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第43話

短いですが、やはりキリがいいので。



40話で一年かかって、内容は一週間進んだかどうかってかなり危ういよね。

 走る、走る。時々背後から単発で飛来する閃光を避けつつ、逃げるためにひたすら死体だらけの荒れ地を走る。

「どこ 行く だ、ラ サムー!」

 背後から、途切れ途切れに俺を呼ぶレイアの声が何度も聞こえる。

 本来なら立ち止まって文句を言うが、閃光を放つのがレイアな以上は止まるわけにはいかない。どうにもあの閃光は肉体強化に関係なく、物体を貫通するようだ。その証拠に、右耳がプラプラと揺れている。

「ちくしょおおおお!!」

 思わず声を張り上げて叫んでしまう。

「 てよ ラン ム」

 今度は魔族が持っていたであろう何かが飛んで来るのを感じるが、風を切る音からして斧か何かだ。

飛び込み前転の要領で思いっきり前に跳び、斧を下に避ける。

「くそっ!?」

 大勢を立て直しながら斧の軌跡を見ると、明らかに心臓狙い。完全に殺す気だ。

 理解できない。なぜリリアナの死体を見つけた途端、こうなったのか訳が分からない。その時までのレイアも様子がおかしかったが――――――

「ここまでじゃなかった……!」

 後ろに首だけで振り返ると、図鑑で見るようなゾンビのレイアがいる。

 ゾンビへの対策方法。頭部の破壊か、放火。レイア相手ではどちらも難しいだろう。それに、しゃべる意志があるということはゾンビではない可能性が高い。

「おい、 っか しろ! ンサ !!」

 数メートル先の死体の手元にモーニングスター。鉄球に棘が生えた物が先端にある片手持ちのハンマーがある。あれを使おう。

 地面に足がめり込むように柄を思いっきり蹴り上げ、二、三歩進んだところで胸の高さでキャッチする。閃光が真横を通り抜けた瞬間に足を止め、モーニングスターを持った右手を振りかぶる。

