らんだ人間モグラが目前に迫っていた。

「アーク!」

 レイアを後ろのアークがいるであろう位置に放り投げ、左腕と右足で胴と頭を庇う。しかし、顔の右半分と、首は庇うことができなかった。

 人間モグラが破裂というよりも炸裂し、その破片と体内にあったであろう鉱石が辺りに飛び散る。それに加えて、正面にはその巨大な腕が、鋭利な破片となって襲いかかる。

 声を出す暇も無く、庇い切れなかった部分がミンチにされた。





 気が付くと、左目だけでアークの顔を見上げていた。体の感覚は殆ど無いが、辛うじて目と耳は大丈夫のようだ。恐らくセレナの矢だろうが、無数の何かが虫の羽音のような風を切る音を作っている。

「アーク、どうなってる」 声をかけると、アークは驚いた顔でこちらを見た。ひどい声だ、喉が裂けてたのか?

「────レイアさんが、地下からの敵を殲滅しています。あなた達の怪我は、浅くありませんから休んでて下さい」

 アークは状況の説明を優先してくれたようで、淡々と説明をしてくれた。だが、あなた『達』という言葉が引っ掛かった。十中八九、レイアだ。

「レイアはどうした?」

 アークの視線が、俺の死角である、右側に移る。

「魔法で障壁を張ったので、外傷はかなり少ないです。しかし、あくまでも外傷の防御なので、内臓の損傷が激しいですね。鎧で強化されてなければ、かなり危険でした」

 どうやら、鎧による肉体強化は効果が薄いようだ。まあ、死んでないならいいか。

「あの人間モグラは何だ?自爆なんてしやがって」

「あれはモールマイナーです。あの爆発は、ブロウという虫が内部に入り込んだ結果です。しかし、ブロウの生息圏は荒れ地の筈…………」

 そのモールマイナーとブロウが協力し、地中でも爆発しながら俺等を襲ったのか?モンスターが協力するなんて、聞いたこと無いぞ。オマケに、ブロウの生息圏とは違うか。

 レイア、もとい勇者といると、有り得ない事が起こるらしい。そもそも、俺があいつに追われたのも、都合が良すぎるって言えば良すぎるな。

「アーク、リリアナは?」

「後方の警戒を頼んでいます。彼女は前衛と言っても、力押しでは無いので爆発からの離脱が用意ですから」

 面制圧から離脱できるほど速いらしい。慣れもあるのだろうが、とんでもないな。

 段々と体の感覚が戻ってきたが、少なくとも数十の破片が全身に刺さっている。肉体強化で押し出してしまうか。ん?左手が千切れかけたのか、何かおかしいな。

 まだまだ魔力は残っているので、再生をかなりの早さで行う。数十秒経てば、自由に動けるだろう。

「もう少しで参戦できそうだ。レイアの剣、借りるぞ」

 上体を起こしてそう言い、レイアの剣を手に取った。見た目よりかなり軽い。レイアには丁度いいのかもしれないが、俺には軽すぎるくらいだ。

 まあ、機動力重視なら、間合いの取れるこれの方がいい。鞘を地面に投げ捨て、リリアナに合流するために駆け出した。





 リリアナは、一人で数体のモールマ──マ──……人間モグラを相手していた。

 辺りにある、人間モグラが数度爆発した後のクレーターを利用し、そこに奴等を集めて起爆寸前の奴を蹴り入れたり、そこに伏せて爆発凌いだり。速いからこそできる、そんな戦い方をしていた。

「リリアナ、手を貸す」

 リリアナは、空いた左腕を変わった動きで振る。衛兵の指示の飛ばし方だ。

 その意味は、『私を囮にしろ』。つまり、敵の正面には入るな、ということになる。ワンパターンの合図しか無いため、その場の状況で読み取り方を変えないといけないのが面倒だ。

 なぜ知ってるかって?じゃないと、何年も逃げれねえよ。

 リリアナと対峙する人間モグラの右に回り込み、リリアナが牽制をしている間に、力任せに剣で薙ぐ。切れ味は上々で、剣術の経験が無いにも関わらず、すんなりと三つの首が宙を舞う。

 だが、その首の無い体から骨の位置が変わる音がしたため、離脱して近くのクレーターに伏せる。その三秒後、頭上を破片が通るのと共に、胸に鋭い痛みが走る。

 息をする度、ゴボゴボという水温が体の中から響き、咳が止まらない。

「肺か……!!」

 肉体強化で再生を始めるが、なぜか治りが遅い。その上、肺の中の血が消えるわけでもない。

 更に、相手が待ってくれる訳もない。

「アア……ァ…………!」

 無理矢理体を引き起こし、人間モグラを縦に両断する。その時見えた自分の左手に、鳥肌が立った。

「な……!?」

 剣の柄からインクのように滲み出た何かが、ジワジワと俺の手の甲までを、ガラスの様な見た目にしつつある。思わず、剣を放り出した。

 すると、その部分は白煙をうっすらと上げながら色を変え、濃い水色の肌となった。触ってみると、以前に殴ったワイバーンの鱗のような硬さと、人肌の柔軟さがある。

「どうなってんだよ…………」

 そう言って、肺の傷が治り、中の血も何処かへ消えているのに気付き、青ざめる。本能的に見られたらマズイと感じ、上着を千切って巻き付ける。

 そして、素手のまま、リリアナの援護に向かった。





 セレナの発射音が止んで十数秒後、足元の揺れが遠くに消えた。

「終わったか……」

 そう呟き、直接触れたくは無いので、上着を巻き付けてロングソードを持つ。鞘も探さないといけなかったが、捨てた辺りをうろうろするとすぐ見つかった。ちなみに、レイアは未だに目覚めていなかった。

 そうなると、やっぱり運ぶ必要がある。そして、この中で、一番腕力があるのは俺である。

「重い」

 リリアナ の ローキック

ランサムは ぼうぎょした

「まったく!貴様は!!」

 ギリギリと歯を噛み締めるリリアナ。歯並びが悪くなるぞ。

 現在、レイアをおんぶしている。肩に担ぎたかったのだが、アークによるドクターストップがかかった。内臓に悪いらしい。

「で?ドワーフの街を通り抜けるんだろ、入り口はどこだ?」

 広場の正面にある壁を爪先で蹴るが、空洞音もしない。山を間違えたんじゃないか?

「合ってますよ。しかし、戦闘があったので閉ざしているのでしょう。もう少しで開きますよ」

 アークがそう言うと同時に、巨大な岩の壁が揺れ始める。

「丁度よかった。さあ、少し離れましょう」

 アークの言葉に従って壁から数メートル離れると、ゴリゴリという音共に壁が奥に下がり始めた。

ネタを忘れないようにメモを始めました

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