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第30話

大変遅くなりました。テスト期間中からちびちび書いた物なので長くなっています。

更新が止まった場合は、よろしければ活動報告をご覧ください。

 年期が入っているが風格は失っていない、立派な門の外側に俺たちはいた。

「さあ、行くぞ」

 レイアが気だるそうに言い、歩き出し、それに続いた。

 前々から気になった事がある。今のうちに聞いておこう

「なあ、馬は使わないのか?」

 長くなるであろう旅に、なぜ馬を使わないのか、馬を使えば歩きよりも遥かに長く、速く移動できる。それに、大抵のモンスターなら振り切れるから消耗も少ない。

「この島国に魔王はいねえよ。これから船で大陸に渡るのに馬は要らん」

 『しま』国?……なんだそれ?

「『しま』国って何だ?」「海に囲まれた国の事だ……海、見たこと無いのか?というより知ってるか?」

 レイアは珍しそうに聞いてきた。

「ああ、出稼ぎでさっきの街に出たくらいで、王都からはほとんど出たことがない。海は聞いた事がある、水溜まりのでっかい版だろ?」

 俺がそう言うと、

「そうか。結構知らないんだな……じゃ、なぜ魔王がこの国にいないか、聞きたそうだから話してやるよ」

 と言って来たので素直に聞くことにする。

「魔王、と言うより魔族がこの国にはいないんだ。けど大陸にはいる。恐らく、大陸がどうにかなれば、この国はどうにでもできるんだろうな。王都から一日で違う街に行ける狭さだしな…………」

 レイアは困ったように笑いながら言った。その笑い方はまるで、不安を隠すような笑いだった。

 話題を変えよう

「これから名乗る名前はランサムじゃないとだめか?」「ああ、お前には言ってなかったな。リリアナが偽名を名乗ることにキレてな。本名じゃないとダメだって言ってな、じゃないと切り捨てるってよ!」

 レイアは先程とは打って変わり、はしゃぎ始めた。

 この話題は好きらしい。玩具を買ってもらった子どもみたいだ……こういうのを微笑ましいって言うのか?……まあ、此方としては楽しくない話題だが。

「そうか。じゃあ、わざわざ魔法を使えないことにしたってことは、肉体強化も禁止だな?」

 一番の問題はこれだ。この属性がバレると色々問題になる。けど、魔法が使えないということにするらしいが──肉体強化だけ使えるのはおかしいよな?この魔具(?)があるとはいえ、肉体強化が無いと心もとないんだよな。

「ああ、極力控えてほしいが、普段から強化しとけば問題ねえよ。それに、勇者の一行なをだからよ、仕方ないで済まされるさ」

 レイアは意地の悪い笑みを浮かべながら言った。

 勇者の意味を不思議な人達に履き違えてないか、こいつ?…………まあいいか、勇者だもんな。普通のやつとは違うんだな。

 俺がレイアの思考に呆れていると、

「────リリアナは苦手か?」

 後ろを歩いているリリアナに聞こえないように、小声でで聞いてきた。

 苦手か……むしろ嫌いだな。あんな辻斬り衛兵を誰が好きになるか。

「散々斬られたんだ、嫌いに決まってるだろ」

 小声だが、当然のように言うと、

「だよな……お前の怪我の七割くらいがあいつからだもんな…………」

 レイアは頭を押さえながら言った。

「リリアナはさ、犯罪者に時効と人権は無い主義だからさ、逃げてる──逃げた犯罪者に容赦が無いんだ……」

 レイアが、足元にあった石をまたぐ。すると、後ろから変な足音がしたので、誰かが躓いたようだ。

 それにしても、悪かったな犯罪者で。自分が社会的にはクズだと自覚してるから、言ってることも分からなくはないが…………

「だからさ、それを踏まえた上で少しずつでいいから交流してくれないか?」

「めんどくさ──」

「乱戦の最中に斬られるぞ。冗談とか脅しじゃなくて……」

 レイアの顔は気のせいか切羽つまった様子だ。心当たりがあるのか?…………どこまでこの旅に参加するかは分からんが、これ以上斬られるのは絶対嫌だな。少しの面倒で安全が少しでも得られるならそうするか。あのサーベルは痛すぎるしな。

