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蒼虎編

◆静寂から

「ユーロ」が戦闘停止作戦と手当てを同時にすると決めて間もなくのことだった。周辺があまりに静かなのだ。ここ数日ではあるが、全く戦闘の音が聞こえない。

そのため、「ユーロ」は、傷ついている所はないか探して手当てをすることに専念していた。うっちーが人々がやっとわかって戦いのことを忘れてくれたのかと期待を込めて言った。蒼虎は、残念ながらそうではないと一言。うっちーは、残念がった。

それから、拠点に戻り、メンバーはこの穏やかな日を思い思いに過ごした。すると、蒼虎は今から1日間、この拠点から誰も出ないようにと命令を下した。ももらは急な命令に首を傾げたが、従うことにした。

その夜、蒼虎の姿は拠点の屋上にあった。夜空を厳しい目で見上げ、静かに佇んでいた。ももらは蒼虎が気になり、屋上に上がった。

蒼虎は、ももらに建物の中に戻るよう促した。しかし、ももらは外出禁止の命令が出るのは「ユーロ」に入ってから初めてで気になってしまうと落ち着かない様子。

蒼虎は、ならば自分のそばから離れないようにと、ももらに手招きした。ももらは蒼虎の元に行った。すると、蒼虎に横から抱き寄せられた。驚くももら。

その瞬間、暗い夜にも関わらず明らかに異質な物とわかる闇の光線が空から降ってきた。そして、蒼虎はリフレクションとは違う神聖で建物を覆う程の大型の盾を展開した。その盾は、闇の光線を弾き返した。

ももらは驚いた。闇の光線に、大型の盾に、そして、大型の盾からのアルティーテの気配に。

蒼虎は、戦いが沈静化すると、必ず数日後にあの光線が降り注ぎ、また戦いが始まってしまう。だが、何故か自分にはそれを弾き返せる盾が幼少期から備わっている。よくわからないが、あの光線から「ユーロ」のメンバーを守っているとのこと。更に、フォースをももらから受け取った際、この盾と同じ力を感じた。驚いたと続けた。ももらも驚いたと言った。

蒼虎は、自分たちは同じだと言いながら、あの光線は、戦いを連れてくる。今回もメンバーを守れてよかったとし、微笑んだ。守ってくれたことに感謝するももら。

すると、蒼虎は、日が昇れば再び戦いだと言いながらメンバーが「ユーロ」に入ったばかりの頃の話を1人ずつ入った順に簡潔に振り返りはじめた。はるひこ、千羽漢鶴、アクシー、サキ、スバル、コスモス、あき、章平、うっちー、そして、最後にももらの所属当初のことを話し、こう言った。「私がルーキーだった頃からこの戦い、続いてきた。今こそ戦いを終わらせ、組織を解散する。その為に私はリーダーとなった。今ルーキーである君をこの組織のベテランなどにしない。」ももらは、早く世界が平和になるよう、力を尽くすと約束。期待していると蒼虎。更に遅い時間だ、速やかに就寝するようにと命令した。


◆忘れ得ぬぬくもり

蒼虎の言った通り、朝早くから遠くで戦闘の音が聞こえた。メンバーは戦いの再開にその規模の大小はあれど一様に肩を落とした。それから、戦闘停止作戦を「ユーロ」は再開した。

そんな日々を過ごすももらの心に温かい感情が生まれていた。あの夜、蒼虎に抱かれた肩のぬくもりが忘れられず、更に、同じアルティーテの影響を受けていた者同士だった事実に胸が高まっていた。

しかし、戦闘は、前にも増して激化している。そんな中で、リーダーである蒼虎にこの恋慕の気持ちを伝えていいのかという迷いも抱えてしまっていた。

そこで、ももらはアクシーにこの事を相談した。しかし、アクシーも千羽漢鶴との恋愛しか知らず、的確な答えが出せないと一緒に悩んだ上で、比較的穏やかな戦況になったら思いを伝えてみたらと助言した。ももらはそうしてみるとアクシーに感謝する。

その後、アクシーはこの戦禍の中、とても心が温まったため夫の千羽漢鶴にこの事を内緒としつつも話した。千羽漢鶴もなんだかその温かい話に心が救われたと言い、「ユーロ」のルーキーの恋路を夫婦共々応援してやろうとアクシーに言って笑った。アクシーも千羽漢鶴に満面の笑みを見せた。