「消えろ!!」

「 っ!?ラン ム!」

 走ってくるレイアの顔面にモーニングスターを振り下ろした時、視界の隅に影が映った。

「が……!?」 

 それと同時に、蹴られた感触が左脇腹にし、右側に大きく吹き飛ぶ。

 次から次へと、いったい何なんだ。思考が追い付かない…………

 吹き飛びながら蹴りの元を見ると、腹に大穴の空いたアークがいた。

「嘘だろ、おい!?」

 そのまま空中で体勢を立て直し、着地。こんどは、アークにモーニングスターを叩き付ける。

「彼 も厄 事を てく ま たね。」

 アークの声も途切れ途切れだ。

 腕が振り下ろし切る前にアークの左腕が素早く伸び、手首を掴まれる。そして、引っ張られる勢いが乗せられた瞬間、拳闘士かと思うようなボディーブローが鳩尾にめり込んだ。

 肺から空気が一気に押し出されるが、気絶しそうになるのを堪える。

「な…………」

 肉体強化、効いてないのか?いや、体に魔力が満ちる感覚はあるんだ、そんなはずはない。

「 うい こと 柄で あ ま んが、仕 あり  ん 」

 その声と共に、アークの後ろ回し蹴りが右側頭部を狙って振るわれるが、とっさに半歩前に出て飛んできたふくらはぎに肘鉄を打ち込む。

「させ か!!」

 怯んだアークに追撃しようとするが、その体の隙間を縫うように飛来した光が右肘を貫通したために断念。

 防御ができないなら再生能力を強化するべきだと判断し、防御を捨てて再生に専念する。

 すると、自分でも信じられない早さで傷が塞がる。しかし、その部分はまるで魔族のような、真っ青な皮膚になっている。

「どういう事だ……?」

 だが、気にしている暇はない。

「く っ!?アー 、 絶  るぞ!」

 その様子にレイアは焦ったようで、アークに指示を出した。

 光線ではなく光弾がその皮膚に直撃するが、その表面からは散って人間の皮の部分を焼く。そして、その部分が再生し、更に水色の皮膚が広がる。

「近 離しか  か…………!」

 レイアとアークが左右から挟むように近づいて来たので、挟まれないようにバックステップで何度も下がる。

 ふと、視界に船上の光景が映った気がしたが、アークとレイアに集中する。

 左側のアークからの左足のハイキックを腰を落としてかわし、レイアからの顔を狙った右膝蹴りを脛を殴り付けて頭上に逸らす。

「 っ…………!」

 痛みで怯んだレイアの左足を右手で掴み、力任せに振り回してアークにぶつける。

 それを正面で受け止めたアークを、レイアを蹴り飛ばして二人とも吹き飛ばす。

 鎧越しだが、恐らくは骨が折れただろう。これで、しばらくはアークに専念できる。

 アークの左フックを拳闘競技の構えで防ぎ、右ストレートで顎を狙う。

 その瞬間、右手首があらぬ方向に捻れた。

「は!?」

 思わずバックステップをしようとするが、アークの左腕に右手を掴まれて動けない。そして、アークは俺の二の腕を掴むと、いとも簡単に俺の水色の右肘をねじ曲げる。

「体の事は詳しいですから」

 そう言うと、外側にバランスの崩れた俺の左側頭部に肘鉄を叩き込んだ。

 それによって視界は歪み、意識は遠退く。だが、見方のいないこの状況で、気絶するわけにはいかない。

「な !?」

 動かない右手の肘から先を左腕で切断し、意識を引き寄せると同時に腕の再生にかかる。

 治した部分が魔族になるなら、それを利用すればいい。

 この上昇した再生力なら腕でも、なんだって治せる。そんな高揚感を感じる。

「────よし」

 唖然とするアークの目の前で、腕は内側から再生した。尖った爪と裂傷のような紅い模様が気になるが、背に腹は変えられない。

 その腕をアーク目掛けて振る────

「やめろこの馬鹿!!」

 後頭への鈍い衝撃と共に視界は揺らぎ、体が痺れる。

 後ろをゆっくりと振り替えると、鞘に入ったロングソードを持つレイアがいた。

 俺の右腕に目をやると、もう一撃を顔面に叩き込まれた。

「…………ごめんな」

 泣きそうな声だったが、先ほどの一撃のせいで視界は暗転し、その顔を見ることは叶わなかった。





 鈍痛を節々から感じながら目を開けると、そこは船室だった。上体を起こして薄暗い部屋の中を見回すと、隣のベッドにはレイアが寝ている。

「…………夢?」

 相変わらず右腕はなく、レイアも安心した表情で眠っている。

「────ん」

 レイアが目を覚ましたようで、漏れるような声が聞こえた。

 丁度いい、聞いた方が早いな。

「おい、レイア。起きろ」

 レイアを軽く揺すり、完全に目を覚まさせる。

「ん……?ああ、ランサム。おはよう」

 レイアは上体を起こして大きなあくびをすると、グリグリと首や肩、腰を回す。

 その暢気さから、先ほどの事は夢だと判断する。あんな事があったのなら、少しぐらいは動揺するだろう。

「どうした?」

 固まる俺に違和感を覚えたのか、レイアが不思議そうな顔で問いかける。

「いや、ちょっと嫌な夢を見た」

 どうせなんだ、少し気を紛らす事を言ってもらおう。

「なんだそりゃ、いったいいくつなんだよ」

 レイアは面白がるように笑いながら再び寝転ぶ。

「悪かったな。多分、原因は船だな」

 同じように笑いながら、部屋の出入り口であるドアへと歩く。

 そうそう。こういうのが欲しかったんだ

「ちょっと風に当たってくる」

 だが、胸が悪いのはどうしようもない。外気に当たるのが一番だろう。

「そうか。俺はまだ眠いから少し横になる」

 レイアはそう言うと、目を閉じてしまった。

 俺は軋むドアを開けながら、大陸に渡った後の事を思い描いた。





「行ったか」

 目を開けて目線だけをドアに向けるが、開く様子はない。

「痛っ!」

 肋骨の軟骨と硬骨の間が完全に治ってないのか、体を捻った途端に鋭い痛みが走った。

 まったく。あそこまで思いっきり蹴らなくてもいいだろ…………

 薄暗い中手探りで髪止めを探すと、ランサムの腕を切り落としたロングソードの柄に触れてしまい、憂鬱な気持ちになった。

「…………馬鹿野郎」

 女に薬を盛られたランサムは理性を失い。女を殺し、その後は部屋に閉じ籠った。

 対処法を考えている間に抜け穴を作って脱出。そして、リリアナを瀕死に追い込んだ後に甲板で俺とアークと戦闘。気絶させて今に至る。

「それにしても…………ランサム、お前は何者なんだ?」

 昨日の魔族の腕を思い出し、ベッドの隅で聖霊に祈った。

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