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第42話

短いですが、キリがいいので

 匂いと音をたどり、気配のする部屋の前にたどり着いた。中の様子を探るが、一人、それもビンごと煽って酒を飲んでいるような音まで聞こえる。

 余裕綽々か?いい気なもんだ。

 とりあえず、見逃すこともできないため、短刀を左手に持ってドアの前に何歩か離れて立つ。そして、肘でドアを吹き飛ばして突入するつもりで体制を整える。音が出るが、どれだけ探っても周りに気配はないため、一番確実な方法で行うことにする。入って右手にいるが、あまり関係はないだろう。

 息を整え、心の中で数を数える。突入までのカウントだ。

 1……2の……3!!

 肉体強化による全身のバネを使い、イノシシのようにドアへと突撃する。ドアに体がぶつかる寸前に体を浮かせ、砲弾のようにドアを内側へ跳ね飛ばす。それに気づいたベッドに腰を掛けているフードの男は左手で酒瓶をこちらに投げつけながら右で腰に差した剣を抜こうとするが、酔っているためかあまりにも遅い。膝を曲げた左足が床に着く瞬間に強引に伸ばし勢いの向きを変え、投擲された酒瓶の下をを繰りながら男へ短刀を持った左腕を突き出す。

 「殺った」そう確信していた。

「相変わらず嫌なガキだ」

 男がそう言いながら先ほどの酔った鈍さとは違う、獲物に食らいつく蛇のような瞬発力でこちらに跳んで来るまでは。

「ッ!?」

 そのまま、驚きで目を見開いた俺に向かっていつのまにか剣から離れた右腕を突き出した。何の変哲もない右腕。しかし、もしかしたら……もしかしたらこの人物がアイツならそれは脅威以外の何物でもない。しかし、空中、伸びきった左腕。と、防ぐ手段がなかった。

 その手のひらから捻じれるように土色をした槍が伸び、俺の左腕のわきを通るようにしてその根元の柔らかい間接へと突き刺さると、そのまま肩甲骨を砕いて背中から飛び出した。その勢いが強いためか、両者が弾かれることもなく押される。

「ゴ……ァあ…………」

 左の肺をやられたらしく、口から血と共に異音が溢れる。

「おっと、死ぬんじゃねえぞ?」

 男はそのまま槍の先を着地地点の床に突き立てると、同じく左腕から出した槍で俺の右太ももを上から左も貫くように突き立てた。思わず声が出そうになるが、なんとか飲み込む。

「何だ?まだ堪える癖があるのか。反応しないとサドの姉ちゃんに嫌われるぞ?」

 男はフードの中から見える口を無理やり引っ張るように笑った。ぶん殴りたいし罵りもしたいが、関節をやられて腕が動かない上に、血が溢れるように気管から出てくるため話せもしない。

「なんだ?反応悪いな」

 その声と共に、槍が動いた。動いたといっても引き抜かれたり、傷口をほじくられるわけでもない。槍が心臓のような鼓動を上げながら血管などの管という管をこじ開け始めた。

「まあ、これでいいだろ」

 そしてその中へ入ると、一定間隔で螺旋階段のように渦巻きながら肉を掘り進む。そして一定の位置まで伸びると、槍から伸びていた根元が高速で回転し始めた。

「*%!”%‘$>!!」

 自分でも何を言っているのか、叫んでいるのかわからない。感じる苦痛を音に変換したような声が、俺の耳に届く。

 おかしい。確か、複雑なことは苦手だった。こいつはアイツじゃない!!

「おま……え、誰ダ?」

 なんとか声を振り絞り、そう言った途端、男の口元が歪んだ。

「誰かって?野暮なことを聞くんだな……お前が思ってる通りだよ。お前を拾い、育てた■■■■だ」

 嘘だ、確実に殺した。首をねじって、吊るして血を抜き、その後に頭をつ潰した。

「違う!お前は俺が殺した!!」

 視界が溶ける。





  これじゃダメか





「やっと終わったな。さて、俺は適当にバックレるか。ランサム、お前はどうする?」

 辺り一面に魔族らしき風貌の死体。その中心に座り込み、正面ではボロボロのレイアが疲れたように笑っている。その手に持つ剣は、血糊と脂で光っている。

「どうした、ランサム?」

 呆けてしまっているのを心配したのか、レイアが目の前に歩いてきた。

「かなり多かったからな。やっぱり格闘主体はキツいか?」

 そう言うと、短剣を握りしめている俺の右手│(・・)を両手で包み込んだ。

「なっ!?」

 なぜ右手がある?トカゲ野郎に食われた筈だ。

「ほら、力を抜け」

 レイアが揉み解すように、短剣を固く握る手を擦る。

 それに従い、なぜ自分でも力を込めていたのか分からない右手の力が抜けていく。

「なあ、何があったんだ?」

 そう言うと、レイアはひどく驚いた顔をした。

「何って、やっと終わったんじゃねえか。急にボケちまったのか?」

 頭がパンクしそうだ。

 どうなってる?こんな事が起こったなら覚えていないなんてあり得ないし、俺は船の中にいたはずだ。

 確か、壁をくり抜いて…………何かあったような、無かったような。

 レイアは剣の血を払うと、隣に座り込んだ。

 これは夢なのか?それとも、俺が忘れてるだけなのか?

「ああ、ちょっと動転してな…………そういえば、他のやつらはどうした?姿が見えないが?」

 辺りを見回しても、魔族の死体以外は俺とレイアだけだ。

「他のやつらか……」

 レイアは立ち上がり、彼女から見て左を指差した。

「俺に見えたのはリリアナだけだったからな。あそこらへんだと思うぜ」

 指差した先を見るが、地に伏す魔族の死体以外には何もない。

「おい、どこだよ?死体しかないぞ」

 嫌な予感がする。

「ああ、そうだよな。分かりにくいか」

 レイアは指を指した方向に歩き出す。自然とその後ろを俺も歩き出す。

 しばらく歩くと、急にレイアが止まった。

「下になってたのか……今、出してやるからな」

 魔族の死体をどかし始めるレイアの背中が、ひどく悲しそうに見えた。

 何体かの死体をどけた時、レイアの動きがピタリと止まった。

 見覚えのある綺麗な金髪が、レイアの背中の端に見えた。

「…………ランサム」

 声が震えている。

「他のやつらを探そう」

 レイアが早足で先ほどの場所に戻ろうとし、その場をどく。

 先程まで立っていた足元には、リリアナがいた。いや、あったという方がいいだろう。

 足は捻れ、左腕はいくつにも千切れ、胴には何本もの矢が刺さり、リリアナの着ていた衛兵の服から飛び出しており、肋骨らしき白いものもある。そして、かじられたような傷が、二十数個も全身にある。

 極め付きは、顔が無かった。頭はある。しかし、その前にあるはずの顔が、強い殴打によって固め損ねたゼリーのように、その周りに飛散している。無論、顎や鼻なんて無かった。

「おいおい…………」

 思わず後ずさると、卵のような物を踏んだ感触が足に伝わる。

 恐る恐る足を上げると、水が地面に染み込んでいる。靴の裏を見ると、リリアナの目玉がへばりついていた。

「ランサム、行こう…………」

 吐きそうになった所に、レイアに背後から右肩を捕まれた。

「────あ、ああ」

 なんとか声を絞り出し、首だけで振り向く。

「どうした、ランサム?」

 立つ死体が、俺の目に映った。

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