第29話
描写が足りない……
「もうちょっと優しく抜け!!」
「黙ってください。もっと奥に埋めますよ」
体を動かさないようにしながら言った俺の助けを求める治療される側からの声は、アークの治療してやる側からの一言で潰された。
俺は目尻に涙を溜めながら、動かないように堪えていた。なぜなら麻酔をせずに、破片を取り出しているからだ。どうして麻酔もせずに破片の取り出しをしているかと言うと
「起きてください、治療します」
その声と共に、俺に何か冷たいものがかかり、眠りの海で泳いでいた意識が一気に釣り上げられた。
「うぉ!?」
反射的にベッドから飛び出し……壁に頭をぶつけた。
「ぎ……あ!?」「何してるんですか?さあ、早く上着を脱いでベッドに寝てください」
悶えている俺にアークは事務的な言葉をかけ、掛け布団をどけると、洗面器をベッドの横の椅子に置いた。
「じゃあ水被せんなよ…………」
ベッドが枕を中心に濡れているので、寝心地はとても悪かった。
「麻酔したいですか?」
こいつ……!
「当たり前だろ!」
「残念ですが、無理です」
「は?」
呆気にとられた俺を置いて、アークは話を進めた。
「麻酔に使う薬草が今季は不作なんです。それに、午後には出発したいので」
え?俺も一行に付いて行くこと決定してるのか?
「ですから麻酔はしません……ああ、これを着けてもらいます」
そう言いながら手に嵌められたのは、太陽みたいに光る手錠。
「リリアナさんの魔封じの手錠に勇者様の魔力を込めてもらいました。摘出の最中に肉体強化でもされれば、命に関わりますから。…………さあ、始めますよ」
アークはそう言うと杖を持って詠唱を始めた。暫くすると、一瞬、青い波紋がアークを中心に広がり、それと同時にガラス片が背中から抜け出ようと動き出した。
「ぎ……ぁ!?」
ズズズ……と動き続ける破片が肉を、皮を突き破り、少しずつ外に抜け出る痛み。そして同時に破片の通った後が再生するという、奇妙な感覚に襲われた。
「ぐ……ぅ……!?」
呻く俺の後ろにいるアークは、集中しているのだろう何も言わない。
これが今の状態になる成り行き。もっとスマートなやり方は無いものか……
苦痛と耳に入る音は自分の呻き声。いつまでこの苦痛が続くのかと思った矢先、呻き声ではない、ベッドに何かを落としたような音が立て続けにした。すると、痛みが次々と消えていき、
「終わりましたよ」
治療が終わった事を知らされた。
「あー。もうちょっと優しく抜けよ」
「無理です。後、リリアナさんから伝言です。今後は魔法が使えなく、魔具と軽業や格闘しか出来ない男、ランサムと名乗ってください」
背中をさすりながら不満を言う俺に、アークがさらっと言った
「おい、なぜ付いて行く事になってんだよ!?それにランサム?ジョンでいいだろ!」
なぜ俺が
その気持ちに頭が埋め尽くされた。
そんな俺に、
「ジョンは死亡したと昨日、報告しました。名前はこの一行しか知らないので」
「行く理由にはならん!今まで散々だったのに誰が行くか!!」
そう言い、上着を着て窓から出ようと窓枠に足を掛けると、
「そうですか…………せっかく、魔族から今のより"高値で売れる"魔具取り放題、今までの罪を"帳消し"、そして"魔王討伐後の不干渉"なのですが。無駄になり」
「──俺が行くに決まってんだろ!さあ、旅は長いぞアーク!!」 見事に釣られた俺は、アークの腕を掴み、意気揚々とドアから部屋を出た…………手錠はしたままだが。
「おい、大丈夫か?」
部屋を出るとレイアがいた。
「ああ、大丈夫だ。さあ、旅を続けよう!」
高値で売れる魔具!帳消し!平穏!最高だ!!
「…………アーク、ちゃんと治療したんだよな?」
「思考まではどうしようも。しかし、あんな条件をよろしいのですか?」
「ああ、少しでも戦力が欲しい中で、腕が立ち、信頼できそうなやつがいたんだ。これぐらい安いさ」
そう言うと、レイアは笑みを浮かべながら階段を降りて行ったので、俺とアークもそれに続いた。
…………さて、逃げ出すタイミングはどうするか。魔族について色々知って、信頼しきられたら上手いこと抜けるか、先は長くなりそうだ。
スリルがない盗みなんて面白くないからな