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第37話

 夜明けと共に人々は起き、港町特有の賑やかな一日が始まる。その日は開門と共に、賑やかではなく、騒がしい一行が入ってきた。

「いくらワイバーンに会ったからって閉門の時間まで忘れるか……」

「うるせえ!」

「おー、人の話を聞かないばかりか、それを遮って罵倒するか…………とんでもない奴だ」

「黙れ!!」

 声と共にハイキックが側頭部目掛けて繰り出されたが、肉体強化を施した左手で受け止める。

 回りから見れば隻腕が蹴りを入れられ、それを残りの腕で止めるという珍しい光景だろう。


 朝からレイアは元気だ。稼業の関係で夜行性の俺は生活リズムの狂いや、睡眠時間が少なすぎる事で死そうだ。こっちはくたくたなのにレイアは元気。それがしゃくだから適当に嫌みを言ったら、更に元気に…………あーあ、生活リズムを変えるの疲れるんだよなー

「ランサム。ちゃんと義手のこと、考えてるよな?」

 独りで眉間の皺を増やしていると、後ろを歩いているリリアナがレイアをチラチラ見て、小声で話し掛けてきた。

「ああ、考えてる考えてる」

「…………本当にか?」

 明らかな考えてない姿勢に、『考えてないだろお前』という目で見てきた。いいだろ、義手を付けるのはその話が出た時点で決定のようなものだし。

「まあ、考えているのならそれでいい。どうするかは大陸に入ったら聞かせてくれ」

 振り向いてないので分からないが、少しリリアナの頬が緩んだような気がした。

「──ああ、分かったよ」

 そう思うと、不思議とこちらも頬が緩んだ。

「リリアナ、大陸の……と、いうより今から行く国の事を教えてくれ。言語とか通貨とか」

 ついでだ、この微妙なことも聞いておこう。ワイバーンなどの戦闘のことは後回しだ。

 リリアナは考える素振りも無しに、すぐに口を開いた。

「大陸のほとんどは一国、ウィーリア帝国が占めている。言語は方言以外は統一されているが、中には異国の言葉に聞こえる方言もあるらしい。通貨は銅貨、銀貨、金貨だ。銅貨はこちらと価値が変わらないが、銀貨、金貨は価値が低く、十五枚ずつで交換する。気を付けろ、こちらの通貨は価値が高いから盗賊やスリの標的に……」

