プロローグ②
二つになった上にほとんど進まない……
「やっぱりあの屋敷の警備はおかしかったよなあ」
ランサムはため息をつき、少しうつむきながらぶつぶつ呟くという不可思議な行動を取りつつも、なるべく人の流れに乗るようにしながら重い足を進めていた。
さっきの兵士は王都にいる俗に言うエリート兵士だが、大した実力も無いのに、金で地位を買ったような奴が多かったので上手く逃げれた。
しかし顔を見られたからには、恐らく人相書きがすぐに描かれることが目に見えているので、早く隠れ家に行って王都を離れなければいけない、
――――のだが、今の格好は灰色のズボンに上半身裸という格好なので……かなり目立つ。
筋肉が隆々なら木材を担げば職人だろうと察してくれるのだが、ランサムは肉体強化に頼っていため多少しか筋肉がない。目立つに決まっている。それに服を買おうにもさっき盗んだ金貨しかなく、この格好だと明らかに不自然だ。
どうしようか思案しているランサムは、無意識に隣に歩いている人に合わせるように歩いていたため、急ぎ足で流れに逆らいながら、向かってくる奇妙な団体に気付かずに、先頭の人物に真っ正面からぶつかった。
次の瞬間、何かが割れる音が石畳に響いた
「っ!?」
いきなりだったのでランサムは、派手に尻餅をついたが、とっさに手を着いたので怪我は無い、そして謝ろうと顔を上げたランサムに待っていたのは、優しく差し出された手ではなく、鼻先の20センチほど手前までに革製のブーツに包まれた右のつま先が、勢いよく迫っていた、
「なっ!?」
そして、つま先が左ほほを打とうとした寸前に、何とかその足を右の手のひらで叩き、軌道を外側に反らすことができた。
そしてその場に素早く立ち上がり、構えを作ったランサムが見た相手の風貌は、右の頭部に黄金色の細長い筒状のアクセサリーいくつか髪に付けた、真っ赤な髪と真っ赤な瞳を持ち、軽装である革の鎧を身につけた、ランサムと同年代の女性だった。
「どこ見て歩いてやがる!」
その女性の第一声は男のよな言葉使いで発せられる、怒気をむき出しにした声だった。
「ああ、悪かったな。だが何も蹴ることはないだろ」
ランサムは構っている余裕が無いためさっさと事を治めようとするが、その態度に腹が立った相手は、
「ふざけんな!これが何だと思ってやがる!」
と、明らかに怒気を増し、自身の足元を指差しながら言うのでしぶしぶ目線を落とすと、どこか見覚えのある真っ白な布がカバンからはみ出しており、その隙間からは無惨に割れた水晶玉が入っていた、
「これは何だ?」
ランサムの問いに、
「王宮の依頼で泥棒の家から回収した、王宮から盗まれた物だよ」
と、女性の後ろにいる王宮魔導師の真っ白なローブを着た男性が、落ち着いた声で返答した。 その言葉にランサムはその水晶玉が、自分が王宮から盗んだ物であることを思い出すと同時に、それはかなり気に入った物だったのでつい、
「ああっ!俺のコレクションがぁぁぁぁ!」
と、必死になって叫んでしまい――――空気が凍った。少し間が空いてから、赤髪女性がゆっくりと口を開いた
「お前、今なんて言った?…………たしかその泥棒はちょうどそんな服装だったよな?」
戦闘体制に入りながら、前半はランサムに聞き、後半は自分に確かめるように言っていた。
ランサムは今、自分の隠れ家が見つかった事と、自分が盗んだ本人だとバレているのを理解したが、こんな所で戦う訳にもいかないし、倒しても罪が増えるだけなので逃げることを選び、肉体強化で足を全力で強化、そして建物の上へ跳んだ。
それを見た彼らは犯人の発見を風の魔法で詰所に知らせ、そして自分たちも上へ文字どおり飛んだ。
これからランサムは勇者によって様々な面倒事に巻き込まれる。