第16話
大変、お待たせしました。
展開を急ぎすぎたか?
「くそっ……まさかここまでとは…………」
じわりじわりと脂汗が浮かび、浅くなる呼吸。更に内臓を引きずり出し、そこに塩を刷り込まれたような激しい痛み。
これら全て──リリアナ作の産業廃棄物による毒性である。
「貧民街で……鍛えた……腹が…………ここまで……」
貧民街はマトモな食べ物が少ないため、腐ったものや生でネズミを食べるなどは珍しいことではなかった。まあ、そのせいで貧民街を中心に伝染病が流行るのだが。
「…………おい、腹のどこが痛いんだ?」
勇者が、キャンプの端の木に背中を預けているランサムに、小さな声で言った。
「食道が……痛い……」
消えそうな声でランサムが答えた。
「そうか、暫くゆっくりしてろ」
いたわるように言った、
「────ただし、夕飯はきちんと食えよ?怪しまれるからな」
付け足すように言うと、その場を後にした。
「ホントにすごかった……」
体調が急激に回復しつつあるランサムが、ゆっくりと後に続いた。
「さあ、飯だ飯だ!」
ランサムが少し遅れてくると、すでに全員が揃っており、セレナが干し肉と兎らしき肉を、焚き火を石で囲った上に乗せたフライパンで焼いていた。
それを今か今かと待っているのがレイア。とても勇者に見えない、寧ろただの子どもである。
「……みんな、料理できるのか?」
そんなレイアを放置したランサムは、セレナに話を振った。
「えっ……はい!多少は。小さい頃から、母の手伝いをしてましたから」
人見知りからか、セレナは驚くと恥ずかしそうに言った。
「私もやりましたね……懐かしい」
アークがうっすらと笑みを浮かべながら言った。
「そういえば、家事は父上が進んでやってたような……」
リリアナが考え込むように言った。
「…………無いな」
レイアは、リリアナを納得したような目で見て言った。
ランサムは、もちろんやったことがない。
「……あの、そろそろ焼けますよ」
「分かった。──さあ、食うぞ!」
各自が自分の分を木の皿に取った。
「じゃあ、見張りは2人でいいな?」
「ああ、最初はお前とセレナ、次に俺とリリアナ、最後はアークと代わり番をするのを繰り返しだな?」
セレナが言ったことをランサムが確認した。
「じゃあ、ゆっくり寝ろよ」
そして、各自は焚き火を囲むように寝た。
「おい、起きろ。交代だ。」
ランサムは寝て2時間ほどでレイアに起こされた。
「ああ、分かったよ」
ランサムが眠い目を擦りながら辺りをみると、リリアナもセレナに起こされていた。
「じゃあ、後は頼むぞ」
そう言うと、レイアは気絶するように寝てしまった。
ランサムは行動するには少し早いので、焚き火に背を向けて辺りを見ることにした。
すると、
「……なあ、魔王は倒せるだろうか?」
リリアナが不安そうに言った。
それにランサムは、
「倒すとかの前に、場所を調べないとな」
喉を鳴らすように笑った。
「そうだな。まずは探さないと」
「そうそ…………ん?」
ランサムは右の闇を凝視した。
「あそこ何かいないか?」
「…………私には見えんが?」
リリアナはランサムの視線の先を見るも、その先は闇だった。
「俺は夜目がきくんだ。──ちょっと見てくる」
ランサムは短剣を鞘から抜くと、ゆっくりとそっちへ向かった
「リリアナ、来てくれ!でかいな……何だこいつ?」
ランサムは闇の中からリリアナを呼んだ。
「分かった。今、行く」
リリアナは武器を持つとランサムの声のする闇へ入った。
「おい、どこだ?」
「こっちだ」
焚き火から15メートルほどの場所から、ランサムの声がした。
リリアナがそちらへ向かうと、『後頭部を』殴られ、気絶した。
「────さて、急ぐか」
リリアナが意識を失ったのを確認すると、ランサムは闇に溶け込むような濃い黒の魔力を全身に纏い、音もなく走り出した。