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1話

日が沈みだした夕方、冒険者ギルドでは一仕事を終えた冒険者たちが今日の成功を祝うため、酒場へと向かって行く。

そんな者たちの中に彼らもいた。

「やっぱりクエストクリアの後と言ったら酒場で祝杯だろ。なっ、ルーカス」

「けどニック、君は酒に強くないだろ」

「ふふったしかに、前はジョッキ一杯で酔ってましたね」

「そーよ、あの時はいったい誰が介抱してやったと思ってるのさ」

「ニアだったね。マリー、君も酔って寝ていただろう?」

「わたしのニアが介抱してたんだから、実質私がしたようなもんでしょう」

「おまえら~好きかって言いやがって」

和気あいあいとしている彼らは、今日冒険者になったばかりの新人だ。

ソードファイターのニック、タンクのルーカス、マジックキャスターのマリー、ヒーラーのニア、

4人はいわゆる幼馴染で、今回もまた自然とパーティーを組んでいた。

今は初めての報酬を手に入れたので、ニックがお祝いをしようと言い出したところだ。

「うーん、とりあえず私はいったん帰るよ。無事に帰ってきたってお父さんに報告しなきゃ」

「あーたしかにおじさん心配してたもんな」

現在、マリーは父親と弟と3人で暮らしている。

マリーの母親は数年前に病死している。それ以来マリーの父親であるトーマスは家族の安否にとても敏感になっていた。

マリーが冒険者になるといった時も彼は猛烈に反対した。数十回にも及ぶ説得でようやく折れたが、絶対に無茶をしないことと、帰ってきたらすぐに無事を告げに来ることを条件に付けていた。

「だからさ、私抜きで始めててよ。すぐ戻ってくるから」

そう言うと彼女はすぐに走って行った。

「行っちゃいましたね」  

「マリーはああ言ってたけどせっかくのお祝いなんだから戻ってくるまで待っていようか」

「そうだな、まぁおじさんがしばらく放さないかもだし1時間くらいは待ってやるか」


しかし1時間待っても、先に食べ始めた料理が空になっても、彼女が戻ってくることはなかった。


翌朝。ニック達3人は冒険者ギルドに集まっていた。しかし、いくら待っていてもマリーが来ることはなかった。

「どういうことだ?結局昨日もこなかったしさぁ」

「昨日たしか、草で指を切ってはいたけど、まさかそれだけで冒険者をやめろなんて言う人でもないしね」

「てかあいつはそうなったらむしろ家を飛び出してくるだろ」

「そうですね。とりあえず一度家までうかがってみます?」

ニアの提案に二人はうなずき、3人はマリーの家へと向かった。


もう間もなくでつくというところで、何やら人だかりができているのが見えた。

「なんだろうな?俺ちょっと見てくるわ」

「あっ、ちょっとニック」

「すみませーんちょっと通してください」

ルーカスの制止も聞かず、あっというまにニックは人込みの中をかき分けていった。

それはほんの少しの好奇心だった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

しかし人込みの中心に行ったニックはそれを見た瞬間に叫んでしまった。


人込みの中心にあったのは現場を封鎖する衛兵と、おびただしい量の血液、そしてもはや原形をとどめていない人の肉片だった。

余りにも凄惨なその光景は今まで死というものにあまり触れてこなかったニックにはあまりにも酷な光景だった。

しかしニックが叫んだのはそれが理由ではなかった。そのすぐそば、折られて血も付着しまるで見る影もないが、確かに身に覚えのある物体。


それは、マリーの使っていた杖だった。

あれを買ったのはつい先日だった。あの日はそれぞれバイトをして集めたお金を持ち寄って冒険者になるため装備をみんなで買いに行ったのだ。その時、あの杖だけがマリーの予算より少しだけ高く、ほかの3人も少しずつお金を出し合って買ったのだ。

あの時のマリーの喜んでいた顔を今で鮮明に思い出せた。

「ニック!何があったんだ」

ニックがそんな過去に思いをはせていると、他の二人も人込みを抜けてきた。

ニックが焦点の合わない目で二人を見つめ、マリーの杖の方向を指した。

二人がその指の先をたどろうとした

そのとき、

「はいはい、ちょっと皆さん道を開けて、離れてね~」

そんな気の抜けた声がこの場にいたすべての人の耳に届いた。かなり騒然としていたはずだが、その声が聞こえたと同時に静かになり、人々が道を開けた。

「ほんとに、ここの住人は、明日は我が身とか思わないんですかね」

「まぁ、恐怖に支配されるよりはいいんじゃないか?」

3人の人物が列を割りながらその中心、ニックのいるところまでやってきた。

腰まで流れる茶色の髪をゆるく結んでいて、どこか野生の気配を孕んでいる、金色の瞳をした白衣を着た少女。

そして、その隣を歩くのは、白銀の髪に眼帯に隠された片目を持つ長身の男。もう片方には光を吸い込むようなモノクルがかけられていた。

さらに、最後に現れた軍服姿の男。背筋を寸分の狂いなく伸ばし、長い髪を束ねて背に流していた。

明らかに普通の一団ではないと分かる3人はそのまま遺体の元まで近づいた。

「あ、ちょっと近づかないでください」

「いや、いいんだ。この方たちは」

若い兵士が制止しようとしたが、中年の兵士がそれを止めた。そしてそのまま何かを耳打ちをした。

「えっ?はい!了解しました。それでは皆さん何かありましたら何なりとお申し付けください」

急な変わり身をみて、長身の男はため息をついた。

「はぁ~やはり人間はどうしようもないですね。あっいえ、アインさんは別ですよ」

「そんなことより、ユウリ。あそこの人たちから話聞いてくれないか」

「あいあいさ~それとクロム~私はどうしようもない人間ってことかな~え?」

「自覚あるんじゃないか?」

「さぁ~?天才の私でもこればっかりはさっぱり見当もつかないよ」

そう言いながら、ユウリと呼ばれた少女はニック達のもとに近づいて行った。

お読みいただきありがとうございます。

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