◆力を持たない者の襲来

その日、「ユーロ」の拠点の前に、見知らぬ男が立っていた。男は少し迷いを見せていたが、「ユーロ」の拠点に許可も得ず、侵入した。そして、蒼虎はいるかと大声を上げた。

蒼虎は、自分だと立ち上がり、男の元へ行く。蒼虎が男に自己紹介を促すと、蒼虎に殺された「ユーロ」の前リーダーの息子と名乗る。蒼虎に戦慄が走る。

約10年前の父親の死の真実にやっと辿り着いた。蒼虎にとって自分の父は殺したい存在だったのだろうが、自分にとっては唯一無二の存在だった。父を殺した蒼虎が憎い。自分にアビリティがあればいいが、ないからと言い、隠し持ったナイフを蒼虎の腹に強く、数回刺した。それは、一瞬の出来事だった。

スバルが男を取り押さえ、ももらが気を失った蒼虎を介抱する。はるひこが男に事情が事情とここでしたことは咎めない代わりに速やかな拠点からの退出を促した。男は目的は果たしたと逃走。

止めどなく流れる蒼虎の血。それにまみれながらももらは蒼虎へセラピーを全力で施した。そして、蒼虎は一命を取り留めた。意識を取り戻した蒼虎は、ももらに感謝し、ももらは助かってよかったと泣きながら抱きついた。


◆罪の再認識と覚悟

蒼虎の出血のダメージは、一時的な蒼虎の体調不良を引き起こした。蒼虎は自室にて床に伏せた。ももらはそれを心配し、部屋に通うが、蒼虎はすぐに退出するようにと、ももらにその都度言う。

ももらはそばにいたいのにいられない悲しみをアクシーに訴えた。アクシーは、何らかの意図があるとは思うが、蒼虎はどうしてしまったのだろうと首を傾げた。

そのやり取りを近くで聞いていた千羽漢鶴は、無言で蒼虎の元へ向かった。千羽漢鶴が部屋に入室するなり蒼虎は、ももらならここを持ち場とするなと言った。千羽漢鶴は、ももらではない、自分だと返した。

蒼虎は何の用かと尋ねた。千羽漢鶴は、尋ねたいのはこちらだと言う。何故今の蒼虎に必要なセラピー持ちのももらをここに置くことをしないのかと。

蒼虎は、ももらと接したくない、今の自分は弱っているからだと返した。ルーキーに弱みを見せたくないのかと千羽漢鶴が問うと、そう言うことではないと蒼虎は答えた。

すると、しばらくの沈黙が部屋に流れる。そして、蒼虎は何かを決心した様子で沈黙を破った。単刀直入に言えば、弱っている今、ももらへの愛を告げることにブレーキがかかりそうもないからだと顔を覆った。千羽漢鶴は、目を丸くした。そして、断られるのが怖いのかと尋ねた。

蒼虎は、首を横に振る。仮に思いが受け入れられたとして、という前提で話をし始めた。

蒼虎はクーデターから今まで「ユーロ」で起こってきた事のすべての責任を戦後とる覚悟。その過程で今回のような事が起こり、その結果の死の可能性も念頭に置いている。そうなった際はももらに愛し合った者を失わせることになる。なのでももらに思いを告げるつもりはない。

だが、死を迎えた後、思いが無かったことになるのも嫌だということで千羽漢鶴に代わりに思いを聞かせることにしたと謝罪を含めて話した。

千羽漢鶴は、その仮定は仮定ではない、アクシーによればももらは蒼虎を思っている。そんなことをしたらももらにとって片思いで終わってしまう。それはあまりにもかわいそうだと言った。

蒼虎は、片思いの方がいいと言い、更に、自分への片思いは若いころの思い出とし、次に愛したものと幸せをつかんでもらいたいと続けた。

千羽漢鶴は少々感情的になり、それでも思いを告げた方がいいと自分は思うと言った後、いたたまれなくなり、部屋を出た。

蒼虎は、それを見届けた後、あの夜、ももらを守ろうと衝動的に抱き寄せたのは失敗だった。今もぬくもりが消えないとひとりごちた。

一方、千羽漢鶴は、アクシーに事の次第を話すことで冷静さを取り戻していった。


◆遠回しの告白

数日後、蒼虎は全快。そして、蒼虎はメンバーを集め、心配をかけたことに対し謝罪。その上で、直接動いてくれたスバルと、ももら、リーダー代行を担ったはるひこに感謝し、そのはるひこを支えた他のメンバーも評価した。

