第33話
こんなに短いのに、クリスマスイブより前に書き出した、なぜ大晦日まで……
「腹減った……」
「いいだろ。お前は干し肉食ってたんだから」
「あれは別腹だ」
「それ、別腹って言うのか?」
レイアと俺は結果的に飯抜きになった。リリアナ達が分けてくれそうだったが、レイアが頑なに拒否したので夕食は抜きになった。まあ、自己責任だから受け取る気分にならなかったのだろう────俺は普通に受け取ろうとしたが、睨まれた。
「腹減ったから寝る。アークにも休めって言ってやってくれ。次はランサムな」
そう言うと、レイアはたき火の近くにポーチを置くと、それを枕にして横になった。
ああ、なるほどな。少し自然にか。
「じゃあ、アークに言ってくる。リリアナとセレナも休んでくれ」
「分かった。サボるなよ」
「じゃあ、お願いしますね」
返事を聞くとアークの所に向かった。
「おい、交代だ」
「おや、そうですか。このままカカシになってしまうのかと思いましたよ」
「挽き肉になってしまえ」
アークが皮肉を言ったので皮肉を返そうとするが思い付かず、捻りもない事を言う。
学が無いのは良いことなしだな。
「それではお言葉に甘えて、休ませていただきます。くれぐれも、いつものように熟睡しないでくださいね」
「お前もか……」
「常日頃の行いですよ。寝てる間に襲われないようにしてください。近頃物騒ですから」
アークはそう言うと野営地点に歩いて行った。
近頃物騒ってことは、もう近くに盗賊がいるのか。アークはまだしも、レイアはなぜ気づいたんだ?勇者だから?それとも光の魔法か…………よく分からん。知っても大して意味もないだろ。
ため息を吐きながら、近くの石に腰を降ろした。開けてるんだ、そうそう見逃さないだろ。
それよりも、大陸に渡ってからの事を考えるか。問題は通貨だ。通貨はこの国と制度が違うだろう。盗んでも、使い方を知らなければ意味がない。そもそも、俺は島国や魔具を知らなかったんだ、貧民街の外には生き延びる以外の知識も必要なはずだ………………ああ、金目の物だけじゃなく、本も盗めばよかった。字は小さい頃に教わったが、書ける自信がない。それに、金目の物にも、もっと種類があるのだろう。やることが増えた。レイアに……いや、からかわれそうだからセレナに教わろう。
音が聞こえる。正面の左寄りにある草むらからジャラジャラと金属音、右側の丘から矢筒の中が揺れる音、左側は河の音だけ、後方にはレイアがいるが、何も聞こえない。
今、俺は灯りを付けている、確実に狙われるために。そして、惹き付け、一気に倒すために。相手は盗賊だ、金属板の鎧は着ない。さっきの金属音はチェーンメイルだろう、布で挟んでないな、恐らくは黒塗りもしていか。陽動の可能性もあるが、チェーンメイルは打撃と刺突に弱い。ナイフと拳で何とかなるだろ。暗闇だ、先に弓から始末するか。正面からはレイアたちに任せよう。
距離はある。しかし、矢を矢筒から抜く音が、左から聞こえた。
肉体強化に使う魔力を、ほとんど再生に回す。
同業に近いからこそ分かる、危険が迫れば即逃亡、物より命が優先。だからこそ、正面から来るやつらが俺を通り過ぎるのを待て。
正面からの足音が、一気に走る物に変わった。
さあ、痛みに堪えろよ、俺。
そして、空気を貫きながら矢が飛来し、俺の右の二の腕に刺さり、筋肉をその位置に縫い止めた。
「ぐっ!?」
立ち上がると、更に矢が飛来し、右腕の隙間を縫いながら脇腹に突き刺さり、内蔵に風穴を空けた。
「ぉ……が…………」
そしてよろよろと河に向かって歩き、全身の力を抜いて河原に倒れこむ。
すると、正面からの足音は傍目から見れば死体の俺を素通りし、レイアたちの所へ向かった。
やばい、死ぬ……。
二の腕の血は止まったが、思ったよりも内蔵の損傷は激しく、魔力を湯水のように使って治癒をしている。
足音が少し離れるのを確認すると、起き上がり、二の腕の矢を引き抜く。返しが肉を抉ったが、構いやしない。脇腹の矢は…………やりたくないが、ナイフを刺さった根本に突き刺し、すぐに抜くと隙間ができる。そして、矢をそちらに引き、一気に引き抜く。
意識が飛びそうになるが何とか堪え、再生する。
すると、十数秒で動けるぐらいになったので、忌まわしき弓へ黒いもやを出しながら接近する。
男なら接近戦だろうが、卑怯な弓なんて使ってんじゃねえ!
不意討ち、騙し討ちはありだけどな。