僕の体験入部が妨害されたので見返してやりたいと思います。(1)
色々忘れてて13時半投稿になりました。
2025/07/01改 投稿1時間後に内容追加。
2025/07/02改 性別わかるように書き換え、放送呼び出し場所修正
2025/08/13改 謎の人物の喋り方修正
今日は、4月15日。体験入部が始まる日だ。
僕は――吹奏楽部にしか行かないと決めている。だから、ホームルームが終わった瞬間、まっすぐ体験入部の場所へ向かった。
体験入部では、まず3階のコンコースで演奏が披露され、そのあと廊下で楽器体験が行われる。
演奏が終わると、すぐに楽器体験の時間になった。
やっぱり、みんな最初に向かうのはトランペットとかサックスだ。華やかで人気があるのもわかる。
でも――僕は迷わず、トロンボーンのところへ向かった。
なんやかんや言って、結局トロンボーンが一番だと思ってる。
そこには、大好きな先輩もいるし、大嫌いな先輩もいる。
でも、それでも僕は、どうしてもトロンボーンパートに入りたいんだ。
体験のブースに行くと、宮坂先輩がいた。
「お、1番乗りのお客さんだよ〜」
いつものように、楽しそうな声で言ってくれる。
その声が、懐かしすぎて――僕は、ちょっと泣きそうになった。でも、必死にこらえる。
「僕、教科書に載ってるの見て、ずっとやってみたいなって思ってたんですよ」
そう言いながら、トロンボーンに触れてみる。
手に持った感覚が、不思議としっくりきた。
「じゃあ、トロンボーン志望なんだ?」
ポジションを教えてくれながら、先輩が訊いてくる。
「はい! トロンボーン、やりたいです!」
そう答えて、軽く吹いてみた。
そしたら、いつのまにか――カエルの歌を吹いていた。
「おー、カエルの歌吹けるんだ! すごっ!」
「えっ、初めてやったのになんでだろ〜?」
とぼけた調子で返したけど、心の中では思っている。
――まあ、実感では、もう2年くらいトロンボーンやってる感じなんだけどな。
「……変だね。でもね、楽器って、身体が覚えてたりするから。もしかしたら、一回やったことあるのかも。」
その言葉。
どこかで前にも聞いたことがある気がした。
――そうだ、1回目のループのときだったか。
少しずつ、前のループに近づいてきてる。
でも、近づくだけじゃダメなんだ。
きっと、もっと違う出来事が起きないと、ループは抜け出せない。
何か――変えられることはないか。
そんなことを考えているとき、たいてい事件が起こる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
楽器体験のコーナーは、賑わいを増していた。
廊下の一角には木管、もう一方には金管。順番待ちの列ができ、あちこちで「音が出た!」「難しい〜」なんて笑い声が上がっている。
僕は先輩に勧められ、もうちょっとトロンボーンを体験することになった。
――だけど、ふと、体験している時、何かが引っかかった。
耳の奥で、なにか“ざらつくような音”が聞こえた気がした。
「先輩、あれ……?」
僕は思わず、廊下の奥――誰もいないはずの方へ視線を向けた。
そこには、本来なら楽器を置いてあるだけの楽器倉庫がある。けれど、倉庫の中のケースにしまわれていたはずのバストロンボーンが、廊下に倒れていた。
ただ倒れていただけじゃない。
――ベルが、ぐしゃりと潰れていた。
まるで、何かで強く踏みつけたように、無惨に曲がっている。
「な……っ!」
走り寄ると、宮坂先輩もすぐに気づいたらしく、慌てて僕のあとを追ってきた。
「うそ……え、なんで、こんな……」
先輩の顔から、一気に血の気が引いたのが分かった。
バストロンボーンは、部の中でも結構高価なもので、そして扱いに慎重さが求められる楽器だ。普段は鍵のかかるケースに保管されていて、体験入部のときだけ、先輩たちが交代で目を光らせているはずだった。
けれど、今――この楽器は、破壊されている。
まるで、最初から狙っていたかのように。
ザワ……と、周囲が騒がしくなってきた。
体験に来ていた生徒たちが、「何?」「事故?」とざわめき出す。
そのとき、僕の中で、なにかが“ひっかかった”。
――この景色、知ってる。
いや、見たことがある。
この壊れたベルの曲がり方、照明の反射の角度、宮坂先輩の表情……全部、前にも見た気がする。
(……前のループ、だったか?いや、そんなことなかったし…。)
とにかく、ここで何が起きてたんだ――?
そのとき、背後でスニーカーの音がして、僕は反射的に振り向いた。
そこにいたのは、新入生の一人だった。女子だ。体験入部の説明会でも一度見かけた顔だ。
「へぇ……やっぱり君が先に気づくんだぁ。面白いものだねぇ〜。」
不自然なほど落ち着いた声だった。
その新入生は、ほんの少しだけ笑みを浮かべながら、僕を見つめていた。
「なんでそんな顔してるのぉ?まるで、これが初めてじゃないみたいだねw」
心臓が、一拍、ずれたように跳ねた。
「……君、誰?」
そう訊こうとした瞬間、放送が鳴った。
『至急、吹奏楽部顧問の先生、3階音楽室前へ向かってください』
放送の声に紛れて、その新入生は、すっと人混みに紛れた。
まるで最初から、ここにいなかったみたいに。