更に、蒼虎はその流れで訓示を行った。「ユーロ」は、そして、自分は、自由を重んじる組織でありリーダーだ。これからも自由な考えで行動し、散発する戦闘を止めていこう、何かあればすべての責任を自分がとる、これからも自分についてきてほしいと言った。それに異を唱える者はいなかった。

蒼虎は「自由を重んじる」という一言に、「自由」を意味する「フリーダム」のセイクリッド・シードを持つももらへの思いを乗せ、思いを伝えたとし、以降その思いを思い出さないようにと心の奥底にしまった。そして、一瞬ももらを見て微笑み、散会を呼び掛けた。


◆宣言

それから、刺殺未遂をされたとは思えない威厳を見せながら蒼虎は、リーダーとして「ユーロ」のために動いた。「ユーロ」は、リーダーとルーキーの愛など何もなかったように戦闘停止作戦や手当てを行い、時が過ぎていく。

その状況に胸を痛める2人の姿。千羽漢鶴とアクシーだった。自分たちのようにリーダーとルーキーが何とか幸せになってほしいと願っていた。

そして、夫婦で話し合った後、アクシーはももらに戦況は関係ない、明日どうなるかわからないのだから、もし、今も蒼虎を思っているのであれば気持ちを打ち明けた方がいいと助言した。ももらはそれもそうだと蒼虎と話をすることに決めた。

そして、ももらは蒼虎が好きだと飾らない言葉で思いを告白。蒼虎は少しの間を空け、自分は、自分の思う人々の幸せを常日頃願っている。勿論、ももらも例外ではない。それを作るために日々「ユーロ」のリーダーとして動いている。気持ちはとてもありがたい、自分に好意を持っているのであれば、組織のため、世界のために動いてほしいと言った。

ももらは、「今までもそうだったように、私は、組織のために働きます。そして、私は、この組織の最後のルーキーになります。」と言うのが精一杯だった。蒼虎は、その意気込みに感謝した。そして、同じ未来のために共に時を過ごそうと言い、その場を立ち去った。

ももらは失恋したと泣いた。千羽漢鶴とアクシーは、そんなももらを見て、余計なことをしてしまったと後悔する。

千羽漢鶴が開き直り、一生片思いしてやる道はあると思うと提案。その言葉にももらは救われた。そして、ももらはずっと、死ぬまで蒼虎を愛し続けると、一転明るい表情になったももらにひとまず胸をなでおろした千羽漢鶴とアクシーであった。


◆献身と繋がり

自分の愛する蒼虎のためにももらは何が出来るか考えた。様々な情報を頭の中に巡らせ考えに考えた。すると、蒼虎と見たあの闇の光線は、アルティーテが言っていた「アーロス」と関連があるのではと思った。

ももらは、蒼虎に事の次第を説明。あの闇の光線は、神が言っていた戦いを始めたアーロスが発したものなのではないかと。蒼虎は、貴重な情報だと評価。しかし、あの闇の光線は、そうそう頻繁に出るものではなく、アーロスに辿り着くのには時間を要するかもしれないとも言った。

だが、後日繰り広げた戦闘停止作戦にて、空に異質な穴がぽっかり空いてるのを蒼虎は見つける。あの闇の光線と同じ気配を感じたことから蒼虎は、敵の攻撃をその穴に反射した。すると、穴は塞がれた。


◆集中砲火そしてその後

その日も戦闘停止作戦を「ユーロ」は行っていた。そして、戦闘を抑えることが出来た。そのため、手当てを始めるが、その最中、空に穴が開く。それを発見したももら。蒼虎に報告すると、蒼虎はスバル、千羽漢鶴、アクシーに穴への攻撃命令を出す。

しかし、それを待たずに空の穴から漆黒の光線が降り注ぎ、倒した戦闘員を強制的に起こす。そして、その戦闘員は、戦闘不能にした筈なのだが、戦闘不能にする前より強い殺意を醸し出しながら「ユーロ」へ襲いかかってくる。

