表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/23

僕の体験入部が妨害されたので見返してやりたいと思います。(3)

2025/08/13改 謎の新入生の話し方修正

ピンポンパンポーン。


「本日は昼休みはありません。教室外にいる生徒は、速やかにクラスに戻り、先生の指示に従って体育館に集合してください。」


放送が鳴り、皆が急いで教室へ戻っていく。


言っていなかったが、前期の学級委員はすでに決まっていた。1組は大瀬と吉川だ。

大瀬はうるさい男子だが、「人気があるから」という理由だけで選ばれた。

僕も立候補したのに。

女子の方は、吉川ただ一人が立候補して、そのまま決まったらしい。


その学級委員たちは、気だるそうにしながらも、ちゃんと皆を整列させていた。


先生の指示で体育館へと向かい、1年生は左側に寄って座る。

2年生、3年生と徐々に生徒が集まり、体育館内はざわざわと騒がしくなっていった。


「静かにしてください。」

ザワザワ……

「静かにして。」

ザワザワ……

「静かにしろ!」


3回目で、ようやく静かになった。

生徒指導の先生は少しキレ気味だったが、教務主任に軽く制されながら、ようやく全校集会が始まった。


壇上に立ったのは、吹奏楽部顧問の岩田先生だった。


「昨日、ある事件が起こりました。――それは、楽器を壊されるという事件です。しかも、鍵がかかっているはずのケースが開けられ、楽器は潰された状態で放り投げられていました。」


ざわざわと、ざわめきが起こる。


「静かに。目撃者によると、犯人は新1年生とのことですが、まだ証拠は得られていません。なので、全校生徒を本日ここに集めました。」


再び、ざわざわとした波が広がる。


「いちいち喋るのはやめましょう。それでも中学生ですか? 話は最後まで黙って聞くのが普通でしょう。」


岩田先生の言葉が冷たく響く。


「話に戻りますが、新1年生がやったとして――問題は、どういう意図で、どうやってそれを行ったのか、ということです。そこで、楽器倉庫の中で副部長がたまたま見つけてくれたものがあります。……この針金です。」


体育館の空気が、冷えたように静まった。

誰も笑っていない。もちろん僕も。


先生の目が、ゆっくりとこちら側――1年生の列を見渡す。

僕は、少し身を縮めた。

だけど、それは「やましいから」じゃない。ただ、――どうしても気になることがある。


(やっぱり、昨日のあの新入生……)


体験入部のあと、あのとき確かに僕に話しかけてきた新入生。

「まるで初めてじゃないみたいだね」なんて、まるで僕のループを知っているかのような口ぶりだった。


あの人間が、これに関係しているのか。


「ここで重要なのは、ただのイタズラとは考えづらいということです。楽器を壊したのが、単なる衝動や悪ふざけであれば、こんな方法は使いません。」


岩田先生の声が強まる。


「これは――意図的な破壊行為です。人の想いや、時間や、練習の積み重ねを踏みにじる、最低の行為です。」


強い言葉が、体育館に重く響いた。


そのとき――


「すみません、ひとついいですかぁ〜?」


唐突に、誰かの声が体育館に響いた。

一瞬、皆がその声の主を探すように、首をめぐらせた。


立ち上がったのは――あの新入生だった。

昨日、僕に話しかけてきた、あの顔だ。


(なんで……?)


ザワッ、と周囲の空気が揺れる。


「私、ちょっと気になることがあってぇ」


その新入生は、ごく普通のトーンで話し始めた。


「たとえば、その針金って……本当に犯人のものなんですかぁ?たまたま落ちてただけじゃないんですか〜?」


空気が凍った。


岩田先生が一瞬言葉を詰まらせたのが分かった。


「……どういうことですか?」


「いや、ただ。副部長さんが拾ったんですよね? 拾った場所は金具の下? でも、それって、ほんとに“落ちてた”って言えるのかなって思って。誰かが、わざと置いた可能性もあるでしょ?」


その目が――僕の方を、ほんの一瞬だけ、見た気がした。


(わざと、置いた?)


なにかが、胸の奥でカチリと噛み合う。

その言葉は、明らかに“自分の犯行を否定するため”というよりも、“混乱を生むため”に放たれたものだった。


それに、どこか――試すような、挑発のような目。


(こいつ、僕の反応を……見てる?)


全校生徒の前で、淡々と発言するその新入生を、先生たちはやがて静かに座らせた。

岩田先生は一言、「貴重なご意見として受け取ります」とだけ告げて話を切った。


けれど、それ以降の話が、あまり耳に入ってこなかった。

ずっと、僕の中に残っていたのは、あの新入生の声と、視線と――


あの、意味深な笑みだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-著者 宮本葵-
茨城県のつくばエクスプレス沿線民。最近、よく会う友達(と呼べるのかわからない人)に「小説家じゃなくてただ物を書いてるだけだろ」とディスられたので、ピリピリしている。目指すは有名小説家!ですが、テストという大きな壁に妨害され結局はただ物を書いている人になってます。現在は5作品の小説を執筆中!

宮本葵の他作品
誰も信用できなくなった俺の前に、明日から転校してくる美少女が現れた。
シェア傘ラプソディ♪
Silens&Silentia シレンス・シレンティア
最後の7日間 〜吹奏楽コンクール県大会まで〜
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