「同業者同士なら臭いで分かる。それに、同業者に手を出すのは間抜けだけだ──大陸でも同じかは分からないがな」

 この話はレイアに隠す必要もないので、普通に言った。

 同業者は雰囲気や気配、目付き、手のひらで分かる。街を歩くと石を投げたら当てれるくらい見かける事もあるからな。

「そうか……やはり、どんな職でも同業者は分かるものか…………ここらにもお前の同業者はいるか?」

 そりゃあ、もちろん。

「いるな。何人かはこっちに来たが、俺に気づいて止めたよ」

 背中に、ものすごく冷えた風が吹き付けた気がする。

「そうか…………ならいっそ、ここにいる全員を職質して……」

「無理無理、逃げられるに決まってる。それに、会話を聞かれてるから近くにはほとんどいないしな」

 そう言うと、リリアナは石を蹴ったようで、石畳も敷かれていない地面を靴が掠める音がした。

 ほとんどいないというのは出任せだが、同業者が捕まってもたまらないからな。

「……まあ、仕方がない。船が出るまで時間もある。港町に来たんだ、ギルドで報酬を受け取ったら魚料理でも食べるとしよう。昨日はほとんど食べてなかっただろう?」

 言葉通り、仕方がないといった様子でリリアナは言った。

 なぜ、いきなり話が飛んだのか分からない。まあ、食い物は食えるうちに食べるべきだ、いただこう。

「ああ、ゴブリンになりそうなくらい腹が減って仕方がない。美味いもの教えてくれよ」

「ああ、期待してくれ」

 振り向いて、腹が減ったときの決まり文句を言うと、少し楽しそうにリリアナは言った。

 視線を前に戻すと、武器を持った男が出入りし、剣の紋章の入った看板を掲げた酒場があった。看板からして、恐らくギルドだろうか。

 そう思ったとき、右手の少し前にいたレイアが立ち止まった。

「よし、アークとリリアナは食料を買ってきてくれ。セレナは雑貨を、ランサムは…………着いてこい。迷われて船に遅れられたら面倒だ、問題に首を突っ込みそうな気もするしな。終わったらギルドに来てくれ、酒場ということだし飯を食おう」

 どうやら役割分担するらしい。この街のことは分からないことだし、レイアの言い分も納得できる。けれども、俺の役割を言う手前の間に、釈然としないのはなぜだろう。

「分かったな、じゃあ解散。アーク、少しでいいからライム忘れるなよ」

 レイアはそう言うと、俺の襟を左手で掴んで引っ張り、酒場へ歩き出した。それを合図に、各々は担当の物のある方向へ歩き出した。

 猫か、俺は。身長的には多少、無理してるようだが。それにしても、レイアはライムが好物なのか?ライムだけということは無いだろうが、買い出しまでさせるなんて……………まあ、いいか。



 酒場はいいが、酒場に集まる人間は嫌いだな。何よりうるさい。

 ガヤガヤと、なかなか広い酒場は声と人で溢れていた。それは依頼の内容についてだったり、報酬の良し悪しだったり、はたまた、酔っぱらいや頭のイカれたやつらの罵声だったり。いつも不意打ちに備え、五感を常に強化している身としては、かなり耳障りだ。もし俺が獣人なら逃げ出しそうだ。

「おい、こっちだ」

 カウンターで受付嬢から依頼の報酬を受け取っているレイアが、少し離れていた俺を呼んだ。

 さすがに酒場へ入ってからは手を離され、レイアに着いていくだけになっている。

「ああ、分かったよ」

 この広さの酒場では、ギルドの仕事を担当するカウンターも多い。

「ランサム、お前の生年月日教えろ」

「は?」

 いきなり何を言っているんだこいつは。

「ギルドへの登録だ。他は書いてやったから早くしろ」

 登録と聞いて受付嬢を見ると、受付嬢は右腕が無いのが気になっていたようで、右肩を見ていた。俺の視線に気づくと、気まずそうに笑った。

 生年月日か、心当たりが無いな。まあ、覚えてないなら仕方ないな。

「あー、覚えてないから空欄にしてくれ。いいよな、受付さん?」

「え!?あ、はい」

 気まずい雰囲気なのに、いきなり話を振られて驚いたようだ。しかし、マニュアルのような本を見ると、すぐに承諾した。

「分かった、空欄だな」

 こういうのは本人が書くのだろうが、俺は書ける自信がない。大体は読めるんだけどな。

「ランサム。少し時間がかかりそうだから、適当に座ってろ」

「言われなくても座りますよ」

 立ちっぱなしは歩くより辛いのはなぜだろう

 酒場は大人数の座れる長テーブルばかりだが、近場にまとめて五席も空いていなかった。辺りを見回すと、少し離れたが入口から三列目の端に空きがあったので座ることにした。

「ふー…………」

 やっと一息つけた。盗賊にワイバーンか……嫌なやつらばかりに会ったな。盗人が奇襲して隻腕とは情けない。魔具も左しかなく、右の二の腕にしまってあった投げナイフは紛失。もうそこら辺の物を投げたほうが財布に優しいかもな。後で武器の携帯位置を変えるの手伝ってもらおう。

 そう思いながらレイアが来るのを待った。

十数日ぶりと、大変遅くなりました。これから暫く、実生活が落ち着くまでは合間を縫って更新させていただきますので、このペースになりそうです。


ヘルシングか攻殻機動隊が書きた(ry

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