苦戦を強いられる「ユーロ」だったが、蒼虎は諦めずに指示を出しつつリフレクションでメンバーへの攻撃を跳ね返す。倒しては立ち上がる戦闘員を目の前に絶望せずに戦うが、次第に劣勢になっていく。

蒼虎は、一か八かでリフレクションでなく、アルティーテの力の盾を繰り出した。それは刹那の戦闘停止を可能にし、「ユーロ」は態勢を整える。蒼虎は撤退も考えたが、先程から受けている殺意が「ユーロ」とは別の者たちに向くことを恐れ、メンバーに任意の戦闘継続を指示。メンバーは誰も降りることなく強い意思で戦った。

ももらは、戦い続ける蒼虎に頼もしさを感じつつもこれ以上蒼虎が傷つくのは見ていられなかった。どうか、誰か、蒼虎を、そして、蒼虎がここまで率いてきた「ユーロ」を助けてほしいと心の中で叫んだ。

すると、アルティーテの声が辺りに響いた。アーロスを止めれば助かる、アーロスを止めろと。そのためにももらを導く、1人ではあるが共に行きたい者がいれば一緒に導くと言った。ももらは蒼虎と共に行きたいと答えた。蒼虎は、一瞬の躊躇を見せたが、アルティーテの力が届き、ももらと蒼虎は神々しい光に包まれ、一瞬で消えた。


◆信じる心を

ももらと蒼虎が次に目を開けると、穢れた闇の空間に自分達がいた。そこに無数の鏡が出現する。それは、紙芝居が如くアーロスとアルティーテの過去を矢継ぎ早にももらと蒼虎に教えた。

中央に座す男はアーロス。虚ろな目をし、吐き気を催すような笑顔を浮かべながらただひたすら戦えと連呼していた。

蒼虎は、アーロスに事情があったのかもしれないが、信念が足りなかったのではと苦言を呈した。そして、自分ので良ければ僭越ながら分けようと言った。

それを聞き届けたあと、アルティーテの加護を受けたももらはセイクリッド・シードのフリーダムを発動。その自由な発想は、蒼虎のアビリティとフォースを融合。蒼虎は、フェイス・リフレクションを発動した。

鏡のような盾が穢れを吸収し、聖なる光を放ち、かつてのアーロスを映し出す。そのかつてのアーロスは、鏡から抜け出し、そこに座すアーロスに憑依する。

すると威厳の溢れる熱気が周辺を包み、精悍な笑顔を浮かべるアーロスが立ち上がった。そして、自分は救われた。感謝する。あるべき所へ戻れと地上にももらと蒼虎を導いた。

地上に降りる途中、世界中の戦闘が止まっていることを蒼虎は目の当たりにした。それを受け、地上に戻るなり、蒼虎は世界の戦闘が完全終結したことを確認してきたと「ユーロ」の全員に話す。

更に、蒼虎ははるひこや千羽漢鶴のようにリーダーになる前から自分についてきた者を含め、「ユーロ」のために尽くしてくれた全員のメンバーに感謝と労いの声をかけ、「ユーロ」の解散を宣言した。

そして、その後蒼虎は1人姿を消す。

数年後、蒼虎改め渡辺隼の姿は、刑務所にあった。あれから、殺人等の罪を犯したと自首し、死刑囚となっていた。

その日、看守から隼は驚くべき決定を聞く。「グローバル・バンダリズム」を終結させた一番の功労者が隼だとわかった。今般、急遽恩赦が決まり、刑の執行が免除されたと言う。

後日釈放された隼の目の前には、ももら改め美結が「ユーロ」のメンバーだった仲間全員を引き連れていた。隼の釈放を祝った美結は、隼に抱きつき、愛するリーダーが帰って来てよかったと言った。隼は、その気持ちはありがたい。応えていいかと尋ねてきた。美結は勿論と答えた。


◆再び光を掴むため

それから更に数年が経ったある日、国の高度会議が開かれていた。配られていた書類に出席者名簿が。外部機関として、「再興省直轄特命チーム『EURO(Extended Unit Restore Organization)』」なる組織があった。更に、その組織のメンバーとしてチームリーダー渡辺隼、医療ユニット、ユニット長(医師)渡辺美結、という名前が書いてあった。

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