「────分かった。善処する」

「そうか、そうしてくれると助かる」

 俺の返答を聞くと、レイアは安堵のため息をついた。

 さて、この一行の戦い方を聞いておくか、巻き添えとか嫌だしな。勿論、される方だが。

「なあ、お前らの──」

「敵です!」

 俺がレイアに聞こうとした瞬間、後ろにいたセレナが声を張り上げた。それに反応し、全員が戦闘体勢に入る。俺は手袋の実験がしたいから武器を構えてないが。

 それにしても、セレナの警戒が凄すぎる……言われた今もどっから来るか分からん。

「来たか……」

「あれは犬か?」

「狼のようですね」

 俺以外には分かったようだ……肉体強化しよう。なんか不安だ。

 肉体強化をすると、前方の林と右方の草原から生き物が動く音と、獣の唸り声が聞こえた。

 俺がレイア達を本当に人間かどうか疑っていると、

「あの、ランサムさん」

 セレナから声を掛けられた。

「前方は私達が対処しますので、右方をリリアナさんとお願いします」

 俺が呆気に取られていると、

「そういう事だ。頼んだぞ」

 レイアが付け加えるように言った。セレナは、木でできた弓に手を添えて、矢を弦につがえようとしているようにしながら、レイア達と前方に走って行った。

「え、勇者殿!?」

 そこには俺とリリアナが残された。

「あー、よろしく」

 取り合えず、納得のいかない様子のリリアナに声をかけると、

「──手元が狂っても謝らんからな」

 どうやらよろしくする気は無いらしい。…………手袋で後ろから攻撃すれば大丈夫だろ、多分。

「じゃ、手袋試すから当たったら御免な」

「うっかりサーベルが飛んでくるかもしれんから気を付けろよ」

 リリアナはこめかみに青筋が立ち、どう過失で始末しようか考えている。そっちがその気なら、防いでぶん殴ってやる。嫌いなやつに、容赦はしない。


 俺たちは何をやっているんだろうか、近くまで敵がが来ていたというのに──


「ヴゥ!」

「げ!?」

「つっ!?」

 振り返っていたので、左から狼に飛びかかられた。「くそったれ!」

 首に食らいつかれそうになったので、倒れそうになるのを堪えながら左腕を噛ませる。……が、

「ぐ!?」

 背面は防げず、延髄に食らいつかれた。ミシミシと、首から骨が軋む音がする。そして、狼のごわついた毛の向こうに、リリアナが狼の体重に負けて押し倒されてサーベルを落とした上に、喉に食らいつかれまいと狼の頭を必死に押さえているのが見えた。

 助けは無い。武器も出せそうにない。なぜか、首から下の感覚が薄れる、何故だ!?格闘も使えない。魔力の放出で弾き飛ばすしかない!まったく、最近コレばっかだ。

「────!!」

 魔力を全身から放出する。黒い魔力は俺を中心に一瞬で広がり、膨大な魔力を短時間で放出して密度を持たせることで、足元からの岩石でも落としたような重い音と共に、周囲を弾き飛ばす。その瞬間だけ俺には何も聞こえなくなり、更には魔力の瞬間的に大量放出したことにより、のし掛かるような疲れに襲われる。食らいついていた二匹の狼は、断末魔を上げることもなく、顔面を粉砕され、弾き飛ばされた。

「あー、首が…………」

 肉体強化を治癒に集中させると、首と腕の傷がみるみると塞がっていった。腕の方には狼の物らしき歯が刺さっていたが、指で掻き出して無理矢理取り除いた。その時に嫌な音がしたのは、言うまでもない。

