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第41話

1ヶ月以上も未更新はないですよね……



一話よりは文章はましになったでしょうか?

 あの後、レイアたちを膝ほどの高さに調整した貨物の上に寝かした。セレナの案により、手当てをしやすくするため均等に間隔を開けて並べた。しかし、いまのところはそれだけしかできない。まあ、さすが貨物船と言うべきか、貨物室がある程度はキレイなのが幸いだ。

 倒れずに済んだのは俺とセレナを含めて五人ほど。しかし、残りの三人の内二人が身なりからして傭兵というのがいただけない。彼らも仲間が倒れているからには、おかしな真似をしないといいが。

「ランサムさん、なんともありませんか?」

 目の前のレイアを見ていると、背後からセレナの声がかかった。

「いや、相変わらずだ。呼吸は浅いし、何より顔色が真っ青だ。アークならどうにかできるかもしれないが、生憎な…………」

 自身に魔法を施せばアークは治るはずだがそれをしないのを見ると、魔力の操作自体ができないようだ。まあ、もし呪いのようなものなら解除はできないだろうが……

 それを聞いたセレナは残念そうに目を伏せたが、すぐにこちらに向き直った。

「そうですか……私は彼らに水属性がいるかと思い話しかけてみたのですが、風しかいませんでした。よって、風には効かない物である、毒や呪いの可能性が高いですね。……ですが、こんな症状が出る物は心当たりがありません」

 その声は、ひどく悔しそうな色をしていた。

 まったくもって厄介だ。相手はまず、俺の強化された聴覚にも、気配の察知にずば抜けたセレナにも近づかれるまで察知されることなく事を起こした。

 更には、ほぼ確定だろうがあの杖の発光がレイアたちの症状の始まりと仮定すると、一度の魔法で十数人をこの状態に追いやった。船の規模からして、他の部屋にも捕虜はいるのだろう。しかし、あの女以外を見かけていないという点からすれば、捕虜を取る余裕を持ちながら制圧したということになる。

 …………そもそも、最初から船にいたのか、途中から乗り込んだのかさえ分からない。

「毒か呪いか…………」

「ええ。状況から考えると無臭の毒ガスを発生させる魔法か、呪いをかける魔術ですね」

 セレナは、アークの荷物を何から何までひっくり返しながら言った。

 どうやら、意外にも緊急時には遠慮をしない性格のようだ。

 それにしても、魔術とは何だったか……レイアの図鑑で見かけたような気も、見かけなかった気もする。まあ、魔法関係と判断できれば十分だろ。




 レイアたちが倒れてから二、三刻は経っただろうか。その間に、打開策をセレナと話し合っていくつか決めた。

 まず一つ。力ずく脱出し、レイアたちを殺される前に殺す。呪いなら発動者を倒せば消えるだろうが、リスクが大きすぎるので最終手段に決定。

 二つ目。主にアークなどの、魔導師の荷物から打開策を探す。これはあまり望みがあるとはいえない。

 三つ目。おそらく、動けるのは風属性しかいないと思っている敵の裏をかき、俺が一人で殲滅を行う。その間は、俺の幻をセレナに作ってもらう。高等技術だが、セレナは少ない範囲ならできるようだ。三つの中で、これが最も成功率の高いものだろう。負担が俺にかかるが、レイアに死なれても困る。

 と、いうわけから三つ目の案を実行するのだが、他の三人が敵の可能性もある。そのため、見えない位置で俺の幻をセレナが作り、その位置から俺が脱出する事になった。

しかし、隠れる位置までどう行くかが問題だ。街中で尾行されてる場合などなら普通に抱き合いながらでも行けばいいが、今の状況ではその類いの誤魔化しは使えない。

「さて、どうするかな…………」

 呟きながら上を向くと、格子の向こうにまるで宝石箱をぶっちゃかしたような星空が見える。思えば、星空を見るなんていつぶりだろう。王都では周りを警戒するあまり、上を見ることはあっても空を見ることは無かったようだ。

