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第32話

どうしても遅くなる……

 陽が傾き影の成長期が起こり、成長しきると夜の闇に溶ける。一行は、影が成長しきる少し前に歩みを止めた。

「今日は此処等で休むか。セレナ、ランサムと食料取ってきてくれ。できれば肉な、肉!」

 レイアは歩き疲れた様子もなく、肉のある夕食をお望みのようだ。どんな体力をしているのかが疑問になったが、あの防具のおかげと思えば納得した。

「ああ、分かったよ。太らんように気を付けろよ」

「黙れ」

 そう言うと、俺の拳ほどの石を投げてきたので、強化した右手で受け止め、それを弄びながら近くの川へ歩き出す。

「セレナ、狩り方教えてくれるか、魚は分からん」

「ええ、いいですよ」 セレナは快く応じてくれた。これがレイアなら面倒とか言うだろうな。




 渡し船も橋もない広い川が、道沿いの野営地点から少し逸れた位置に流れていた。その河原で俺はセレナの説明を聞いていた。

「いいですか?この方法は魚を追い込まない限り、運試しのようなものです。しかし、釣りや罠よりは手軽にできます。同時に、大きな音がするので周囲への警戒は怠らないでください」 そう言うと、セレナは足元にあった石を両手で抱え、少し下流に行くと水面から半身を出している大きな石に叩きつけた。鈍い音と共に、石の下から魚は飛び出すが、何匹かは浮いてきた。

「だいたいはこんな感じです。力が弱いと逃げるだけですが」

 セレナはそう言いながら、浮いた魚を草の篭に入れていた。

 案外簡単そうに思えたので、自分の太ももから膝あたりの大きさの石を抱え、

「よっと」

「え!?」

 さらに大きい石に力強く叩きつける。

 弱いとダメらしいからな。砕くつもりでいいだろ。

 すると、鈍い音と共に、両方の石が周囲に破片を撒き散らしながら砕けた。すると、それらの残骸の隙間に、魚の尻尾や頭などが見えたので引っ張り出す。

 頭が潰れてるものや、鱗が肉に食い込んだ魚が六匹ほど取れた。

「これでいいのか?」

「…………だ、だいたいそんな感じです」

 いかにも美味しそうな魚をすでに捕まえていたセレナは、俺の持った魚から苦笑いしながら目を背けた。 同じ方法の筈なのに、なぜだ?

「コツはあるのか?」

「もう少し優しくした方が……いえ、もう少し優しくしてください」

 わざとに思われたのか、多少言い方に刺がある。真面目にしたんだけどな……




「へー、ランサムにも捕れたのか」

 野営地点に戻るなり、レイアが俺の魚を見に来た。

「ボロボロだがな。セレナのにしたほうがいい。鱗を食べることになるぞ」

 まったく、見たらどちらを食べるべきか分かるだろ。わざわざ食べにくい方を…………あれ?何でレイアを気にかけてるんだ、俺?魚を捕れたから機嫌がいいのか?

「…………いい、お前の食うから」

 俺が自分の思考に首を捻っていると、ボソリと呟くようにレイアは言った。

「は?まさか────鱗食べたいのか!?」

「違う!さっさと寄越せ、焼いてやる!」

 怒鳴るように言うと、呆けている俺から魚をひったくり、調理を始めた。

 一体何なんだ?呪いでもかけられたのか。飛びきり協力なのを。

「なあ、リリアナ。魚を捕りに行ってる間に何かあったのか?」

 アークは見張りをしているのでリリアナに聞くと。

「さあ?勿体無いのかもしれないな」

 よく分からない返答が返ってきた。

 理解不能な返答をしたリリアナは、セレナの魚の調理を手伝い始めた。

 まったく、どうなってんだ。まさか、俺に思いやり?…………アホか俺は。死刑を免れてこの一行に入ったんだ、牢での一件もあるからにはあり得ないな。と、いうことは毒入りの飯?いや、あいつはそんなことするくらいなら、真っ正面から斬りかかって来るに決まってる。…………分からん。気まぐれか、セレナの魚だけじゃ足りないと考えよう。