 首に手を当てて、治り具合を確かめていると、リリアナが襲われていたのを思い出し、そちらを見ると────茶色を被ったようなリリアナが、無言で狼を次々と切り捨てていた。リリアナに敵わないと判断すると、狼が何匹かこちらに走ってきた。さっきみたいなことやったやつに向かって来るか、普通?さっきの出血が原因か?まあ、手袋の実験体が多いのはいいげどな。

 一匹に右の掌を向け、魔力を手袋に流し込む。すると、模様がぼんやりと光り始め────何も起こらない。

 ……終わり?流すだけじゃ駄目なのか?いや、あの傭兵の時はうろ覚えだが、もっと光ったような…………属性か?使い方なのか?

 そう思った瞬間、掌から何か見えない、恐らくは不可視の魔力か風の魔法だろとは思うが、それが発射され、狼は悲痛な鳴き声を発して吹き飛び……何もなかったかのように、体勢を立て直した。狼の足と、俺が止まる。

「…………なんだ、このがっかり感」

 やはり、道具は使い込まないと本来の効果を発揮しないんだろうか。狼の視線が、人が同情する時のそれに見えて仕方がない。


 ────溜める魔力の量を上げたらどうだろう?


 そう思った俺は、全身に掛けていた肉体強化を腕と目だけにし、余った魔力を手袋に回す。すると、模様の光が一段と強くなり、あの傭兵と同じぐらいになった。「いける」そう思った俺は、手袋に溜まった魔力をゆっくりと放出する。すると、黒い魔力ではなく、不可視の魔力が、空気に指向性を持たせるために掌から吐き出された。魔力は周りの空気を巻き込みながら槍のように狼へと迫り、その身体を一直線に貫いて絶命させた。

「ヴォウ!」

 それに驚いたのか、残っていた狼が一気に襲いかかって来た。迎撃のため、手袋に魔力を溜めようとしたが、通すだけだとどうなるかが気になったので魔具を意識し、放出ではなく、ろ過をするイメージで魔力を出す。すると、先程の貫通力は無く、貫くと言うよりは叩き潰すための空気の塊が狼に叩き込まれた。

「キャンッ!?」

 悲痛な声と共に大きく吹き飛ばされ、地面に何回かバウンドする。肉体強化を耳にしてないので聞こえないが、身体中の骨が折れたのだろう、ピクリともしない。

 この魔具はかなり強い。けど……燃費が悪すぎる。一度撃つのに威力相応の魔力を使う上に、貫通させるには溜めがいる。そして、潰すのにも自分の魔力を放つ範囲より少し狭くなるから、より魔力を使う。やっぱり零距離かな?

 そう思いつつ、リリアナのいる方向を見ると、すでに片付き、サーベルを持ったままこちらを見ていた。声を掛けようとすると、

「終わったのか」

 先にリリアナから声を掛けられた。

「見ての通りだ」

「そうか……まさか助けられるとはな。一個人として礼を言う」

 リリアナが急に謙虚になった。

 礼を言われるようなことしたか、俺?

「あのままでは、喉に食らいつかれていただろう」

 一気に放出した時の余波か?まあ、いいか。

「なんで炎使わなかったんだ、燃やせるだろ?」

 間接的に助けることになったが、自力で狼くらいどうにでも出来るはずだ。

「…………少し取り乱したんだ」

 狼ごときで?あり得ないだろ、特にこいつは。詳しく聞いてみよう、弱点でもあるのか?

「ホントか?」

「なぜそこまで聞く?」

 俺の問いかけに、リリアナは少し声を冷たくして答えた。

 弱点探すためとか言えないからな…………

「体調でも悪かったら大変だ。移動距離を縮めないといけないが、風邪にでもなられたらもっと厄介だからな。────あと、少し心配なだけだ」

 なるべく、気に掛けてないように言う。

 どうだ、これなら納得するか?

「な!?いや、よく考えろ……だが…………」

 そう言うと、レイアたちが行った方向に、何かを呟きながら歩き出した。話し相手が行ってしまうので俺もリリアナに続いた。

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