 夜空は海の上だと、陸よりもよく見えるようだ。灯の光が無いのが理由か、風通しが良いのが理由かはよく分からない。そういえば、星の配置から絵に見えるものもあるらしい。

 今は見えないので見方を変えようと思い、首の傾きや視点の上下を変えてみる。しかし、俺にはバラバラに散っているようにしか見えない。

 どうやら、どんな見方をしても俺には絵には見えなさそうだ。

「どうしたんですか?」

 一人で回ったり首を動かす俺を不信に思ったのか、先程まで会議をしていたセレナが話しかけてきた。

「──いや、何でもない」

 セレナに顔を向けて一度は本当の事を言おうと口を開いたが、星座を見ようとしたと言うのは少し気恥ずかしいのではぐらかす。

「ああ、星座ですか?海の上はよく見えます」

 人が羞恥心から隠したのを知ってか知らずか、セレナはあっさりと図星を突いてきた。

 そして、どうやらセレナには星座が見えるらしい。

「今日は鷹とユニコーン……あ、蟹も見えますね」

 多少の気が紛れたのか、どこか楽しそうにセレナは話す。

 うん。何をどうしたらそう見えるのか、さっぱり分からない。

「セレナ、どうすれば星座は見える?コツでもあるのか?」

 そう言うと、セレナは嬉しそうな表情からきょとんとした表情になった。

「見えないんですか?」

「ああ、何も見えない」

 見えないものは見えないんだ。かといって、見えなくて困るわけじゃないが、どこか疎外感を感じてしまうのはなぜだろう。

「星座はどんなに感受性の乏しい人にも生まれつき見えるはずなのですが…………」

 初耳だ。それよりも、どこか貶された気もする。それとも、当たり前に見えるって事だろうか?いや、そうに違いない。

「あ、もしかしたら」

 セレナは気休めにとレイアたちの額に置いていた布を、唯一の液体である酒に漬ける。

 あまり冷たくは無いが、今はこれしかない。

「属性によって見え方は違います。私に見えるのはあくまでも風属性の視点なので────」

「俺の場合は真っ暗か」

 もう苦笑いしか出て来ない。闇属性であることの問題は大きなものだけかと思っていたが、こんな小さな問題があるとは想像していなかった。そして、こんな小さな問題があることから、もしかしなくとももっと多くの問題があることが推測できる。

「でも、いい事もありますよ。かなり強力な毒への耐性があるようですし。えーっと、ほら、魔力も多いじゃないですか!」

 セレナはフォローするように言うが、デメリットが大きい代償のようなものなので嬉しくない。その上、後者は俺の体質だろう。

「はー・・・・・」

 自身の属性に呆れ、ついついため息を吐いてしまった。肩の力が抜けるとともに、あることに気が付いた。

「いない・・・・?」

 先ほどまで動いていた三人が、見える位置にいない。好機。この状況は、まさしくそれだった。

「セレナ」

 声を抑えながらセレナに声をかけると、彼女も気付いていたようですでに何かを呟き始めていた。

 もうここはセレナに任せていい。そう判断した俺は貨物室の奥へと向かった。




 暗い貨物室の一番後部で最低部。ここなら気づかれずに出れるはずだ。

 慎重に、慎重に。肉体強化で聴覚や嗅覚を増長させながら壁の向こうを探る。 

 耳を壁にあてながら壁に張り付いて十五分ほど経っただろうか。近くの部屋に誰もいず、壁の中がスカスカしている部屋を見つけた。そしてその壁を作る板の隙間に逆手に持った短刀を刺す。空洞ということもあり、力を込めるとすんなりと入った。

 リリアナならこの壁を斬れるかもしれないな。そう思いつつ、右手で隙間を広げようとするが腕がない。

「やべえ……」

 両手で出ることばかり考え、左手のみで出る方法は考えていない。

 どうしたものかとそのままの姿勢で固まったが、ある方法を思い付いた。何が起こるか分からないのでどうも遠慮したいが、状況の打開には仕方ない。

 手袋をはずし、隙間に刺した短刀を鍔で止まるまで刺し込む。そして、柄を握る手に意識と魔力を集中させ、成功した光景をイメージする。そして魔力に指向性を持たせながら、短刀に一気に流し込む。

 その瞬間、短刀の刃が光沢のある漆黒に染まり、触れている壁が五ミリほど黒い煙となって消えた。

「よし」

 思わず口角が上がった。

 リリアナの真似事だが、意外にもキチンと発動したようだ。最も、形を真似ただけで効果にも差異があるようだ。

 そのままナイフを走らせて壁を作る木をくり抜いていく。肉体強化と違ってかなり集中力を食うようで、五十センチ四方の穴を空けた頃にはこめかみに違和感を覚えた。気持ちを切り替えるために頭を振ると、多少靄がかかったその穴から物置部屋に通り抜ける。出口付近にも木箱が積んであり、窮屈さを感じたが仕方ない。

 床に片膝を着いてしゃがむと回りがよく見えた。掃除もあまりされていなかったようで、埃の積もった箱が狭い部屋に押し込まれている。

 まあ、これでも充分キレイだ。まだまだ伝染病の元は湧かない。

 辺りに誰もいないことを聴覚で確認すると、ゆっくりと廊下への扉を引く。あまり開けられていないドアの軋む音が、静かな廊下に染み入るように響いた。廊下からは、どこか懐かしい匂いが物置部屋に流れ込んだ。




 一歩一歩、忍び足で船の中を歩き回る。一体どこにいるのだろうか。気配をまったく感じないから気味が悪い。

「それにしても広い…………」

 ここは異常なほど広いのだ。船とは思えない広さの上、いつしかセレナたちの気配も感じない位置にまで来てしまった。引き返すべきか迷いつつ何度めかの曲がり角を曲がった時、気配を感じた。耳を澄ますと、どこか聞き覚えのある大人の息づかいも聞こえた。

 それを聞いた途端、懐かしい匂いが強くなった気がした。不思議と、悪い気分にはならなかった。

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