「おい、手伝えよ!」

 レイアが大きな声で呼んだので、仕方なくそちらに向かった。

「獲ってきたんだから調理ぐらいしてくれよ」

「馬鹿言うな。夫婦でも無いのに」

「だよな。お前が妻とか、夫に同情す」

「────死ね!!」

 調理のため、外していた籠手で叩かれた。鼻が痛い……

 逃れようとしたが、やはり無理だった。いい加減、武器の点検とかしたいんだけどな。

「で、何をすればいい?」

「虫と細かい所はセレナが処理してくれたから焼くだけだな」

「おい。俺が手伝う必要があるのか?」

 なぜ呼んだ。別に焼くだけなら俺はいらんだろ。

 その言葉を聞いたレイアの雰囲気が鬼気迫ったものに変わった。

「────いいか、リリアナは気が利く。そして、セレナと俺が一人で調理している。恐らく手伝おうとするだろう。けど、セレナは料理上手だから手伝いは殆んど要らない。すると、俺の所に来る。そして、魚を焼く。そうすると……どうなるか分かるな?」

 飯抜きか拷問か、救いが無いな。

「ああ、手伝わさせてくれ。あれはもう食いたくない」「まあ、そこに居てくれるだけでいい。怪しまれるからよそ見はしないようにな」

 そう言うと、レイアは鼻歌まじりに、串で貫いた魚をたき火の周りに刺した。

 待つだけだと暇になるから、少し手伝うか。自分の好きな焼き加減もあるしな。金網があると良かったんだけどな……

「いや、手伝う。暇だしな」

「じゃあ、時々火に当たる面を替えてくれ」

 レイアはそう言うと、ポーチの中を整理し始めた。


 もう少しで焼ける頃合いに、おずおずとレイアが話しかけてきた。

「なあ、答えたくないかもしれないが、聞いていいか?」

「何を?」

  余程のことじゃない限り、答えたくないことなんて思い付かないな。暇だったし、丁度いいか。

「旅が終わったら何をしたい?」

 はい、答えたくありません。なぜこうも一発で……予定としては今まで通りの生活。けど、大陸を観て回りたいのもあるから無難に一人旅でいいか。

「一人旅をする。大陸を観て回りたいしな」

「王国に戻る気は無いのか?」

「戻っても良いことが無い。生きてると知れたら即刻処刑だ。なら大陸にいた方がましだ」

 書類上でジョン=スミスは死んだかもしれないが、名前以外が同じのランサム=リザルトはまだ生きているんだ。バレるに決まってる。聞かれたからには聞いた奴のも聞きたいな。


「お前は何をしたいんだ?」

「…………俺か?」

 レイアの表情が歪んだ。

 まあ、理由に想像はつくが。

「王国に戻るしかない。一度、魔王討伐の報告に戻ったらそのまま良くて軟禁。政治の道具になるのを拒めば魔法か魔具での洗脳もあるだろうな。最悪、兵器扱い………いや、すでにその可能性もある」

 思ったよりも深刻らしい。戦力的にも、風評的にも、魔王を従えたのと同じになるからな。さすがに、これは同情する。保身的で欲深な、ろくな政治をしない奴等だ、大陸に侵攻でもする気だろう。その時の相手が人間な分、魔王より質が悪い。レイアは無意味に人を傷つけるのが嫌そうだからな。

「で?」

「でって……だからな、王国に」

「しないといけない事じゃなくて、したい事を聞いたんだ。先に聞いたのはお前だろ?」

 せめて終わるまでは明るいこと考えてろ。飯がまずく…………あれ?俺って最後まで行く予定だったか?

「したい事か…………平穏に暮らしたいな。剣を捨てて、普通の仕事に就いて、結婚して、家庭を作って、子どもより早く死ぬ。それができたら幸せだ」

 そう言うレイアの顔は悲しみが浮かんでいた。

 現状じゃ、不可能に近いからな。それよりも、剣を捨てるってのには驚いた。平穏が今まで無かったのか?

 そこから深い推測を立てようとした時、

「そうだ────おい、火、見てるか?」

 ああ、そういえば魚焼いてたな………………あれ?串に黒い塊しか付いてないぞ、魚はどこだ?

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