ドラゴン、斯く語りき
こんにちは。ドラゴンです。
『龍』ではなくて、『ドラゴン』です。これね、間違えないでいてくれると我、嬉しい。たまに混同している人がいるので、困惑しているんだよね。『龍』は、東洋。『ドラゴン』は、我。これだけでも、覚えて帰ってくださいね。
でね、最近我、人間にたくさん思うことがあっちゃう。あっちゃうの。これを今日は語っていきたいかなって思うから、良かったら聞いていってね。
まずね、最近人間の間で流行ってるファンタジーもののお話なんだけど。なんかよく一話目の冒頭は『深いダンジョンの中に入り込んで、目当てのお宝のためにそこに住んでいるモンスターを問答無用で殺戮する』って展開、あるじゃん。
で、そのモンスターが、我みたいなドラゴンなことも、すっごく多いじゃん。我、すっごく不快。だってあれ、押し込み強盗でしょ。これがしかるべき時代と場所なら、火付盗賊改方にお縄を頂戴されても文句言えないと思うんだけど。
そもそもね、穴蔵の中で生きているアナグマみたいなもんが、お宝を持っているように見える?
我は、君たちが望むようなお宝など持ってないよ? それに、アナグマはたまに民家の軒下とかに巣食って人に迷惑をかけるけど、我、そんな迷惑かけることしないよ? 出来ないし。身体大きいから。
え? ウロコや内蔵や皮や角や牙やその他ありとあらゆる部分がお宝?
やだ。我、すっごく怖い。考えてみてよ。例えばさ、自分の家に武装した人間が押し込んできて、「お前の皮膚がほしい」って言ってきた状況を。
怖くない? 我、すっごく怖い。
それにね、あれだよ。『ドラゴン様に生贄を捧げるのじゃあー』『そうしないと不幸がこの村を襲うのじゃあー』とか言って、我の住処に女の子を送ってくるの。あれ、やめてくれないかな。
あのね、我のようなドラゴンはね、人間なんて食べないの。雑食性だからまずそうだし。万が一食べたところで、足りないの。カロリーが。わかる?
君たち人間が、なんかよくわけのわかんない植物の種子みたいなもの、「食べなよ!」ってもらって喜ぶ? 食べられるだろうけど、食べたくないものもらって、喜ぶ?
ドラゴンは、もっと大きな獲物を食べないと、一日の摂取カロリーが補えないの。それこそ、ワイバーンとか、ベヒーモスとか、シーサーペントとか。たまにクジラとか。そんなもんです。だいたい、人間みたいに言葉が通じる生物を食べたくないし。気分悪いじゃん。
なに? じゃあなんで、あんな偉そうな言葉遣いなのかって?
だって、そういう口調で話さないと怒るじゃん、君たち。我も営業用に「よう来た、人の子よ! ここまで来たことを、我が後悔させてやるわ!」とか言うけど、こんなん日常的に使っていたら疲れっちゃう。
ん? どうやって後悔させてやるつもりなのかって?
そりゃあ、間髪入れずの瞬間移動魔法で我の家の入口に強制送還ですよ。苦労して来たから、そりゃもう後悔でハラワタ煮えくり返る思いだと思うよ。HAHAHA、ざまあみろ。
そういうわけだからね、我は君たち人間になんら迷惑かけてないんだから、いちいちやってきて我が家で暴れないでほしいわけなのね。
今度はなに? 「虎穴に入らずんば虎子を得ず」?
え。その虎子をどうするの。まさか、さらっていって売るの? 見世物にするの? もしかして、食べるの?
我、とっても怖い。そんな怖いことをする邪悪な人間どもを、生かしておく法があるものか! ここまで来たことを、我が後悔させてやるわ!