表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/23

僕の体験入部が妨害されたので見返してやりたいと思います。(1)

色々忘れてて13時半投稿になりました。

2025/07/01改 投稿1時間後に内容追加。

2025/07/02改 性別わかるように書き換え、放送呼び出し場所修正

2025/08/13改 謎の人物の喋り方修正

今日は、4月15日。体験入部が始まる日だ。

僕は――吹奏楽部にしか行かないと決めている。だから、ホームルームが終わった瞬間、まっすぐ体験入部の場所へ向かった。


体験入部では、まず3階のコンコースで演奏が披露され、そのあと廊下で楽器体験が行われる。


演奏が終わると、すぐに楽器体験の時間になった。

やっぱり、みんな最初に向かうのはトランペットとかサックスだ。華やかで人気があるのもわかる。


でも――僕は迷わず、トロンボーンのところへ向かった。

なんやかんや言って、結局トロンボーンが一番だと思ってる。


そこには、大好きな先輩もいるし、大嫌いな先輩もいる。

でも、それでも僕は、どうしてもトロンボーンパートに入りたいんだ。


体験のブースに行くと、宮坂先輩がいた。


「お、1番乗りのお客さんだよ〜」


いつものように、楽しそうな声で言ってくれる。


その声が、懐かしすぎて――僕は、ちょっと泣きそうになった。でも、必死にこらえる。


「僕、教科書に載ってるの見て、ずっとやってみたいなって思ってたんですよ」


そう言いながら、トロンボーンに触れてみる。

手に持った感覚が、不思議としっくりきた。


「じゃあ、トロンボーン志望なんだ?」


ポジションを教えてくれながら、先輩が訊いてくる。


「はい! トロンボーン、やりたいです!」


そう答えて、軽く吹いてみた。

そしたら、いつのまにか――カエルの歌を吹いていた。


「おー、カエルの歌吹けるんだ! すごっ!」


「えっ、初めてやったのになんでだろ〜?」


とぼけた調子で返したけど、心の中では思っている。

――まあ、実感では、もう2年くらいトロンボーンやってる感じなんだけどな。


「……変だね。でもね、楽器って、身体が覚えてたりするから。もしかしたら、一回やったことあるのかも。」


その言葉。

どこかで前にも聞いたことがある気がした。


――そうだ、1回目のループのときだったか。


少しずつ、前のループに近づいてきてる。

でも、近づくだけじゃダメなんだ。

きっと、もっと違う出来事が起きないと、ループは抜け出せない。


何か――変えられることはないか。

そんなことを考えているとき、たいてい事件が起こる。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


楽器体験のコーナーは、賑わいを増していた。

廊下の一角には木管、もう一方には金管。順番待ちの列ができ、あちこちで「音が出た!」「難しい〜」なんて笑い声が上がっている。


僕は先輩に勧められ、もうちょっとトロンボーンを体験することになった。


――だけど、ふと、体験している時、何かが引っかかった。

耳の奥で、なにか“ざらつくような音”が聞こえた気がした。


「先輩、あれ……?」


僕は思わず、廊下の奥――誰もいないはずの方へ視線を向けた。

そこには、本来なら楽器を置いてあるだけの楽器倉庫がある。けれど、倉庫の中のケースにしまわれていたはずのバストロンボーンが、廊下に倒れていた。


ただ倒れていただけじゃない。


――ベルが、ぐしゃりと潰れていた。

まるで、何かで強く踏みつけたように、無惨に曲がっている。


「な……っ!」


走り寄ると、宮坂先輩もすぐに気づいたらしく、慌てて僕のあとを追ってきた。


「うそ……え、なんで、こんな……」


先輩の顔から、一気に血の気が引いたのが分かった。


バストロンボーンは、部の中でも結構高価なもので、そして扱いに慎重さが求められる楽器だ。普段は鍵のかかるケースに保管されていて、体験入部のときだけ、先輩たちが交代で目を光らせているはずだった。


けれど、今――この楽器は、破壊されている。


まるで、最初から狙っていたかのように。


ザワ……と、周囲が騒がしくなってきた。

体験に来ていた生徒たちが、「何?」「事故?」とざわめき出す。


そのとき、僕の中で、なにかが“ひっかかった”。


――この景色、知ってる。


いや、見たことがある。

この壊れたベルの曲がり方、照明の反射の角度、宮坂先輩の表情……全部、前にも見た気がする。


(……前のループ、だったか?いや、そんなことなかったし…。)


とにかく、ここで何が起きてたんだ――?


そのとき、背後でスニーカーの音がして、僕は反射的に振り向いた。

そこにいたのは、新入生の一人だった。女子だ。体験入部の説明会でも一度見かけた顔だ。


「へぇ……やっぱり君が先に気づくんだぁ。面白いものだねぇ〜。」


不自然なほど落ち着いた声だった。

その新入生は、ほんの少しだけ笑みを浮かべながら、僕を見つめていた。


「なんでそんな顔してるのぉ?まるで、これが初めてじゃないみたいだねw」


心臓が、一拍、ずれたように跳ねた。


「……君、誰?」


そう訊こうとした瞬間、放送が鳴った。


『至急、吹奏楽部顧問の先生、3階音楽室前へ向かってください』


放送の声に紛れて、その新入生は、すっと人混みに紛れた。

まるで最初から、ここにいなかったみたいに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-著者 宮本葵-
茨城県のつくばエクスプレス沿線民。最近、よく会う友達(と呼べるのかわからない人)に「小説家じゃなくてただ物を書いてるだけだろ」とディスられたので、ピリピリしている。目指すは有名小説家!ですが、テストという大きな壁に妨害され結局はただ物を書いている人になってます。現在は3作品の小説を執筆中、3作品の作品を準備中です。

宮本葵の他作品
シェア傘ラプソディ♪
Silens&Silentia シレンス・シレンティア
最後の7日間 〜吹奏楽コンクール県大会まで〜
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