第36話
毎日ちまちま書くのに一週間かかる不思議。更新間隔を縮めなければ……
平野に出て、冷たい風が吹き抜ける深夜にも関わらず、あのまま歩き続けているが先頭を歩くレイアが一言も喋らない……雰囲気が悪いにもほどがある。ワイバーンの群れが来なかったことは勿論、弓兵がなぜワイバーンに気づかなかったか誰に聞こう…………
迷っていると、強化した聴力が波の音と人の声をかすかに捉えた。もう少しで着くようだ。船でもこの雰囲気なら圧迫感で死ねるな。マトモな話をするマトモな相手が殆どいなかったらな、こういうのには馴れん。マトモな話をしたのは盗品の転売屋くらいか…………いや、マトモな相手じゃないか。
自分の交遊関係の無さに沈んでいると、リリアナがゆっくりと歩く速さを落とし、横に並ぶと、
「なあ、義手を付ける気はあるか?」
提案のような、確認のようなことを話し出した。
「ギシュ?」
聞いたことのない単語があったので聞いてみる。付けると言うからには、良いものだといいが。
「義の腕だ、魔力を通していれば動かせれるぞ。いい物は感触を感じれる。温度は無理らしいがな。余談だが、製作者は名称を魔手にしようとしたが、イメージが悪いから無くなったらしい……まあ、どうでもいいか」
「動かすだけじゃなく、感触まで…………」
「気にしない方がいい。便利に越したことはない」
義手……魔力で動かせる腕か、何か仕込めるか?隠密性と価格、複製のしやすさが気になるな。まあ、隠密性だけ聞いておくか
「なあ、それって目立つか?」
リリアナは少し悩み、こう言った。
「そうだな……義手と知られれば目立つが、そうでなければ手袋をすれば殆ど分からない。本物の腕のような見た目の物もあれば、正面からの戦いのみを考えたタイプもあるからな」
世の中には色々な物があるな。もしかして、盗みってハイリスク・ローリターンか?いや、まさかな。
「それにしても、意外に知らないのだな。価値のあるものは調べ上げてあるのかと思ったのだがな」
驚いたように言った。
「いや、盗むもの以外は調べない。面倒だからな」
「さらっと自分の無計画を言うな…………」
少し呆れたようだ。
しかし、義手の話がなぜ今、リリアナが言うんだ?レイアなら付けて戦えとか言いそうなんだが?
「そんな物があるなら、どうしてレイアは俺を降ろそうとしたんだ?それなら足が飛ぼうが、腕が飛ぼうが戦えるだろ?」 そう言うと、リリアナは嫌そうな顔をして俺を見た。
「ついさっき目の前で腕を無くした相手に、腕を付けて戦えって言う。私としては、十分に外道の言うことに感じるがな。そう思わないか?」
「あー、嫌気が刺すな」
「そうだろう?あの人は負傷者を無理矢理戦わせない。普段はさがらせるんだ、本人の意思を問わずな。…………さっき参戦しようとしたら止められてな。勇者殿どころか、アークやセレナにも……」
心底とは言わないが、不服そうにリリアナは言った。
さっきのワイバーンの時に参戦しようとしたのか?当たり前だ、あんな怪我で戦えるわけがない。戦えたとしても、戦力外だ。一応何回か戦ったんだ、死なれると寝覚めが悪い。欲で裏切るようなやつじゃなさそうだしな。
「当たり前だ、あの状態で戦おうとする方がどうかしてる。肩の肉が焼けたんだぞ?剣が振れなかったら戦いは無理だ」
うん。言うことははっきり言わないとな。言い回しを変えるような、器用な真似は無理だし。
「そうか……当たり前のことか…………だが、お前は腕を無くした。もし参戦していれば、違ったかもしれん」
「は?」
リリアナの雰囲気と顔つきが一気に悲しそうな物になった。
「そうだな。『違ったかもしれん』じゃなく、『違った』な。ああ、あの時参戦していれば…………」
戦いは無理と言ったのに……どうしてこの勇者一行には責任感が過剰なやつが多いんだ……もしかしたら、レイアとセレナもじゃないよな?リリアナは凛としてるから、責任感は切って捨てると思ってたが……意外だな。少し話題を変えるか。
「それはいいからさ、あのチェーンメイルを着てた盗賊は剣で倒したんだろ?やっぱり首狙いか魔法か?」
「何?」
鎖帷子と言った途端、リリアナの顔つきが変わった。
「どうした?」
何かおかしいこと言ったか?
「盗賊はリングメイルじゃなく、チェーンメイルを着てたんだな?」
俺の肩を掴んで言った。
「音と感触からはそうだ。それがどうしたんだよ?」
「チェーンメイルは製作に手間がかかる高価なものだ。略奪品にしろ、盗賊の多数が持っているのは…………」
「不自然と?騎士崩れの可能性は?商人を襲った可能性もあるぞ?」
「それもあるが、疑った方がいいだろう」
疑り深いな、職業柄か?衛兵みたいだし。まったく、疑うのが職業なのは嫌なもんだな。
「これは少し注意するか。まいったな、指以外も持ってくればよかった」
「指?」
「依頼の証拠品だ」
どうやらギルドの対人間の依頼の証拠品は指らしい。首だとかさばるからか?指だけ渡す可能性もあると思うんだが、それは治安で分かるか。依頼、ギルド、街……そういえば……!
「なあ、夜間は街に入れないだろ?下手したら兵士のお出迎えだ、どうやって入る?」
冷たい風が吹いた。話が聞こえていたのか、レイアの足が止まった。つられてこちらの足も止まる。
そして、レイアは気まずそうに振り返った。
「…………やべえ、忘れてた」
近場で野営をした。